第2話「一等星と六等星」
理事長からの罰
「
「……はい」
あの事件の直後、私は理事長室に呼び出されていた。理由が痛いほど分かっている私は、ため息交じりに理事長──
「分かっているならいいんだけどね。でも君は、異能力を使った。ここに来た初日に、『教員が付いているところ以外で異能力を使わない』……そう約束したはずだ。なのに君は異能力を使った。……何か反論は?」
「……いえ、それが事実です」
やっぱりこうなった、と私は心の中でため息を吐く。分かっていたことだ。いくら
まあもう終わったことだし、どうでもいいか。それより気になるのは、今後の私だ。
「……どんな罰でも受けます。ただ退学だけは勘弁してください。……いえ、退学にはならないだろうな、ということは分かりますが」
「そうだな……。悪いが、君には処罰を下す」
そこで理事長先生は、きまりが悪そうな表情を浮かべた。まるで、私を案じるような……いや、実際案じてくれているのだろう。ここで人の良さが出てしまっている。完全に私を悪者扱いしたら楽なのに。
彼のそんな態度にも少しイライラして、私は黙って小さく、こっそりため息を吐いた。
……私はどんな罰でも受けるつもり。それは本当だ。その方が話が早く収まって助かる。……そういうわけだから、罰を下すなら早くしてほしい。こちらだっていつまでもそれに振り回される暇は無い。……ああ、早く終わる罰だといいな。
「……それじゃあ伊勢美くん、君に下す罰は……」
理事長先生が言いかけた、その時。
「待って下さい」
失礼します、の言葉も無しにそんな声が理事長室に響き渡った。それが堂々と出来る人間は……この学園に、恐らく一人しかいない。
「
理事長先生がそう呼ぶ。そう、挨拶もなしに理事長室に入って来たのは、この明け星学園の生徒会長……
言葉ちゃんは遠慮なくズカズカ理事長室の中央まで進み……私の隣に立つ。
「……小鳥遊くん、何か用かい?」
「……僕が止めなかった」
鋭い眼光をする理事長を前に、言葉ちゃんは淡々と告げる。
「この子がこの学園に来る前に、話したよね。この子は近代でも稀で危険な異能力を扱う。だから僕たちが、見張って制御しなければいけない。場合によっては、どんな手段を用いてでも止める。……でも僕はそうしなかった。あの時、この子に事態を止めさせるのが最善だと考えたからだ。……そこで僕から提案がある」
「何だい?」
言葉ちゃんの発言の先を、理事長先生が促す。話題の中心のはずなのにすっかり蚊帳の外に追いやられてしまった私も、その言葉の続きを待った。
「僕の仕事を手伝うこと。それを罰の内容にしない?」
理事長室に響き渡る、提案。
「え、嫌です」
反射的に私は、そう返していた。すると言葉ちゃんは、え~~~〜!? と、無駄に大きく声を上げる。
「いやとーこちゃんに拒否権ないからね!? っていうか何で駄目なの!?」
「貴方と一緒に行動とか頭が痛くなります。だから絶対に嫌です。……理事長先生、さっき『どんな罰でも受けます』と言いましたが、あれを訂正します。言葉ちゃんの提案だけは、絶対に、嫌です」
「わーーーーん!!!! とーこちゃんが虐めたぁぁぁぁ!!!!」
うるさい。真横で泣き喚かないでほしい。と私は思う。これが漫画なら、私は額に青筋を浮かべていたことだろう。
すると理事長先生は、そんな私たちを見て……クスクスと、笑い出した。私は嫌な顔を隠そうともせずにそちらを見る。そんな私の視線に気が付いたのだろう。理事長先生は、「いや、ね」と呟く。
「君たち、いつの間にそんなに仲良しになったんだな、と思ってね」
「そう!! 僕たちとっても仲良」
「全く仲良くありません」
「酷い!!!!」
一体この人は何歳児なんだ。……持木くんとのバトルの時や、持木くんを共に止めた時は、不覚にも大人びて、カッコよく見えたというのに。……本当に同一人物なのだろうか? あれと?
「よし、分かった。小鳥遊くんの提案を飲む」
「え」
「やったぁ!! りじちょー、分かってるぅ!!」
言葉ちゃんは心底喜んだように私の周りをグルグルと駆け回る。鬱陶しい。……いや、それよりも……私、嫌だって言ったのに……。
「伊勢美くんは、本当に小鳥遊くんと行動を共にすることを嫌がっていたようだからね。嫌なことをするから、罰は罰になり得るんだ。分かるだろう?」
「それ……は、そうかもしれませんけど……」
完全に論破され、私はぐうの音も出なかった。嫌なことをするから、罰は罰になり得る。冷静に考えれば当たり前の話だ。
……いや、でも、言葉ちゃんと行動……はあ、考えただけで頭が痛くなるけど……仕方ないか。抵抗する時間の方が無駄だし、流れに身を任せることにしよう。
「ねぇ???? とーこちゃん???? 僕にだって傷つく心くらいあるんだよ???? 知ってる????」
……横で何か言葉ちゃんが騒いでたけど、無視した。
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