第182話 世界からの支援

 「はぁ。はぁ」


 「良く耐えるな」


 意識が半分近く薄らいで来たキリヤに対して余力を残す龍。


 この構図は変わっておらず、龍が常に優勢だった。


 戦闘が始まって約三十分。


 長く感じる戦闘時間だが、第三者から見たらかなり短い戦闘。


 ネットでの議論も未だに冷める事無く、むしろ事象が明確に成ればなるほどにヒートアップしている。


 「魔力はまだある。俺の身体は動く。戦えるんだ」


 「諦めが悪いのは嫌いじゃないが、しつこいのは嫌いだ。そんなんじゃモテねぇぞ。⋯⋯ま、全員漏れなくあの世行きなのは間違いないが」


 「くだらないね。モテ期が来ても嬉しくねぇ。俺はありのままの自分を受け入れてくれる人がいれば、それだけで十分だ」


 再び構え直すキリヤに太陽から一筋の光が伸びる。


 「それはっ!」


 龍が警戒を示すのは仕方ないの事だった。


 それは太陽の魔王からの加護に近いのだから。


 とある場所で祈りを捧げ、それに答えた魔王がキリヤを遥か遠くから援護したのだ。


 「⋯⋯あちこちから魔力の集まりを感じる。そうか。吸血鬼が動いてるんだな」


 世界は最初の侵略、炎の龍の時から対策は確かに考えていた。


 しかし、考えは一つにまとまらずに難航していた事実が存在する。


 だが、そこで地球人の思考を誘導し操る者が加入すれば⋯⋯。


 地球の魔王はキリヤに龍を倒せたがっている。


 本人の成長のためや倒した後の活用方法も丸投げするために。


 きっと魔王が出れば龍を倒す事ができる。そのくらいの力は持っている。


 未来のためにも力は温存したいとも考えているため、限界まで出ては来ないだろう。


 要するに、魔王が現れない現状はまだキリヤは勝てる状態と言う事だ。


 「凄い。身体の奥底から力が湧いて来る」


 それはサナエに誘拐されたアリスが妖狐との戦いで感じていた力だった。


 首を絞められても意識を保つ事ができた力。


 太陽の届く場所ならば援護が可能なかなり強力なバフ。


 恩寵を与えられたキリヤの体力が回復して行く。


 「ありがとうございます。再開だ侵略者」


 「他人の力を借りて戦って、お前は満足か?」


 「いいや。不服だ。だがな、俺一人ではお前に勝てない。人間は手を取り合い協力できる生き物なんだ。重要なのはお前に勝つ事。ならば、助けは借りるさ」


 「良いな。こっちには協調性が欠けた奴らしかいねぇからな」


 「身勝手に英雄にして無理やり戦わせるお前らが協調性を語るか。面白い冗談だな」


 「そうだな」


 龍がギアを上げて加速する。


 再び世界を飛び回る戦闘が始まる。


 キリヤの強化された点は分かりやすく二つ。


 一つはスピード。キリヤの強さの全てと言っても過言ではない力だ。


 二つ目はパワー。サキュバスとしてどうしても非力だった腕力が強化された。


 その力はアイリスにも並ぶだろう。


 「おっと」


 龍さえも予想できない程の大幅強化。力の入れ具合を誤り剣が弾かれる。


 そこをチャンスだと思い飛び込むが、雷に同化して瞬間的に背後に移動される。


 速度では未だに龍の方が上らしい。


 「クソ。結構な力を使わないと倒さないか」


 「⋯⋯やはり手加減する理由があるな?」


 「遊びたかった。それだけだ」


 キリヤは魔眼をフル活用しているが、確率が視える前に敵が行動するため使い物にならない。


 龍の襲撃の予知夢がココ最近の大活躍だろう。


 嘘でも見抜ければどれ程ありだかい事か。


 「太陽。あの光から離れれば支援魔法は消えるか?」


 「どうだろうな」


 キリヤにも詳細は分からない。


 「この世界を壊されたくなければついて来い」


 龍はキリヤを置き去りにして夜のある場所に向かって飛び立つ。


 罠だと分かっていても追いかけない選択は無かった。


 龍が手加減している理由をツキリはレーザーを放ちながら考える。


 直角に曲がったりする自由自在のレーザーも回避されるが。


 どうして手加減を続けるのか。


 倒すならサクッと倒せば良い。


 キリヤは簡単に倒せない相手であり、倒すとなるとそれ相応の力は出さないといけない。


 それを嫌がる理由。


 『まだ帰る予定があって力を温存したい? 或いは地球の魔王の参戦を恐れている?』


 後者の場合だと魔王の強さがどれ程のものか考え直す必要があるだろう。


 ツキリは魔王の力を過小評価していたのかもしれない。


 未来から来たと言うキリヤと今のキリヤ、どちらが強いのかが改めて分からなくなる。


 『あ、もう月が見える』


 日光が無くなった空間に来た瞬間、力が抜けて行くのを感じる。


 太陽の下でなければ恩寵は受けられないと龍は理解した。


 しかし、月明かりは日光に反射されて出てるモノ。


 全開とか行かないが僅かな恩寵は受けられる状況。


 「それじゃ、今度はこっちから行くぜ!」


 龍が動き出そうとした瞬間、地上より豪速球の鉄の杭が飛来した。


 青い電気を纏った杭を瞬時に回避する。


 「なんだ?」


 水を刺す様なマネに苛立ちを表す。


 魔力を圧縮して放つ魔力砲、電磁力を利用した兵器レールガン。


 その二つを組み合わせた、対怪物兵器である。


 「地上からは距離があるし回避できないスピードじゃない」


 キリヤはそれが援護攻撃なのは理解した。


 畳み掛けるなら今と、飛行する。


 とある高台に登った世界ランカーの探索者達は魔法の詠唱をしていた。


 詠唱する事で魔力に意味を持たせ魔法として発動する。


 強力な魔法の時に使ったりする。


 詠唱が終わり射程圏内に龍が捉えられた。発動チャンスである。


 「人類の力喰らいな!」


 龍は自分にのしかかる強烈な重みに眉を寄せる。


 自分の身体に鎖のような模様が浮かび身体を締め付ける。


 「鈍足付与の魔法か。その程度でスピードが落ちると思うなよ!」


 雷雨が街中に降り注ぐ。


 その雷は兵器やランカー達を倒す事ができるだろう。


 しかし、その対策をしてない訳が無い。


 多量の魔石を使って街中に巨大魔法陣を構築し、電撃に対する専用の結界を作っている。


 電撃以外は通すので豪雨や嵐なんかには襲われるが、重要な雷撃は防御できる。


 龍用の特別仕様の結界だ。


 「中々やるな人類」


 自分の範囲魔法を防がれた事に素直に賞賛を送る。


 壊せない強度では無いと分かりつつも、そんな攻撃をする余裕は無い。


 「力を出し惜しみしていると、負けるか?」


 考える暇を与えないかのようにキリヤが加速する。


 地上からの兵器による攻撃、龍に対する速度低下のデバフ。


 そしてもう一つ。


 キリヤへできる限りのバフを与えた。


 「コレは⋯⋯」


 龍が対応を焦る程のスピードで動いたキリヤだったが、攻撃は当てられずに龍の背後に移動する。


 「クソっ」


 『キリヤ何遊んでるの!』


 「遊んでない!」


 過度なバフにより大幅な身体能力の強化が行われた。


 それでようやく倒せるかもしれないと言う可能性が出て来るレベル。


 多大なバフにより制御できる範囲を突破した。


 「だけど⋯⋯」


 キリヤは再び特攻するが自分の動きに思考が追いつかない。


 一歩進もうと思ったら五歩進んでいる。


 翼の動かし方、剣の扱い方。


 強化された身体に合わせる必要がある。


 馴染むのに時間がかかるのが普通。


 「強化された身体に振り回されているな!」


 「そうかな?」


 二回程飛んだ事によりキリヤは⋯⋯慣れた。


 基礎がしっかりしていればどれだけ変化しようが馴染むのは早い。


 基礎を伸ばす訓練を主にしていたキリヤだからこそ、身体が振り回される程のバフに素早く慣れた。


 「舐めてる間に終わらせてやる!」


 「くっ!」


 冷や汗を流す龍。その眼前にキリヤの刃が向かう。


 “サキュ兄頑張れ!”

 “どこだよそこ”

 “日本の近く?”

 “夜と言う時間帯。てか、情報源の場所くらい調べれば出るべ”


 “勝てるか?”

 “サキュ兄がスピードで圧倒した!”

 “行けるぞ行ける!”

 “もう龍の魅了は諦めました。倒して”


 “サキュ兄が時の人となった”

 “つーかまじでなんだよあの龍”

 “チカチカした空もようやく静かになるのかな”

 “未だにゴロゴロ鳴ってる”





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る