第107話 自分だけの世界

 「いつまで逃げるつもりだ。体力が持たんだろう!」


 爆炎の中を飛び回り攻撃の隙を伺う。


 辺りは炎の海。


 酸素が燃やされて息を吸うのも難しくなって来る。


 高い位置を飛んで煙を吸うのも避けたいところだ。


 「皆、消火を頼む!」


 ユリ達に願いを叫ぶと、すぐに行動してくれる。


 燃え移る物を破壊して、攻撃の風圧で炎を消して行く。


 俺はライムに剣になってもらい、二刀流で加速する。


 「剣など無駄だ!」


 炎の球体がかなりの数生成される。


 「無駄と決めるのはお前じゃない!」


 咆哮と共に剣を振るい、球体を斬って行く。


 切断した球体は爆発するが、それに巻き込まれる俺じゃない。


 相手が攻撃圏内に入ったのと同時に細切りにする。


 しかし、俺の攻撃を嘲笑うかのように高速で再生して炎の手が伸びて来る。


 くるり、と飛んで回避するがそこ目掛けて炎が飛ぶ。


 「クソっ」


 「主様!」


 ユリの叫びに答えるように、包まれた炎の中から脱出する。


 「ゴホゴホ」


 物理攻撃の効かない相手はすごく厄介だ。


 魔法も使っているが、あまり有効的には見えない。


 火傷治るかな⋯⋯。


 「妹を狙った奴らの名前を言え!」


 「クライアントの情報を渡すような愚かな人間ではないぞ」


 「なんだ? 人間は辞めたんじゃないのか?」


 「揚げ足取りを」


 奴が自身の炎で忍刀を形成し、一瞬で迫って来た。


 相手の攻撃に合わせて俺も武器を振るい、衝突させる。


 近距離戦となると、奴の身体の熱を直接感じてしまう。


 後ろに飛びながら距離を取ると、再び魔法が飛んで来る。


 「良く躱す⋯⋯」


 「当たるようなスピードじゃないからな」


 後ろを見れば先程飛ばされた魔法が着弾しているのが視界に入る。


 黒い煙がもくもくと空に向かって行く。


 山火事ってレベルでは収まらないだろう。


 「何を気にしている?」


 「いや。かなり目立つなと思ってね」


 「くだらん。どうせここのことは外には漏れん。何より貴様はここで死ぬ。気にするだけ無駄だ」


 「死ぬ訳にはいかんのよ」


 でも、どうしたモノかね。


 斬っても再生する。魔法の攻撃も同様に再生する。


 どれだけ攻撃しても痛がった気配はしないし、力も衰えが見えない。


 俺も相手の攻撃は回避できるが攻め手に欠ける。


 「これが未来の俺の言っていた、魔法を極めろってのに繋がるのかな」


 今後もこんな奴の相手をしないといけないのだろう。


 剣だけでは到底太刀打ちできないような相手が。


 「はぁ。嫌だな」


 憧れて、鍛えて、目指している先にある強さに俺が望んた剣は無いのか。


 そう考えるとちょっとだけ寂しい。


 「考え事とは悠長だな」


 「そのくらいの余裕があるんだよ」


 急加速して相手の身体を細切りにする。


 魔力も減っている気配がしない。


 カンザキさんとの闘い、あの時は再生に魔力を使っていた。


 それを俺も感じ取っていたし、しっかり減っている感覚がした。


 だけど目の前のコイツはどうだろうか。


 いくら倒せるような攻撃を繰り返しても再生して、その再生になにかのエネルギーを使っているような感じがしない。


 ジリ貧で負けるのは、体力や魔力を消費している俺の方かもしれない。


 「⋯⋯何かしらの攻略方法があるはずだ」


 この世に万能なモノは無い。


 一見、無限に再生するように見えるが何かしらのギミックがあるはずだ。


 無敵な存在なんてのは無い。


 良く相手を観察して、攻略の糸口を見つけ出す。


 ただ攻撃を繰り返しているだけでは無意味だ。


 「はっ!」


 再び奴の身体を細切りに切り裂いた。


 ゆっくりと炎は再生して行き、化身の形を作り出す。


 中心から再生しているように見えるが、魔石などがある訳ではない。


 弱点らしき弱点があるならそこを狙うのだが⋯⋯。


 「何をしても無駄だ」


 言葉と同時に爆炎の刃が振るわれる。


 横に飛行して回避するが、後ろにいたホブゴブリンに向かって斬撃が飛んで行く。


 「まずいっ!」


 俺が思った矢先、間にローズが割って入り血の壁を作り出す。


 「主人はソレに集中を」


 「助かる」


 そうだ。


 俺の失敗は仲間がカバーしてくれる。俺は俺の戦いに集中しなければ。


 ギラつく太陽。額を流れる汗に意識が向いてしまう。


 ⋯⋯太陽。


 「サキュバスは月の光を浴びる事で真の力が解放される」


 「急に何を言っている?」


 「種族によっては太陽から力を得るモノもあるだろう。例えば、お前のような炎の化身とかな」


 種族によっては自然界からエネルギーを得るモノがある。


 サキュバスやヴァンパイアは月から力を得る事ができる。


 相手は炎の化身だ。太陽の光によってエネルギーの回復力が増すのは十分に有り得る。


 だからと言って今の俺にできるのは夜まで戦う事⋯⋯本当にそうか?


 月の都で訓練していたのはユリ達だけではなく、俺もその一人だ。


 月で直接訓練する事で常にフルパワーで行う事ができる。


 完全に上位互換となるレイがお手本となり、色々と教えて貰った。


 その時の会話を思い出す。


 『自分だけの領域を持ちなさい』


 『領域?』


 『そそ。ここに居れば自分は負けない、そう思える空間を作るのよ。難しい? 簡単よ。そのための魔法じゃない』


 魔法は魔力を使って様々な現象を生み出す。


 俺はチャンネル登録者数でレイの力により魔法を会得している。


 だけど極めるにはそれだけでは足りないだろう。


 与えられた力を鍛えて伸ばすだけでは、どこまで行っても極めるには至らない。


 自分だけの魔法を作り出し、会得しないとならない。


 「今必要な魔法。俺だけの魔法。俺の得意とする領域」


 絶対に負けないと思えるような空間。


 月光の下で戦ったあの時の感覚。


 今でも忘れられないあの時の高揚感と全能感。


 「永遠の夜ならば、俺は負けない」


 太陽に向けて手を伸ばす。


 俺の空間にソレは邪魔である。


 「【常闇の月夜フォースディメンション】」


 紅き月が太陽を食らうように顕現し、そこを中心に闇が広がる。


 「させるか!」


 初めて行う魔法に戸惑いながら、手探りで顕現させる。


 その姿は隙だらけであり、当然狙われる。


 「時間稼ぎを頼む」


 「はいっ!」


 ユリが相手に向かって踏み込む。


 「貴様ごときが相手になると思うな!」


 爆炎がユリを襲う。


 「はああああ!」


 気迫と共に振るわれた刀によって爆炎は薙ぎ払われる。


 ユリの攻撃も俺同様に再生されてしまうが時間稼ぎには繋がっていた。


 「遅いわっ!」


 「ぐっ」


 ユリの頬が炎の刃に浅く斬られる。だが、その程度で怯むユリではない。


 彼女は日々の訓練により、ゴブリン時代とは比べ物にならないくらいに強くなっている。


 ユリだけでない。アイリス、ローズ、他の皆だって強くなっている。


 全員が全員、カバーしあいながら連携を繰り返し時間を稼いだ。


 おかけで俺は自分の領域を完成させる事ができた。


 魔法により作り出した人工の月と夜。俺は二本の剣をギュッと握り直す。


 相手を見れば、魔力の大きさが分かる。


 「今のお前は無限に再生しないよな?」


 「だからどうした。お前程度には負けぬ」


 「いや。お前は負ける」


 俺の眼にはそれが分かるんだ。


 俺は加速して奴に接近して攻撃する。


 既に俺のスピードにアイツはついて来れないとわかっているので、一方的に切り刻む。


 人間を辞めたと言っていたが、真に辞めれているとは思えない。


 なぜなら、奴が人型を取っているからだ。


 炎の化身ならわざわざ足を用意する必要は無い。


 切断しやすい場所が増えるだけだ。


 「先生、使います」


 俺は一度止まって構え、加速する。


 先生に教わった技は飛行で生み出したスピードを丸ごと剣に乗せる技だ。


 スピードで敵を圧倒する俺にはピッタリと合う。


 「八咫烏ヤタガラス、八枚刃!」


 二刀流なので二振りで八本の刃となる。


 「この程度で⋯⋯」


 「一方的な戦いはつまらないな」


 そこから数十分、ギリギリまで削った。


 領域魔法を初めて使ったのもあるだろうが、魔力がごっそりと減った。


 だけど解除する訳にはいかない。


 「言え。俺の妹に依頼したのは誰だ」


 「誰が、言うものか」


 目が死んでない。⋯⋯俺が人を殺せないと気づいていたか。


 だけど切り刻まれた恐怖は残ってるよな。


 『成功80%』


 確定じゃないのか。でも、やらない手は無い。


 「俺の目を見ろ。深く、覗け」


 「なに⋯⋯を」


 俺は奴を魅了した。




◆あとがき◆

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