第90話 進軍せよ!オーク共!
最初は生きていてもただ呆然と過ごす日々だった。
だが、人間と戦い生き残る度に生きたいと言う欲望は増した。
同族の魔石を喰らい、力を得られると知った。止まらなくなった。
同族を殺し強くなり、人間を殺し食べ、下の階層に行った。
嫌悪感に苛まれながらも行動を続け、殺し、喰らい、強くなった。
仲間を集めて安全圏を作る事を決意した。
己の魂に眠る才能を開花させ、力を蓄えた。
「時は満ちた。魔王の因子を手にして我は魔王となる」
どのようにしてこのような知識を得たのか分からない。でも関係ない。
生きるための力、全てを蹂躙し無に還すための力。
それを手に入れるまであと一歩なのだ。
「全軍を持って、力を喰らう」
そのオークが目指す先には何があるのか、それは本人にしか分からない。
気高い炎は燃え盛る事はできるのか、それとも燃え尽きるのか。
それは神ですら知る事のできない話だ。
◆
「あ〜複雑!」
どうやって移動してんだよってくらいに道が分からなくなって来る。
“魔法で道を変えたりしてる?”
“なんかもう地図と照らしても場所が分からん”
“助けに行っても迷子になりそう”
“頑張れ。それしか言えん”
グダグダと行動していると、ようやく隠し扉を発見した。
『俺が破壊してやろうか?』
「いや。鬱憤が溜まってるからここは爽快に魔法で吹き飛ばそうと思う」
練習してもまだ完璧に扱えない魔法だがな⋯⋯大型トラックが軽々通れるくらいのサイズがある扉なら問題ないよなぁ!
「吹きと⋯⋯」
魔法でぶっ壊そうとしたら、敵軍がやって来る。
地震かと勘違いする程の揺れを起こしながら。
「はは。これはレアモンスター祭りかな」
ハイオークの軍団が現れた。クソウゼェ。
数はざっと五十くらいか。
「全部ぶった斬る」
二刀流になろうとしたところで、ジャクズレが杖で俺の道を塞ぐ。
「ここは我々ゾンビとアララト率いるコボルト達でお相手しましょう」
「⋯⋯大丈夫か? ユリ達が居ないけど」
「問題ございません。主君の言葉的に敵の雑魚は彼ら、ならば最底辺の我々がお相手するのが道理でしょう」
「そんな事⋯⋯」
「行ってください。必ず、勝ちます」
俺はジャクズレの目なき目を見て、信用する事にした。
コボルトとゾンビを置いて、扉を真っ二つに切断して先に進む。
◆
「アララト殿、行けますな?」
こくりと頷いた。
「ならば参ろう。主君の道を阻む最初の障害は我々が破壊するのです!」
その合図と共に、コボルトとゾンビ達が一斉にハイオークへと向かって行く。
タイマンではぶっちゃけ勝てない。しかし、チーム連携を高めた彼らなら勝つための戦略を打つ。
「行きますよチノイケ」
「言われんでも」
ゾンビにはもう一人喋れて魔法の使える奴がいた。
だがそれを知っているのはジャクズレだけだ。
「【
チノイケはバフを得意とする。
ゾンビやコボルト達に魔法をかけて、遅いゾンビのスピードをカバー。
ゾンビは自慢の耐久力を活かしたファイターが基本であり、ペアスライムの武器によって火力を上げている。
コボルトは武器を人間製で得意な物を貰っており、防具はペアスライムである。
統一感を意識しているモノだが、軽いために愛用されている。
「それではジャクズレ、参りますぞ。【
ジャクズレの足元からゾンビが現れる。
これらは魔石を利用して召喚して、保管する事ができる。
討伐班の時にちまちま貯蔵しているゾンビであり、魅了されたゾンビよりかは性能が数段落ちる。
あくまで数を増やすための力。
今のジャクズレは本人すら気づいてないが、ゾンビではない。チノイケは魔法を使うゾンビでゾンビメイジだがそれでもない。
彼は『
不死の軍団がオークに迫る。
「チノイケ、合わせなさい。【
「魔法単体で見たらお前さんにも負けんぞ【
攻撃魔法での援護も怠らない。
仲間の魅了されたゾンビがハイオークによって殺される。
魅了されたゾンビと召喚されたゾンビの大きな違いは体内の魔石、
ジャクズレの配下であり、魔石がある場合どうなるか。
彼らはゾンビ、不死なる軍団。
再生するための核があるのならば、そこを中心に再生する。
既に死んでいる状態だ。その後から死のうともそれは死に定義されない。
ジャクズレの魔力を使って復活する。
「ふははは! これぞジャクズレの軍勢! 主君にも見せてあげたい光景ですな!」
「【炎弾】【氷弾】【
四色の魔法によって作られた球体がオーク達に飛来する。
着実に攻撃を受けているハイオークに一体、死亡者が現れる。
死体が死霊術師の前にある。
死霊術師の前に骸があるのならばやる事は一つ。
「目覚めよ。そして戦え【
死体のハイオークの眼光が赤く光り、立ち上がりかつての仲間を攻撃する。
魔石が無いので復活しないが、即席の兵力になる。
コボルトのリーダー、アララト達コボルトは劣等感を覚えていた。
アララトは一番最初に仲間になったコボルトで鼻先をユリに折られている。
それは良い、ただ後輩であるジャクズレに強さで負けている事に憤りを覚えていた。
ジャクズレにではなく、己に。
兵士であるゾンビ達は既にソルジャーとして進化している。自覚は無いが。
だと言うのにコボルトの自分達は進化していない。
その事が気がかかりでアララトの頭は戦いが九割、悩みが一割の状態だった。
相手は自分よりも少し強い程度、だけど数が多い。
アララトは僅かな煩悩により深手を負う。仲間に心配されるが、咆哮して問題ない事を証明する。
どれだけ攻撃しても簡単には倒れない。だと言うのに数が多い。
徐々に削れる体力。
(あの人狼の様な強さがあれば)
自分の正統進化である人狼を思い出す。
進化さえすればこんな奴ら、簡単に倒せる。そうアララトは勘違いする。
力が欲しいのに進化できない。自分には何が足りないのか。
仲間の一人が美しく煌めいた鮮血を出しながら宙を舞う。
地面に倒れ、数体のハイオークにリンチにされかかる。
「がうっ!」
アララトはその間に入り、防御する。
仲間を失わせるのは主のために、自分のプライドのためにも許せない。
目の前の豚を倒したい。蹴散らしたい。蹂躙したい。
力を求めたアララトの前に居るのは鎌を振り上げる死神。
その死神から逃げるための力を欲する。
(人狼⋯⋯違う)
そこで気づいた。勘違いに。
鬼人キッズはリーダー格である。そして異例な進化をした。
その身長は小さいままだった。それはまだ成長途中を意味している。
コボルトもそうだろう。人狼になるための成長途中。
すぐにも大人になりたいと思う。だけどそうでは無い。
大人にならず、賢く強くなる。
大人になるための一つの前のプロセス。
アララトの大きな勘違い、それは『自分よりも人狼が強い』と思っている事である。
今のアララトは子供のコボルトでありながら大人の人狼よりも強い。
ならば目指す強さは一体なんだ。
簡単だ。人狼の上だ。
自分の正統進化よりも強い、その先にある強さ。
今のアララトに必要な力とは正しくソレなのだ。
「ぬおおおおおお!」
気づいた瞬間、本当に欲する力を発見したこの時、ようやくアララトの魂は鼓動する。
夜のように静かな漆黒にアララトが包まれ、連鎖するようにコボルト達が包まれる。
アララト、種族コボルト。進化先、月の魔王の加護を受け、魔王後継者の配下として、新たな種族へと進化する。
それは夜明けを意味する。
魔法で作られた月のように薄い紅色の体毛に染まったコボルト達。
その新たな種族の名は『アルバコボルト』。
配下のコボルトは夜を意味する『ノッテコボルト』である。
純粋な身体能力ならば人狼を超え、鍛えた技術を持ったコボルト達。
魔法での援護ができるゾンビの二人。
無限に復活する屍。
数だけ居る核の無い、そして骸が増えれば増加するゾンビ達。
進化したコボルトとゾンビ軍、ハイオーク軍の戦争はキリヤ達の知らざるこの空間で激化する。
「ワシらの魂、見せつけてやれえええええ!」
「主君よ、我らの勝利を献上致しましょう!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます