第4話 精神的疲労が半端ないって
心を落ち着かせて、まずは視聴者と一緒に考えたセリフの復唱をしよう。
ゴブリンさん、仲間になってくれたらイイ事、できるかもよ⋯⋯。
「ぐはっ」
自ら壁に頭を打ち付ける。
心の中で復唱したら余計に恥ずかしさが出て来たやがった。
いきなりそのセリフはハードルが高すぎる。
“頑張れ”
“何事も挑戦だ”
“この世には、やるか、行うかしかないんだよ”
“貴様はサキュバスだろ! 自信を持て!”
クソっ。クソクソクソ。
心では分かってるさ。種族の能力を活かせない奴は探索者として成功しないって⋯⋯分かってる。
だけど!
「心と体が合致しない」
嘆いても変わらない、頑張れ俺!
鼓舞するために何回も壁に頭を打ち付ける。良し、覚悟は決まった。
覚悟が決まったら後は動くだけだ。足を動かして、口を動かせ!
ポーズを決めろ!
行くぞゴラああああああああ!
胸元に人差し指を入れて少しだけ隙間を作り、腰をそこそこ折り、反対の手で足の場所を少し広げる。
気づいたゴブリンと目が合う。
最後は口だ。
「ご、ゴブリンさん。な、仲間、仲間に⋯⋯なって、くれませんか?」
“恥じらったああああ!”
“最後の最後で恥じらいを見せたああああ!”
“それで良いのかサキュ兄!”
“サキュバスとしての誇りを、失ってしまったのか! 悲しいぞ!”
本能的に分かる⋯⋯ゴブリンの魅了に成功した。
“クソっ! ギャップ萌えかっ!”
“確かに、恥じらうクール系は恥じらうカワイイ系よりも可愛い。なぜならそこにギャップがあるから”
“最後まで言いきれなかったのは残念だが、これはこれでアリ!”
“抜ける”
なんだこの、燃え尽きた感覚は。
やりきった、出し切った、そのような達成感が微塵も感じない。
「ゴブリン、俺の仲間になってくれるか?」
分かりきった答え⋯⋯だけど自然と出せる。
防具をしっかりと着てしまえば、恥じらう事などない。
魅了した後に出す質問じゃない。手を伸ばす必要も無い。
だけどなんとなく、そのような確認がしたかった。
“俺って言うなああああ!”
“クソがあああ!!(血の涙)”
“俺系女子って事で”
“萎えたわ”
ゴブリンが握手してくれる。
剣を武器にしたゴブリンが仲間になったので、ゴブリンを利用した狩りをしてみようと思う。
まずはゴブリンを発見して、曲がり角にゴブリンとスライムを隠しておく。
サキュバスやヴァンパイアなどのコウモリ系の魔族は天井に張り付いたりできる。それを利用してゆっくりと上から近づく。
コウモリなどに変身できる能力が欲しい。
今回のターゲットは槍を持ったゴブリンである。
とりあえず真上までは来れた。そしたら次だ。
予め決めていた作戦を発動させるため、ハンドサインを送る。
「行くか」
俺はゆっくりと足から力を抜いて、翼も静かに広げる。
ゆっくりと滑空して行く中、両手で握った木の剣。
角度をしっかりと付けて、攻撃射程に入った瞬間に高速で打撃する。
当然斬れる事は無いが、不意打ちは成功した。
下半身に力を込めれてないゴブリンはあっさりとコケた。ゴブリン達の方に。
倒れたゴブリンは起き上がりながら俺の方を見る⋯⋯そしたら角からゴブリンが飛び出して背中から剣を突き刺す。
それでも倒せるとは思ってない。二重の奇襲で混濁する思考、それでも最後に受けたダメージの出処を探るために背中を見るだろう。
その隙にワンステップの踏み込みで肉薄して、根元から槍を掴む。
ゴブリンに向かって蹴りを放つと同時に仲間のゴブリンは剣を抜いて横にステップする。
蹴飛ばしたゴブリンは槍を離しながら地面に転がり、起き上がる前にジャンプで落下と遠心力を利用して、奪った槍で突き刺す。
机上論ではこの時点で倒せているつもりだったが、それだけでは終わらなかった。
「翼は飛ぶためだけに使うんじゃないぞ!」
折れてしまった槍は放置して、片翼を広げて相手の視界を塞ぐ。
刹那、接近していた味方のゴブリンがトドメの一撃として袈裟斬りを放ち、血飛沫が舞ながらゴブリンは倒れた。
「ふぅ。討伐完了と」
“魅了したゴブリンでゴブリンを倒すとか、案外畜生だな”
“サキュ兄はあんなに可愛いのに中身はかなりの外道なのか?”
“これも一種のギャップなのか?”
“それ言ったらテイマー全員やんけ。サキュ兄だけやない”
さて、後はゴブリンの数を増やしていきたいが⋯⋯俺の心が持つかどうか。
「ゴブリン、今の辛かったか?」
良く分からない、と言った風に首を傾げる。スライムはジュワーとゴブリンを消化している。
「やっぱりゴブリン一体だけど、強みが薄いか」
スマホが震えたので確認すると、晩御飯の時間が近いから帰って来いとの事だった。
「今日はもう帰るの、ここまでです!」
“えー終わっちゃうの?”
“高校生なんだから、徹夜しようぜ!”
“お疲れ様。しっかり休んでね”
“また来マース”
などなど様々なコメントが流れた。俺は配信を終えてカメラを切った。
一層に向かって帰る。
「意識してないと、ダンジョンの外に出たら人間に戻るんだよな?」
そうじゃないと困るからな。更衣室とかさ。
意を決してギルドに戻ると、男の身体に戻っていた。
実家に帰って来た様な安心感となんとも言えない喜びの感情が湧き上がって来る。
これで実は種族が違ってましたー、的なオチでも俺は許せる。
実はヴァンパイアでしたーだったら嬉しい。
自分の種族は外でも変身できる、その証拠となるのが利き手の甲に刻まれた紋章で分かる。両利きの場合は移動が可能。
「チィ!」
魂からの舌打ちだ。
ハートの尻尾と翼で描かれたハートが目印のサキュバスの紋章がしっかりと俺の甲に刻まれていた。
一応この紋章は隠せるので隠す。
「お、ここまで透明になるのか⋯⋯本人にすら見えないのか」
すげぇな。
防具から私服に着替え、武器防具、手に入れた魔石を持って受付に向かう。
「お疲れ様でした。魔石は査定した後に、換金致しますか? それともお受け取りになりますか?」
「換金でお願いします」
「かしこまりました。それでは、ステータスカードの提出をお願いします」
ステータスカードを提出して、そこに防具と武器が登録される。それらはギルド保管なので回収される。
あ、そう言えば魅了成功した洗脳はテイム扱いになるので、多分アレがどっかに⋯⋯まじかよ。
受付の人からは見えないよな?
俺はズボンの中をまさぐり、モンスターカードを取り出す。クソみたいなところにありやがって。
テイムしたモンスターはダンジョンから出ると、モンスターカードになるのだ。持っている武具とかも一緒。
「えと、これもお願いします」
少し服で拭いてから提出した。
「モンスターカードの登録ですね。モンスターカードはご自身での管理をお願いしております。大変管理が難しいので」
「はい」
ステータスカードに登録されるのは大雑把になってしまうので注意だ。例えば、スライムの場合はスライムと登録される。
個別IDとかない。だから管理が難しい。
「換金方法はどうしますか?」
「ポイポイで」
スマホに入れて貰う。⋯⋯ゴブリンの魔石二つで200円か。
「種族登録も行えますけど、どう致しますか?」
「⋯⋯やめときます」
「種族登録はギルド信用にも繋がります。本当によろしいですか?」
「はい」
サキュバスだった方が、信用を失いそうだ。証拠があってもね。
めんどうは避けたい。それに秘匿する人は多いしね。
何よりも人にバレたくない。恥ずかしい。
「終了しました。どうぞ、こちらがステータスカードです。こちらがモンスターカードです。またのご利用をお持ちしておりますね」
俺は二枚のモンスターカードとステータスカードを受け取って、家に帰った。
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