第131話 暗躍するツキリ
「⋯⋯」
無。今の俺は中身を吐き出した魚だ。
「⋯⋯ヤジマさん、大丈夫ですか?」
ギルド受付嬢の一人が俺の様子を見て声をかけてくれた。
もちろん、だいじょばない。
アリスとナナミは二人で遊んでいたらしく、そこで配信をチラッと見たらしい。
つまり、二人ともツキリの存在に気づいているのだ。
「えっとキリヤ。今日の晩御飯はアタシが作るから、休んでね」
「お疲れ様」
二人に背中をさすられて、惨めな気持ちになった。
マナからも質問攻めにあいそうだったが、珍しく静観している。
何をその胸に秘めているかは知らないが、目があった瞬間にバッと逸らされる。
何もかもにやる気が出ず、それでもルーティンをこなしてから睡眠に入る。
悪夢を見ない事を願いながら、俺は深い眠りに入った。
◆
ま、キリヤくんが寝たところでアーシは寝ない訳だけどね!
こちとら出るタイミングが長時間無い時は寝ているんじゃ。
昼夜逆転? 上等よ!
「そんじゃ、都行きますかぁ」
到着!
スマホを開いてエゴサでもしてみよう。
うんうん、アーシについて色々と語り合っているのが分かるね。
掲示板の方もチラチラと見て。
情報は小出しにした方が良いよね〜。
「戦う機会が少ないから、魔法と剣技の両立を見せれないや」
そこに寂しさを覚えつつ、アーシが向かう先は会議室である。
「ねぇねぇ、今完全にワタクシの存在無視したわよね?」
「いやーキリヤくんならするかなって。なんでキリヤくんの部屋で毎回ベッドに入っているんですか。それも裸で」
普段着ている服が綺麗に折りたたまれているのを見ると、仲間の誰かがお世話をしているのかな?
とりあえず、喋れる仲間は全員集めておきたいところだが⋯⋯。
訓練場から響く激しい戦闘音が先程から何度も聞こえる。
「あの日以来、ずっとああよユリちゃん」
「無理のし過ぎは良くないんだけどね〜それを言っても伝わらない」
しゃーない。前と同じようにキリヤくんの小学生時代の写真一枚を取引材料に止めさせるか。
てな訳で全員招集して会議室にやって来た。なぜだかレイにゃもいる。
暇なんだろうね。
「それで、ツキリちゃんは何をしに来たのよ?」
後ろからギュッと抱きしめながら、耳元で囁いて来る。良い声に耳が喜んでいる。
⋯⋯服を着ないから感触が、とか言ってみたいが残念だがらライムの服がそれを許さない。
全く抱きつかれている感覚がしない。くそう。
「大規模魅了の計画だね」
「って事は、第二回アイドル魅了やるの?」
「うん。そのつもり。あれは反響凄いからね。だけど前とは違い、サキュ姉考案。実質本人提案の企画になる。視聴者とのリアルな関わりは前提として、協力してやるつもり」
「視聴者参加型は良いですね。本人が乗り気なら入りやすいので、前よりも人が集まるかも知れません」
ユリちゃんの発言は正しいと言える。
「広い空間は前の所にするのか?」
「それに、その階層まで行ける人しか参加できませんよね」
アイリス、続いてローズが意見を述べる。
「場所は変える予定。階層移動はアーシらの仲間での支援だね。あと、今回はボリュームを上げて行きたいと思っている」
「と、言うと?」
未だに抱きついているレイにゃの疑問に答えるように、皆に目線を送りながら喋る。
「カメラ映像をリアルタイムでダンジョンの至る所で流す。映像越しでの魅了が本当に可能なのか、と言う実験も兼ねてるよ」
「もしも成功した場合、一度に沢山の仲間が増えるわね。確かに大規模魅了にふさわしいかも」
「うん。ゴブリン、ウルフ、とにかく色んな場所に用意したいと考えている。その後は鍛え方しだいだ」
そのための備品などをダンジョンに運ぶ必要があるのだが、そこはギルドと相談しかない。
アーシが自ら出ても良いが、さすがにそれは目立ち過ぎる。それに既にギルドが特定されているのだから危険は犯すべきじゃない。
まずはSNSで告知して、初期仲間を募ろうと思う。
その中で許可をギルドに求める人が現れてくれたら任せようかな。
人が集まり過ぎても問題なので、希望者が一定数集まったら先着順で決めた人数を協力者に選ぶ。
その人数は仲間達と相談。
「機材、人材、そこまで徹底的にやるならかなりのお金がかかるんじゃない?」
「そうだね。だから還元するんだよ。配信で得られた広告収入、スパチャで得られた収入。その全てをここで吐き出すつもり。キリヤくんはダンジョンの収入と分けてるから分かりやすいよ」
還元イベントは彼もしたいのだろう。
足りないようならダンジョンで稼いだお金も使う。
今は仲間達がキリヤくん無しでも自由に動けるし、ライムが人間に化けれるので、実は無限にお金が回収できるのだ。
本人は知らないがユリ達がもしもの時のために自主的に動いている。
レイにゃもそれに付き合っているのだ。
⋯⋯もしかしたら、キリヤくんが稼いだ総額よりもユリちゃん達が稼いだ総額の方が多いかもしれない。
だって別に、キリヤくんがいなくても下の階層に行けるし。学校無いし。
下の階層でも問題ないくらいの戦力は既に揃っているから。
最悪そこから引き出す。
費用の問題は気にしない。
協力者にもきちんと報酬を渡す予定だ。もちろん選択式にする。
金かサキュ兄とのツーショットのどちらかだ。
「⋯⋯中身が男だって知りながら盲信する男ってどんな心境なんだろ」
「そこは触れてはダメなところよ」
それもそうか。
細かな資料を作りつつ、SNSに告知するタイミングも考えよう。
ある程度進んでから本人に伝えるつもりだ。まずはサキュ姉の名前で動く。
「場所も考えとかないとな」
八層のどこかでやりたいな。
そこからキリヤくんの知りないところで作業を続けて資料を完成させた。
「あとはどのくらいの協力者が現れるかだよね」
ここでサキュ兄の人気っぷりが分かる事になる。
この段階はまだ序章に過ぎない。重要なのは機材を運ぶためのギルドの許可だ。
配信用の機材は許可されているけど、広範囲に魅了するためのモニターやマイクなどの機材は許可されるかどうか。
「許可が降りなければまた別の方法を考えないとか」
そもそもダンジョンでこんな事するアホがいないため前例が無い。そのためルールも明確に無い。
数日後、協力者の人数は上限を突破してギルドからの許可も得れた。
ギルド的にも何かの狙いがありそうなくらいすんなりと降りた。
ま、もしも何かあろうとも問題はキリヤくんが背負ってくれるからね。
まだアーシの暴走で片付けられそうなのでもう少し進めようと思う。
ギルドを通すのも高校生なのでダメ、なので影移動を利用してダンジョンの中に入る。
さて、今回集まってくれた協力者達に挨拶をして場所などを検討する。
他の階層に設置するモニター位置やモンスターの集め方についても話し合う。
この魅了が終わればキリヤくんに逐一エゴサする癖をつけてもらおう。
未だに気付く様子が無い。アーシもバレないようにして欲しいとは言っているが、人の口に戸は立てられない。
ルンルンで準備を始める。
「空間はここら辺が良いと思います」
「確かに広さも十分。人も沢山入りそう」
「人、ですか?」
名前が分からないので協力者Aくんとしておこう。
Aくんの疑問に答える。
「うん。協力者は率先して前に居て欲しいかな。他にも気になる人がいるなら集まるのは良いと思ってる」
「えっと、それは⋯⋯」
「せっかくの二回目だよ。皆だって真正面から観たいっしょ」
アーシが笑顔で答えると、ドッキとした反応を示した。
ただ、魅了が成功した感覚は無いな。
人の魅了ってのは難しいかもしれない。
「それにしても⋯⋯ここまですんなり案内されるって事は裏で協力者同士の協力関係ができてるな」
そこから話し合いが数日続く。
本当に大規模だ。想像以上に大変。でも楽しい。
「高校生のやるイベントじゃないなぁ」
期待が大きければ大きい程彼は頑張るだろうね。
◆あとがき◆
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