再決意

「……そういえば、いい加減しませんか」

「何を?」


 私はスマホを取り出し、言葉ちゃんに差し出す。


「……連絡先の交換」

「……ああ!! そういえばしてなかったね!!」


 いいよぉ、と軽い調子で、言葉ちゃんもスマホを取り出す……かと思えば、取り出したのは飴だった。違う違う、と言葉ちゃんはポイポイお菓子を取り出し……盛り塩ならぬ盛り菓子が出来たところで、ようやく言葉ちゃんはスマホを取り出した。

 メッセージアプリのアカウントを交換して、ようやく私と言葉ちゃんはいつでも連絡を取り合えるようになった。


「いやぁ、そういえば君の連絡先知らなくて、伝えたいことあるのに~って困ってた時、あったわ!! 君に会うとつい忘れちゃうんだよね~」

「私もです。……まあ今回は、していなかったお陰で助かったんですけどね」

「?」


 言葉ちゃんは不思議そうに首を傾げる。しかし私はスルーした。


 ……そうしてしばらく話し込んだ。どれほど時間が経っただろう。私には分からない。


「あー、すごい話込んじゃったね。そろそろ戻ろっか。ていうか君はとっとと病院に行かないと」

「そうですね……普通に過ごしてるだけでも、痛いです」

「そういう時は早めにきちんと痛いって言えよ」


 普通に怒られてしまった。はい、と返事だけはしておく。言葉ちゃんは満足そうに頷くと、私のことを抱きかかえた。行きと同じように。……またこの状態のまま、学園内を歩かないといけないのか……憂鬱だ……。

 ……怪我人だし、仕方がないか。もう心を無にしよう。


「まあ、明日から夏休みだからね!! しっかり休んで、怪我も治してさ、また学園で元気に会お!! ね?」

「……」


 そういえば明日から夏休みだったか。すっかり忘れていた。……本当なら今頃、家に帰ってゆっくりしているはずだったというのに……。

 こうして脚を痛めてしまうとなると、怪我の回復に夏休みの全てを使わないといけなくなりそうだ。いや、夏休みで足りるか?


「……善処はします……」

「灯子ちゃん!! 病は気からだよ!! 元気に過ごせば怪我もすぐに治るってー!!」

「怪我と病は違うんじゃないですか……? というか貴方も、怪我とか……」

「僕が怪我すると思う?」

「人間なんですから、怪我くらいするでしょう……」

「あははー」


 言葉ちゃんは笑いつつ、校舎に入っていく。どうやら戦闘はしたものの、怪我はしていないらしい。流石、と言うべきなのか。


 屋上の扉が閉められる。夕日のオレンジの混じる夜空だけが、私たちのことを見つめていた。


 ──


 私は抱きかかえられつつ、あることを考えていた。視線の先には、小鳥遊言葉。鼻歌を歌いながら、呑気に廊下を歩いている。


 ──今の私では、小鳥遊言葉に敵わない。


 私はこの人を超えなくてはならない。私がここに来た、を果たすために。


 例えば今、こうして抱えられている私が、少しでもおかしな素振りを見せたら……異能力を使うまでもなく、きっとねじ伏せられる。私は今言葉ちゃんの肩に手を乗せているから、私の方が有利なはずなのに。不思議とそう感じさせる。

 きっとこれは、尊敬と畏怖の気持ちだ。明け星学園の生徒会長で、最強。初めはこの人が本当に? だなんて思っていたが……。


 ここまで一緒にいて、分かった。この人の実力は……紛れもなく、本物だ。

 ……だからこそ私は、もっと強くならなければいけない。いつかこの人を……超えるために。


「……ん? どーかしたの? 灯子ちゃん。そんな見つめて」

「……呑気な顔してるな、と思いまして」

「喧嘩なら買うよ?」

「……絶対負けるので、勘弁してください」

「よく分かってんじゃん」


 言葉ちゃんはケラケラと笑う。そう、私は負けるのだ。だから今は、無益な勝負など、挑まない。

 だけどいつかは。



『君に、大事だと感じる人はいない。君は常に孤独だ。君がその道を選んだ。……そして君は、本質的にはこちら側の人間だ』


『一度、人を異能で殺したことのある、君なら』



 あの人の言葉が、脳裏によみがえる。その言葉は再び、私の中に重く響いた。あの重さは、私だけが知っている。忘れてはいけない。決して。私は。


 許されるべきではない人間だから。





 間違いは、ない。私は一度、この異能力で人を殺した。





 



 私はこの異能力でもう一度、小鳥遊言葉を殺さなければならない。





 いつか、必ず。


 その日まで。



「大丈夫!! 僕は最強だから、君が勝てなくても、仕方ないよ~っ☆」



 絶対に誰にも負け殺されないでくださいね、言葉ちゃん。



 私は微笑みながら、頷いた。






【第14話 終】






【第1章 完】




第14話あとがき

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