第108話 勝ち目のない戦い

 忍びの里の忍長と戦って洗脳する事に成功した。


 そこから情報を色々と聞き出した。


 「主様、大丈夫ですか?」


 「ああ。なんとかな。言い訳を考える方が億劫だ」


 忍長との戦いで俺は火傷を負ってしまい、その言い訳を考え中。


 聞き出した情報を整理しようか。


 まず、妹の暗殺を企んだのはカンザキさんが警戒している組織、オオクニヌシだった。


 殺害方法の指定があり、それは残虐である事。


 俺の精神を攻撃して弱らせる狙いでもあったのだろうと、カンザキさんに情報共有して言われた。


 彼もオオクニヌシに家族が狙われた人間だ。俺の気持ちを理解してくれるだろう。


 ただ、組織外の人間を利用したのは初めてらしい。何かしらの新たな動きと見て良いだろう。


 あの里には幹部となる上忍がいるらしいが、今回は全員が依頼に出ていたらしい。


 忍長も太陽の下での無限再生が無ければ負けるらしいので、実力は里の中でもトップクラスの連中だったらしい。


 そんなヤツら相手にユリ達は勝てただろうか。どうしても考えてしまう。


 燃えてしまった里の再建はして欲しくないが、ここで産まれた子供はいる。


 今後の生活を改めてもらい、生活する事を許可して管理を任せる事にした。


 サキュバスの力でかけた魅了が解けたらすぐに分かるし、その時はまた同じ事をすれば良い。


 「今回は恐怖心を魅了に利用してみたが上手くいったな」


 「だからと言って、今後もこのような手を使って魅了されては困りますよ主様」


 「やっぱしダメ?」


 「はい。ダメでございます」


 確実かつ楽なのに、ユリには認められなかった。


 今後も恥ずかしい想いをしながら魅了するのか。


 「⋯⋯てか、今さら魅了する必要ってなくね? ユリ達で十分じゃん!」


 「ち、力を認められるのは嬉しいですけど、ソレはソレ、コレはコレです!」


 赤面しながら照れるユリが微笑ましく思える。


 大元を絶たない限り俺含めて周りの人達が狙われるのは確実だろう。


 オオクニヌシ、この組織は必ず潰す。


 人の命を軽く見ている奴らを野放しにはしない。


 「あぁクソ。あのジジイがオオクニヌシの情報をもっと持ってたら楽だったのに!」


 「依頼の理由までは聞かないスタンス、今回はそれが厄介でしたね」


 本当に金さえ積めば動く奴らだったって事だ。


 まだ解決した訳じゃないけど、とりあえずは帰る事にした。


 家に帰ると、早々にマナが火傷について指摘して来る。


 「モンスターの炎を食らっちゃってね。痛く無いから安心してよ」


 明日には完治している程度の怪我だから問題ない。それが通じるなら言い訳は用意してない。


 「もう! それが命に関わるかもしれないんだよ! もっと深く反省して!」


 プンスカ怒るマナにアリスには黙っておくように言い聞かせる。


 心配かけたくないのもそうなのだが、あまり広まって欲しくないってのが本音だ。


 俺の周りにいる人達はやたらと勘が良い。


 もしも今日、戦ったのがモンスターではなく人間だった場合、問題事は避けられないだろう。


 翌日、周りの人達の影に仲間を忍ばせて俺はダンジョンへと向かう。


 いつものような生活をしていなければ、疑われかねないからだ。


 それに、チャンネル登録者数が増える事で力が増すのは未だに健在。配信をしないのはメリットになり得ない。


 元々は憧れて始めている配信者、今ではその目指しているのが正しいのかと不安になっている。


 その気持ちを忘れずに俺はダンジョンへと足を踏み入れる。


 チャンネル登録者数は14万人、もうすぐで15万人である。


 この数字で新たな魔法を会得できるか分からないが、五の倍数は何かとキリが良いので期待しておく。


 「さて、今日は何をしようかね」


 俺が皆に言い伝わるように呟く。結果は火を見るより明らかだけど。


 予想通りと言うかなんと言うか、コメント欄を見なくても想像できてしまう。


 “魅了やろ”

 “魅了以外に何をすると言うのかね?”

 “オークとグールの数が足りないようだよ?”

 “さっさと行こう!”


 “サキュ乙。今日も頑張って”

 “盛大な恥らしいを見せてくれて良いんだよ”

 “皆楽しみにしてるから”

 “今日はエロ少な目で行きたいな”


 もう何も言うまい。


 俺がどれだけ抗議しようがユリ達がその気なので意味が無い。


 反抗しようにも、カメラなどが彼らの手に落ちるのだ。


 なんで視聴者側に全員が移るのか、未だに疑問に残らんでもないが気にしては負けだ。


 え、それだとずっと負けてるって? だーまーれ!


 さて、無駄な押し問答などするだけ時間と体力の無駄。


 サクッと進んでオークを発見してしまう。


 「ちぃっ」


 “やっぱりオークとエンカウントしない事願ってたか”

 “もう諦めれば良いのに”

 “ローズ達がいる限りモンスター発見は早い”

 “サキュ兄が最近自分で戦いたいのは時間稼ぎのため”


 “サキュ兄の方が強いのに戦闘いっつも長いもんね”

 “我々だって学んでいるのだよ”

 “サキュ兄は戦わせない。これ絶対”

 “サキュ兄が諦めるその時まで、僕らの抵抗は終わらない”


 クレームを入れたい気持ちをグッと抑えて、会議が終わるまで訓練していよう。


 魔法をなんのサポートもなく精密に扱えるレベルまではまだ程遠い。


 指弾を利用した魔法は綺麗に当たるが、それだと直線的な攻撃しかできない。


 ゴム弾を利用してバウントを使ってもみた事あるが、壁に当たると魔法自体は消えるので実用的ではなかった。


 ローズみたいに血を自在に操れる力があればまた話は変わりそうだ。


 「良いよなヴァンパイアの能力ってさ」


 こちとら恥ずかしい想いして仲間を増やす事を強制されているんだ。


 それは能力ってよりも義務的な感じがしなくもないが。


 あれこれやっているうちに時間ってのはすぐに過ぎ去り、会議は終わりを告げた。


 ライムの手によって素早く、今回の衣装に着替えさせられる。


 魅了班はローズなので、今日はローズとジャクズレの感想を聞ける。


 「可愛らしいです主人」


 「相応しい格好です!」


 「ジャクズレ、それを本気で言っているなら斬るぞ」


 「不肖ジャクズレ、主君の前で嘘など申した事はございません!」


 俺はジャクズレの四肢を切断した。くっつくので問題ないだろう。


 しっかしこの格好⋯⋯。


 「視聴者のロリコン! 変態! 犯罪者予備軍!」


 “ぬほほほほ”

 “そんなに褒めても魅了のネタしかでましぇんぞ!”

 “きちんとオリジナルを皆で考えているので著作権はご安心を!”

 “特定される心配は無いね!”


 “ロリコンってサキュ兄が言う? 昔のユリ達を思い出そうぜ。ロリコンってサキュ兄が言う?”

 “こんなにサキュ兄に褒められるとか最高かよっ!”

 “残念だったな。この場にサキュ兄の攻撃が通じる奴はゼロだ!”

 “純粋な人間は他の配信者を観るからな!”


 くっそ鬼共がっ!


 こんな、屈辱的な格好を⋯⋯。


 今の俺の格好はエロいかと言われたら違う。


 露出度は少ない。ではスカートが短いのか。むしろ長い方だ。


 ならば何が悪いのか、簡単だ。


 制服なのだ。今の俺の格好はオリジナルの制服なのだ。


 しかも学校ものの。


 ブレザーにロングスカート、清楚系の立派な制服に包まれている。


 男の俺が女物の制服だぞ! ふざけているとしか思えない。


 「そんな女物の服装に慣れ始めている自分がイヤー!」


 クヨクヨ泣いてもしかたない。今日の魅了はそこまで恥ずかしくないんだ。


 サクッと終わらせるぜ!


 俺はオークの前に出て、軽く敬礼の形を取り、反対の手を腰に回し、少し倒す。


 ウインクしながら明るい声音を意識する。


 清楚系の見た目だが、明るく陽気な女子。


 「オーク君、一緒に登校しよっ」


 ね、恥ずかしくない。


 セリフやポーズ⋯⋯ポーズはちょっとバカっぽいけど。


 恥ずかしいないのだ!


 冷静に今の自分を客観的に見ない限り、と一文を最後に付け足しておくけど。


 ダメだ。冷静に今の自分を見るな。


 学校なんてないのにダンジョンの中で制服に身を包んでオークと一緒に登校しようとしている、情報だけ聞いたら頭おかしいのは間違いない。


 だから考えるな。


 今の行動がめっちゃバカっぽくて段々と恥ずかしいとか考えるな!


 考えたら、負けだ!


 “震えてらっしゃる”

 “屈辱感でいっぱいだろうね。げへへ”

 “うん。可愛い”

 “サキュ兄が始まったぜ!”




◆あとがき◆

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