第106話 忍びの里、襲撃

 だいぶ深い森の中にやって来てしまった。


 上を見れば空すら見えない程に木々が生い茂っている。


 そんな中をただ一人歩くのは辛かったので、ユリと共に散歩しながら進んでいた。


 「中々に険しいですね」


 「ああ。それに時期が時期だからジメジメする」


 森の中で太陽は直接当たらないが、蒸し暑さがある。


 長時間の移動の末、人工物をこの目に収める事ができた。


 大自然の中に不自然に用意された木の柵は朽ちておらず、手入れされているのが遠目からでも分かる。


 警戒しながらも俺らはそこに近づく。


 「何者だ」


 殺気を飛ばされながら、隠れた存在から言葉を飛ばされる。門番かな?


 一歩でも動いたら首を飛ばす勢いの殺気だ。


 隣に居るユリが一瞬だけ殺気に反応しそうだったが、握っている手によって冷静になってくれた。


 「無視をするな!」


 今の俺達はフードを被っており、相手から顔は視認できていないはずだ。


 相手の場所は把握したので、そろそろ言葉を出しても良いかな。


 「えーっと。君らに依頼を出している人の情報を持っている人に会いに来たんだけど、誰か知らない?」


 「何を言っている? 怪しい奴め。これ以上先に進むと言うのなら命は無いモノと思え」


 「おいおい。いきなりの殺害予告とは穏やかじゃないねぇ」


 知っているけど知らないフリを続ける。


 「⋯⋯ま、時間も勿体ないし。端的に言おう。俺の妹を襲って来た奴らがお前らの仲間だ。だから潰す事にした」


 さて、全面戦争と行こうか。


 俺はライムに剣になってもらい、正面の門をぶった斬った。


 突然の行動に反応が遅れた門番の忍者が俺を殺そうと動いたが、ユリが止める。


 「⋯⋯モンスターっ!」


 「モンスターと人間の気配の違いも分からないんですか?」


 月の都に住むようになってから、皆の成長速度はさらに上がっていた。


 今のユリはモンスターとしての気配をかなり消せるようになり、ユリ単体で違いを気配だけで判別するのは難儀だと言える。


 レイが何かをしているとしか思えないが、デメリットは無いので無視している。


 雑魚共は皆に任せれば良いだろう。


 「な、なんなんだお前らは!」


 「ネットに疎いな⋯⋯いや。知られてない方が嬉しいかも」


 影からぞろぞろと仲間が這い出て来る。


 里の中へと侵入すると、虫が餌を発見したかのようにぞろぞろと忍者が群がって来る。


 「オラッ!」


 アイリスが前に出て、強力な一撃を一閃した。


 それだけで軽い人間は吹き飛び、攻めをキャンセルさせた。


 「敵襲! 敵襲!」


 「敵はモンスターだ!」


 「クソ。どうして里の場所が⋯⋯」


 相手から見たら阿鼻叫喚の絵図だろうな。あちこちから怒号が飛び交う。


 ま、相手の事を思いやるならわざわざ襲撃なんてしないよね。


 さて、さっさとトップに会いたいところ。


 周囲を見渡して地形を把握する。


 シンプルに木と藁で作られた昔ながらの家が基本で、電線などはなさそうである。


 電気の無いこんな里で生活できるのかと、現代人に聞きたいね。


 俺は無理だ。


 好きな配信者とか見れないのは地獄だし、ここの近くにギルドが無いからダンジョンにも行けない。


 産まれてからずっとここで育てられたんだろうな。ちょっと同情。


 だからと言って、人の命を狙うのは許容できないけどね。


 「てか、もしかしたら子供もいるのか。その辺どうしよう」


 周りに戦闘を任せて、俺はのんびり一番豪華な家へと足を向ける。


 スライド型の扉だったので、まっすぐ足を突き出してドアを開けた。


 奥の壁にドアが当たり、粉々に砕けたのは言うまでも無い。


 「今時の若い者はドアの開け方も知らんのか」


 「アンタがここのボスか?」


 髪の毛や髭、全ての毛が白色でかなり衰えているのが分かる。


 眉毛がかなり伸びて目を覆っており、どこを見ているか全く分からない。


 「この前お前らのところの忍者に妹の命が狙われた」


 「復讐か。くだらんな。我らは依頼を受け全うするのみ。それ以外に興味も価値も無い」


 「そんなのはどうでも良い。妹への殺しの依頼、誰が出した。あんたなら知ってるだろ?」


 トップが把握してないとは思えない。


 情報をよこせと、端的に質問する。


 年上に対する礼儀なんてのは当然ない。


 命令口調による偉そうな態度だ。


 里を襲撃したんだし、今更礼儀正しい方が気持ち悪いだろう。


 「ガキ、一つ良い事を教えてやろう」


 「要らない。質問にだけ答えてくれ」


 「年寄りの言葉は聞いておくべきだぞ」


 「興味無いと言っているが?」


 「そうか」


 刹那、風を置き去りにした建物を切断する銀閃が走る。


 俺の首元ギリギリで止められた忍刀。太陽の光にキラリと切っ先が反射する。


 老体からは考えられない速度と威力。


 「お前は明日の太陽は永遠に拝めなくなる。分かるな?」


 「分かんなーい」


 満面の笑みで言い返すと、落雷のような斬撃が落とされる。


 ライムの中に仕込んであった剣を取り出し、その攻撃を防ぐ。


 ドゴン、地面にクレーターができる程の衝撃。


 全身を駆け巡る衝撃が意識を狩り取ろうとする。


 「ほう。耐えるか」


 「お前、人間か?」


 この力は人間が出して良い力じゃない。


 バックステップを踏みながら距離を取り、剣を構えて相手を睨む。


 次の動きをいち早く確認しないと、簡単に負けるだろう。


 強いのは分かっていた。だけど想定以上だった。


 「想定外も想定内のうちだ」


 人間か怪しくなる攻撃力だったけど、それだけだ。


 大地を強く踏み締めて、俺は距離を詰める。


 狙いは相手の忍刀である。


 角度を意識して高速に振り下ろされた刃は忍刀に命中する。


 カキン、と金属音を響かせ火花を散らした。


 「どこにそんな力があるんだ」


 全力で振り下ろした剣を片手で持った忍刀で完全に防がれた。


 「この程度か小僧よ」


 「ぐっ」


 反撃の蹴りが腹に突き刺さり、遠くに吹き飛ばされる。


 空中で体勢を直しながら着地をし、再び奴を目に捉える。


 さすがに人間のままでは勝ち目は無いか。


 俺はサキュバスに姿を変える。


 「性別が変わるとは⋯⋯中々に奇っ怪な。良い。儂も侵略者の処分に少々本気を出そうか」


 「熱っ」


 周囲を包み込んだ灼熱感は当然、里のボスから出されている。


 その姿を炎の化身に変えた。


 「⋯⋯なんだ。ソレは」


 炎を纏ったのでは無い。炎そのもの。


 そうとしか言い表す事のできない存在が目の前に現れた。


 「に、逃げろ!」


 「忍長が本気を出したぞ!」


 周囲の忍者が脱兎のごとく逃げ出した。


 俺の横にユリが跳んで来る。


 「主様。ここは私が」


 ユリの肩に手を置いて後ろに下がらせた。


 肌で感じる力。


 コイツは強い、そう感じる。


 身体から放出される熱気だけで、周りの家が燃え始めた。


 「儂は人間の身を捨てた。真の生物になったのだ。ふはははは!」


 「⋯⋯なんでお前みたいに悪そうな奴って笑うんだろうな」


 ゆらり、と俺は動いた。


 一瞬にして俺の後ろには忍長のジジイがいる。


 腕を切り落とした⋯⋯はずだが。


 「その程度の攻撃でこの身が傷付くとでも、思うか?」


 邪悪な笑みを浮かべながら、切り落としたと思われた腕を見せて来る。


 隣を通った時に肺の中に大量の熱気が入って来た。


 「ゴホゴホ」


 息が一瞬できなかったが、深呼吸してなんとか回復した。


 「剣では儂は倒せんぞ!」


 手を伸ばすと同時に炎が伸びて来る。スピード自体は大した事無いが、俺も攻め手に欠ける。


 「どうした! 羽虫のように逃げ回る事しかできぬか!」


 「⋯⋯どうしたものかね」


 先生の言っていた幹部っぽい奴らは見当たらないな⋯⋯すごく今更だけど。


 現実逃避しても意味無いか。


 いくら斬っても再生する⋯⋯もしかして物理攻撃が無効なのか?


 だったら、魔法攻撃は有効なのでは無いだろか?


 あの炎の身体が魔法に近い何かなら⋯⋯魔法は通用する。


 「【月光弾ムーンバレッド】」


 指弾を利用して魔法を発射する。


 「そんな下級の魔法で儂は倒せんぞ!」





◆あとがき◆

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