第188話 ツキリとレイの目指す先

 「だ〜疲れた」


 やっぱり緊張するなぁ。


 ああ言う何考えてるか分からない大人と会話するのは本当に辛い。


 相手が剣士ならば戦えば何考えているのかある程度分かるのに⋯⋯。


 『政治家に武力を求めてどうするのよ』


 「政治家さんだったのかな?」


 『さぁ。アンタはその辺興味無いからアーシも知らん』


 「記憶は基本共有だからな。基本」


 同じ事を二回言ったのは理由がある。


 大人の考えている事は確かに分からない。だけど同じ様にツキリの考えている事も分からない。


 そろそろ何を考えているのか知りたいところなんだが?


 『⋯⋯そうね。その前に心構えをしてレイに会いに行きましょうか』


 「ん? わーった」


 月の都へと向かってレイと会う事にした。


 仲間も増えて都も発展している。


 レイは珍しく仲間の訓練をしているらしく、訓練所にいた。


 「どうしたのかしら? ワタクシを呼び出すとは珍しいわね。ベッド・インしたくなったのかしら?」


 「そんなんじゃない。ツキリが話したいそうだ」


 「⋯⋯そう。良いわよ」


 一瞬だけレイの目が細くなり鋭くなった気がした。


 気のせいなら良いのだが、どこか悪寒のようなモノを感じてしまう。


 「それじゃ、アーシからね。単刀直入に聞くわ」


 ツキリに主導権を渡して何が起こるのかを見守る事にする。


 「雷の龍の襲撃、それに関わっているのはレイ、アナタよね?」


 ⋯⋯は?


 「何を言っているのか分からないわね」


 「まぁ全部憶測になるのだけど。聞いてくれる?」


 「⋯⋯良いわよ」


 数秒考えた後、レイはツキリの憶測を聞くらしい。


 「初めの襲撃は炎の龍⋯⋯でも運命の魔眼の年月よりもかなり早い。それは魔王側も予想外だったのでしょ?」


 「どうだったかしらね」


 はぐらかした?


 「一方的に世界との繋がりを作るのは難しいと思っているわ。それこそ、世界によって生み出された存在であっても」


 初代魔王がレイ達をこの世界に送った事を言っているのだろうか?


 聞いた限りでは魔法でサクって思えたが⋯⋯命懸けなのは間違いないと思うけど。


 「この考えはトンネルに近いのだけれど、山を両側から掘る事で開通する。その方が短時間になるから⋯⋯同じ原理だと思っているわ」


 「つまり?」


 「つまりは世界を繋げて侵略者を招いた裏切り者が魔王の中にいる⋯⋯そしてそれはレイじゃない」


 「そうね。ワタクシでは無い」


 否定しない所を見るに裏切り者ってのはいるのか?


 侵略者に手を貸して龍をこの世界へ招いた裏切り者が。


 「最初の襲撃はなんとか勝てた。その後はすぐに龍の襲撃が無かったのを考えるに送るには相当なエネルギーが必要」


 「それも間違いでは無いわ」


 ツキリは自分の憶測を確信に変えるためか疑問を呟いたりする。


 一向に本題に入らない。


 「それで、それがどうしてワタクシと雷の龍を繋げるのかしら?」


 レイが本題へと切り出す。


 「こちら側から世界を繋げる事を手伝う事はできる、これが正しいと言う確証が欲しかったのよ」


 「なるほどね」


 「それで雷の龍に関してはレイ、アナタが手助けした結果よ」


 「どうしてそう思うのかしら? ワタクシがどうして、そんな裏切り者の様な事をするのしかしら? ワタクシは魂の奥底から奴らを消滅させる事を望んでいるのに」


 そうだ。


 その恨みがあってどうして奴らの協力をする。


 その理由が無いじゃないか。


 「理由ならあるわ」


 その理由とは一体?


 ツキリはゆっくりと自分の方へ指を向けた。


 「キリヤくんに侵略者の全てを殺させるため。その覚悟を曲げずに突き通させるための要因が欲しかったのでしょ?」


 「⋯⋯なんの事かしらね」


 「レイ、君はアーシの目的に気づいていたんでしょ。そしてこの考えはきっと、未来のキリヤくんも辿り着いたはずよ。レイはこの目的を許容できない」


 ツキリの目的? そして未来の俺も辿り着いた目的?


 レイが許す事のできない目的ってなんだよ。


 「繋がった世界を切り離す事ができれば侵略者はやってこない」


 世界を、切り離す?


 「相手からの干渉を無くせば誰も侵略者のせいで死なない。キリヤの目的は達成。そして地球を守れるから地球の魔王も同じような考えになってると思う」


 もしもそれが本当なら、俺はそれが良い。


 強敵と戦い続けても危険なのは変わらない。


 その危険を取り除けると言うのなら、俺はその選択をしたい。


 侵略者が来るための道を斬る。


 「それで、どうしてワタクシがカス共の手伝いをする事に繋がるの?」


 「簡単よ。レイは奴らを全員『殺して欲しい』からよ。皆殺し。世界を切り離して安全を手に入れるなんて望んでない」


 世界の繋がりを断つ事ができれば、奴らの干渉は無くなる。同時に俺らも手出しができない。


 アリス達が死んでしまう未来を回避できるなら俺はそれで構わない。


 俺の目的は『護る事』だから。


 前に言っていたレイと敵対する可能性があると言うツキリの発言。


 そう言う事だったのか。


 俺は皆を護る事は敵を全員倒す事とイコールだと考えていた。しかし、そうでは無い。


 今は倒さなくても護る方法が出ている。


 目的は違えど過程は同じだったレイ。過程が変わり、同じ結果には辿り着かなくなる。


 俺の目的は達成できるが、レイの目的は達成できなくなる。それがツキリの考え。


 そしてその考えは地球の魔王も一緒だと⋯⋯考えているらしい。


 「殺して欲しい。だけど自分じゃ星に縛られて難しい。だけどこのままでは目的が達成しなくなる。⋯⋯だからキリヤの目的を変える事にした」


 目的を、変える?


 「君と同じ様に大切な人、愛する人を奪われると言う絶望を与える事にしたのよ」


 ⋯⋯嘘、だろ?


 「ナナミちゃんが死ねばキリヤくんは激しく怒り、止まらなくなる。護ると同時に奴らを全員殺す事も考える。それがレイの考え。雷の龍の襲撃を手伝った理由よ」


 「⋯⋯それは冗談か何かしら?」


 「いいえ本気よ。未来のキリヤくんはレイも殺したと言っている。それはナナミちゃんを殺した事に間接的に関わっているから。怒りと共に殺した⋯⋯それをアナタは容認した。自分の命を捨てても愛した人を殺した世界に復讐がしたかったから」


 ツキリの憶測。だけど全部本心から確信を持って言っているのだろう。


 レイの対応はどうするか。


 「⋯⋯そんな事言って、殺されるとか考えない訳?」


 いつもとは違う、冷淡で冷徹な声音。顔からは明るさが消え去っていた。


 視線だけで相手を凍らせるかのような鋭い眼光にツキリは笑みを浮かべる。


 「しないわ。いや、できないわね。だってアナタは子孫であるキリヤくんを愛しているから。そして復讐が叶わなくなるから」


 「⋯⋯正解よ。でも貴女の目的とやらは絶対にでき」


 「問題は世界の繋がりを斬るためのエネルギー。できないと思うのならば貴女は龍の手助けはしてない⋯⋯エネルギーを集める方法も分かるわね?」


 俺は分からないが、レイは分かっている雰囲気を出している。


 「第二回のアイドル魅了は実験でもあったの。映像越しでも魅了は可能なのか。人間相手にはどれだけ有効なのか」


 「やはりね」


 「そう。アーシは全世界の生物を魅了し魔力を与えて貰う。その力で世界の繋がりを断つ」


 「だけど、その力に耐える魂は君らは持ってない」


 「ええ。だから進化する必要がある。初代勇者よりも、初代魔王よりも強く。世界によって生み出された存在レベルに達する事が大前提よ」


 レイがナナミの死に間接的に関わっている事実を知ってしまった。今後どうすれば良いんだよ。


 「⋯⋯もしも君の仲間を脅しに使うとしたらどうする? 都の中にいるモンスター達を捨てられるかしら?」


 「虚勢は無駄よ。そんな事をすればキリヤくんは戦いを放棄する⋯⋯正確にはアーシが戦いを拒絶する。それこそ龍に寝返り大切な人達だけでも救える未来に進む。可能性は限りなく低いとしても、よ。戦う事が正しいとは限らない」


 レイは力無く、その場で崩れるように膝を折った。


 雷の龍が襲って来た事、龍がナナミを殺す事。


 それを考え計画していた。


 「質問、龍との接触はしてないでしょうし、雷の龍が自分の思い描く未来へ進むために行動するか賭けだった⋯⋯そうよね?」


 「ええ。経路を広げたのは事実よ。でも奴とは顔を合わせてないわ。適当に暴れればキリヤくんが怒りに呑まれ殺意を剥き出しにする鬼になると思った。全部ワタクシの復讐のために。幻滅したかしら?」


 諦めたのか、レイは正直に打ち明けてくれた。


 「そうね」


 「そうよね。自分が頑張るしかないかな。二体の龍はみちずれにしてあげるわよ」


 「自暴自棄にならないで。レイにはこれからも協力してもらう。世界の繋がりを断つ事にも」


 「なんの冗談かしら? ワタクシがそれを容認すると思っているの? あのクズ共を憎むこのワタクシが?」


 怒りを顕にしたレイに対してもツキリは余裕の態度を崩さない。


 「それでも協力して欲しい。貴女も仲間に囲まれる生活は好きでしょ。それに、キリヤくんを愛してるのも本心よ。これ以上何も失いたくない。そのための未来へ進む。良く考えて欲しい。それじゃ」


 ツキリは地球へと帰る。


 取り残されたレイはただ呆然と上を向いた。





◆あとがき◆

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