第147話 鬼っ子+αの夏祭り
冷静に考えて、角を隠して髪を結んでメガネをかけただけでここまでバレないモノか。
いや、サキュ兄を知らない人しか来てないって可能性もあるか。それは嫌だなぁ。
布教⋯⋯は止めておこう。
「ポテト大を二つください」
「はーい。ジャクズレ揚がってる?」
「問題ないですぞ」
ペアスライムを全身に纏って人間の姿になっているジャクズレ。
「お会計千円です」
ジャガイモを潰して形作って揚げたポテトを袋に詰め込んで手渡す。
屋台値段って事で小サイズは三百、大サイズは五百で販売している。
袋などは全てスライムを利用しているので、捨てられたら自動的に戻って来る仕様だ。
なんでこんな事をしているかと言うと、社会勉強及び休みって事でレイ様に強制された。
人間社会に溶け込む練習だとも言われたよ。
「主様と一緒に居たい」
「花火前に抜け出しますかな?」
「いや。任された仕事を途中放棄はプライドが許さない」
「真面目ですな」
人間社会に溶け込む⋯⋯事はできているのだろう。
時々強そうな人達に睨まれつつも仕事をこなしている。
気配的に人間じゃない事がうっすらとバレていそうだ。
「本当は魔石の利用方法を見つけたかったのに」
「やはり難しいですか?」
「うん。主様みたいに魔石を接収して力に変える、なんて単純な事ができないからね」
大きいしすごく硬いため口に入れるどころか砕く事もできない。
無理矢理身体に取り込むのは危険だし、できるか怪しいところ。
どうしてこんな種族に進化したのか、レイ様が色々と考えてくれている。
それがヒントになるかもしれない。
「あ、あの。ポテト大を二つ」
「そ、それと、スマイルを一つ」
スマイルなんて商品欄に書いてなかったような?
ポテトしか販売してないし、間違えたかな?
少し確認しよう。
「スマイル⋯⋯スマイル⋯⋯あれ、無いな?」
私が本気で悩んでいると、申し訳なさそうに頼んで来た男の子二人が謝って来る。
「あの、ごめんなさい」
「ポテト大、四つお願いします」
「あ、はい。スマイルと言うのは他の所にあるかもしれません。お隣の串焼きを見てみては?」
かなりゴツイおじさんだったが、右も左も分からない屋台設置などを手伝ってくれた親切な人である。
「あ、大丈夫です」
「結構です」
「そうですか」
ジャクズレからポテトを受け取って、お金とトレードする。
「お買い上げありがとうございます」
接客の基本は笑顔。笑みを浮かべて手渡す。
「あ、ありがとうございます」
「ふへへ」
離れて行く二人を見ながら、どこか既視感がある事に気づきた。
「サトウ、俺は恋に落ちたかもしれん」
「止めとけ。ダントツの可愛さだったのは分かるが後ろに男がいたろ」
「クソっ! 祭りに来る奴殆どがリア充だし!」
「女子グループに声掛けても警察呼ばれそうになるし!」
「「運ないな。でもあの人は可愛かったなぁ」」
そんな会話の内容は聞こえなかったが、なぜか背筋に悪寒が走った。
夏の夜は暖かいと言うのになぜだ? 鳥肌が。
「大丈夫ですか?」
「も、問題ない。それよりスマイルってのはなんだったの?」
「笑顔をくださいと言う茶々ですな。迷惑客の一つだと思っておくべきですぞ」
「ふーん」
接客の基本は笑顔、別に頼まなくても微笑むくらいはしているけどな。
ご主人様が時々見えたりして、それを目の保養に頑張っている。
「お姉さん、ポテト小を二つください」
「は⋯⋯い」
妹様が襲来した。隣の男の子は⋯⋯誘拐事件の時に守った人だっか。
二人きりとはもはやデートでは無いか。
男に立ち向かう勇気は賞賛するが、妹様のタイプがご主人様だとするとやや力不足。
まぁ頑張ってくれ。筋肉が少しついてるから筋トレしてるのだろう。
「でも他の皆来れなくなって残念だったね」
「そ、そうだね。こ、こんなに楽しいのに」
目が泳いでいるぞ! 絶対に嘘じゃん。
「どうぞ」
気になるが⋯⋯仕事が優先。好奇心を噛み殺す。
屋台をやって色んな人と出会うな。ほんと。
「ユリさんありがとう。でも妹ポジは渡さないから」
ボソリと呟いた言葉に渡そうとしたポテトを潰しかけてしまった。
容器はスライムなので潰すのはまずい。
離れて行く妹様を見ながら一言、言おう。
「ふっ、魅了に参加できない時点で私の勝ちでしょう」
「敵意丸出しですな」
◆
「なぁローズ、目を見せてくれよ」
「嫌だ」
かき氷を食べながら会話をするのはアイリスとローズ。
二人も夏祭りに来ていた。
途中キリヤとすれ違ったが、互いに空気を読んで挨拶はしていない。
「なんで嫌なのか、せめて理由が聞きたい」
「見せたくないからだ。⋯⋯特にお前にはな」
最後の言葉が小さく聞き取れなかったアイリスは顔を寄せながら再び聞き返す。
「ええい近い」
顔を押し返す。アイリスの視界には映ってないが顔を少し染まっている。
「スンスン。肉の匂いがする。買ってくるからここに居てくれ」
「ああ。分かった」
まだ食べかけのかき氷を口に入れる。
(別に一緒に行けば良いじゃんか)
滲み出る怒りを沈めるように残りのかき氷を口に高速で運ぶ。
すると、頭がキーンっと痛くなる。
「これ、モンスターでもなるのか」
痛みに口元を歪めながら、顔を上げる。
目を見せたくない理由は単純、禍々しく醜いからである。
どうしてもその姿を見せたくない。
「はぁ」
ローズは浴衣姿であり、黒い生地にバラの絵柄が入っている。
アイリスが戻って来るまで待っていると、二人の男子高生がやって来る。
「お、お姉さん一人?」
「よ、よよ良かったら俺らと祭りを楽しまない?」
「⋯⋯すみません。自分は目が見えなく、今は付き人がお肉を買いに行っているのです。なので一人では無いです」
それで引き下がるだろうとローズは思った。
しかし、男二人は下がらなかった。
浴衣越しでも分かるスタイルの良さと目を瞑ってもなお美しいローズの顔。
男二人はローズの美貌に簡単には引き下がらない。いや、どんな女だろうとターゲットにしたらギリギリまで粘る。
「じゃあ付き人が来るまでの間話し相手になろうか?」
「うんうん」
他人に話し相手になられて何を話せと言うのか。
ローズの思考が銀河へと向かおうとしている時、男二人に怒声を飛ばす男が現れる。
「俺の連れになんか用か?」
殺意と怒り、それが溢れ出るアイリスの言葉に怯んだ男達は謝罪と共に離れて行く。
「悪い。あんまり並んで無かったしすぐに戻って来れると思ったんだが⋯⋯」
「別に構わない。そもそも知らない二人では無い」
アイリスが牛串をローズに渡しつつ、隣に座って食べ始める。
「思っていた以上に早く食べ終わったんだな」
「え?」
「いや。まだ半分近くあったから、食べ終わる頃には戻って来れると思ってさ」
「なるほど。アイリスらしからぬ気遣いと言う訳か」
「悪かったな。らしくなくて」
ローズは自分の為に怒ってくれたアイリスを思い出して、口元が自然と緩んだ。
(主人の友人(笑)と思われるヤマモトとサトウ、感謝しておこう)
ローズも肉を食べつつ、そろそろ花火が始まろうとする夜空を見上げた。
目を瞑っているが見えない訳では無い。
「アイリス、この祭りは楽しかった?」
「ああ。久しぶりにのんびりできた。⋯⋯その、ローズと二人でさ」
「そうね。その通り」
頬をコリコリと指でかくアイリスと微笑むローズ。
ヒュー、バン。大きな音を立てて夜空に輝く花が開く。
「今日は気が緩んで仕方ないな」
ゆっくりと、瞼を上げるローズ。
横目でアイリスを見れば、夜空に彩る花に夢中だった。
「⋯⋯ふんっ」
目を瞑り再び上を向く。
少しでも期待した自分がバカだった、そう思いながら。
「見せてくれてありがとうな。別に怖くとも醜くもねぇよ。よーやくローズのちゃんとした顔見れて良かったぜ。あーでも角は無いし髪色は変えてるし、完璧じゃないな」
「ふん。いずれ、な。いずれ。花火に集中しろ」
「ああ⋯⋯可愛かったよ」
「うるさいっ!」
キリヤ達も花火を見ていた。
久しぶりに見る花火にキリヤは興奮を隠せない。
「綺麗だな!」
隣にいるナナミに大きめな声で感想を呟いた。
自分の方を向かれて言われ、花火の事だと分かっていてもドキッとしてしまう。
それを自覚しつつもいつもの無表情をキープする。
むしろ、ドキッとしたからこそ冷静な無表情をキープできていると言える。
動揺を悟らせない、探索者の技術。
黙って沢山の煌めく花を見るキリヤ一行。
その途中である二人は同じ感想を持ってしまった。
「「花火ってモンスター相手にどれくらいの火力になるんだろ」」
「普通に楽しもうよ?!」
虚しく散った男二人も花を見上げる。
「チリチリと消え行く火花のように」
「俺らの夏も終わるのだろう」
「悲しいな!」
「ほんとな!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
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