第109話 家に来て欲しい
三人で一緒に帰っていると、後ろから声をかけられる。
「ヤジマくんにナナミじゃないか。ギルドからの帰りかい?」
話しかけて来たのは
前にギルドで凹んでいる所を励まされたり、一番新しい所で言うと合宿でペアを組んだ相手でもある。
華奢な女の子の身体から想像もできないパワーで振るわれる薙刀は兵器のよう。
技を見ただけで模倣できる範囲で試した時は腕が麻痺して少しの間動かなくなった。
それだけの大きな反動に耐えながら戦っている彼女はパワータイプと言えよう。
「こんばんはクウジョウさん」
ナナミの事を下の名前で呼んでいる事に少しだけ驚いたが、それだけである。
俺の知らないところでの関係はあるだろう。
アリスが誰かと小声で聞いて来たので、俺の知っている情報を話した。
「初めまして。ナグモアリスです」
「コレはご丁寧に。初めまして、クウジョウだ。一応一年先輩だけど気にしなくて良いからね。⋯⋯それにしてもヤジマくん、両手に花ですね」
「あんましいじらないでください」
少し気にしているのは言うまでもない。特に毎回送られる野郎二人の視線とかね。
軽く世間話を終えてから、俺達は各々の道へと進んで行く。
翌日部室の中でナナミは神妙な面持ちをしていた。情報を付け加えると、その状態で俺を見ている。
「えっと、何かな?」
「実は⋯⋯家に来て欲しいんだ」
「⋯⋯え?」
情報を呑み込むに数分の時間を要したのは言うまでもない。
まだアリス以外誰も来てなかったから特に騒ぎにはならない。
一体どう言う事だろうか?
家に誘われた⋯⋯。
「模擬戦?」
「なんでキリヤはいつもそんな思考に⋯⋯」
「まぁそんなところ」
「当たってたかぁ」
アリスの一人芝居に何かを言う事無く、俺は了承した。
だって断る理由ないし。友達に誘われたなら受ける。
小学生の俺だったら特訓のためにも断っていただろうが、今はこのような時間も大切にしている。
ライバルの存在は自分の力を高めるにも大いに役立つと知ったからな。
部活を終えて、俺とアリスはナナミに連れられて彼女の家に向かっている。
「まさかアタシも一緒だとは⋯⋯嬉しいけど」
「一体何が待っているのやら」
案内された場所は家ってよりも道場である。
「二人には証人になってもらう」
「なんの証人?」
アリスが当然の疑問を口にすると、ナナミは目を右へ左へと動かす。
「⋯⋯言ってなかった」
内容を既に話しているつもりだったらしい。
「えっとね」
ナナミから説明を受けた。
ざっくりまとめて言えば、お家問題である。
過去に遡り、元は
俺の知っている
家は二つに分裂したらしい。なんでも価値観の相違によって。
別れた家が
まさかの関係性に驚く俺を他所に、今回の説明が成された。
今日俺達を招いたのは、その二つの家どちらが真に強いのか決めるのを家に関係無い人に見届けて欲しいから。
「こんな事に巻き込んでごめん」
「良いよアタシは。なんか面白そうだし」
「俺も自分のためになりそうだから、落ち込む必要は無いよ」
「ありがとう」
既に人は揃っているのか、沢山の人がいる。
時間になるまで後は待つだけかな。ナナミは準備体操を始めた。
そんな俺達のところに強そうなおじさんが近寄って来る。
歩き方や纏う気配的に俺が本気で戦って勝てるか怪しいレベルの強者だ。
⋯⋯うん。ナナミには誘ってくれた事を感謝しないとな。
「合宿の時我が流派を見ただけで使用した男ってのは君か?」
「ヤジマです。⋯⋯クウジョウさんでしょうか?」
「いかにも」
現当主と言ったところかな?
クウジョウ父さんと呼んでおこう。
「少々お主に興味がある。どうだ。一戦しないか?」
「今日は両家の雌雄を決する日なのでは?」
「それをやるのは跡継ぎ達だ。余興としてもちょうど良い」
家の関係にナナミも巻き込まれた感じがするな。
闘えるチャンスだと言うなら俺は受ける。自分のためになる。
クウジョウさんに薙刀を教えたのが彼ならば、真髄は彼の闘いに現れるはずだ。
そんなの、ワクワクするに決まっているだろ。
「キリヤ、気をつけてね。強そうだし」
「実際強いと思うよ。でも、闘えるなら全力で闘うまでだ」
「そっか。応援してる、ガンバ!」
「おう」
俺とアリスが短く会話していると、へそを曲げたナナミが真ん中に入って来る。
「ふふ」
アリスが何かを察したかのように笑っているのが気になるが、俺は今からの闘いに集中しよう。
ナナミの家の道場だろうが、その辺は気にしないでおこう。
俺が扱うのは剣だが、今回は相手に合わせて木製の薙刀を使用する。
決闘ルールで勝敗はいつも通りだ。
真剣で戦った場合、相手を確実に殺せる攻撃の寸止めが勝敗を決める。
普段薙刀は扱わないが、使えない訳では無い。
「射程の長い武器を使うのは久しい気がしないでもない」
クルクル回しながら具合を確かめる。⋯⋯なんとなく懐かしさを感じるな。
なんかまともに打ち合ってはダメな気がする。
⋯⋯そう言えば、クウジョウさんの姿が見えないな。彼女を待っているのかな。
審判はナナミがしてくれる事になった。
怒っているおじさんがいるのだが、多分だがあの人がナナミ父さんだろう。
「それでは、初めっ! 頑張れキリヤ」
「ありがと」
まずは俺から駆け出した。
相手の戦い方は遠心力をフル活用した高火力での攻撃だ。
そのためには振るための間合いが必要。
間合い管理なら俺は自信がある。相手の不利となる間合いに距離を潰す。
内側では大きく振る事もできないだろう。
そうなると自然と距離を取ってしまうのが人間だ。
「ほう?」
だからさらに踏み込む。その踏み込む速度を上げる。
「薙刀の不利なリーチを敢えて選ぶか」
「少しでも事前知識があるのに、活用しないのは変でしょう!」
「その通り⋯⋯だが温い!」
近い距離だと言うのに薙刀を横薙ぎで振るわれる。
なんとか防ぐが、腕にのしかかる力が想像以上に大きい。
鉄球が襲い来るような重みを感じる。
振りは大きくないし手前側で受けたにも関わらず、だ。
「ぐっ」
耐える事はできずに横へと吹き飛ばされ、ギリギリのところで着地を成功させる。
「師範の攻撃を耐えたぞ!」
「まじかよ⋯⋯」
「師範手加減しすぎ」
野次馬の声が嫌に耳に届くな。
手加減⋯⋯しているんだろうな。
勝負を最大限楽しむために強者は手を抜く。
「あぁ、嫌だね」
そのような手加減なんて無用だと言いたい。言わせたい。
俺の中にある闘争心に完全に火がついた。
前屈みになり、左手を床に付ける。
薙刀を背中に預けるように待ち直し、相手を睨む。
いきなりの低姿勢に警戒心を高める。
ナナミ父も怒らずにこの闘いを見守ってくれている。
「ふっ!」
加速した俺にクウジョウ父さんが目を見開いた。
その驚きに対してのお礼として、俺は高速の突きを繰り出す。
「まだまだ!」
首を倒すだけで回避されたが、それだけで止まるような俺では無い。
刃の向きを変えて押し込むように動かす。
俺の身体を柱として扱って、限界まで速度を上げる。
クウジョウ父さんは防ぐのは間に合わないと判断したのか、屈んで回避する。
低姿勢の状態から薙刀を切り上げ、俺はバックステップを強制的に踏まされる。
「テリャア!」
刃の向きを瞬時に切り替えて振り下ろして来る。
スピードはまさに落雷。当然その分力も籠っているだろう。
「なんだと!」
「危ないですねぇ」
回避しつつ薙刀に足を乗せて、起き上がる。相手の薙刀の上に乗った形だ。
武器に乗るとなぜだか人間は振り落とそうと武器を動かす。
今回はそれが上へと向いた。
彼の力は俺以上だ。だから、その力を利用する。
「飛んだ!」
誰かがそう叫ぶ。
力を完全に利用させてもらった。それだけ高く跳んだ。
「はっ!」
俺が薙刀を落下の勢いと回転の勢いを乗せて叩き落とす。
防がれると思ったが、まさかの反撃を受けた。
無意識に力を込めて薙刀は衝突し、俺の薙刀が粉砕した。
「⋯⋯うそん」
「ガハハ! こちらの勝ちのようだな」
◆あとがき◆
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