第11話 新たに尊さを求められた
「もうヤダ」
現在は日曜日の午後一時くらいだと思う。
俺は複数のゴブリンに慰められながら、現状を整理する。
あれからも必死に己の心と視聴者達と戦いながらゴブリンの仲間を集めた。
結果、合計二十体の仲間ができた。
未だにはぐれ者のゴブリンは俺達から一線を引いているのか、一緒に戦う様子は見えない。
「それではみんな、三層に行こうと思う!」
ゴブリン達ともだいぶ意思疎通はできるようになった。
相手の言葉は分からないが、何を考えているのかはなんとなくだが、分かる。
そうだな。例えば目の前のゴブリンは最初に魅了したゴブリンだ。
そいつは何を考えているのか。俺には手に取るように分かる。
「俺の胸をガン見するな」
軽くこつく。
その一言だけで全てを察せるだろう。
ただ意思疎通ができるようになって不可解な点にも気づいた。
ゴブリンの中にメスが数体存在する。
メスのゴブリンが俺に魅力を感じた事に他ならないのだが、視聴者には言ってない。
外見的な変化は無いし違いなんてのは俺とゴブリンにしか分からない。
魅了したゴブリンなら分かるが、してないゴブリンは敵であり性別も分からん。
同性も魅了してしまう俺の身体。
「うっぷ」
おっと吐き気が。
だが俺も成長してない訳じゃない。
ふくらはぎまでなら常に露出させても問題ないくらいには成長した。
実際は動きにくいからしかたなくやっている、とかそんな実用的な理由じゃないぞ?
ちゃんと魅了の効果を発揮させるためにやっているのだ。
ま、ゴブリン達の変態おっさんの目をずっと向けられてたら嫌でも慣れるわな。
「そんじゃ、出発!」
ゴブリンは自分達でチーム分けをして、俺を中心に護るようにしている。
階段を降りて三層に到着する。
三層からはウルフと言うモンスターが新たに追加される。四足歩行のオオカミだ。
注意するべきは牙くらいだろう。後は四速歩行ならではの戦いをするはずだ。
「おっと。早速お出ましだな」
一体のウルフが走って迫って来る。数体のゴブリンが前に出る。
少し震えているな。怖いけど俺を守ろうとしているのだろう。
特に指示した訳じゃないけど、命を張って守ろうとする。これが魅了の力か。
何となく良心が傷つく。だけどちょっぴり嬉しい。
「落ち着いて。俺の言葉に指示に耳を澄ませて。大丈夫だよ。勝てる相手だ」
俺の言葉がゴブリンに勇気を与えたのか、震えが無くなった。
“最初の動機はともかく、良い仲間だな”
“それでもゴブリンの区別はできん”
“てか、ゴブリンにサービスしてやらんのかよ”
“結局まだ心は男か”
“心までサキュバスになったらおらは切る”
“確かにな。そもそも猿じゃないからサキュバスが配信者にいる訳だし”
“淫魔系で配信者ってサキュ兄しかアカウント保ってないって、不思議だなぁ”
“そこはもう○Vだからな”
“ヤッた方が強くなれるのがサキュバスだけど”
“なんとも不運なガチャだ”
“だけどサキュ兄だから観ている”
“ウルフに魅了は通じるのか、どうでも良いからそろそろ恥じらいを見せてくれ”
コメントで色々と言われてそうな気がするけど、気にしないでウルフの動きに集中する。
真っ直ぐ迫って来る。タイミングを見て。
「今だ。本気で踏ん張って剣を突き立てろ!」
いきなり突き立てられた刃にウルフは自ら突進する。
軽く突き刺さるだけで終わってしまったが、勢いは殺した。
ハンドシグナルで指示し、後ろのゴブリン達がウルフの背後を囲んだ。俺はスライムを置いて、飛ぶ。
ウルフは囲まれた事で困惑し、迷っている。
「そらっ!」
天井を蹴って、木の剣を頭に突き刺した。
刺さる事は無いが、その打撃でだいぶ脳を揺らした。怯んだ隙に迫るゴブリン。
無理して刃を振るわずに突き刺すイメージで集中して行く。
ギリギリまでウルフが反抗しようとする。
「掲げろ!」
突き刺した状態で上に上げ、皆で支える。そしたらウルフはいずれ力尽きる。
これで討伐完了だ。
個で見たらゴブリンはウルフに遠く及ばない。しかし、群れをなせばゴブリンでもウルフを狩れるのだ。
「スライム、中の肉だけ食べられるか?」
できるみたいだ。
ウルフは爪と牙、魔石が売り物として使える。なので魔石は摂取して他は売る。
「な? 言った通り勝てたろ?」
俺がピースサインをすると、ゴブリンがはしゃいだ。
「いえい」
“尊い”
“サキュバスにエロを求めたい、サキュ兄にはこの尊さも求めたい”
“上のコメントに賛成”
“尊い言う奴らがいるが、魅了に入ったら全員エロを求めるよな。団結力よ”
“上のコメに次ぐ、当たり前だろ!!”
“サキュ兄はエロの後の後悔と恥じらいまでがセットだ”
“もしもサキュ兄が鋼のメンタルを手に入れたら面白さが下がる。適度だぞ!”
“押忍!”
素材もゴブリン達に運んでもらう。俺は後ろに隠れているはぐれ者のゴブリンに振り返る。
グッジョブサインを送る。意味は通じるかな?
「一人で勝てないなら皆で戦えば良いんだ。それが君らの強みだ。君らは負けない。俺が保証する」
ちなみにその後、俺一人でウルフと戦ってみた。
木の剣だから中々に大変だった。
まず、噛まれないのは大前提だ。躱すのは簡単だった。
爪は裂かれて終わり、噛まれたら骨が砕けても終わらない。
難しいのは間合いだ。四速歩行の獣と戦った事は無いので、間合い管理が難しかった。
しかし、それも数回やれば慣れるだろう。
“結局まだサキュ兄が一番強い”
“女王であり軍師であり師匠だからな”
“しゃーない”
“ゴブリンの下克上レ○プはあるだろうか?”
“なんとなくだがゴブリン笑ってるぞ”
“時々ゴブリンって視聴者の表情してくれるよな”
“今は戦って喜んでいるサキュ兄を見て嬉しく思う笑顔”
“魅了の際のゲス顔はおら達よな”
コメントを見ていると、ゴブリン達が視聴者に受け入れられている事が分かった。嬉しいね。
魅了とは一種の洗脳だ。
洗脳して操り、戦わせる。そこに罪悪感が生まれる。
でもサキュバスの戦い方はコレなんだ。まだ完璧に活かしているとは言えないけど。
その罪悪感があるからだろう。コイツらは死なせたくない。
目の前で騒ぐゴブリン達は楽しそうだ。ちなみに俺も会話の内容は少し分かるぞ。
「お前ら俺の下着の色の会話は楽しいか?」
少し怒気を込めて言うと収まった。
“ゴブリンと意思疎通ができているな”
“絆のなせる技だろ”
“ちなみに俺は黒だな”
“いや、ここは純粋な白かもしれん”
“いやいや。履いてないだろ”
“んー際どいところ”
“真剣に悩むなw”
“青”
「さて、次行くぞ」
ゴブリン達は再び陣形を作って、移動を再開した。
スライムを抱っこすると、ゴブリン達が羨ましそうな目でスライムを見る。スライムは移動速度が遅いので許してくれ。
後、ぷにぷにで触り心地抜群、癒されるのだ。
「おっと。さっそくお出ましだな」
ウルフが正面から来るのを発見したので、俺達は臨戦態勢に入る。
しかし、すぐにそれを止める事となる。
「数が、多いな」
合計十体。単純計算しても一体のウルフにゴブリン二体。
ダメだ総戦力で負けてる。一般常識はゴブリン三体でウルフ一体の強さだ。それは魅了したゴブリンも変わらない。
安全策を取って逃げる。逃げるのは決して負けるのと同義じゃない。
戦略の一つだ。
「皆戦闘準備解除。一旦引くぞ!」
だがゴブリン達は剣を下ろさない。どうしてだ?
最初に仲間にしたゴブリンがチラリと俺に振り返る、その顔は自信に溢れていた。
右手に作るのは⋯⋯ピースサイン。
「ダメだ。命令だ! 逃げるぞ!」
しかし、俺の言葉を通じる事無く、先頭のゴブリンはウルフに先行し、後ろのゴブリンも俺の盾になろうとする。
「ダメだ。止めろ!」
ゴブリンには分かってなかった。力の差を。
俺が与えてしまった。無駄な自信を。
それを今、身を持って知る事となる。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます!
★、♥とても励みになっています。
また明日足を運んでくれる事を切に願ってます。
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