第241話 サキュ兄の本来の戦い方
激しい刃が重なり合う。
攻撃に能力を乗せて来る時もあり、連撃の中では対応し切れずに反射攻撃をこの身に受けてしまう。
『あんた。少しはセーブしないと先に倒れちゃうわよ』
「セーブしろと言ったってな。そしたらアイツの攻撃をモロに受けるだろ」
『どうすんの。負けちゃうわよ』
「負けないさ。負けられない理由があるからな。大丈夫、段々と掴んで来た」
『は?』
俺は再び脳の処理が追いつかない速度の連撃を放ち、相手も同様な連撃を放つ。
もしも真剣ならば火花が火炎のように辺りに広がっていただろう。
反射攻撃により切り傷が増えた俺の身体。血もだいぶ流している。
それでも万全の状態のように戦えるのは進化の影響だろう。
「はあああああ!」
相手の攻撃を上回り押し切るにはもっと速度が必要となる。
それが途方も無く難しいのだが。
ゲームの難易度で表すなら神だろうか?
「ぐっ」
反射攻撃を受けたので、一旦距離を取る。
「小さな身体で数多くのダメージを受けている。倒れるのも時間の問題だろう?」
「そんな事無いさ。倒れないよ、俺は。⋯⋯少なくとも、お前を倒すまでは」
コイツを倒すのは俺だ。俺じゃなきゃダメだろう。
地球の人達を魅了し魔力を分けて貰った。あの世界の人間として、代表的なポジションで来ているんだ。
大将が相手の頭を取る。
頂いた力の責任としては十分な成果だろう。
⋯⋯責任なんてあんまり考えてない俺が言う事では無いが。
その責任が俺の目的を達成するために必要な通過点なだけ。
「斬撃の速度は一緒。見切れない刃がある分俺の方が不利か」
「ほう。ようやく形勢を悟ったか? 既に貴公の刃は届いておらん。修行を重ねた時間が違うのだ」
確かに、積み上げる時間はどうしたって変える事もできない。
サボらない限りは抜かす事すらできないだろう。
「量では負けてもな、質はどうだ。お前の立場、お前の強さで対等なライバルがいたか。共に強くなろうと誓い、力を競い高めあう友がいるか?」
俺は両肘を肩の後ろ側まで持って行く。
手刀の構えで先端を龍に向け、肉薄する。
ナナミの刺突は一刀用だ。彼女は斬撃も優秀であり刀を愛用している。
俺は基本的に二刀流で戦っている。攻撃の手数を増やしたかったからだ。
「見せてやるよ。ライバルがいるから高まる強さを」
ナナミの刺突を二刀流で使えるように一緒に技を改良、それを俺の身体に叩き込んだ。
基礎を伸ばし応用力を高めて色んな技に対応しようとしていた俺が癖や規則のある技を会得した。
「まずは!」
ナナミが半分近く身体を捻って放つ高速の刺突。それを両手で放つ。
問題点があるとすれば⋯⋯。
「がはっ」
引く事すらできない程に力がかかり、一方通行にしか攻撃できない事だろう。
簡単に言えば、とてもこの龍と相性が悪い。
俺の身体に穴が空いて、血をプシューっと吹き出した。
ライムが急いで止血してくれる。
「それがか?」
「今からだ」
今のはただの運動に過ぎない。身体を慣らすための。
代償はでかかったが。
捻りを利用して突き出す。その突き出す力を利用して反対側を捻って突き出す。
それを繰り返す事により刺突の連打はナナミの速度を超えるのだ。
こんなスピードの刺突を使いながら場所も移動できるナナミのスキルは異常だと気づかされる。
「貫けえええ!」
「無駄!」
逆転させても攻撃が迫ると気づいた瞬間に龍は防御の体勢を取った。
「このスピードに対応できないだろ!」
斬撃よりも短いスパンで攻撃を繰り返せる。
巨体かつ鱗に覆われている龍には難しい芸当。そもそも人間の技を持ってないだろう。
だからと言って龍の防御を突破できる事は無く、再び反射攻撃を受ける。
『ちょっと! 回復魔法なんて無いわよ!』
「大丈夫。魔法の準備を」
『本当に大丈夫なんでしょうね。【新月】』
手の平から放たれる衝撃波が龍を襲う。しかし、遠距離攻撃を警戒してか常時能力を発動しており、返って来る。
『想定通り!』
翼を大きく広げてその衝撃を受け止める。
『衝撃を溜めて魔力を込めて跳ね返す。【淫魔の翼撃】!』
「オラッ!」
名前については少し嫌な単語が聞こえたが、まぁ無視しよう。間違っては無いし。
その攻撃も反射すれば問題ないと考えているのだろう。龍は防御せずに俺の方を警戒していた。
『いけっ!』
そして龍の背中に月光の光が振り注ぎ命中した。
認識外の攻撃は当たるらしい。それも初めの攻撃しか通じなさそうだが。
「いつの間に⋯⋯」
「いつだろうな?」
『あんたらが連撃でわちゃわちゃしている間によ!』
俺とツキリは同じ身体を共有しているが、思考などは全くの別物となっている。
俺が肉弾戦に集中している最中、彼女も魔法をどうにかして当てられないかと考えていたのだろう。
同じ身体を使っているしメインは俺が操っているが、ツキリは自由に魔法が使える。
知らない間に魔法を展開していたらしい。
「しかし、その程度では我の身体にダメージは大して無いぞ」
『なんの目的があってあんなの言うのかな? 自慢?』
「強さをアピールして戦意喪失を狙ってるんだろ」
「貴公は時々一人で会話をする。しかも文が繋がっておらん。もしや、二つ見える魂は両方とも表に出ていると言うのか?」
ツキリの存在は認識されているらしい。
上位の存在ってのは相手の魂を見る事ができるんだな。
そう言うのを見る事ができる魔眼の持ち主が泣いてしまいそうだ。
ソレも今日をもって意味を無くすだろう。
「なんとも稀有な存在よ。同じ肉体に魂が二つも存在するとは。本来は片方に吸収、あるいは反発し合い砕け散るだろうに」
俺達の存在は龍を前にしてもレアらしい。
二つ存在する事の難しさを長年生きている龍が知らないはずがない。
それに言っている事は分かる。
主にツキリが原因だが、俺達も定期的に反発する。意見の食い違いなどで。
特に魅了に関しては最大の敵となる。身体を奪って引くに引けない状態にされるのだ。本当に迷惑。
『おーい。今ここで怒りを燃やすな〜』
「誰のせいだと⋯⋯まぁ良い。戦いに集中しよう」
自己再生の能力も進化の影響で上がっているが、やけに遅い。
反射された攻撃は再生しにくいのかもしれない。
考えても仕方ない。もう一度バカの一つ覚えのように突っ込み、連撃の刺突を繰り出す。
「何度やっても結果は同じ事!」
「それはやってみないと分からない事!」
俺の刺突を把握してカウンターを仕掛けたり回避などはできないらしい。
だからひたすら能力に頼って防御に徹している。
それだけでも十分。この刺突は龍には見切れない。
そして刺突の強みは貫通力。
「その分厚い鱗を貫いてやる!」
「不可能だ!」
『【上弦】【下弦】』
俺の右手に赤色の月光が宿る。左手には青色の月光が宿る。
そして、脳内で処理ができないレベルにテロップが増えた。
基本は能力を発動せずに防いでいるが、発動するタイミングが現れる。
先程と同様に反応できない状態。
「なん、だと」
そこに俺は反応してみせた。
眼の情報にだけ頼って戦うなんて愚かなマネはもうしないと決めた。
運命はあくまで参考程度。
一番に信用できるのは今まで積み上げて来た経験と努力、それによってついた自信だ。
「通ったっ!」
『まじかぁ』
驚愕する龍と唖然とするツキリ。
俺は眼の運命情報に頼らず、全ての情報から本能的に能力発動タイミングを感じ取った。
何回も受けたんだ。何回もこの身体に刻まれたんだ。
「癖は覚える」
「我が能力に予備動作などなかった」
「ああそうかもな。だけど俺には感覚的に分かる。息遣いや細かな動きの時に生じる音、能力を使う時に感じる微細な変化の臭いと味、そして同じ様な攻撃が来ると肌が教えてくれるんだ」
「⋯⋯お前は何を言っているんだ」
『ダメだ。記憶を共有しているはずなのに全く意味が分からない』
◆あとがき◆
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