第240話 己を剣とし

 「ガッア!」


 龍のキックの破壊力は抜群である。


 防御しても全身に痛みが広がって行く。


 「【三日月】」


 魔法も相手の能力に合わせて適切に使えば当てる事が可能である。


 それは相手も分かっているのか、確実に攻撃が命中すると考えて行動している。


 本来なら跳ね返している攻撃に対応しているのだ。


 例えば俺の繰り出す剣の攻撃に合わせて、灰色のオーラを纏わせた拳でパンチを出している。


 普通に戦う分でもこいつは強く、攻めあぐねている。


 「あんたらは世界を護るのが使命なんだろ。だったら一緒に崩壊すれば良いだろ」


 「我らは世界の意志によって生み出された。我らがいるところが我らの世界。我らの意志が世界の意志だ」


 「そうか? 全く迷惑な話だ」


 「そうかもしれんな。我らは我らの世界を護る責務がある」


 「そんな護るべき者達を英雄と言う道具に変えて戦わせる⋯⋯アホらしいな」


 俺が鼻で笑うと、龍は苦笑を浮かべる。


 自分のやっている事が大きな矛盾になっている事に気づいているのだろう。


 世界を護ると言うのはそこにいる生命も護ると言う事だ。全てを護るって事なのだ。


 だと言うのに、そんな護るべき命を兵器に変えて戦わせている。


 護るモノを自ら捨てている。


 「我らは止まる事を許されない。崩壊をただ見ているだけではいかぬのだ」


 「⋯⋯自分達の考えが世界の考えだと思い込んでいるのか? どれだけ悲しい想いをした人がいるか、分かっいるのか」


 「どうしようもない事もある」


 「本当にそうか? 話し合いは考えなかったのか。共に抗うとは思わなかったのか」


 「冷静では無かった、そう言っておこう」


 龍のせいで悲しんだのは俺達の世界にいる魔王達だけでは無い。


 攻めて来た英雄だって自分の考えを持って戦っていた。意志があり悲しい過去も背負っていた。


 あっちの世界の人々だって、ただ理不尽に従うしかない絶望や悲しみを背負っていたはずだ。


 誰も好き好んで死のうなんて考えない。


 「強力な力には大きな責任が伴うんだ。お前は自分の身勝手を周りに押し付けた。自分が正しいと思い込んで行動した⋯⋯その結果が今だ」


 「正しいと証明するのみだ」


 灰色のブレスが直線で放たれる。


 回避して肉薄し、刃を振るう。


 能力の発動タイミングは魔眼の力で分かるので、使う時は剣の振るう向きを逆にする。


 そうする事で確実に相手に剣を当てる事が可能になる。


 剣を身体で受け、尻尾の攻撃が横側から襲って来る。


 脳を揺さぶる衝撃にクラクラしながらも、なんとか平静を保つ。


 「ふぅ」


 「我らは後戻りできない。散っていた兄弟、仲間達のためにも」


 「ふざけんな。それもお前の身勝手な考えが招いた結果だろ。⋯⋯最初から友好的に接していたら初代勇者も龍を倒さなかった」


 何が後戻りはできない、だよ。後戻りができなくなるまで一貫して侵略しようと考えたのが原因だ。


 最初の元凶はコイツじゃないか。


 コイツが世界の崩壊を防ぐために膨大な力を持つ勇者と魔王を殺す事を決めた。


 それが始まりだ。


 龍も絶大な力を持っていたはずだ。


 身内可愛さか、それとも龍は世界そのものだから関係ないと言いたかったのか。


 何はともあれ、その理不尽が勇者やレイを怒らせた。そして戦争が始まった。


 初代勇者が龍の半数を倒し、今は英雄生産機として扱われている。


 初代魔王は自分の力を分けてこの世界にレイ達を逃がした。


 世界の移動の難しさなんて龍達を見れば分かるだろう。


 それを一人で可能にしたんだ。


 「⋯⋯お前はただ家族と幸せに暮らしていた人の未来も宝も奪ったんだ。自分達の命を選び、他を犠牲にしたんだ」


 「⋯⋯」


 「勇者の意志を継ぐとかそんな大それた事を言うつもりは無いし資格は無いと思ってる」


 でも、今、レイ達を通じて俺はその二人の初代の力を借りている。


 感謝はしている。恩義も感じてる。


 「復讐とか、ぶっちゃけ俺には関係無い。⋯⋯でも、約束したんだ」


 復讐は直接的な憎しみのない俺がやる事じゃない。やって良い事じゃない。


 でも、誓った。


 「大切な人達を護る。レイの怒りを背負ってお前を斬ると」


 これは復讐じゃない。


 これは命を懸けた世界の命運を賭けた戦いだ。


 護るモノを背負った戦争だ。


 「大きな力には責任が伴う⋯⋯我は世界を再構築するため」


 「俺は大切な人達を護るため」


 この身に余る力を使って龍を倒す。


 「ツキリ!」


 『会話は終わったのね。【月光線ムーンレイ】』


 俺も光の速度で移動して行く。


 「我も龍であり戦士だ」


 龍は手刀を作り、それで月光を切断した。


 『うそん』


 「我が魔法を斬れぬと思ったか?」


 「そうか。⋯⋯どうして魔剣を出さないかと思ったら⋯⋯」


 「そうだ。我自身が魔剣である」


 剣と一つになるか⋯⋯剣士の極地とも言える状態なのか。


 「ライム、剣を解除してくれ」


 俺がそう言うと、危険だよと進言するように身体を振るわしてくれる。


 そんなライムを撫でて落ち着かせ、素直に従って貰う。


 自分が剣として戦う。剣の道を歩んで来た俺はそれに真っ向から迎え撃ちたい。


 生きた年の差は月とすっぽん。比較するのもおこがましい程だ。


 どれだけの修行を積んで来たか分からない。


 「それでも、戦いたいと思うのが俺の悪い癖」


 『ふざけている場合じゃないのよ?』


 「ふざけてないさ。相手の信念を真っ向から破ってこそ、己の信念の強さを示せると言うモノ。男にしか分からん事だな」


 『そうね。記憶や知識は共有してもアーシにはそんな考え一切浮かんで来ないもの』


 手刀を構えた俺に龍が迫る。


 ツキリは魔法の準備を始め、俺は手刀を放つ。


 手刀だからと侮ってはならない。龍が自分が一番の武器である魔剣と言ったように、生身が剣なら最上の武器だ。


 自分を剣と思い込むだけではダメだ。


 俺自身が相手を斬れるイメージを持ち、自身が剣その物だと自覚する。


 傍から見れば違う事でも主観的に見ればそうなのだ。


 自分自身が剣を操る剣士であり、自分自身が最高の武器である剣である。


 俺と龍の剣が重なる。


 「なんと。見よう見まねではないと言う事だな」


 「当然だ」


 重なる手刀は触れてない。間に何かを挟んでいるかのように止まっている。


 理由としては魔力が考えられる。


 手刀を剣として扱った場合、無意識に手に魔力が集まり擬似的な武器を生成する。


 それらが触れ合う事で反発し、結果的に手刀は触れずに交差する事になる。


 どんな魔力相手にも特攻となる俺の魔力を持ってしても破れない濃密な魔力の塊。


 むしろ特攻だからこそ、呑まれ混ざり合う事無く反発していると言える。


 「はああああ!」


 月光の粒子が俺の身体から漏れ出て魔力に重なって行く。


 「【三日月】」


 光の剣となり振り抜いた。ダメージは与えられなかったが、龍を押した形となる。


 すぐに反撃に出る龍。相手の攻撃を見切り正確に回避し俺の剣を通す。


 「速いっ」


 腕が剣だと攻撃から防御に変えるまでの時間がとても短くなる。


 伸ばした腕を曲げるだけで防御になるのだがら。


 連撃の嵐で攻撃しても見事に裁かれる。しかも、龍には反転させる力もあるのだ。


 俺が連撃を使えばその全てに能力発動の運命があり、テロップが次々に出現する。


 俺が加速すればする程脳で処理できない程の運命情報が入って来る。


 そして、処理し切れずにミスをすればダメージを受けるのは俺だ。


 俺の火力が上がれば上がる程、ミスした時の代償はでかい。自分に返って来るからだ。


 『【月光粒子ムーンダスト】』


 月光の粒子が龍を包み込む。


 『爆ぜろ!』


 その一粒一粒が大爆発を起こして、龍を包み込んだ。


 そして、爆発は収束して時間が巻き戻るように形を取り戻し、俺の周りを囲んだ。


 そして爆発前のピカッと輝き、次の刹那で爆ぜる。


 回避するが、その先には龍が待っていた。


 「裂けるが良い!」


 「嫌なこった!」


 真っ二つに手刀が落とされる。その前に俺は足を突き出した。


 相手が完全に振り下ろす前に、上段の方で動きを足で止めたのだ。


 どんな攻撃も終わりが一番力が強い。故に、その前に止めてしまえば良いのだ。


 「判断力が高いようだな」


 「そりゃあどうも」


 この後も俺達の戦いは激化する。





◆あとがき◆

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