第242話 言っている意味が分からない

 再び俺の攻撃が通るようになり、相手の鱗を削り始めた。


 当然、相手もやられっぱなしと言う訳ではなく、反撃が来る。


 だがその攻撃を俺は躱す。


 「小さいからって簡単に潰せると思うなよ」


 俺のスピードに奴はついて来れない。その事は既に理解している。


 だからアイツの直接的な攻撃は当たる事は無いだろう。


 さらに、奴の十八番である反射攻撃も感覚を掴んだ俺には通じない。


 全てを感じ取り攻撃を確実に命中させる。


 「底を知ったと勘違いするで無い」


 「へぇ。試してみるか?」


 龍は斬撃を放つ中で自分の動きも逆にする。


 俺に攻撃が当たらなかった瞬間に同じ力で巻き戻って来るのだ。


 その動きは時間が巻き戻っているよう⋯⋯いや、それよりも酷いかもしれない。


 確実に俺に命中する角度で動きを反転させた。


 俺を狙い続ける斬撃の嵐を集中して躱す。


 「当たらない斬撃の事象を当たる斬撃に変えれば、こんな事もできる訳か?」


 「正解だ。貴公には当たらんようだがな」


 「運命は些細な事で簡単に変わるんだぜ?」


 「貴公のスピードと技量は些細な事なのか?」


 「そうだろ?」


 回避する方向を工夫して意図した場所に攻撃が来るよう誘導する。


 そして作り出した隙を狙って駆ける。


 「狙いが見えぬと思ったか」


 「がはっ」


 いつの間にか反対方向に振るっていたのか、尻尾が俺を突き上げて来る。


 不意の一撃を受けて俺は高く飛ばされる。


 「ゴホッ。傷だらけの身体にその一撃は効くねぇ」


 『誘導していたつもりが誘導されていたとわね』


 「驚く事じゃないさ。相手も強いんだ。このくらいはするだろうよ」


 呼吸を整える。しかし、出血が酷いか。


 ライムが止血してくれているが、いつまでそれが持つか分からない。


 この頑丈な身体でも大量の血を流せばタダでは済まないだろう。


 戦闘中に意識を失う事さえありえる。


 「気合いでもどうにも成らない事はあるか⋯⋯」


 『何当たり前の事言ってるのよ。⋯⋯かなり限界なのに動けている時点で相当おかしいのよ』


 「限界、ねぇ」


 『アーシが気づいてないとでも? アイツも気づいてんじゃない。地球の全てから魔力を受け取った、身の丈以上の魔力を宿したのよ? 肉体が耐えられる容量を既に超えているわ』


 それは別に大きな問題じゃない。実際動けているし龍と対等に戦えているからな。


 『小さな問題の積み重ねが大きい問題に繋がるのよ。ダメージを受けすぎた。血をかなり流している。過剰の魔力。⋯⋯勝つまで倒れないでよ』


 「分かってるよ」


 翼を羽ばたかせて次の攻撃に移ろうとしたタイミングで、荒んだ心を癒す温かみのある炎が俺を包み込んだ。


 反射攻撃によってできた大量の剣の傷が治って行く。


 「ご主人様、助太刀に参りました」


 目の前にふわりと降りて来るユリ。


 「助かったよ。⋯⋯でも、危険だ。ユリじゃ」


 「その先は言わない。それに私もいる」


 「ナナミ?」


 二人は龍を倒して俺の方に来てくれたらしい。


 「まさか⋯⋯貴様ら、殺したと言うのか」


 「そう言う事です」


 「それ以外に私達がここにいれる理由無くない?」


 ナナミがそう言うと、逆創の龍が怒りを滲ませて爆発させた。


 その怒りに呼応するように魔力が放出される。


 かなり戦って来たと思うが、さすがの魔力と言えるだろう。⋯⋯その魔力量は全盛期のレイを超えている。


 「有り得ぬ。貴様らの力では勝てぬ。絶対にだ。天地がひっくり返ったとしても」


 「確かにそうだったね」


 「うん。でも私達は天を返さずに突き破った」


 二人は高く飛び立ち、お互いに手を合わせて行く。


 その光景はアダムと神が手を触れ合う絵のようだった。


 指先が触れ、雷と炎が飛び散る。


 「飛び⋯⋯」


 『散ってない?』


 二つの物質は混ざって行く。


 炎と雷が混ざる事があるのか。俺の知識がないだけなのか。


 何はともあれ、その二つの物質は混ざっていた。


 そしてその形を変えて行く。


 「ユリとナナミ、二人合わせてユナ! 息ピッタリっ! おっと⋯⋯」


 二つが合体したと思われる魔剣の刀を掲げてそう宣言する。


 二人の声は混ざる事なく、交互に出ているようにも感じない。


 言いたい事を喋っている。同じ身体で。


 「なんだその姿は。それに魔剣まで⋯⋯」


 「私達の想いは一つ、キリヤの隣に立ちたい。皆を護りたい。それだけ」


 「キリヤだと? 男を護るためにここまで来たと言うのか」


 「護るんじゃない。戦うんだ」


 「なんだと?」


 龍は辺りを見渡す。


 俺を見てから、時間の龍と戦っているローズ達も見る。


 そして、ボソリと呟く。


 「どこにそのような男がいる」


 「あー同じ反応。さすがは兄妹」


 「⋯⋯お前、俺と戦ってて疑問に思わなかったのか?」


 「一人称なんて個人差だ。性別に左右されるモノでは無い。⋯⋯なるほど、お前がそのキリヤと言うのだな。⋯⋯そうか。サキュバスではなくインキュバス⋯⋯だが」


 俺の肉体は紛れもなくサキュバスだ。男の要素は一切ないと言えよう。


 そうか。


 龍にこんな方法で隙が作れたのか。


 でもなんでだろう。少し悲しいな。


 『ほらチャンス! 行けよ!』


 「お前には分からないだろうな俺の気持ちがっ! 心は男なのに、身体は完全に女! しかもサキュバスだ! そりゃあそんな反応されるよなぁ!」


 『あーめんどくさい! さっさとやれ!』


 ツキリが脳内に大声を出すのでかなり響いて痛い。


 確かに大きな隙なので攻撃にしに向かう。


 だが、精神バランスが崩れた俺の感覚が鈍って反射攻撃を受けてしまう。


 この事実で龍に隙ができた。同時に俺のパフォーマンス低下を引き起こした。


 『なんでよ!』


 「ご主人様、キリヤ! 今回復します! ユリ頼んだよ」


 同じ身体で会話するのか。俺達とはまた違うんだな。


 かなり気になるユナと言う存在の炎で回復して貰う。


 「⋯⋯鬼の角が二本に龍の角が二本に猫耳が二個って属性付けすぎじゃない? 頭に突起物が六個だよ。多いよ」


 「耳はちゃんと耳だから需要はある。龍の角は炎を循環させるのに大切な役目があるんだよ。鬼の角はユリの遺伝子が元来鬼だから生えて来る。私の角、鬼の力あまり引き出せませんから要らないんですけどね」


 おお。ややこしい。


 いきなりナナミ目線のユリからユリ目線のユリになるから凄く話が入って来ない。


 ま、まぁ何はともあれ。


 ユナから感じる力は相当だ。確かに、一緒に戦ってくれるだろう。


 「2対1⋯⋯いや、4対1だ。卑怯とは言うまいな」


 「我の能力に対応できん奴が増えても足でまといなだけだ」


 「そんな事ないわよ! うんうん。ご主人様もなんか言ってください! キリヤッ!」


 俺は考えていた。


 ユリは俺のようにバランス良く鍛えた。


 ナナミの集中力は異次元だし、その極限状態になれるだろう。


 二人が合わさりその才能を発揮すれば、強力だ。俺と戦っても勝敗がどちらに転ぶか分からない程に。


 だが、ユリは五感を鍛えてないし魔眼も無い。ナナミの集中力も予備動作が無い能力には対応できない。


 ⋯⋯あれ?


 龍を攻撃するのは能力に対応するしかないけど、できるのかな?


 特にナナミの刺突なんて『引く』事できないからな?


 「ご主人様? キリヤ?」


 「本当に戦力になるか、その目で確かめるが良い」


 俺が盛大に悩んでいると、龍がユナに接近して来ていた。


 龍の手刀がユナを真っ二つにするべく振るわれる。


 「【雷炎の素手】」


 炎と雷が混ざった手を顕現させ、龍の手刀を受け止めた。


 「何?」


 「うそっ」


 「ご主人様、キリヤ。あまり女の子を舐めないでくださいね」


 ユナが反撃のキックを決めようと動く。魔眼のテロップが能力発動を見抜く。


 「まずっ」


 「なんかダメ」


 ナナミの声が聞こえ、ユナは大きく後ろに下がった。


 同時に前に行き、龍の身体に体当たりする。


 「ふんっ!」


 ユナを砕く拳を即座に回避した。


 「今のが逆転させる力か。不思議な感覚だったね」


 「どうやって⋯⋯」


 「キリヤ、私は猫人だったんだよ。警戒心や本能は人間よりも強い。⋯⋯だにゃ?」


 ね、猫ってそこまで本能が高いのか。


 「それとごしゅ⋯⋯キリヤ、帰ったらこの巫女服来てライブ配信して貰うから」


 「ごめん何言っているか分からない」


 「色んなエッ⋯⋯素敵な巫女服を研究しましょう」


 「本当に何言っているのか分からない」




◆あとがき◆

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