第125話 役目と仕事と虚勢

 「まずは小手調べと行こうか」


 「ん〜それ好きにゃね〜」


 大量の火球が出現した。その数は五十前後か。


 一つ一つの火球が大きいから隙間なく見えるけど、冷静に分析して数だけで見れば大した事ない。


 破壊しても次々に生成されるだろうが、一度に破壊すれば違う魔法を撃ってくるか。


 殺す〜とか簡単に言ったけど、虚勢に過ぎない。多分だが今の自分じゃ無理かな。


 「キャラ立ちのために一人称と名前を決めないとな。【月光弾ムーンバレット】×50」


 自分の周囲に月の光でできた銃弾が構築される。


 サイズは突然劣るが貫通力の観点から見れば奴の火球よりも強いだろう。


 さて、その全てを操るのはキリヤくんじゃ無理だが自分ならできる。


 「消えろ」


 火球全てに向かって弾丸を放ち、貫くと同時に爆ぜる。


 せめて綺麗な花火ならありがたいのに、ただ爆発しているだけなので汚い。


 「ほう。一瞬であの数を破壊するか」


 「ほら、もっと手札を見せてよ。つまらないじゃないか、弱い者いじめは好きじゃない」


 そもそも意識が芽生えたばかりであり、個性と呼べるモノはないが。故に好き嫌いも現在は無い。


 全ては主人格であるキリヤの知識から虚勢を張っているに過ぎない。


 強いて言えば、自分の性格はレイちゃんよりかな?


 「彼女はかっこよく戦いそうだけど、自分には無理かなぁ」


 「何を言っている?」


 何もして来ないのは警戒しているからか、それとも魔法を構築しているからか。


 ちなみに自分が攻撃してない理由はまだ慣れてないからだ。


 魔法を初めて使ってみたけど、体内からエネルギーが抜ける感覚は気持ちの良いモノじゃない。


 初めて経験する事ばかりだ。


 個人的にエロく可愛く美しく、それでいてかっこよく戦いたいところだ。


 「ならば、これならどうかな」


 口の中に炎が宿る。


 またブレスか。芸が無い。


 ドラゴンの身体の特性上、口から出せる炎にも規則性があるのだろう。


 空間を自由自在に動かせる魔法の方が強そうだ。


 「えっと、自分を剣だと思い込むんだっけ? 変なの」


 手刀を掲げて、魔力を流す。


 「【月魔剣ムーンセイバー】」


 手刀から伸びる光の剣。ライムの剣は使わない。


 魔法を扱うだけでも大変なのに、そこに剣とか無理無理。


 「灰となれ!」


 「てめぇがな!」


 振り下ろす月光の剣がブレスを切り裂き、本体へと向かって行く。


 奴は危機を感じたのか、横にスライドするように飛行して回避した。


 キリヤくんのカクカク曲がる飛行とは違って、あっちは優雅だな。


 ああ言う飛び方しながら魔法で大量の敵を殲滅したいモノだ。カッコイイから。


 「あらま。掠っただけでそこまで削れる?」


 ドラゴンの翼の先っぽら辺をちょっと斬ったね。


 身体を斬れるとは思わなかったけど、僅かとは言え斬る事ができてびっくりだ。


 斬った時に難しさを感じなかった。豆腐を包丁で斬るような、とても簡単な気がした。


 「ああ。ようやく掴んできたよ」


 これが眠っているキリヤが持つ力か。後はこの力を自分の力と合わせれば完璧だね。


 多分レイちゃんが望んでいるのは相反する二つの力を融合して新たな一つの力とする事。


 生まれたばかりで、知識しか無い、キャラ設定も曖昧な自分がそれを行う。


 今はまだドラゴンも警戒してあまり攻撃して来ない。


 適当に会話を続けて時間を稼ぐのが妥当か。⋯⋯ついでに情報でも引き出そうかな。


 「具体的に聞きたいんだけどぉ。レイにゃとお前って戦った事あるの?」


 「聞いていないのか? それとも信頼されてないか」


 彼女の事を知っているのは確定かな。確信めいた言い方だ。


 実際信用や信頼されているかは重要じゃないと思うんだよな。キリヤくんがレイちゃんを信用や信頼するかが重要。


 だってレイちゃんはキリヤくんを使うしか選択肢がないだもん。信頼関係はあんまし関係ないじゃないかな?


 言わなかったのは多分⋯⋯いや絶対にキリヤくんが深く聞かなかったからだ。


 彼女なら聞いたら意気揚々、水を得た魚のように喋り出すぞ。


 「良かろう。冥土の土産に教えてやろう」


 空間を突き破って来たし、多分異世界的なところから来たんだと思う。


 異世界にもそんな言葉あるんだなぁ。


 「我が住処の火山で激闘を繰り広げた。どっちも勝ちを譲らぬ戦いで深手を負わせた。奴は泣きながら逃げて行ったわ」


 「ふーん」


 レイちゃんは好戦的なタイプには思えない⋯⋯それがキリヤくんの認識だ。


 キリヤくんは強くなりたいから戦いを望むが、好き好んで敵を作るタイプじゃないし、その点は似てるかもねレイちゃんと。


 レイちゃんがドラゴンを襲った理由が気になるなぁ。


 「⋯⋯でもなんか嘘くさいな」


 「何?」


 「肌で感じるんだよ。お前の魔力量は確かに多い。今すぐにでも踵を返して逃げ出したいくらいに。⋯⋯でもさ、怯えるには至らないんだ」


 恐怖しないんだよ、お前の魔力には。


 だって、レイちゃんの方が魔力量は多かったから。


 敵を穿つ時、その下準備は観察からの攻撃パターンや癖を解析する事にある。


 キリヤくんは相手の動きを見てから対応するのが基本⋯⋯いや、全ての感覚を使って回避しながらパターンを分析する。


 一応肉体的機能は引き継いでいるが、日頃の生活で培った勘などは共有できてない。


 同じ事をしようとしても失敗するのがオチだ。


 だから、キリヤくんの鍛えた視力や聴覚などシンプルなのを活用して相手を観察する。


 弱点が無い生物がドラゴン? はっ!


 弱点が無い生物なんていないんだよ。強い面があれば弱い面がある。


 それを見つけ出すのが自分の仕事。


 「少しだけ、本気を出してやろうか」


 「あーそれは止めて」


 ドラゴンが揺らりと動いた。刹那、自分の隣に炎を宿した爪を備えた奴が現れる。


 速い⋯⋯が、今ならなんとか回避できる!


 「セーフ!」


 「先程のキレが無いな」


 見抜かれた? その事を暴れないようにシラフを保つ。ポーカーフェイスって奴よ。


 いや、真顔だけだとむしろ隠しているって言っているもんか。ちょっと笑っておこう。


 実際、キリヤくんよりもこの身体を動かすのは下手です。はい!


 「でもさぁ、アンタも片翼の先っぽが斬られただけで随分と動きが鈍くなったね」


 「なぬ?」


 「その巨体だもんね。翼も大きいけど支えるのは大変かぁ。それに機動力の高い飛行をするためには翼の全てが重要だもんねぇ」


 もしかしたらそれはキリヤくんだけかもしれない。


 「ねぇ、今の一撃を回避されたんだよ。もしも自分が本気出したら、君じゃもう追いつけないかもね」


 煽った。シンプルに煽って、嘲り笑う。


 それでムカついたのか、虚空から炎のレーザーが出される。


 もうブレス撃つ必要ないよね!


 「ところがどっこいコッチもできるもんね! 【数多な月光ルミナスレイ】」


 レーザーに対して同じ数のレーザーをぶつけて相殺する。


 うん。だいぶ上手くない? やっぱ自分って天才かな?


 「塵となれ」


 爪を広げた奴が背後に現れて、空気を振動させながら迫って来る。


 速いにゃ。


 「でーも、当たらない!」


 回避成功!


 ついでに流れる様に迫って来た尻尾の薙ぎ払い攻撃も回避!


 「ぬわっ!」


 飛びながら堪えるってどうするんだろうね!


 風圧で少しだけ飛ばされたんだけど!


 胸あんのに軽いなこの身体! いや、風圧が凄いのか。


 「【月光弾ムーンバレット】×60」


 大量の弾丸を生成して、ドラゴンに向かってぶっぱなす。


 高速飛行で回避しようとしても、その先に残しておいた弾丸を向かわせる。


 右回りで動きているので、偏差撃ちは難しくない。


 真っ直ぐにしか飛ばせないが、そこを数でカバーする。


 「ふんっ!」


 翼を大きく羽ばたかせて炎の竜巻を形成し、弾丸を巻き込み破壊した。


 流石に一個くらいは当たると思ったのだろう。警戒心の表れか。


 魔法を警戒している大きな証拠だろう。


 「げっ!」


 なーんでこっちから見たら大技っぽいの使ったすぐに動けんのかね。


 反応が微かに遅れた事により、容赦なく爪が直撃する。


 激しい振動が脳を揺らし、地面と思われる場所まで叩き落とされる。


 「進化の影響か、ギリ骨折れてねぇ」


 すぐに立ち上がり飛び立つ。直後、背後を蹴り抜いたドラゴンは飛び上がる。


 少しでも遅れたらぺしゃんこだったね。


 「終いだ」


 口を大きく開き、巨大な火球を構築している。


 「【月光線ムーンレイ】」


 月光の光線と巨大な火炎が激突し、押し負ける。


 だけどこの空間を破壊する程の破壊力は無くなったため、安心しながら回避する。


 「同じ手はくらわないよ」


 炎の分身体の不意打ち攻撃を回避し、二体目の分身体の攻撃を受ける。


 「がっ」


 二体目は卑怯⋯⋯。


 追撃の手は止まずにサイズを小さくし、速度を重視した魔法が飛んで来る。


 「む⋯⋯」


 魔法で応戦しようとしたが、背後から迫って来た魔法が命中して魔法発動がキャンセルとなる。


 さらに、正面から来た魔法が肥大化し爆炎となり包み込んだ。


 ライムが守ってくれたので耐えれたが、直撃したらやばかった。


 手数と速度を重視した魔法攻撃にシフトしたか⋯⋯。


 「ゴホゴホ。あーあ、肌が黒く焦げちゃった。美しい肌にどうしてくれんのよ」


 「潰える命に美はいらぬ」


 「死して尚美しくありたいのが女心よバカ。⋯⋯女であってるかな?」


 「既に満身創痍、次の一撃で終わりだ」


 攻撃を受けた回数は片手で数えれる程だろうが、その全てが強力すぎる。


 進化のおかげで強靭となった身体だから耐えているが、次の大技を受けたら立てない⋯⋯最悪死ぬと思う。


 マジで強すぎ。おかしいだろ。


 魔法も全然与えられなかったしさ! 悔しっ!


 「まぁでも、優先順位だからねぇ」


 両手を掲げて、同じような見た目の火球を作り出しているドラゴン。


 あの無防備な身体に魔法を撃ってやろうか⋯⋯防御の魔法くらいは同時に展開できるか。


 あれを止めるにはもっと確実で強力な攻撃が必要だよね。


 「ヒヒッ」


 アイツは強い。それは認めよう。


 魔法だけじゃ勝ち目は無いね。


 ⋯⋯でもさ、魔法だけじゃないよね君はさ。


 自分が魔法を使おう。だから君は身体を使え。そして戦え。


 君がそれを一番望んでいるはずだ。


 あの見た目はただの火球でも、この空間ごと自分を殺せる魔法をどうにかしてくれ。


 「魔力の調和は終わった。こっから全力よ」


 自分の意識は沼に落ちるように沈んで行く。





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


遅れてしまい申し訳ありませんでした

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