第187話 サキュ兄は謙虚(笑)である

 明日で夏休みが終わる。


 龍との戦闘後かなりの日数を眠っていた事になる。


 両腕は回復したが違和感があり、上手く動かす事はできない。


 リハビリと訛った身体の調子を戻さないと行けない。


 最早何年後とか関係なく、奴らは攻めて来る可能性がある。


 雷の龍よりも強い奴はいるだろう。そうなった場合、勝てるか怪しい。


 強くなるしかない。悠長な事はもう言えないのだ。


 その責任と力を背負った俺は今、世界の重役達が集まる会合に招待されていた。


 何回かDMで誘われていたが、眠っていたので行けなかった。


 行かない訳にはいかないだろう。龍との戦いで助けられたのだから。


 サポートが無ければユリの助けが間に合わず、俺は命を落としていた。


 世界的な注目を集める探索者、それは最前線を走る攻略組に近い待遇だ。


 期待される探索者。憧れの探索者に他ならない。


 だと言うのに。だと言うのにだ!


 俺の集めた注目はダンジョンにあまり関係ない龍との外での戦い。当たり前だけど!


 しかも、カッコ良くありたいとか少年心で思っていたのにサキュバスだ!


 戦闘を不向きとする種族のサキュバス! 肉体は女だ!


 「俺の夢とは少し、⋯⋯かなりかけ離れている」


 悲しむ俺の心を慰めてくれるのはライムくらいだ。


 ライムを抱いたまま俺は案内されるがままに廊下を歩く。


 もちろん種族になっている。


 なるべく中身の詮索はやめて欲しいよね。ギルドは特定されているから、種族を報告してない人達が疑われる。


 個人情報とは言えど、開示しなければいけない状況になるだろう。


 ライムに関してはモンスターが外に出てると広まっているので隠していない。ライムをぷにぷにしてないと精神的に死ぬ。


 隣にはユリが居る。ローズと違い翼は隠せないらしく俺同様に翼が生えている。


 龍のような尻尾もしっかりある。巫女服はペアスライムなので気にする必要は無いだろう。


 「サキュ兄さんをお連れしました」


 「サキュ⋯⋯仕方ないか」


 本名は言えないし、通じ易いしな。うん。納得はしないけど。


 「ようこそ。ご足労いただき感謝します」


 「あ、え、はい。どうも」


 ⋯⋯キョロキョロと周りを見る。


 隠し通路がありそうな場所と気配を消して潜伏している人が数人。


 後通訳っぽい人や護衛っぽい人もいる。全員探索者なのかな? 強い。


 華やかな空間を妄想していたが、会議室のような空間だった。防音性能は魔道具も使っているので高いだろう。


 「どうぞお座りください」


 用意された椅子は高級なオーラを出している。


 翼とか尻尾とかあって座り難いんだよな。


 「⋯⋯私に座りますか?」


 「この空間で良く冗談が言えるな」


 「冗談だと思いますか?」


 「冗談であってくれ」


 小声で素早く会話して、ご好意に甘える事にした。


 ユリと言うモンスターが普通に出ているが、この人達は驚く様子が無い。来る事を予測していたのだろう。


 「早速で悪いが⋯⋯」


 ダンディなおじさんが先導してくれる。


 俺の正面にホログラム映像が広がり、色んな世界の偉い人達の顔が映る。正確には偉い人だと俺が勝手に思ってる人達だけど。


 「⋯⋯本題に入らせて貰う。あのドラゴンは一体何なのか、それとどうしてモンスターである彼女が居るのか⋯⋯失礼。モンスターと呼ぶのは宜しくないかな。差し支えがなければ呼称を教えていただけませんかな」


 「私はモンスターで構いませんよ。それは自覚しておりますし誇りにも感じております。人間ではこの場に私は居ないでしょうから」


 「感謝します」


 「それでは、お⋯⋯僕? 私? が知っている事をお話します」


 「自然体で構いませんよ」


 俺は話をしようと思ったが、一度口を閉じる。


 この人達に話すのは助けて貰った恩返しでもあり義務だと思っている。


 信じるも信じないも彼ら次第だが、龍との戦いもあるし信憑性は高い。


 問題はこの話を外にどれだけ広めるか、だ。


 余計な混乱⋯⋯とかもあるが、サキュ兄の活動妨害が行われる可能性もある。


 魅了配信がしたい訳じゃないが、配信者の夢を諦めている訳では無い。目標は登録者百万人だ。


 話す上で当然の権利として主張を許して貰おう。


 「今から話す内容を外に漏らさない事を誓っていただけませんか?」


 「もちろんだとも。何なら悪魔の契約書を使っても構わない」


 「それはこちらが怖いのでご遠慮させていただきます」


 悪魔の契約書、誓いを守らせるために厳しい罰でも強制力を持つ魔道具の一つ。


 破れば死ぬ、なんて契約もできたりする。


 「護衛の人達は下がらせよう。沢山の耳があっても困るだろうからね」


 通訳っぽい人は通訳じゃないのか、その人達も去って行く。


 隠れている人達はそのままらしい。まぁ、そんな人が外に情報を広めるとは思わないけど。


 「それでは、お話します」


 ざっくりと説明する。


 説明をしてから質疑応答を繰り返して行く。


 それが終わったら龍の鱗と骨を譲渡する事にする。


 鱗一枚をライムに食べさせたら、それをベースに防具やら武器に変化できるので渡しても問題ない。


 「世界の侵略、これはまた大きな話ですね」


 「それをたった一人の高校生に。荷が重いでしょう。良く頑張ってくれました。偉そうですが、国民を代表して感謝を」


 「いえ。戦う事は力を得た責任であり義務だと考えています。なので感謝は必要ありません」


 まぁ、俺の戦う理由はもっと身勝手なんだけどね。


 「何か必要なモノがあればなんだって言ってください。必ずやお役に立ちましょう。国の未来を託すようなマネになってしまいますが⋯⋯もちろん、我々も指を加えて応援するだけではありません。今後に備えて様々な準備をしていきます」


 「はい。ありがとうございます。手を借りたい時は遠慮無く、貸して貰います」


 話す事は終わったし、俺はもう帰ろうかな。


 リハビリが本当にしたい。今も腕がうずうずとしている。


 俺の中身や魔石などに付いては触れて来ないかな?


 機嫌を悪くさせないために下手に出ているのだろう。当然だな。


 暴れては困るし、侵略者に対抗できる強大な力を敵にしたくない。


 自分で言うのは恥ずかしいが。


 「世界を守ったアナタには称号を与えたいと考えておりますが、いかがですか?」


 「⋯⋯称号、ですか?」


 それはもう憧れであり夢の目的を八割達成した事になるのでは?


 日本では強力な探索者に称号を与える制度がある。


 日本に実力が認められた結果を意味しているのだ。


 「『龍を殺す者ドラゴンスレイヤー』なんてどうでしょうか?」


 シンプルだな!


 なんかもっとカッコイイのを期待しちゃったよ。


 それじゃ探索者としての実力を認められたってよりも侵略者である龍を倒した事に対する功績じゃないか。


 しかも、称号は日本の制度なので日本人であり日本の探索者だと世界に誇示する事になる。


 まぁでも、称号がある配信者とない配信者って考えれば受け取るべきだな。


 もちろん、探索者としての実力をいずれ認めさせるし。


 『待ちなさい』


 なんだよ。


 『冷静に考えなさい。ドラゴンスレイヤーって言うシンプルなのに大層な称号を持ったサキュバスが、戦わずに魅了しているのよ⋯⋯凄く滑稽じゃない?』


 ⋯⋯はっ!


 『龍を倒した者が圧倒的な格下モンスターに媚びへつらい魅了する。それを日本が認める⋯⋯凄く恥ずかしくない? ボクはドラゴンをたおしたんだよ! って看板を背負いながら魅了するの?』


 ⋯⋯確かに。


 『ドラゴンを倒した人が、メイドになったりキャットになったり、くっ殺したり触手プレイしたりSMしたり、恥ずかしくないのか! ⋯⋯むしろアリか?』


 俺は静かに立ち上がり、頭を下げた。


 「私に、その称号は合いません。こちらの力不足です。大変ありがたい申し出ですが、辞退させていただきます」


 「ほう。役不足では無く力不足、と?」


 「はい」


 「謙虚なんだな」


 なんか皆さんの好感度が上がった気がする。


 ただ、今後その称号で視聴者に弄られるのを恐れたから辞退しただけなのに。


 サキュ兄は謙虚ってか? そんな訳あるか。


 ドラゴンスレイヤーが魅了する度に精神崩壊しているなんて、嫌だろ。俺は嫌だ。


 「貴重なお時間、ありがとうございました」


 俺はユリを連れて帰る事にする。ドアをユリが開けてくれる。


 あ、最後に言わないとな。


 「もしもここで敵対してたら、あなた方はどうしてましたか?」


 「と、言うと?」


 「⋯⋯はっきり言います。俺を制御するために弱味を握ろとか、考えますか?」


 相手は国だ。やろうと思えば俺の正体を突き止める事は可能だろう。


 だが、それはやらせない。


 やろうとしたら俺がどう動くか、考えて貰う。


 「そんな事はしないさ」


 「それは良かったです。もしも俺が不利になる様な事をしようとした時は、敵と判断します」


 「敵に判断された場合は、どうするのかな?」


 「さぁ。⋯⋯ただ、配信を見直していただければと思います。隠れている人達に追跡させても同様に敵と判断します」


 護衛はともかく、偉い人達は強そうに感じない。弱く演じている訳でもない。


 ローズの毒には耐えられないだろう。それだけで敵対関係は避けるだろうな。


 氷河期レベルの極寒な空気にしたところで、俺は本当に帰った。





◆あとがき◆

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