第2話 普通にモンスター倒したらコメ欄が荒れた(泣)

 なんでこうなった。


 いや、どうしてこうなってしまったのだろか。


 俺は男だ。


 戸籍も身体も心も男である。探索者や配信者に憧れた一般的な男子だ。


 だと言うのになんなのだこれは!


 この、女でも羨むようなナイスボディ、プルンプルンな胸は! 動く度に揺れるな!


 身体のラインは細い、肌は荒れも何も無いとても綺麗なモノだろう。ムダ毛すら無い。


 だがその女も羨む身体を持った女性はこの俺である!


 下の感覚も変だし⋯⋯嫌だ。


 「嘘だろ。なんでだよ。俺は男なのに、なんでサキュバスになるんだよ。意味が分からない」


 なんとも言えない感情が交錯する。


 ショックを受けているのだ。


 サキュバスと言う種族自体はハズレではなく、むしろ当たりな方ではある。


 しかし、淫魔系の種族は、そう言った行為が大好きな人がなりやすい種族なのだ。


 俺はどうか? 恋愛すらした事はない。だいたい人を好きになる感覚が分からん。


 だと言うのになぜだ。そもそも性別が違うってのバカっ!


 「ああ。嫌だ、なんでだよ。ふざけんじゃないよ。あぁ声が綺麗なのもイライラするぅ!」


 長く伸びている髪は銀髪、多分だが俺の瞳は真っ赤だと思う。


 見える訳じゃないが自分の肉体はやろうと思えば細部まで分かる。サキュバスだからか?


 「どうしたら⋯⋯って、配信!」


 ドローンカメラが目の前を浮遊したので配信の存在を思い出した。


 俺は恐る恐る、スマホを操作してコメントを確認した。


 “ようやく気づいたか”

 “可愛いよ”

 “元気出せて。可愛いよ”

 “美しさも兼ね備えているとか完璧だよ”


 “サキュバスかぁ、良いなぁ。当たりの方の種族じゃーん。良かったね嬢ちゃん”

 “これからはサキュにぃって呼ぶわ”

 “良いね。サキュ兄”

 “それよりダンジョン攻略しながら、自分の能力を確認したら?”


 “嘆いても現実は変わらんぞ、頑張ってw”

 “今は男の子と女の子、どっちが好きですか?”

 “デュフフ”

 “革防具のせいでエロが伝わん。脱げ”


 “サキュ兄だからできる事がある! 脱いでくれ”

 “どんどん同接が増えてく〜”

 “君ならできるサキュ兄”

 “さては!⋯⋯俺と☆YA☆RA☆NA☆I☆KA☆”


 「うわああああああああああ!」


 最初に俺の見た目を映さなくて良かった! 世界に姿がバレたら俺、学校行けない。


 個人情報漏洩防止の為にリアルの見た目は見せるなって言ったアリスに感謝。


 「嘆いても種族を変えてくれるような親切設計じゃない。だったら、強くなって目指すは進化だ!」


 そしたからきっと、男に⋯⋯なれるかなぁ?


 木の剣を拾って俺は奥へと足を進める事にした。


 サキュバスとしての能力をまずはしっかり認識しよう。


 まずは翼だ。こいつは広げる事で広がる。


 ⋯⋯ごほん。


 羽ばたかせる事によって空を飛ぶ事が可能であり、広げた状態で身体を動かせば滑空が可能となっている。


 上手く操れるようになれば、ホバリングも可能になるだろう。


 「おっ」


 壁を蹴って加速し、翼を広げての滑空、この二つが合わさると少しだけ加速する。


 だけどスピードの維持が短くなるな。


 「スライムだ」


 目の前にスライムが現れた。


 “淫魔特有のアレを使うんか?”

 “どうなるか楽しみが止まらんw”

 “はーやーくー”

 “サキュ兄ガンバ!!”


 俺は木の剣を構える。平突きの構えだ。


 “おや?”

 “ん?”

 “まさか?”


 俺は足に力を入れて、強く踏み込む。


 攻撃圏内にスライムが入った瞬間に剣を突き刺す。


 中心に力を加えて先端に集中させる。貫通力を高めた攻撃であれば、木の剣だろうとスライムを突き刺す事は可能だ。


 身体が違うせいで、少しだけ剣技にブレが生じたが、スライムを突き刺して倒す事は成功した。


 他のモンスターと違い、スライムは倒すと水蒸気のように蒸発して、魔石だけを落とす。


 「良しっ」


 “良し、じゃあねぇえええええ!”

 “普通に倒したああああああ(怒)”

 “普通に剣術のレベル高くてワロタ”

 “綺麗だったけど、防具の上から分かる揺れ動く果実に視線が向かう”


 さて、なんか知らんがコメント欄が荒れている。


 魔族的種族はモンスターがドロップする魔石を食べると能力値が上昇するので、木の剣の上に置いて踏みつけ粉々にして、飲み込む。


 嫌悪感は不思議と無い。これは種族に刻まれた何かの影響だと考えられている。


 身体の具合を確かめるためにもスライムは普通に倒したが、やはりサキュバスなら皆はアレを期待しているのだろう。


 俺も種族の能力をフル活用できないのは嫌だ。


 「捨てろ。己の羞恥心を。捨てろ。己の心を!」


 “厨二病っ!”


 スライムを探す為に奥に移動した。途中で他の探索者とエンカウントしそうだったので、全力で隠れた。


 そしてスライムを発見した。


 そこで俺は思った。スライムに性別なくね?


 淫魔の特徴を出すには異性じゃないと意味が無いのだが⋯⋯相手は無性だ。


 「でもやるしかないだろう。俺は探索者でもあり、配信者だ! 能力発動、魅了チャーム


 “来たあああ!”

 “だ、け、ど”

 “ゲームじゃないので、そんなんじゃ発動しましぇーんww”

 “サキュ兄は叫んだ、しかし効果は無いようだ”


 知ってたさ。こんなんで能力は発動しないって。


 自覚したら本能的にどうするのか、なんとなく分かるんだ。


 でもさ、やりたくねぇんだ。


 なんだよ、条件が『対象が魅力を感じるように誘惑』ってさぁ!


 要するにあれだろ?


 肌を露出させて、『お姉さんとイイ事しない?』的な感じだろ?


 「やりたかねぇえええ!」


 “やれぇぇぇぇ!”

 “お前じゃきゃ、ダメなんだよ!”

 “全ての男の欲望を叶える事のできる、力を持った男であるお前しかできないんだ!”

 “頑張れサキュ兄、君ならできる”


 俺はスライムに向かって、ウインクする。


 魅了⋯⋯発動しねぇ。


 「す、スライムさん。魅了されてください」


 “名誉も何も無い土下座したよこのサキュバス”


 しかし、当然ながらそんなんで能力は発動しなかった。


 スライムは俺に体当たりの攻撃をして来た。痛い。


 ふっ、こうなったらやるしかない。


 見せてやるよ俺の全力をよぉ。


 「恥なんてクソ喰らえだあああああ!」


 俺は革防具の太ももらへんのボタンを外して、太ももを露出させた。


 おいコラドローンカメラ、太ももを写すな。むしろ見えないようにしてくれ。


 視聴者の想いを汲み取るな!


 「スライムさん、私に、触れたくなーい?」


 オロロロロロロロロロロ。


 あ、本能的になんとなく分かった。このスライムに能力が発動した。


 魅了できてしまったのだ。


 「おいで」


 スライムは可愛らしくぴょんぴょんと寄って来て、抱き着いてくる。


 なのでキャッチする。ぷにぷにして柔かーい。


 「こうなると、なんだか可愛いな」


 “男に見えない”

 “美しいぃ”

 “能力発動時のあの目! 虜にされそうだ”

 “サキュ兄はサキュ姉さんだった”


 「さぁスライム、俺に付いて来い! 目指すは二層だ!」


 “ピーーーーーーー”

 “現実に戻された”

 “期待してたのを大きく越えられて、一気に落とされた”

 “萎えたわ”


 俺はスライムを抱き抱えて、二層に向かって歩みを進めた。


 やはり初心者が一気に増えるタイミングだけあり、スライムの数はかなり少ない。


 移動中に俺は新たな能力を試してみた。


 それは、身体調整だ。


 主に身体を変えられる能力となっている。相手の好みに合わせて姿を変える、淫魔特有な能力の一つだ。


 なるべく貧乳に近づけようとしたが、そうは問屋が卸さないようだった。まじでクソ。


 だけど剣の扱いもあるので、なるべく痩せ型にはした。髪型もショートが良いんだけど、ロングしか無かった。


 ヘアゴムでも用意しようかな?


 “ムチムチエロが⋯⋯”

 “美しいサキュバスに大変身”

 “そう言ういや、男から女って事はさ、下着とかどうなってんの?”

 “天才現る”

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