第105話 情報収集
連絡をしてから先生のところに土曜日を使って向かった。
一刻でも早く確認したい状況だったので、しかたなくサキュバスの状態で最速を出した。
先生は仲間達を全員帰したのか、家に到着した時には先生一人だった。
奥さんとお子さんは街の方に出かけているらしい。
わざわざ二人きりの状況を用意してくれた事から、何かしらの予想はできているのだろう。
「先日、マナの命が狙われました。その人達の戦い方や動き方が先生に似てました。何か知ってますか?」
単刀直入に質問した。
既視感のある攻防を繰り広げた。
暗殺者はどことなく先生に似ていたのだ。強さは似てなかったが。
先生が直接関わっているとは思ってないが、何かしらの情報は持っている。
たまたま似ている、と言い訳されても確実に否定できる。
確かに、流派によっては似ている技はあるかもしれないが、微々たる違いは感じれる。
だから別物として見る事が可能だ。
だけど前のは違った。きちんと既視感を持って同種だと感じた。
俺は俺の直感を信じる。
「ユリから聞いた。何があったのか。話そうか。まずは家に入ると良い」
家に入り、お茶を貰う。
「そうだな。まずは何から話そうか⋯⋯」
先生は選択肢を吟味するように目を動かし、定まったのか俺の方を向く。
「結論から言おう。少しだけ関係している⋯⋯が昔の話だ」
「では、一からお願いします」
「そうだな。まずは生まれから話そうか」
先生の生まれ育った場所は『
現代に忍びが存在している事も驚きだが、その一人が先生だったとは⋯⋯。
あんなきっかけが無ければ会いたいと思える話である。
「そこは金さえ似合えば暗殺をする組織でもあったんだ」
ド定番だな。
「幼少期から暗殺者としての訓練をして来た。幼い頃からその生活を義務付けられ、里のために働くように洗脳されて行った」
小さい頃に受けたトラウマは大人になっても継続するように、子供に同じような言葉を言い続けるとそれが正しいと信じてしまう。
純粋だからこそ信じやすい。
先生が洗脳と言うのなら、そのような光景があったのだろうと想像できる。
「だが俺はその生活に疑問を持った。人を殺すのが怖いと、ずっと感じていた」
先生は自分の手を見ながら、ポツリポツリと話してくれる。
その度に微かに震えている。
当時の光景が蘇ったのかもしれない。先生にそれだけの恐怖を与えたのか。
「俺は里から逃げ出した。隠れる為に探索者になってダンジョンに長らく居た。今の妻と出会って探索者も辞めた」
先生の人生の大雑把な流れか。
その後に訓練施設の先生となって、初めて教え子となったのが俺とアリス。
里に居た頃に教わって手に入れた望まぬ力、でもそれは探索者にとっても役に立つ力。
その事を理解している先生は私怨を押し殺して俺達にそれを教えてくれた。
探索者として培った経験も元にして。
「だけど奴らも忍び、簡単に逃げ切れなかった。お前達の訓練過程を終えてからここに住み始めたのは、奴らの追っ手を撒くためだ」
「そうだったんですね」
当然と言えば当然だが、初めて聞いた内容ばかりである。
マナを襲ったのはその鴉で間違いないだろうが、裏に依頼した人物がいる訳か。
そいつが⋯⋯あるいはそいつらが⋯⋯マナを二度も襲うように手を出したんだ。
一度目は親切だった人の化けの皮を剥がして利用し、今度はプロに金で依頼する。
到底、許せる話では無い。
「先生、その里の場所を教えてください」
「お前の考えている事は分かる。そして正解だ」
俺の考えている事、それは依頼者を突き止める方法だと思う。
下っ端の忍者に依頼者は伏せている。情報漏洩防止の為に。
確実に知っているのはトップだ。
トップは自分の領域に隠れているはずだ。
だから乗り込み、叩き潰す。
「今のお前では勝てない」
「先生は勝てますか?」
「分からん。忍長の実力を見た事が無いからな。だが幹部なら分かる、そいつらは俺と同等だ」
そうか。なら勝てない。
少なくとも今の俺は先生に勝てない。
だけど不思議だ。聞いていても、先生と同等の実力があるとは思えないからだ。
暗殺特化の特殊な訓練を受けたのは間違いないだろう。
しかし、裏を返せばそれだけだ。
「暗殺の訓練しかしてない奴らには負けない、そう思ってるな?」
「はい」
「それは傲慢だ。幹部に上がる奴らは自主訓練も怠らないし、忠誠心があり自分に誇りがある。下っ端と同一の思考だと決めつけるな」
「すみません」
先生に考えを見抜かれて説教されてしまった。
しょんぼりしていると、先生に木刀を渡される。
⋯⋯キタ。
「なんだその笑みは。やっぱりあると思ってたか?」
「ええ。前回は高速飛行や飛行の基礎の特訓でした。つまり今度は空中戦の基礎」
「ちょっと違う」
え、違うの?
結構自信あったんだけどな。
「お前は飛行の基礎さえ分かれば自分で他の基本と組み合わせて自分のモノにするだろ? わざわざできる事をここまで来て伸ばす必要は無い」
先生の背中を見ながら外に出た。
種族になるので、俺も同じよに種族になる。
服はライムなので、いつものような服装になる。
「良いなソレ。俺にもくれよ」
「ライムが許すなら」
木刀を構えて空に飛ぶ。
「俺が今からお前に教えるのは、里に居た頃に叩き込まれた技をベースにアレンジしたオリジナルの『技』だ」
「え」
俺は自分の長所を活かす為に基本を伸ばしている。
変な癖を覚えないために、技と言う技を敢えて学んで来なかった。
それを知っている先生からこの言葉が出るのに驚いた。
「ま、技と言っても堅苦しいモノでは無いがな。空中戦での基礎を伸ばしたモノだ」
空中戦での基礎か。
先生がそう言うのなら俺は信じて、学ぶ事にしよう。
今の俺はただ飛ぶスピードで敵を圧倒していただけだ。
自分よりもスピードが上の奴が敵になった場合勝てるビジョンが見えない。
「それじゃ、やるぞ」
その後、夜になるまでひたすらに技を叩き込まれた。
一日で叩き込まれただけなので、完璧に自分のモノにできたとは言えない。
元々ある『技』を『基本』に向かって馴染ませた感じの技だった。
癖を無くした技と例えた方が分かりやすいだろうか。
「俺から教えてやれるのはこのくらいだな」
「里の場所は?」
「裏切り者が出た時点で変えているだろうし、分からんな」
それだけ聞けたら十分だ。
俺は一度月の都へと向かった。
「レイ、どう?」
「完璧よ」
マナを襲って来たメンバーはレイの手によって今は虚ろの目で虚空を見つめている。
一体何をしたのか、何も話さないと息巻いていた前の姿は見る影も無い。
「お前達の里の場所に付いて話せ。その後解放する」
「良いの?」
「ああ。情報さえ聞ければ良いさ」
先生から聞いた内容が今も継続しているのならば、里に戻ったら依頼失敗、里の信用問題として粛清と言う名で処分されるだろう。
後味が悪い、なんてのは今更思わないし感じない。
今はサキュバスとなっており、精神が死への恐怖などを抑えているのかもしれない。
「ま、良いや」
襲撃者は自白剤でも読まされたかのように、情報を吐き出して行く。
里の場所もしっかりと話してくれた。
「どうするの?」
「決まってるさ」
答えなんて分かっているだろうが、質問するレイと目を合わせて答える。
「潰す。どんなに凶悪な組織だろうと、強敵が蔓延る里だろうと、俺の大切を攻撃するなら潰すのみ」
「ふふ。ワタクシの好みに染まって来ているわね、キーリヤ」
いつもとは違うニヤニヤ笑みのレイ。
だけど深く気にする余裕なんて俺にはなかった。
里の場所は移動するらしい、さっさと行かないとな。
里を潰して、依頼して来た奴を引きずり下ろして根本を断ち切る。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
昨日は間に合いませんでした。申し訳ありません
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