第14話「運命」
保健室は使えないから
全てが終わった後、私は
そういえば私は、膝を撃ち抜かれたり脇腹を撃ち抜かれたり、首を絞められたり……とにかくやられまくっていたのだった。それでも今まで行動することが出来ていたのは、アドレナリンか何かでも出ていたのか。少なくとも、興奮状態だったのは間違いないのだろう。
言葉ちゃんに連れられ、私たちは保健室に向かった。……だがそこはとても、入れそうな状態ではなかった。頻繁に出入りする生徒たち。右へ左へと休むことなく働く保健室の先生。「さゆりちゃーん」、と飛び交う声、声、声。
「……入れそうにもないねぇ」
「ですね……だから、大丈夫ですよ、こんなの、ほっといて……」
「だーめっ!! そういうのはちゃんと治療しないと、傷跡とか残っちゃうんだからね!!」
駄目と言われてしまえば、もう駄目なのだ。ここからどう言おうと、言葉ちゃんが意見を翻すここはない。だから大人しく黙るのが最適解だった。
言葉ちゃんは、ちょっと待ってて!! と私に声を掛けると、保健室の中に入っていった。……そして少しすると、戻ってくる。その手には、救急箱が。
「ちょっと場所変えよっか」
おいで、と言われ、言葉ちゃんがゆっくり歩き出す。私は左足を引きずりつつ、それに付いて行く。……が、流石に何かを思ったのだろう。言葉ちゃんは踵を返し、私のところまでやって来た。そして。
「よっと」
「……」
軽い調子で持ち上げられる。こうして持ち上げられるの、体育祭の時以来だな、なんて思いながら。しかも今回は足を縛り付けられていない。そのため、言葉ちゃんの腕が椅子の様になり、私はそこに座ることが出来た。安定感が違う。
「このまま歩いて運ぶね!!」
「……勝手にしてください」
何度でも言うが、ここで抵抗する方が時間と体力の無駄だ。だから反論はしない。……実際、左足は歩けないほど痛くて、それに慣れない戦闘で疲れて、こうして運ばれた方が、楽だし。
言葉ちゃんはにっこりと満面の笑みを浮かべると、勝手にするね、なんて告げた。
──
明け星学園の中を、ゆったりと歩いていく。こうして特に用もなく校内を歩き回るだなんて、転校してすぐ後……言葉ちゃんと夜中まで学校に残って以来だ。
ただあの時と違い、校内は明るい。それに、沢山の人がいる。皆、怪我人を治療したり、壊れた校舎を修復したり、明るい声を掛け合ったりしているだけだけど……。
……雰囲気がまた一段と、柔らかくなった感じがする。脅威が去ったのだと、周知されたからだろうか。
……そうだといい。
生徒会長が通るということで、誰もが道を開ける。彼女に抱えられている私も、当然注目を集めて……恥ずかしかったので、ひたすら彼女の胸元を見ることに注力した。分かっていると思うが、変態ではない。
やがて私たちが辿り着いたのは、屋上だった。そこには不思議と誰もいなくて、爽やかな風がただ吹いているのみ。
……空を見上げる。今は昼だ。星は、もちろん見えない。
……でも、もうすぐ陽が落ちてくるだろう。そうしたら、少しは見えてくるだろうか。
「……ここでいいか」
言葉ちゃんは辺りを見回し、自分に言い聞かせるようにそう言うと、頷いた。そして私のことを、屋上に備え付けられているベンチに座らす。言葉ちゃんはというと、私の前に跪いた。
……治療のためだということは分かっているけれど、何と言うか、落ち着かない。
「……いっ、」
「あー、痛いよねぇ。ちょっと頑張って~。……うん、とーこちゃん。君、膝のお皿砕けてるよ。よくこんな状態で歩いてたね……」
「……夢中になってたので……」
「とりあえず、病院には行くとして……それまで歩いちゃ駄目だよぉ。……固定して、っと……」
そう言いつつ、言葉ちゃんは器用に私の応急処置を続けていく。あまりにもその手腕が慣れていて、見事なものだから、私はついぼんやりとそれを眺めていた。
「……? 何? その目」
「……いえ……手慣れているな、と……」
「あー……」
膝の方は、出来ることはもうやったのだろう。次に言葉ちゃんは、私にYシャツを脱ぐよう指示する。……脇腹を見るためだ。仕方がない、と分かりつつも、外で脱ぐという行為は何とも気恥ずかしいものがある。鍵は閉めてるから大丈夫だよ、という台詞に背を押され、私は大人しくYシャツを脱いだ。中には薄いTシャツを着ていたから、それは傷が見える程度にまくるに留めておく。
「……うっわ、あいつ、マジでやべー武器持ってきたんだなぁ……傷、すごいことになってるよ」
「まあ……改造されていたみたいでしたしね」
「チッ……やっぱもう一発、ぶん殴っておけば良かった」
「……また
「怒らせときゃいいんだよ、あんなやつ」
墓前先輩の血糖値が心配だ。そんなことを思いつつ、また私は言葉ちゃんの治療する様を眺める。適切な処置を終えると、真っ新な包帯でグルグル巻きにしてくれた。
……見下ろすと、まだ止まっていなかった血で、包帯が少し赤黒く染まっている。せっかく綺麗な白だったのに、と、少しだけ申し訳なく感じた。まあ、包帯も使われるためにあるのは、承知の上だが。
「……どう? キツくない程度で、ズレない程度に、巻けてると思うんだけど」
「はい……大丈夫です」
軽く腰を捻ったりして、確かめている。もちろん傷に痛みは走ったが、包帯がズレる様子はなかった。完璧、というか、体にシンデレラフィットしていて、むしろ怖いくらいである。そう伝えると、最高の誉め言葉、なんて彼女は笑った。
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