第10話 視聴者の望みを叶えての配信者だよなぁ(泣)

 今は休憩中だ。主に精神的な。


 「それで視聴者さん。俺思ったんです。こう言う熱い路線で行こうと思います!」


 “却下”

 “拒否”

 “意味がわからない”

 “そんな事しても需要は無いぞ”


 “エロが足りん”

 “そんなんで魅了できるなら苦労しないだろ”

 “ほら見ろあの壁際を、今もずっと遠目で見ているだけだぞ”

 “これは魅了しているのか?”


 満場一致で俺の戦いで芽生える絆路線が却下された。


 どうして視聴者コイツらは俺にそこまで戦いではなく、エロを求めるのだろうか。


 「そこまで俺を辱めたいのか⋯⋯」


 “むしろそれを狙ってる”

 “最後の恥じらいの表情までがセットだからな”

 “そこは勘違いしちゃあかんぞ?”

 “それよか次行こ次”


 ただ俺も金が欲しいので、十体くらいのゴブリンを倒した。


 上の階層のモンスターも出現して、時々スライムも発見した。


 スライムはテイムしたスライムが食べて、魔石が残ってくれる。


 スライムは率先して同族を食べる。チュルッペロッって感じに。


 「魔石を食べたら魔族の種族は強くなれる⋯⋯その代わり稼げないんだよなぁ」


 バリボりとゴブリンの魔石を一つだけ食べる。


 売る用と使用用とでしっかりと分ける。


 「さて、売る用は集めたし、そろそろ魅了作業に移りますか」


 “ようやくか”

 “本当に強いな。三匹の群れを木の剣で倒すのか。しかも一人で”

 “しっかり同族殺しもやらせる外道も最高です”


 同族殺しの外道と呼ばれると実はかなり傷付く。


 なんか自分が本当に酷い事をしている気分になるのだ。


 とりまゴブリン一体を発見したので、魅了したいと思う。


 軽く肌を見せて甘い言葉をかけるだけだ。


 文章に直せば凄く簡単なのに、そこに感情などが関わってくると途端に激ムズになる。


 「クソ難易度!」


 壁に頭を打ち付ける。実はかなりの全力である。


 “さぁ、作戦会議だ”


 「今回は俺が自分でやる!」


 俺は胸元のボタンを外して、ガパッと開く。谷間が良く見える。


 スライムを頭に乗せて、仲間のゴブリンを後ろからハグしながら向かう。ちなみに胸をゴブリンの頭に乗せている。


 「仲間になったら、サービスあるよ?」


 頭に乗せた事で強調される胸にゴブリンの目が集中し、俺の言葉で魅了は成功した。


 ドヤ。


 「オロロロロロロロロ」


 “一人でやったから余計にダメージが大きいようだ”

 “そりゃあ俺たちとやれば言い訳できるからな”

 “全く、選択を誤ったな”

 “何回地面に頭を打ち付けるんだよ”


 何回か脳にダメージを与えた事によりなんとか収まった恥ずかしさ。


 胸元のボタンを閉めて、深呼吸して先に進もうとする。


 そろそろ三層に向かうための階段を見ておきたい。帰る時間も近いので、見たら帰るかな。


 ちなみにはぐれ者のゴブリン、仲間と別々になったところを仲間にしたのでそう呼んでいる。ソイツは後ろで俺の動きを真似している。


 さっきまでは剣の動きを真似していたが、今はさっきの魅了用のポーズを真似している。やめてくれ。


 俺の行動が全てに意味を持ってアイツに伝わり、模倣して練習しているのだろう。


 だが、魅了のポーズに意味は無いし、本当に止めて欲しい。


 三層の階段を発見した。ちなみに途中でもう一体のゴブリンを視聴者の協力で一緒にテイムした。


 おかげで心が折れそうな俺は、三体のゴブリンに抱えられて出口に向かっている。


 後ろから追って来るはぐれ者のゴブリンは多分魅了成功している。薄らとだけどね。


 だから問題ない。


 出口を通る。


 「はぁ。なんて言うか、この配信を続けて行くと心が砕けそうだな」


 そんな事を漏らして、千円の成果を手に入れて俺は帰る。モンスターカードは五枚だ。


 ギルドの外に出ると、アリスを発見した。


 「アリス〜」


 「ん? キリヤか。帰りかぁ?」


 「まぁもう時間だしな」


 アリスは食材を詰め込んだ袋を持っているので、買い物帰りなのだろう。


 アリスと一緒に家に向かう。


 「今日も両親帰り遅いんだよね。だからまたお邪魔するね」


 「皆、邪魔なんて思ってないけどな」


 「今日は私がカレー作るぞ」


 俺が心配そうな目を向けると、笑顔で肩を外された。冗談なのに。


 相変わらずの上手い関節技に感服しながら、俺は肩をはめて荷物を持つ。


 「それで探索は順調?」


 俺はさっきのを思い出す。


 魅了する度に精神的回復の時間を取るので仲間の増えはかなり穏やかだ。


 ゴブリン四体とスライム、はぐれ者もしっかり仲間だ。


 んで、成果は千円だ。チャンネル登録者数は3万人⋯⋯3万!


 思っていた以上に登録者数が多くてびっくりだな。


 「⋯⋯まぁ、順調だな」


 登録者数は口にしなかった。許せ。


 「だよね。私は君がどれだけバカで努力してたのか知ってるから、失敗するとは思ってないよ。努力は裏切らないからね」


 それは既婚者の先生が俺達に言ってくれた言葉じゃん。


 まるで自分が良い事言っている風にしやがって。


 「んで、種族は教えてくれそう?」


 「どうだろうな」


 「なんでやねん」


 ◆


 翌日、俺は朝からダンジョンに潜っている。土曜日だからだ。


 3層までの道は決まったから、今日は仲間の強化と明日から3層の攻略を考えている。


 仲間の強化で一番手っ取り早いのは数を増やす事だろう。


 つまり、自分の羞恥心と戦う必要がある。


 土曜日と言う休みの時間を犠牲にする事はできず、生配信を始める。


 生配信しなければきっと俺は見境なく魅了を発動できただろう。⋯⋯多分ね!


 「それじゃ、仲間を増やしたいと思います!」


 もちろん金稼ぎも忘れない。


 はぐれ者のゴブリンが今日は先行してゴブリンと戦い始めた。


 “お、ゴブリン同士のタイマンか”

 “あのゴブリンなんか特別感あるし、勝てるかもね”

 “技術が上昇しているかは不明”

 “それよりも俺はエロが見たいです”


 俺のはぐれ者のゴブリンは猛攻撃で相手をひたすらに押しまくって倒していた。


 魔石は俺が貰っても問題なさそうだ。


 ちなみに煽ってさっきの猛攻撃を俺にやってもらい、返り討ちにした。


 「猛攻撃は確かに攻めには強いけど、冷静にならないとあっさり破られるからね」


 言葉が通じているか分からないけど、注意しておく。他のゴブリンが笑っている気がしたので注意する。


 努力している奴を笑ってはならない。


 ⋯⋯さて、問題の時間が始まった。


 俺の成長にも繋がるので二体同時魅了をしようと視聴者に説得された。


 俺には反論できる手札がなかった。種族の能力を活かすには二体同時魅了はいずれしないといけない。


 理論上の理解は可能だが、それを実現するための鋼のメンタルを俺は持ってない。


 「今回は普通に倒そうと思う」


 ゴブリン達にそう言うと、「まぁ良いんじゃないっすか?」「また逃げるんか」など、そのような目で見てくる。


 哀れみというか可哀想な生き物を見るような目だ。スライムは分からん。


 休みの時にゴブリンやスライムにひたすらに話しかけていた結果、なんとなくだが意思疎通ができるようになった気がする。


 純粋に精神を癒すために話したかったのだが⋯⋯それも視聴者にウケて俺の心を抉るのである。


 「だァー! 男は覚悟と度胸と色気だ!」


 “良くぞ言った!”

 “それでこそ真の男! 男の中の男♀!”

 “さすがはサキュ兄。そこに痺れて憧れる事は無いから安心しな!”

 “ゲスしかいねぇw脱ぎな”


 今回は少し横に倒れた感じのポージングで、下を少し捲って太ももを露出させる。


 そして発動合図の言葉を漏らした。


 「⋯⋯い、いらっしゃい」


 二体同時魅了、完了だぜ。


 “赤面のサキュ兄。ぐふふ”


 ゴブリン達の歓声が聞こえる⋯⋯まじで普通に会話できるようになりたいぜ。


 「はは。心の涙が」


 このハート型の尻尾で突き刺したら魅了完了って結果にならないかな?


 そう考えつつ、精神を癒す為に壁に頭を打ち付けまくった。


 さっきの記憶を消すまで殴れば万事解決だよね! そこまではさすがにゴブリン達に止められたけど。





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます!

★、♥、励みになってます。


今回が一日二話投稿が最後です。ごめんなさい。

ですが、余裕があったりする場合に限りですけど、一日二話投稿していきたいと考えております。

その時は今まで通りに◆あとがき◆にてお知らせします。

更新ペースは落ちてしまいますが、楽しんでお待ちいただけたらなと思います。

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