第9話 この魅了がずっと続けば良いのにな(切実)
さて、再びやって来ましたダンジョン。
「ん〜実は紋章の表示がバグってるって事はないのかな?」
受付に並んで、呼ばれたら向かう。
「ダンジョン探索がしたいです」
俺はステータスカードと身分証となる学生帳を取り出して受付嬢に渡す。
彼女はそれらを確認して裏に向かって俺の武器と防具を持って来てくれる。
「こちらでお間違いないですか?」
「はい。間違いないと思います。ありがとうございます」
俺はそれらを受け取り、更衣室で着替える。
「なぁ知ってるか?」
「何を?」
「男がサキュバスの種族を与えられたって奴」
「ごふっ」
ゴツンっとロッカーに頭をぶつけてしまった。凹んでないと良いけど。
おっといかん。
「ゴホゴホ」
とりあえず咳き込んだ⋯⋯それで水に流せてくれたら良いが。
まじかー。
「でも、憧れは止められない」
俺の考えていた(妄想していた)目立ち方とだいぶ違う。
強さや配信者として有名になりたかった⋯⋯運が良いのか悪いのか。
防具を装備したら俺はダンジョンに入った。
なんと言う事でしょう。
髪の毛は腰まで伸びて、前の黒髪とは真逆で銀髪に、瞳の色は真っ赤だ。
妖艶で男をたぶらかすだろうボディを持ったこの俺⋯⋯。
「ちくしょうバグじゃなかった!」
背後から人の声が⋯⋯とりあえず逃げるか。
俺はスマホを操作してライブを開始する。
「どうも皆さん。サキュ兄です」
“改名しているから気づかんかったw”
“どうしたサキュ兄w”
“元気ないけど、大丈夫か?”
“とりま今日はどんなポージングで魅了するんだ?”
「あの、元気無い理由は分かってますよね? それに改名したのだって⋯⋯俺のチャンネルがサキュ兄として広められているからです」
“配信者として正しい選択だ。グジョップ”
“まぁ前の良く分からない長文よりかは良いよね”
“名実共にサキュ兄だ”
“で、何すんの?”
俺は視聴者と同様に何するか分かってないゴブリンとスライムを見る。
「今日は仲間を増やそうと考えてます」
“つまりエロが見れると”
「待ってください。なぜそこでエロが出てくるんですか」
“サキュ兄=エロ⋯⋯じゃなくてサキュバス=エロでしょ”
“サキュバスからエロ取ったら何も残らんぞ”
くっそ否定できない。
だいたいそう言う種族だからしかたないのだが⋯⋯しかし、サキュ兄=エロ、これは見過ごせんな。
とりあえず歩みを進めるか。
スライムを頭に乗せて、ゴブリンを抱えて俺は空を飛ぶ。
そのまま二層に向かって進む。
“抵抗感無いの?”
“ゴブリンなのに”
“よーやるわ”
「なんか仲間になったと確信したら、他のモンスターとは違う感じがするんです」
“そんなもんかね”
それから二層に到着したのでゴブリンを下ろして、スライムを抱っこしてゴブリンを探す。
遠目で発見したゴブリンの群れ⋯⋯合計三体か。
“良し、脱いで中心に行け”
“これで三体確保だ”
“ヌードもサキュバスだから許されるぞ”
“つーか、サキュバスの初期衣装姿を見せてれ”
「俺の視聴者は鬼しか居ない」
そう落胆していると、ゴブリン達が何か言い争いを始めた。
そして一体が離れたのでこっそりとソイツの後を付ける。
「⋯⋯何してるんだ?」
わざわざ仲間と離れて、ボロい剣で素振りをしている。
「⋯⋯」
“どったの?”
“さぁ
「そうだよね。そうなるよね」
さて、どうしたもんかな。
正直のところ俺はまだサキュバスを受け入れているとは言い難い。
防具を脱ぎ捨てて魅了するなんて芸当は絶対にできない。
って事で再び視聴者さん達と相談会をして、結論が決まった。
今回はドジっ子タイプで魅了するらしい。
「狙ってドジっ子してなんの得があるっ!」
“草”
“ガンバガンバ”
“さぁまずはおさらいだ”
“少しだけ足の部分を緩くして、相手の目の前で転けて股の所に影ができるようにする”
そして最後のトドメのセリフを言えば完璧⋯⋯らしいのだが本当に良いのだろうか?
あー嫌だ。
スライムを置く。
「俺、頑張って来るよ」
スライムの「?」って顔に癒される。ゴブリンもなんか悟った目で背中をさすってくれる。
その優しさが俺を引き戻せなくする。⋯⋯アリガトネゴブリン。
「良し、男らしいところ見せたる!」
“見た目は女だけどなw”
俺は物陰から飛び出してゴブリンの正面で転ける。漫画で表すと、曲がり角でぶつかって尻もちをついた時の格好だ。
「ご、ゴブリンさん、急に出て、ごめんなさい」
一応これでも魅了は発動するとなんとなく分かっていた。だから俺の顔が今、瞳以上に真っ赤だ。
こんなんでも魅了は十分機能する。後は相手次第。
“うん。かわいい”
“エロくはないが尊くはある”
“これはありだな”
“抜けるで”
⋯⋯なんか違和感がある。
これはあれだ。魅了失敗してるやつっ!
「シィッ!」
ゴブリンから振るわれた凶刃をギリギリ、翼を広げて後ろに下がる事で回避した。
ゴブリンとスライムが飛び出ようとするが、俺がそれを手で制す。
“ありゃ、失敗か?”
“やっぱエチエチが足りんかったか”
“残念”
魅了は失敗したけど、まだチャンスはあると思うのだ。
魅了⋯⋯サキュバスの魅了は対象が使用者に魅力を感じたら発動する。
身体の関係に持ち込むための能力、極端に言えばエロだな。うん。
だけど、根本は『魅力』であり決して『エロ』ではないのだ。
「どうすれば」
ゴブリンは仲間と離れて剣の素振りをしていた。それから思うに、奴は強くなりたいと思っている。
なんとなく昔の自分と重なったのでそんな感じがする。
だからやる事は簡単だ。むしろ俺的には、こっちの方がありがたい。
防具をしっかり着る。
「ゴブリン、お前の剣を俺にぶつけて来い!」
“イキイキしてる!”
“恥じらいが無いから嬉しいのかね”
“男らしい”
“萎えた”
ゴブリンが俺に向かって剣を振り下ろす。こっちは木の剣なので受け止めはしないで斬れない箇所を攻撃して弾く。
弾いた瞬間に蹴りを突き出す。
「剣だけじゃ、俺には勝てないぞ!」
ゴブリンに接近して、木の剣を振り下ろす。防ごうとするゴブリン。
身体の向きを変えながらクルッ、と回転斬りを胴体に放つ。
「振り下ろしと思わせて回転斬り⋯⋯これがフェイントだ」
ゴブリンは立ち上がり俺に向かって剣を突き立て、迫って来る。突きの攻撃か。
「突進は横にステップするだけで避けられる⋯⋯だからギリギリまで引き付ける」
ギリギリじゃないと次の攻撃にチェンジさせれて攻撃されるだけだ。
だからこそ、躱して反撃に移る為にギリギリで躱した。
「そらっ!」
反撃を相手の身体に叩き落とそうとしたら、ゴブリンがそれをギリギリで防いだ。
良い反応だ。
「ゴブリン、俺の仲間にならないか? お前強くなりたいんだろ?」
ゴブリンの動きが止まった⋯⋯事は無くて普通に攻撃をしようとする。
そりゃあそうだ。言葉なんて通じない。
「ほれ」
攻撃を木の剣で全て受け流し、踏み込む。
斬り合って、タイミングを測ってゴブリンは横薙ぎに剣を振るので、俺が止まったら目の前をスっと通る。
ゴブリンが驚く。
“何あれ?”
“止まったら当たらない距離だったの?”
“すげーな。ほんと技術は高いんだよなぁ”
“羞恥心がなければ最強なのに”
“偶然だったりしないのかな?”
“平然としているしすげぇな”
“分かってても自分ならビビる”
“さすがはサキュ兄”
振り終わったところに俺は木の剣を突き立てた。
「言葉の壁は中々越えられないよね」
俺は剣を収めて背中を奴に見せる。一応警戒しておく。
ゴブリン達を呼ぶ。
「ほれ、スライムおいで」
スライムを抱き抱えて、ゴブリンは俺の後ろをテクテク歩く。
はぐれ者のゴブリンが俺の後ろをゆっくりと歩いてついてくる。敵意は感じないな。
魅了も発動している感じがする。
良しッ!
内心で全力のガッツポーズをした。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます!
★、♥、励みになってます。
午後8時くらいにもう一話投稿したいと思います。
ぜひ良ければ、また来てください
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