国が隠す過去

 泉は海中要塞にやって来る。足を踏み入れたタイミングで、自分の横に舞い降りる影があった。

 それが誰か、など、聞くまでもない。泉個人の部下であり、無二の相棒の忍野おしの密香ひそかである。相変わらずの仏頂面だが、何か苦労でもしてきたのか、その顔には心なしか疲労が滲んでいた。


「密香、首尾はどう?」

「……だいぶ手こずらせられた。が、どうにか掴んできたぞ」

「さっすが密香。それじゃ、聞かせてもらおうか」


 部下の働きっぷりに感心をしつつも、泉は話の先を促す。密香は頷き、そのまま口を開こうとしたが……。


「……ぁっ、あのぉ~……」


 声が聞こえる。泉と密香がそちらを仰ぐと、そこにはこちらを物陰から覗く、カーラ・パレットとみこと大智だいちの姿があった。


「なんだ、お前らか……どうかしたのか?」

「……ぇっと、その……よ、良ければ、僕たちにも聞かせてもらえないかな、って……」

「昨日のこと、カーラたちも気になる!! ですよ」


 泉が問いかけると、まず大智が、そしてカーラが大智の言葉を補うように答える。


 泉は密香の方を一瞥する。彼はその視線を受けると、軽く肩をすくめるだけだった。お前に一任する、ということらしい。いや、どう考えても話の内容を知っているお前が答えるべきだと思うが。

 だが、一任されたからには仕方がない。泉は少し考え……頷いた。


「分かった、じゃあ一緒に来い。会議室まで移動しよう」


 泉の言葉に、カーラと大智は顔を見合わせると嬉しそうに笑う。


 確かに、聞きたいだろうと思ったのだ。一時的でも、いつも助け合っている仲間のことならば。何か困っていることがあるのなら、力になりたいと思うのも自然のことで。

 今のこいつらなら、何があっても受け止められるだけの器が完成されているだろう。


 そんなことを考えた上での許可だった。



 4人は会議室まで移動する。話をする密香が誕生日席に、その右隣に泉が、左隣にカーラ、大智が座り、話を待った。


「調べた結果、なかなか衝撃的なことが分かった」

「お前が衝撃的とか、よっぽどのことだね?」

「そうだな。まさか俺も、こんな事実に辿り着くなんて思ってなかったよ。……簡潔に言うと、

「「……え?」」


 密香の言葉に、泉と大智の2人が固まる。1人、カーラは首を傾げていた。


「こっかきみつ? って、何?」

「……国が秘密にしてること、ってことだ」


 カーラの問いかけに、密香がため息交じりに答える。その答えに対し、へぇ、灯子すごい!! とカーラは呑気に答えるので、もう密香は放っておくことにした。


「だから、伊勢美灯子の情報は伏せられていることが多かった。ただの女子高生に掛けるか? ってレベルと量のセキュリティがあって……お陰で、調べるのに手間取ったよ。まあ、突破できない俺ではないが」

「ええ……なんか、すごいこと任せちゃってごめんね……」

「……別に。それが俺の仕事だろ。とにかく、伊勢美灯子について分かったことを喋るぞ」


 だから一旦口を挟むなよ、と言葉の外で密香は告げると、宣言通り、分かったことをただひたすら、そらんじていく。


 中学生の時、1人の親友がいたこと。

 その親友は、あの凶悪な異能犯罪者──「第六感」と呼ばれる異能力者の犠牲者だったこと。

 今年の4月、灯子はその親友を異能力で殺したこと。

 その後の取り調べで、灯子は持続的な放心状態であることが見られたこと。だが動機について聞くと、「苦しいのを消さないと」と繰り返していたこと。

 灯子の異能力を検査すると、とても危険な異能力を2つも所持していたこと。しかし──使える、と判断され、生かされたということ。

 灯子は異能力を使えるようにするため、明け星学園に転校した。


 ──それが灯子の、国を挙げて隠されていた、過去。


 聞き終わった3人は、ぽかんとしていた。確かにこれは、衝撃的と言えるかもしれない。

 だが気になることもあった。泉は思ったことをそのまま密香に告げる。


「えっと……言い方あれだけど、異能力者が異能力で人を殺すことなんて、別に珍しいことでもなくない? ……そんな国家機密にされるような要素が、どこにあるの?」

「そうだな、それも説明する。……が、まずは『第六感』の話をする。……こっちももっとちゃんと調べたら、新しい事実が分かったからな」

「叩けば出るってやつ? やだなぁ……分かった、続けて」


 泉の言葉に、密香は頷く。そして今度は、「第六感」の話をし始めた。

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