最強の異能力
私たちはそちらを向く。そこには看板を用意しているのか……大きな板を囲い、
まず動いたのは言葉ちゃんで、さっきまで愛さんに甘えていたのが嘘のように、真面目な表情をしている。あれを止めに行くのだろう、ということは一目瞭然だった。
……だが、そんな彼女の腕を掴んで止める人物が、1人。
「イチ先輩……」
「私が行こう。言葉、君はここにいろ」
「でも……」
「特別要請の協力、生徒会長業務で、ろくに休んでいないんだろう? お前は人を頼るべきだ」
そう言って愛さんは、言葉ちゃんの下瞼を指先でなぞった。……そこには、薄いクマがある。言葉ちゃんは反論できなかったらしく、少し悔しそうに、小さく下唇を噛んだ。
いい子だ。そう言って愛さんは微笑み交じりに言葉ちゃんの頭を撫でると……一目散に駆け出した。文字通り、馬の尾のようなポニーテールが、振動に任せて揺れる。
……さて、「歴代最強の生徒会長」、「明け星学園の破天荒」だとか言われていたらしいが。その実力はどれほどのものなのだろう。私はその背中を見守った。
喧嘩している2人は、丁度お互いに殴りかかろうとしている……というところで。あのまま派手に動いたら、足元に広げられている看板が破損しかねない。文化祭までもう時間もないし、あれほどの看板を作り直すのは大変だろう。……さて、そうならないために、愛さんはどうするのか……。
私ならどう動くか。もはや癖となっている行動パターンの思考を頭の片隅で組み立てる中……愛さんの行動は、短絡的なものだった。
ただ、カメラを構える。そして、シャッターを切る。
こんな時に写真撮影か、なんて思ったのも束の間。
「………………え」
思わず私は、小さく呟く。
何故ならお互いに飛び掛かっていた2人は……空中で、停止していたから。
まるで、1枚の写真を見ているようだった。永遠の一瞬が、そこにはある。……2人の時間は、動かない。
愛さんは再び、シャッターを切った。……それと同時、2人は再び動き出し……しかし飛び掛かった時の勢いは止まったことで殺されてしまったのか、その場に落ちた。2人とも丁度、看板が無い地点に。お陰で被害はゼロだ。
「あ、あれ……?」
「今、なんか変なところに……」
「……君たち」
2人の怒りの感情もどこかへ行ったらしい。戸惑ったように辺りを見回していたが……愛さんに声を掛けられると、顔を上げた。……そして、顔を青ざめさせて。
「確かに異能力の扱いを知るためにも、戦闘は許可されている。しかし今は学友と共同作業をし、1つの成果を挙げる時間だ。……まさかそれを理解していないわけではないだろうな。反省したまえ!!」
「「はっ……はいっ……!?」」
2人は愛さんに説教をされ、戸惑いつつも返事をしている。まあ……知らない人に説教されているんだもんな……。
話くらいなら聞いてやる、どういう所以で喧嘩になったんだ? と愛さんがきびきびと2人に事情を聞き始める。もちろん、作業をしていた生徒たちには、作業に戻って大丈夫だぞ、と伝えてから。……周囲の生徒はほっとしたような表情になってから、言われた通り作業を再開した。
「……今のは、なんだったんですか?」
私は隣にいる言葉ちゃんに尋ねる。ああ、と言葉ちゃんは相槌を打ってから。
「イチ先輩の異能力だよ。『Shutter』……写真に撮った生物の意識を、亜空間に飛ばす、っていう能力。そこでは異能力が使えないから、自力での脱出は不可能……間違いなく、『最強』の異能力だよ」
僕もあの人には勝てないだろうねぇ。と言葉ちゃんは肩をすくめる。確かに、一度でも異能力を使われたら終わり……間違いなく、最強だ。
私は前に視線を戻す。そして、説教をかましている愛さんの背中を見つめていた。
「……生徒会長って、本当、強い人じゃないとなれないものなんですか?」
「さあ。……でも君なら、イチ先輩にも勝てるんじゃない?」
「戦いたくないですよ……」
思わずため息を吐く。そんな、ワクワクしたような視線をこちらに向けられても困る。
本当に、何故こんなにも私の周囲には、人間離れした人が集まるのだろうか。私は頭痛が抑えられそうになかった。
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