第112話 女三人の友情
ナナミ、アリス、イガラシの三人は放課後にゲーセンへと来ていた。
ナナミがキリヤを誘ったが、彼はダンジョンを優先した。
家に帰ったら魅了している姿でも観ようと心に決めたのは言うまでもない。
三人は他愛もない会話を続けながらガヤガヤとうるさいゲーセンへとやって来た。
ゲーセン特有のうるささにナナミとイガラシは息を呑む。
この二人はゲーセン初体験である。
「まずは何からやろうか」
「あれ」
アリスが質問してナナミが答えた。
人差し指を向けた先にあったのはクレーンゲームであり、可愛らしいデフォルメされた犬のぬいぐるみがあった。
基本的にクレーンゲームはアームの力が弱く、何回かやらないと取れない。
初心者では何回やっても動かすのがやっと。中には全く動かないモノだって存在する。
ヤケになって必死に続けても、バカ正直に相手をしていたら取れない。
結局は普通に買った方が安い、なんて事もざらにあるだろう。
止めてお金をドブに捨てて後悔することもある。
少なくとも、アリスはそのような経験を何回もした事があるのだ。
クレーンゲームイコール取れない、が彼女の中で定着している。
しかし、せっかくナナミが興味を示した事である。やらないのは変だろう。
三人はナナミが指定した台へとやって来て、ナナミが先にプレイする。
空間把握能力が高いのか、立体的に場所などを捉えてアームはぬいぐるみをしっかりと掴んだ。
結果は一ミリも動かずにアームが上がって行く。
「ぇ⋯⋯」
ナナミのか弱い声が鼓膜に届く。
ナナミは挟めんでしまえば取れるモノだと思っていたらしい。しかし、現実は酷い。
状況を見たイガラシから助けの一言が飛ぶ。
「落ちる穴にだいぶ近いっす。タグに引っ掛けて引っ張れば落ちるんじゃないっすか?」
「確かに」
「いやいやナナミン。素人には中々に難しい高等テクニックだよ?」
「さっきので開く広さは分かった」
引っ掛ける場所を完全に把握しているのなら、後はそれを通すだけである。
言うは易し行うは難しなやつである。
しかしそこは探索者。
自分の記憶を手繰り寄せて範囲を決め、狙いを定めて二プレイ目に移行する。
結果は獲得に至った。
「「おお」」
「マジかぁ」
ナナミとイガラシは純粋に落ちる光景に喜び驚き、アリスは肩を上げて驚いた。
自分の持っていた論理が破綻した瞬間だった。
ここのゲーセンにはクレーンゲームの他にもメダルや音ゲーと言った幅広いジャンルが揃っている。
アニメなどを題材にしたゲームも当然あるが、それは今日はしないだろう。
アリスが探索者である二人と絶対にやりたいモノがあった。
それはモグラ叩きである。
定番中の定番だろう。
反射速度が輝くこのゲームでどれだけのスコアが出せるのか試したかった。
まずはアリスがお手本としてプレイする。
ゲームの両側に設置してあるハンマーを両手に持って。
これにより二人はこれが普通なんだ、と誤認するが誰も訂正できない。
本来は二人でもやれるように用意されているハンマー。
アリスは出て来たモグラの頭を容赦なく叩き、時間と共に数とスピードが上がるモグラを叩いて行く。
今の時代は探索者に合わせた難易度が存在しており、一般人では対応できない速度で出たり潜ったりする。
「なんかエロいっすね」
「え、なんで?」
イガラシの発言にナナミは疑問符を浮かべるが、その答えは返って来なかった。
ナナミはキリヤに聞いてみようと決めながら、アリスのが終わるのを待った。
真剣に挑んだアリスは高めのスコアを叩き出した。
「訓練辞めた分、反射神経落ちてると思ったけど、あんまり変わらなかったな」
「来た事あるんだ」
「うん。そりゃあね」
そんな当たり前のように言われても、ナナミとイガラシは今日が初めてだ。
友達の少なさが露呈しているのは今更なので、気にせずナナミが挑む。
アリスよりも当然速い動きでモグラを叩く。
段々と楽しくなって来て、身体も温まって来ると、速くなるスピードにもしっかりと対応する。
結果は理論的に叩き出せる最高スコアを達成した。
「楽しかった」
「一応限界はあるんすね」
「そりゃあ出て来るモグラ全部叩けばね⋯⋯もっと範囲を広めないと難しいんじゃないかな?」
腕の立つ探索者なら対応できる、イガラシはそれを理解した。
だからこそ全力で相手をして、ナナミよりも少しだけ少ないスコアで終わった。
「近くで見ると酔うっすね。少しベンチに座るっす」
「じゃあ休憩しよっか」
一人が休むなら皆で。アリスの基本である。
イガラシは全体を見ながら対応していた。結果、あちこちで同じ動きをする物体に酔ってしまったのだ。
本気を出してしまったが故のデメリット。
「情報の処理が追いつかないと酔うって知ったっす」
「モグラ叩きで酔う人初めて見た」
「目で捉えて間に合うんだ。凄いね」
「むしろ目で捉えてないんすね」
各々の感想を聞きながら、二分使って回復したイガラシ。
そこからも三人は遊び倒す。
迫り来るゾンビを銃で倒したり。
「あれ。これどうやって撃つの? 狙いが消えた! あ、天井撃ってるよ。⋯⋯これ私か」
ナナミは下手くそでとても戸惑いながらやっていた。
イガラシはナナミの後でやったので、ある程度はできたがゾンビの数が多い。
「難しいっす」
アリスは二つを一人で使ってゾンビを倒していた。
「おお。さすがはアリス。上級者」
「尊敬するっす」
「えへへ。こんなんで尊敬されるのは照れるなぁ」
その後は太鼓を叩くゲームをしたり。
「なんでいきなり来るっ!」
「酔って来そうっす」
「高い難易度を選んだ障害だね」
全員、約二名はギリギリフルコンボを達成した。
鍛えた力でゴリ押したのは言うまでもない。むしろそれでフルコンボを成功させたので賞賛物だ。
「別の音ゲーもしてみたいっす」
「酔いは大丈夫そ?」
「全体を見て、全てのノーツを目で追わなければ大丈夫っす!」
「むしろそんな事してたんだ」
次から次へと現れるノーツ全てを目で追っていたらしい。
リズムや感覚なんてのは一切無く、本当に目で追ってタイミングを合わせていただけ。
それは音ゲーの醍醐味を消している気がしないでもないが、楽しいでアリスはツッコミを入れない。
ある程度楽しんだら女子高生らしい店に行って、飲み物を飲む。
「くっそ高いっすね」
「そう言うモノだよ」
「この値段設定は私も最初驚いたな。下級のポーションとオレンジジュースが同じ値段だもん」
「基準がなぁ」
三人で休憩している。
三人とも一般的に見れば容姿抜群であり、街中を歩けばナンパされそうなモノである。
しかし、誰もが彼女らに声をかけなかった。
それは、近づけば悪寒が広がって本能が避けるからだ。
理由は単純、近づいて来る人間に対して無差別にナナミとイガラシが強烈な殺気を飛ばしているからだ。
アリスはその殺気に気づいてないので止めてないが、気づいたら止めるだろう。
子供とすれ違う度に「なんか怖い」と指を向けられるのだから。
休憩が終わると辺りはすっかり闇に包まれている時間となった。
「今日はめっちゃ楽しかったっす。誘ってくれて、ありがとうっす」
「当然だよ。また遊ぼ。アタシら友達でしょ」
「うん。私も楽しかった。⋯⋯またこの三人で遊びに行きたい」
イガラシは呆然と二人と見た。
元々、この二人は仲良しだった。その輪に勝手に入ったのだ。
だと言うのに二人は最初から三人でいたかのように接してくれる。
それがとても嬉しく、心を包み込んでくれた。
友人と遊ぶのがこれ程までに楽しかったのかと、イガラシは笑みを浮かべる。
「はいっす。また、この三人で遊びたいっす」
「それじゃ、明日どっか行こうか?」
「いや。明日はさすがにダンジョンに行きたい」
「わてもお金稼ぎにちょっと⋯⋯」
「あ、うんそうだよね。それぞれの予定ってのはあるもんだよ。嬉しくてつい先走ってしまった」
◆あとがき◆
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