第91話 気合いがあればなんとかなる

 運命の魔眼を利用して移動し、ライムの力を使ってオークを追いかけた。


 「今も壁の中を移動中なのか?」


 計画性も無くただ堀抜いたであろう穴。もしかしたら本来のダンジョン通路も含まれているかもしれない。


 モンスターの手で変えられたせいで、ダンジョンの構造が変化しているので良く分からない。


 ここが本来、ダンジョンの通路なのか壁の中なのかが。


 「こりゃあ、大軍だな」


 ようやく本陣に到着した。


 百は超えるだろうハイオークの数では前に進めない。


 この数を倒す事はできるのだろうか?


 「オークジェネラルが三体か」


 ハイオークの大軍の中に紛れた三体はオークジェネラルだった。


 『奥に行け、大将は譲ってやる』


 ⋯⋯信用できん。


 仲間をどさくさに紛れて攻撃する可能性は⋯⋯冷静に考えろ俺。


 アイリスを殺さずに強くしてくれた、その事実だけを受け入れろ。


 いつでも倒せるだろうが、強くしてみせた。


 家族から向けられた視線を思い出す。家族から信頼されている彼が悪い人なのか。


 「ホブゴブリン、ウルフ達、その人の指示に従って。ユリ、ローズ、アイリス、突っ切るぞ!」


 「はい!」


 「御意」


 「任せろ!」


 血のクナイが目の前のハイオークに突き刺さる。


 それが開戦の合図となり、俺達は正面を突っ切る。


 目の前に障害物となるオークが入り込んで来るので、剣を抜いた。


 「悪いが、今の俺相手にお前らは力不足だ」


 数体切り捨てると、ユリ達も倒してくれる。


 オークジェネラル三体が俺達の行く手を阻む。


 「姫様姉御、先行ってくれ!」


 「ここは自分らがやります!」


 ワイヤーが伸びて一体のオークジェネラルを拘束する。


 この二人ペアなら問題ないだろう。


 ホブゴブリン達だってカンザキさんがいれば存分に戦えるだろう。


 後ろ髪を引く問題は無い。


 「ユリ、飛ぶぞ」


 「はい!」


 俺はユリを抱っこしてオークの上を高速で飛んだ。


 「こんな状況なのに幸福感を感じております!」


 「そうかい!」


 奥の通路に侵入する。


 後ろから一体のオークジェネラルが追いかけて来る。


 このまま逃げる事もできるが、奥に居るであろうボスと同時に相手できるかどうか。


 正直、ボスの戦闘力は未知数な所が多い。


 「主様、ここは私が戦います」


 「大丈⋯⋯お前なら勝てる、やれるぞ」


 「ありがとう、ございます」


 ニコリと笑うユリを俺が心配する事では無い。


 認められた喜びから戦いへの顔に変えて、おもむろに刀を抜いた。


 「主様、ボスの首を掲げてください」


 「ああ!」


 俺はユリを背に飛来した。


 ◆


 「くっそ一体逃げられた!」


 「ユリ様がいる、ここに集中しろ!」


 早々にバラバラとなり連携は難しい状態となった。


 斧を持ったオークジェネラルと斧を持った鬼人。


 互いに二段階進化した個体であるが、力の天秤はアイリスへと傾く。


 順当に進化したオークに対して、イレギュラーな進化をしたアイリス。


 素の力はアイリスの方が上である。


 知能、技術の面で見よう。


 「シネエエエエ!」


 カタコトだが人の言葉を話す事ができるオークは知能が高いと言えよう。


 だがアイリスはペラペラ喋る事が可能だ。


 ならばアイリスの方が知能は高いのか? そうとは言い難い。


 「おらあああああ!」


 気迫と共に振り下ろした戦斧は見事に防がれ、反撃の豚足キックが飛ぶ。


 グルンっと回転し回避したが、流れるコンボで攻撃は止まらなかった。


 バックステップで回避すれば、狙ったかのようにオークは投石する。


 相手の行動を誘導し搦め手も考えるオーク。


 考える力、と言う点で考えるならばオークの方が上だろう。


 では技術はどうだろうか。


 自分の主の先生である師匠にある程度の基礎と技は教えてもらった。


 そこでできた結論が『気合いがあればなんとかなる』と言う訓練放棄による根性論。


 だが、アイリスにはピッタリ合っているし実際それでも通用する。


 ただ暴れるだけではなく、しっかりと基礎は覚えているので完全な脳筋とも言い難い。


 何よりも、自分の死を覚悟させた相手との訓練により進化したのだ。


 それだけの経験と強さは持っている事になる。


 閑話休題、師匠もおらず、自分の技を独学でしか高める事のできないオーク。


 先人達の手で積み重ねられた技を教えてもらったアイリスに並ぶはずも無い。


 技術はアイリスの方が上だと言えよう。


 「うらああああ!」


 オークの様々な攻撃手段により翻弄され、額から血を流す。


 そこでアイリスは突破口を見つけた。


 「クラエ!」


 「投石などきかん!」


 腕を前に出して防ぐ。


 そう、アイリスは防御をしながら突進すると言う突破口を見つけたのだ。


 そんなの当たり前だと思う人がいるのならばその人も脳筋と言える。


 盾も持たず、ただ腕を前に出して進んでいるだけなのだ。それは身体に攻撃を受けているのと同義だ。


 武器でガードすれば良いし、回避だって視野に入れるのが普通だ。


 防御するにしたって次の行動を考えるモノだろう。


 アイリスは違う。


 とりあえず攻撃圏内に敵を入れ、斧を振り下ろす。ほんとそれだけ。


 今まで何を学んで来たのか、問い詰めたく成程に単純な動き。


 「グヌッ」


 「そらっ!」


 込められた力がその単純な動きを最大限の強力な攻撃へと変えている。


 防御したオークだが、力任せに弾かれる。


 「フッ!」


 ここでアイリスは力任せの動きを止めた。


 ここからがアイリスの全力である。


 弾いた事により僅かにできた隙間を一足で埋め、そのスピードを力に変えて斧を振り上げる。


 角度と手の位置などもしっかり計算され、身に覚えさせた技である。


 「『狂化』『鬼化』」


 アイリスの角が禍々しい黒色に変化し、筆で描いた様な紋様が身体に浮かび上がる。


 血管が隆起して浮かび上がり、筋肉も一段階盛られる。


 理性が一瞬で吹き飛びそうになる程の激しい破壊衝動が心の奥底から這い上がる。


 (ローズ)


 ソウヤとの訓練で一番最初にしたのは、この強化系能力の制御である。


 能力名を呟く事で脳に自覚させ、奥底に眠る力を目覚めさせる。


 さらに、理性が飛びそうな瞬間に大切な存在を思い浮かべる事で保つ。本能を抑えるのだ。


 (姫様、姉御、皆)


 制御できた力はアイリスの純粋なスペックを大きく上げる。


 他の能力やアイテムで抑えている訳では無い。


 己の狂気を己の想いで止める。


 これこそ、師匠に言われた『気合い』である。


 「はああああああ!」


 全身全霊の一撃、所詮オークからの順当進化である豚程度では防ぐ事はできない。


 「マケルカ!」


 当然オークはその攻撃を防ごうと斧を間に挟む。


 避けるにはスピードが足りないから、防御以外に道は無い。


 アイリスの斧の先がオークの武器に触れる。


 武器を粉砕し、次に身を粉砕する。


 まるで包丁で豚肉を切るように、あっさりとオークの身体を切断した。


 「解除⋯⋯」


 僅か三秒、あと二秒使っていたら理性が飛んでいただろうと、アイリスが己の未熟さに唇を噛み締めた。


 しかし、アイリスは血を流しながらも致命傷は受けていない。


 もしも昔のままならばこの場で勝ったとしても生きているのも怪しいレベルの重症を負っていただろう。


 「しっかし⋯⋯これは不思議だな」


 アイリスは金になる魔石の部分を攻撃しないように避けた。


 だけど、魔石は無かった。


 「魔石の無いモンスター⋯⋯そんなの抜け殻と一緒じゃないのか」


 アイリスは座り込み、ローズ、そして仲間達を見守った。


 「三体で一体づつ殺れ。隙は俺が埋める」


 血を使って連携の隙を狙ったオークを攻撃しつつ、自分もオークを倒す。


 ソウヤの器用な戦いにアイリスは天井を見上げる。


 「人間って強いな」


 師匠、主、ソウヤと戦える人間は皆強い。


 劣等感は覚えない。ただ、目指したい強さの目標が見えただけだ。





◆あとがき◆

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