微睡みの授業
「あー。あたしも見てたけど、そういう経緯であの人と戦うことになったのか……あんたバカ?」
「なっ!? 誰がバカだって!?」
「あんた以外誰がいるのよ。こんな初めての所に来たばかりの子に喧嘩売るなんて、頭おかしいでしょ」
「頭おかしいまで言われちゃうか!? ……まあ、確かにそうだな……悪かった、転校生」
「あ、いえ……結局戦ったのは、言葉ちゃんですし……」
根は素直でいい人なのか、男子学生は丁寧に私に頭を下げる。私は胸の前で両手を振った。私なんかに頭を下げられる筋合いはないのだ。
「改めて、俺は
「あ……伊勢美灯子です……ってあれ……」
私は彼のその自己紹介が引っかかって、持木さんを見る。……同じ名字……?
「……学生結婚……?」
「「何故そうなる」」
二人は仲良く声を重ねる。あれ、と私は首を傾げた。
「普通、兄妹かって思う方が先だろ」
「だって似てないじゃないですか」
「……確かにそうだが」
「あはは、素直~。灯子ちゃんって面白いね」
笑う持木さん……いや、どっちも持木さんなんだけど……の横で、彼はどこか呆れたように告げる。
「正解は兄妹。まあ、義理のだけどな」
「……義理?」
「あたしの家はね、無能力者の家系なんだ。だけど私は生まれた時から異能力者だった。……私の親は私を気味悪がって、『こういう事情なんです~』っていうのを書いた手紙と一緒に、赤ん坊の私をこいつの家の前に捨てていったの。持木家は私のことを引き取ってくれて、私はコイツの義理の妹になったんだ」
「……」
持木さんからあっさりと語られた事情に、私は思わず黙ってしまった。……それを気遣う方が失礼だろうから、大変だったね、とか、そんなこと言えない。だからと言って何を言えばいいか、分からない。
そんな様子を見て、持木さんはクスッと小さく笑う。
「ありがとう、優しいんだね」
「……え」
まさかそんなことを言われるとは思っておらず、私は気の抜けた声が出た。
私は、優しくなんてない。
そう言おうと口を開いた瞬間、先生が教室前方から入って来た。時計を見ると、もう授業の始まる時間。彼……持木くんは持木さんの隣に座り、授業が始まる。
……呼び方、考え直した方がいいかな。
「──異能力には、その強さに比例する『代償』が伴います。もちろん皆さんは異能力を持っているので、知っているのは百も承知ですが。……『代償』とは、簡単に言えば薬の副作用のようなものですね。これは、もともとは人間が異能力を持っておらず、人類の進化の過程で異能力を得、それが外部のものであるが故、人間の身体が拒絶反応を起こしているからだと言われており……」
今私が受けている授業は、「異能力基礎Ⅰ」というものだった。1年生はこれが必修……。でも皆中学までで習ったことをやっているだけらしく、生徒はほとんど寝ているか内職をしていた。2年生なのに何故か受けている持木くんは机に伏せて爆睡、持木さんは……まだ寝てないけど、ウトウトはしていた。きちんと聞いているのは、私くらい。
……まあそれは、私が初めて聞くことだからなんだけど。
先生もあからさまに、私の方に体を向けて話している。仕方ないとは思うけど。
ノートに先生が話したことを書いていきながら、授業内容を頭の中でよく繰り返しておいた。ここで置いて行かれるわけにはいかない。
「──もちろん一般的に、異能力が強い人は将来の就職にて重宝されやすいです。しかし、強ければいい、というわけではありません。その理由としては、そうなればなるほど『代償』が酷くなる、というデメリットが付いて来るということが挙げられます。実際現場で活躍をしているのは、強い異能力者だけではありません。……例を挙げると、本校の生徒である
その名前に、私はノートに書きこむ手を止めた。
「彼女の異能力は『世の中にある文字を操る』といった単純なものですが、その活用の仕方により、本校で最強の異能力者と言われ、立派に生徒会長を務めています。……つまり、異能力において重要なのは、異能力自体の強さではなく、応用の利かせ方、と言うべきでしょう」
そこまで聞いて、私は再び手を動かす。ノートの片隅に小さく、「小鳥遊言葉」と書いた。そして講義を横耳に、その名前を眺める。
小鳥遊言葉。
この学園最強の異能力者……ね。
「──ここでは座学だけですが、今後は実習も入ってきて、異能の力の流れを知り、そこから発展させることも行っていきます。期末試験にも繋がっていきますので、しっかり出席するように。……時間ですね。それでは復習を忘れずに」
キリのいいところでチャイムが鳴って、授業が終わる。いや、キリがいいように授業を終わらせたのか。……まあどっちでもいっか。
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