第3話 心を殺して、恥を捨てよ

 スライムを抱っこしながら二層に向かうために足を動かしていた。


 翼を動かす練習をしないと、上手くは飛べないな。


 でも外で練習する勇気は俺にない。


 「ようやく到着だ」


 “ずっとスライム抱っこしているの可愛いな”

 “これからスライム倒せなくなりそう”

 “可愛い×可愛い=チート”

 “チータやん”


 二層からはゴブリンと言う、ファンタージ定番のモンスターが出現する。


 奴らは武器も使うので、危険である。


 しかしその武器達はボロいので売り物にもならず、自分が使える訳ではない。


 むしろゴブリンが使っていて、壊れてないのが不思議と言われるくらいにはボロい武器なのだ。


 ダンジョンに物を放置していると、いつしか消えているらしいので、放置しても問題ない。


 「早速発見だ」


 “サキュ兄、『魅了』だ!”

 “ゴブリンは単純だからな! もっとエロくあれ!”

 “まずは脱げ! あるいは全裸だ!”

 “テイムチャンスだ!”


 俺は木の剣を構えた。


 “やめろおおおおお!”

 “コメントを見ろおおお!”

 “頼むから、倒さないでくれえぇぇ”

 “コメント欄w”


 俺はスライムを地面に置いて、駆け出した。


 ゴブリンの武器は槍である。相手も気づいて、槍で突いて来る。


 回転しながらそれを躱し、回転の勢いを乗せた剣で鋭く、ゴブリンの首を打った。


 木の剣でゴブリンを斬るのは難しい。だから、打撃の通りやすい場所を集中的に狙う。


 その際に少しでも強くするために回転を乗せる。


 “うーんこの”

 “普通に強いからイヤになる。サキュバスの力を使えよ”

 “まじで探索者に憧れてそうな人来たな”

 “サキュバスなのに、エロが少ない。ぐぬぬ”


 一撃では倒せなかったので、大きくバックステップを踏んだ。


 「うわっ」


 翼を広げてしまったのか、思っていた以上に遠くにステップしてまい、着地をミスる。


 尻もちを付いてしまった。


 “ぬおおおお!”

 “ぬるぬるしてたら完璧だった”


 「いてて」


 立ち上がり、強く踏み込む。


 滑空を利用すれば一歩だけでもかなりの距離を稼げると分かった。


 一時的なスピードアップは見込めるが、ダウンも早い。


 だから、俺がやる選択は一つ。


 「そらっ」


 ゴブリンの攻撃を横に大きくステップして回避し、壁に足を着けて蹴る。


 反対の壁に移動したら天井に向かって跳躍し足を着け、それを繰り返す。


 短い距離を高速で移動して、加速するスピードを剣に乗せる。


 「ここだ!」


 相手の真上を取り、相手の首が見やすくなったタイミングで強く天井を蹴る。


 加速した分のスピード、そして落下、確実に急所を狙って、突き出す。


 「討伐完了っと」


 くるっと宙返りして着地する。


 ぴょんぴょんと寄って来たスライムを抱き抱える。コイツまじで可愛いな。


 「ゴブリンの死体どうしよ? 魔石だけが売れるんだけどなぁ」


 解体用のナイフがないので、捌く事ができん。


 そう思っていると、スライムがゴブリンの上に乗った。


 ジュワジュワと言う、溶かすような音が聞こえ始める。


 「スライム、もしかして食べてるのか?」


 そうだよー、的なジェスチャーをする。可愛らしい。和む。


 終わるのを待っている間に、コメント欄でも確認するか。


 予想通りと言うかなんと言うか、皆が魅了を使う事を願っていた。


 ゴブリンは戦力として序盤は期待できる⋯⋯テイムしても損は無い。


 無いのだが⋯⋯人型相手に俺は魅了を成功させる事ができるのだろうか?


 「と言うかしたくないんだが。もういっそ、サキュバスの力を使わないで行くか?」


 いやダメだ。


 どんな種族でも強みはある。その強みを活かしてこその探索者だ。


 上位の探索者には確かに、種族的な当たりが多い、だけど全てがそうでは無い。


 中には魔物に分類される、人型ですらない種族になってしまった人も居る。


 それでもその人は諦めずに努力をして、進化を続けた結果、上位の探索者になったのだ。


 アラクネの種族を持って⋯⋯有名な話であり有名人だ。


 上位の探索者に共通して言えるのは、種族のレアリティじゃない。種族の能力をどう活かすかだ。


 種族の力と逃げずに向き合い活路を見出す、それこそが強くなる秘訣。


 力を生かすも殺すも己の努力次第。


 「逃げずに向き合うんだ。己の羞恥心と」


 “厨二乙”


 スライムが食べ終わったのか、俺に寄って来た。


 抱えてゴブリンの魔石を回収する。これは売却用にとっておこう。


 ポーチとかないし、どこに入れるかな?


 「⋯⋯」


 いや、止めよう。こんなところに入れても意味が無い。絶対に落ちる。


 あれは漫画の中だからできる芸当なのだ。落ち着け俺。


 「適当にズボンとかに挟んどくか」


 “魔石に生まれたい”

 “羨ましいなぁ”

 “見え、見え”

 “あとちょっと⋯⋯おわっちゃった”


 移動を再開して、新たなゴブリンを発見した。


 今度のゴブリンは剣を持っている。


 やるか、魅了を。


 「頑張れ俺。俺ならできる俺ならできる、やるんだ俺」


 魅了を成功させるのは、対象が自分にどれだけ興奮するかが重要となっている。


 ゴブリンは単純だ。


 だけどスライムよりかは簡単じゃないだろう。


 どこをどう露出させたら良いのか、俺は感覚的では分からなかった。


 だから考えろ。どうやって相手を堕とすか。


 俺ならどうだ? どこを見たら、ドキッとする。


 ⋯⋯首筋!


 「違う。それは模擬戦の時のクセだ」


 探索者を盲目的に追いかけて来たこの俺に分かる訳無いだろ。


 「あ、あの。視聴者さん。どうしたらゴブリンを魅了できると思います、か?」


 “かわよ”

 “脱げ”

 “いや待て、裸になったらそれまでだ。そこに一時的なエロはあってもエロスは無いんだ。脱いだらそれまでなんだよ”

 “つまり、見えるか見えないかの瀬戸際が一番エロい。そのもどかしさが男の空想を広げるんだ”


 コメント欄が盛り上がって何よりだよちくしょう。


 他人事のように熱弁しやがって!


 俺がやっている事、配信者としては正しいのかもしれない。


 “実際に効果的なのはなんだろうか?”

 “やはり誘いにはチラ見せだ。見えるか見えないかのちょうど良いライン、これが一番”

 “見えたら終わりだ。見えないらこそ先を期待するのだ”

 “結論、胸露出かパンチラギリギリしないライン”


 「良し、やってみるか」


 防具の設計上、できない事は当然存在する。


 それでもできる事はある。胸元のボタンを外せば、上胸は露出する。


 ⋯⋯なんか内側に着てる!


 聞いた事がある。ノーパンだとスースーすると。だが俺には無い。


 下着は着ていたが男物だ⋯⋯よくよく考えたらそれは不思議じゃないか。


 まさか俺、サキュバスになった瞬間に、サキュバスの服を着ていたのか? 下着とか諸々⋯⋯有り得る!


 今のところ実用性の無い尻尾もあるし。


 種族を手に入れた事によって、本来なかった物があるのは、良くある話。


 俺の種族であるサキュバスとエロい服はセットだったのか⋯⋯その上に防具を着ていたと。


 “どうした?”

 “おーい”


 これをカメラに写してはダメだ。


 絶対に、防具を脱いで確認させろと言うコメントで埋まるからだ。


 だから⋯⋯少しだけ露出させた。


 “それじゃ一般のオシャレ的な露出だろ!”

 “エロさが足りん!”

 “もっと熱く、なれよおおおおお!”

 “熱くさせて”


 コメントに俺は、むりやり背中を押された。


 はは。乾いた笑いしか込み上げて来ない。


 「もう、なんとでもなれやクソッタレぇぇぇぇ!」


 俺は太ももを少し露出させた。


 自覚したら感覚的に分かった服の部分が見えない程度に露出させた⋯⋯その結果、ほとんどギリギリなラインだった。


 ヤケになりすぎた。


 てか、サキュバスの服、布面積少なすぎだろ!


 “良くやった”

 “下着が見えたら、やっぱりトランクスなんかな?”

 “やめろ、現実に戻すな”

 “ノリノリやん”




◆あとがき◆

お読みいただきありがとう!

今日は午後8時くらいにもう1話投稿したいと思います!

星、ハート、フォローありがとうございます!!

初日からいただいて嬉しい限りです!

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