離れないように。離さないように。

「……言葉ちゃんの傍にいたくて」

「嘘吐け」


 秒で否定された。しかも満面の笑みで。まあそうなるよな。

 ……間違いではないのだが。というか、泉さんから一緒にいてくれって頼まれてるわけだし。


 本日何度目かのため息を吐くと、私は答えた。


「……強くなりたいんです」

「強く?」

「……ええ」

「勝ちたい人でもいるの?」

「……そうですね」

「ふーん。……」

「……今、何考えてます?」

「いや、君がそんな少年漫画みたいなこと言い出すなんて……って思って……」


 失礼な人だ。人のことは言えないが。


「誰、とか、聞いても?」


 おずおずと言った調子で、言葉ちゃんが聞いてくる。きちんとこちらに配慮する気持ちはあるらしい。


「……それは、内緒です」


 私は微笑んで、そう告げる。


 そっか、と言葉ちゃんは言って、微笑み返してくる。まだ気になってはいるようだが、それ以上聞いてくるような様子はなかった。

 ……やっぱり、優しい人だ。


「……でも、これだけは約束してほしいな」


 すると言葉ちゃんは私の前に跪き、私を見上げて告げる。


「1人で危ないことはしないでね」

「……」

心音こころねちゃんとか、ひじりさんとか……君には沢山の友達がいるし……泉さんとか、カーラちゃんとかみことさんとか、君がもし信用しているなら頼れるだろうし……あ、忍野密香は絶対頼るな。……あと、僕もいるし。絶対、君の役に立ってみせるから」

「……」

「君の周りには、君のことを大事に思って、君のために動いてくれる人がいるから。……1人で危ないことしたら駄目だよ」


 どこか必死なその様子に、思わず私は……小さく吹き出してしまった。


「何さ」

「いえ。……必死だな、と」

「そりゃ必死にもなるよ。……君のこと、大事だもん」

「……そうですか」


 そう恥ずかしいことを真っ直ぐに言えてしまうのは、きっとこの人の美徳だ。

 相手が私じゃなければ、きっともっと素敵な光景だったろうに。


「そんなことより、約束してよ」


 言葉ちゃんはそう、答えを押し迫る。どうせこの人は、「YES」しか求めていないくせに。私の意思など、黙殺されるのだ。

 小指を差し出され、私はそこに、自身の小指を絡めた。


「ゆーびきーりげーんまーん。うーそつーいたらー……」


 吐いたら、なんなのだろう。考えながら行く先を待っていると、言葉ちゃんは何かを思いついたらしい。うん、と大きく頷くと。


「……本気で私の傍にいたいって思ってよ」

「え」

「嘘。……ゆーびきった」


 言葉ちゃんはすぐに舌を出して笑う。そして約束を破ったらどうするか、ということをまともに決めないまま、指は離れてしまった。


「もう暗くなってきたね。……帰ろっか」


 跪いていた言葉ちゃんは立ち上がって、私に手を差し出す。私はその手を握って……頷いた。


「ありがと。今日は、楽しかったよ」


 その言葉に私はいつものように、そうですか、と返そうとした。だがすぐに思い直し、口を開く。


「……私も、楽しかったです」


 すると言葉ちゃんは目を見開き、それから……どこか照れたように、ニッと笑った。


「……そっか。なら良かった」


 なんだかその表情は、私が見てはいけないようなものな気がして、心が粟立あわだつ。だから私は、俯くように目を逸らした。

 だけど手はそのまま握っていた。





 離れないように。

 離さないように。





【第27話 終】





第27話あとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16818023212773325659

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