第89話 イレギュラー引き寄せ体質()

 ギルドにて、俺はカンザキさんと待ち合わせをしていた。


 既にアリスから防具は受け取っているので、中で着替えれば降りだ。


 「お待たせしました」


 まずは別々の入口から入る事になる。


 入ってから、俺は防具を装備してカンザキさんと合流した。


 「おう来たか。それじゃ、早速行こうか」


 「ああ」


 念の為、行きの受付を担当してくれたヤエガシさんにこの件を伝えてあるので、オークの魔石を持ち帰っても問題ない。


 「強くなった俺の力を姫様に見せる時が来た!」


 喜んでいるアイリス。


 ちなみにトウジョウさんは非戦闘員なので今回は来てない。ただ、特製の回復ポーションを売ってくれた。安値で。


 「仲間なのに金取るんですね」


 「妹の学費やらなんやらで探索者やってるからな。その辺はしっかりしてるさ」


 配信の準備をしつつ三層へと到着し、そこで配信をスタートする。


 敵陣営にカンザキさんとの関係を知られてはまずいとの事で、カンザキさんの名前や姿は控える事にした。


 「サキュ乙。今回は助っ人が来てくれたので、六層に向かいたいと思います!」


 “ついにか”

 “でも危ないんじゃね?”

 “そのための助っ人だろうが⋯⋯助っ人⋯⋯ふむ”

 “魅了は後回しやね。まずは調査や。俺の場合ギルド関係ないけど気になる”


 “他のと同様に成果の無い動画だったら魅了すれば解決だね”

 “サキュ兄は魅了さえあればネタは尽きない”

 “さっさと行きましょうや”

 “アイリスが大きくなってる件に触れたい”


 五層にある下への階段を発見する。


 この先が六層。未知なる領域。


 緊張と同時に興奮する。


 「ようやくだ」


 仲間の武器防具、俺自身の武具。訓練などを終えてようやく六層へと迎える。


 準備は万端。


 どんなイレギュラーが待ち受けていようと、受けて立つ。


 「行くか」


 俺の横をユリが歩き、降りて行く。


 六層に到着して最初の感想はとても簡素だった。


 「気配が無い」


 全くしない。怖いくらいに。


 経過調査報告がネットニュースにあがっていたから知ってはいたが、実際に来るとその違和感は強いな。


 「一層ですらモンスター居る感があるのに⋯⋯」


 ここでは全く、その『モンスター居る感』がしないのだ。


 “まずは進んでみんとね”

 “ゴーゴー”

 “魅了して欲しい”

 “エロが見たいお”


 気配がしない中、三時間の探索を終えた。


 「現状成果は無しか」


 「そうですね。ローズ達の周辺調査でも何も無かったそうです」


 ユリの報告を受けながら、探索から帰って来たローズ達を労う。


 アイリスを中心に力自慢の奴らが戦いたくてうずうずしている。


 アイリスが戻ったらリーダーの席はすぐに戻ってアイリス班ができた。


 「なんの成果も無い状態で帰りたくは無いな」


 “魅了すれば動画のネタにはなるよ”

 “そろそろウルフ魅了に入るか?”

 “数もだいぶ揃ったからね。もっと増やそう”

 “魅了! 魅了!”


 “エロロロ!”

 “まじでもぬけの殻か。そろそろ違うギルド付近に入りそうだな”

 “そこまで移動してないと思うぞ”

 “どうする?”


 さて、予想していたがこれ程までとは思わなかったな。


 しかも本当に気配を感じない。


 気配を感じない場所と言えばどこだろうか。


 刹那、俺の背後に影が伸びる。


 壁を破壊して振り下ろされる棍棒を即座に抜いた剣で防御する。


 「ダンジョンの壁は魔力が沢山流れているから、気配が掴み難いんだ。まさかそっちから出て来るとはね」


 ありがたい限りだ。


 俺は自分を攻撃したオークを睨みつける。


 六層の主な魔物はオークだ。


 「想像以上に力が、強いな」


 一撃防いだだけで腕がピリピリする。


 クウジョウさんの技を模倣した時に感じたピリピリ感だな。


 俺が防いだのを理解したユリ、アイリスが即座に武器を構えて動く。


 “巫女ユリちゃん相変わらず美しい!”

 “まじで魅了に参加させないとな”


 「はっ!」


 「らっ!」


 ユリとアイリスの斬撃がオークの背中を深く抉る。


 悲鳴を上げて俺達に背を向けて逃げ出す。


 「ダンジョンの壁の中を移動して来た⋯⋯考えたくないな」


 それだとどれだけ探しても見つからないだろう。


 壁を破壊しないと見つからないし、気配もダンジョンの壁は魔力が豊富で探りづらい。


 常に魔法で気配などを隠している状態と一緒なんだ。


 「ほんと、わざわざ自ら姿を表してくれるとはありがたいね」


 手が完璧に良くなったので、俺が動いた。


 「何驚いてんだ?」


 オークが微かに俺の方に目を向けて、目を見開いた。


 驚愕と恐怖からか、走るスピードに力が入った気がする。


 だけど、オークの逃げるスピードよりも俺の斬る速度の方が速い。


 綺麗な切断面を用意して、片腕を落とした。


 それでも倒れる事無く、逃げ出す。


 「追いかけますか?」


 「いや、良い。撒けたと思わせて泳がせる」


 「主人の意のままに」


 「⋯⋯ちょっとした疑問なんだけどさ。ローズってそう言うに憧れているの?」


 何も言わずに影に沈んで行った。


 オニキスが近くにいるのか、それともローズが影移動を覚えたのか、分からないくらいに最近スムーズにローズは影の中を移動している。


 あのオークの体にライムの僅かな細胞を針にして埋め込んだ。


 どこに逃げてもこれで位置が掴める。


 「これで魔眼も上手く働くかな」


 カンザキにダンジョンの移動中に言われた言葉を思い出す。


 『今回、魔眼は常に使っておけよ。追いかけるに有益だ』


 確かにその通りだと納得する。


 アリスの時もマナの時も、最終的にはこの魔眼が指し示した場所にいたから。


 「さて⋯⋯これはどうしたものかな」


 “なんで壁の中から!?”

 “ダンジョンって壊れても自動で再生するよね?”

 “まじで分からない”

 “つーかなぜ最初にサキュ兄を狙ったんだ?”


 “壁際ならホブゴブリンとかもいたしな”

 “サキュ兄はイレギュラーを引き寄せる体質なのかよ”

 “オーク来たああああ!”

 “映像に残しているとか最高のタイミングだね”


 “ギルド職員で今日休みだけど、書類としてまとめるね”

 “ナイス”

 “有能なやつおるんやがww”

 “てか、サキュ兄リアル明かしてないし自分の手柄ちゃんと言うのかな?”


 カンザキさんがライムの電話機能を利用して話して来る。


 これならカメラに声が拾われる心配は無いか。


 『魔眼で見たんだろ?』


 「ああ。見たよ」


 俺は魔眼で見た内容を視聴者にも伝わるように言う。


『オークジェネラル100%』『オークカイザー100%』『ハイオーク100%』とそれぞれ矢印が伸びている。


 “は?”

 “オークジェネラルって17層の魔物だよな?”

 “おかしいおかしい”

 “しかもハイオークなんか。ノーマルなオークは?”


 “だいたいカイザーってジェネラルの上だし。色々とやべーだろ”

 “これがマジなら異変の正体が掴めそうだな”

 “戻る?”

 “正直進むの危険だと思う”


 “進め!”

 “いっそ魅了して全て話してもらおうぜ”

 “サキュ兄なら行くと思う”

 “憧れは止められないよなぁ!”


 ハイオークはこの階層のレアモンスターでオークの上位種。


 その上にジェネラル、カイザーと続く訳だが⋯⋯。


 「この上層に居て良い奴らじゃない。オークが進化したにしても、どれだけの運が絡む事か」


 探索者に襲われないのは前提として、強くなるため進化するための条件とか。


 危険だろうけど、理由を知りたい。見てみたい。


 『落ち着け。笑ってるぞ』


 あ、しまった。


 アイリスが生きていると知ったあの日から少しだけ俺の表情筋が柔らかい気がする。


 『ただ行くのは賛成だ』


 なんで、とライムに送ってもらう。


 俺が喋るのは得策じゃないと思ったから。


 “立ち尽くしてる”

 “どうすんの?”

 “え、大丈夫か?”

 “むむむ?”


 “エロ期待”

 “魅了の方法を考えたりします?”

 “この流れはまさか⋯⋯”

 “期待するだけ損かもしれない”


 『お前を不意打ちで狙った理由、今まで誰にも姿を見せなかったにも関わらず』


 俺の仲間ではなく俺を的確狙った理由⋯⋯それも姿をずっと隠していたにも関わらず。


 その理由は⋯⋯。


 『魔王関連が関わっていると考えるのが妥当だろうな』


 もしかしたらオオクニヌシの組織が関わっている可能性もあるのか。


 動画にして大丈夫か?


 『動画にして証拠見つけて、世の中に晒してやろうぜ』


 笑いながらそう言う。


 晒されないためにカメラを壊した相手だ。影響力は考えているんだろうな?


 「とりあえず方針は決まった」


 もしも上位種達がオークからの進化なら、本来のジェネラル達よりも力は劣る。


 進化種は生まれつきに劣るんだ。


 これまで経験でそれが分かる。


 「その進化によって劣っている部分、素の身体能力をどう埋めているかだな」


 訓練によって伸ばせる部分は無限にある。


 ワクワクするが、その分気を引き締める。


 あの一撃を受けた感じ、俺の仲間達でも勝てる部類だ。


 「このままアイツを追いかける。皆、準備は良いか」


 「主様が行くのであれば、私は常に追いかけます」


 「よーやく力を見せられるぜ」


 「主人の意のままに」


 「ワオオオオオオ!」


 「不肖ジャクズレ、微力ながら全力を出させていただきます」


 この感じだと、コボルトのリーダーも喋ってくれた方が締りが良いな。⋯⋯でも複雑な所。





◆あとがき◆

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