第189話 ローズの目指す先

 ローズはソウヤに独断で会いに来ていた。


 自分が新たな力を手に入れて強くなる。そのために必要な事をするために。


 夏休みと言う時期なので子供と遊びたいだろうソウヤは時間を作り、ローズと会う。


 「なんの要件ですかね?」


 種族になっている時とは違い弱腰である。


 仕事では部下にさえも仕事を押し付けらそうな雰囲気をソウヤは持っている。それが人間状態のソウヤだ。


 「自分に、魔王の後継者になる力をくれないか」


 「それはつまり、魔王になりたいと?」


 「そう言っているつもりだ。今後の戦いにおいて魔王クラスへの進化は前提条件。そのための最適解だと結論付け、会いに来た」


 「もう一人の吸血鬼がおりませんでしたか?」


 月の都でネズミの英雄と戦った時、吸血鬼の種族を持った人間とソウヤは会っている。


 詳しくは伝えてないため知らないソウヤ。


 もう一人の吸血鬼とはクオンの事であり、彼は元オオクニヌシのメンバーだ。


 ソウヤも何度か家族を狙われている事もあり、オオクニヌシを嫌っている。


 クオンも同じ魔王後継者なのだから、そちらに頼めば良い。


 「そうかもしれない。なんで自分はそうしなかったんだ?」


 一度は宿敵だと考えていたソウヤに力を渡して欲しいと願い出る。


 どうしてその考えが真っ先にやって来たのか。


 進化素材となったソウヤの血が関係しているのだろか。


 ローズは数分考え込んだ後、自分なりの答えを出した。


 「この先の戦いにお前はついて来れない。だが、家族を守りたいと言う強い意志がある。それを貰いたいと思ったのかもしれない」


 「意志、ですか?」


 「ええ。正直自分はまだお前の事をあまり好いてない。むしろ嫌いだ。仲間をボコりアイリスをボコったから」


 「耳の痛い話です」


 だがそれでアイリスが強くなった事実は確かにある。


 単純な力だけで言えばアイリスはキリヤをも超える。だからと言って勝てるかは別問題。


 「自分の進化にも手助けして貰った。英雄襲撃の時も手を貸して貰った。都なんてお前に関係ないのに。⋯⋯だからだ。お前の意志を背負って自分は戦いたい」


 「そうですか」


 ローズはソウヤの意志を背負って戦う。それが恩返しになるのだと思ったようだ。


 ローズの言葉を頭の中で復唱し、考える。


 もしも魔王の後継者に成れたとしてその後が上手く行くか分からない。


 吸血鬼に近い存在だと言えど元は純粋な鬼でありゴブリンだ。


 上層のモンスターなだけあってとても弱い存在だった。


 ソウヤとて、今のローズと戦えば簡単に勝てる相手では無いと分かる。


 戦争の最前線で戦うキリヤと隣に立つユリ。


 その二人と肩を並べて戦いたい。


 「⋯⋯一つ質問です。この力を受けるに当たって、魂の方は大丈夫なんですか? 身の丈に合わない力は身を滅ぼしますよ」


 「その辺は問題ないと考えている。この身が朽ちる前に再生しきる。魔石が必要ならば心臓を作れば良い」


 「心臓を作る?」


 「再生能力と血を操る能力を組み合わせる事で心臓を作り出すんだ。何回かやって成功している」


  心臓を用意しないのは弱点を増やさないためなのか。


 そこを深く考えるのは止めて、ローズの覚悟を受け取る事に決める。


 後には引かない。やると言ったからやってみせる。


 その覚悟がヒシヒシと伝わって来たのだ。


 だが問題はもっと根本からある。


 「魔王後継者の力を分けるのは同意しましょう。ですがその方法が分かりません」


 「お前の血をくれ。そこから無理矢理魔眼を会得する」


 「かなり危険じゃないですか? 僕の血を受けすぎると眷属になる可能性があります。魅了が最高の洗脳能力なのは理解していますが、限度があります」


 「ムッ。確かに魅了されて仲間になった身だが既に能力の効力は無い。洗脳など関係なく主人に仕えると自分の意志で決めたのだ。能力に縛られている訳では無い」


 ムスッとしたローズに平謝りしつつ、人気の無い場所に移動して行う事に決める。


 だが、そんな必要は無いと言わんばかりに周囲には人気が全く無い。


 昼間であり夏休み。だと言うのに人一人も居ない事実に二人は警戒する。


 誰かが襲って来たのか、そう考えたからだ。


 「警戒心を解け」


 「ガイアラッド!」


 「地球の、魔王」


 二人の前に現れたの地球の支配者である魔王だった。


 「話は聞かせて貰った。ローズだったか。魔王になる覚悟はあるのか?」


 「もちろんです。人間を捨てると言う条件も元からモンスターの自分には適応されない。適任だと思います」


 「確かに。個としての力も申し分無いからな⋯⋯だが、お前は突然変異で生まれたヴァンパイアだ。魔眼が身体に馴染まなかった時、どうなるか考えてはいるだろうな?」


 「そのような未来はありえません」


 「失敗のケースを考えないのは良くないぞ」


 「鼻から失敗など考えていませんから」


 強気の姿勢を見せたローズに魔王の口角は少し上がった。


 強面なためにその笑みも何かを考えているんじゃないかと思わせる。


 純粋な喜びに対してローズは深読みを繰り返す。


 「良いだろう。どの道魔王の頂へ辿り着ける者などあの子くらいだと思っていたところだしな。少しでも共に戦える戦力がいる方がこちらとしても心強い」


 「感謝します」


 「我の力を受け取り、我の力を引き継ぐ後継者と成れる事を願っているぞ」


 魔王から禍々しい光が出現して、ローズに吸い込まれて行く。


 刹那、駆け巡る激痛の吐き気、倦怠感に襲われる。


 視界がぐにゃぐにゃと歪んでまともに正面も見らず、平行感覚が失われて立つ事もできない。


 身体の奥底から細胞が悲鳴を上げて腐って行く。


 魔王から直接与えられた魔王への切符はローズの身体を蝕んで行く。


 本来なら魂に眠っている魔王へ至る力を覚醒させる。そのためのダンジョンや種族。


 しかし、ローズは違う。


 吸血鬼とは関係ないルートから無理矢理参入して、魔王と言う絶大な力の保有者から直接与えられた。


 その結果が現れている。


 再生の間に合わない肉体の崩壊。


 「さすがに段階を踏むべきだったか」


 魔王はまだ間に合うと思い、与えた力を回収しようと手を伸ばす。


 だが、それをソウヤが止めた。


 「彼女なら大丈夫ですよ」


 「この惨劇を見てどうして冷静にいられる。このままでは肉体が朽ち魂までもが崩壊する。急いで力を抜かなくては成らない」


 「大丈夫です。彼女の覚悟は本物でした。必ずや耐えますよ」


 「そんな感情論でどうにかなる問題では無い」


 手を振り払いローズに向かうが、今度は彼女の手が魔王の足を掴んだ。


 苦しみに悶え今にでも意識が飛びそうな歪んだ瞳を魔王に鋭く向ける。


 まだ、大丈夫。


 そう強い眼差しが訴えている。


 「ああああああああああ!」


 崩壊して行く身体を無理矢理再生させるのを諦めた。


 崩壊に抗ってはダメなのだ。崩壊を受け入れるべきだと考えた。


 崩壊した後の空虚な身体に意識を向けて、再生させる。


 再生しても崩壊は侵食して行くが、同じ事を繰り返す。


 崩壊した所を再生しては再び始まる崩壊。


 ローズの全身が何回も何回も、再生と崩壊によって作り替えられる。


 その度に身体の中が書き換えられる。


 長期戦になった。太陽が月に変わりまた太陽へ。徐々に崩壊のスピードが遅くなる。


 その長い時間を目を離さず、二人は見守った。


 そしてついに、長時間に渡ったサイクルは終わりを告げた。


 「はぁ。はぁ。耐えた。耐えきった」


 ローズの眼は運命の魔眼を手に入れた。


 魔王の後継者になるための器となる身体を手に入れたのだ。


 「魂が砕けてもおかしくない所だった。末恐ろしいな」


 「主人の影となり、ユリ様の右腕となる。こんな所で、負けてられないんだよ」


 「面白い。次の段階だ。魔王への進化、今のユリと同じ次元の強さを得て貰う」


 「はいっ!」


 ローズは地球の魔王に連れられて、しばらくキリヤ達の前から姿を消した。




◆あとがき◆

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