第126話 新たな能力
加速して奴の顔面を左側から蹴り抜く。
細長い足から想像もできない攻撃力を秘めた攻撃は奴の魔法を霧散させる衝撃を出す事には成功した。
翼が四枚になった事で飛行の不安定さはあるが、速度は上がったらしい。
元々二枚だった翼が倍になっただけでも扱いはかなり難しくなる。
これからの練習次第だろうか。
「そ、その攻撃は⋯⋯」
「なーに怯えてんだよ。ただの蹴りだろ」
いや、ただの蹴りにしては強すぎるな。
アイツの硬かった鱗の破片がパラパラ落ちるくらいには強い攻撃だったらしい。
うーん。なんで?
『おー。だいぶ強いね』
頭の中に響き渡る可憐な女の声。いきなりの事で普通なら驚くところだろう。
しかし、俺は何故か冷静にその声を聞く事ができた。当然、納得している訳じゃない。
『あーこっちは気にしないで戦いに集中してね』
「できるか! 誰だお前!」
『まだキャラ設定決まってないのよねぇ。とりあえず魔法は任せてね。さぁ戦え!』
「いや、だからなんだよ!」
『男なのに細かい事を気にするのね。だからサキュバスの種族になるのよ』
え、関係なくないか?
だいたい細かくないだろう。意識がいきなり回復したと思ったら翼が増えているし。
てか、いつもよりも視線が高い気がするから身長も上がってるぞ。
戦った覚えのない記憶まで入っているし。
意味が分からない事が多いな。
「貴様がなぜ、あの男の力を使える!」
「あの男とは?」
「なぜだ。なぜこの世界に奴の力を使える存在がいるのだ」
「『うわぁ勝手に混乱してブツブツ言ってるよ』」
頭の中にある声とハモったんだが? なんか嫌である。
しかしどうしたモノか。
「とりあえずライム、二本の剣になって」
アイツは倒す、この決定事項に変更は無い。
『情報は引き出して欲しいにゃ』
「それができるとは思えん。芯のある奴は情報を喋らんし、魅了にもかからん」
『レイにゃが居ればなぁ』
「その場合、なんか全力でアイツを殺しそうな気がする」
本当に何となくだけど。
アイツが混乱しているうちに俺は自分の身体に慣れるとしよう。
翼が増えた事や身長が伸びたのは、自身の当たり判定を大きくしたのと同義だ。
そのデメリットを背負ってでも大きなメリットを得れたと確信するためには、きちんとこの身体を扱う必要がある。
「ムーンレイ、あの女の仕業だと言うのか。なぜなのだ。ふざけるな!」
なんか怒ったんだけど。嫌だな全く。
だいぶ翼の扱いに慣れたので、攻撃に転じる。
前の俺の約二倍、いや三倍程の速度で飛来した。
二本の剣を掲げ、奴に向かって振るう。
「む?」
魔力を制御してないのに、勝手に剣に魔力が宿る。
『【
黄金に神々しく輝く二本の剣をドラゴンは焦った様子で回避した。
その焦りようは半端なく、右目を大きく見開いていた。
我に返ったドラゴンは俺を真っ直ぐに見つめる。
『ふむ。まぁ別に意識する必要は無いか』
なんか勝手に俺の魔力を使って魔法を構築されたんだけど。多分この声に。
「その力は初代勇者の力。なぜ魔族であるお前が使えるのだ。ありえぬ。魔族が神聖魔法を扱うなど」
そう言われても分からん。色々と俺も混乱しているのだ。
『キリヤくん。自分の言葉を復唱して』
「え、嫌だ」
『お願い! 全面的に魔法での協力するから!』
なんなのコイツ。
従う事にした。俺にも必要な情報だと思ったからだ。
「えーっと、その通り。これは初代勇者の力。ちなみにその事は知ら⋯⋯ここは言わないで良い?」
全く注文の多い事で。
「対象の魔力と反する魔力に自動的に染まる性質。生物なら持っている魔力と相反する魔力は弱点となる。この力は絶対的な弱点を用意する能力」
体内に流れる魔力の性質は人それぞれ、種族それぞれである。
人間に弱点があるように、魔力にも弱点は存在する。
簡単な例を出すとするなら、炎タイプは水タイプに弱いと言う一般的な認識である。この能力は水タイプになれると言う事。
反対に相手が水タイプなら草タイプや電気タイプと言った感じに変わる。
この一般的な弱点思想を偏見だと言うならそれでも構わない。
「もしも弱点の存在しない種族があるとしても、弱点となる。その名も、『
『ちなみにアイツの記憶にある能力名じゃなくてもコレで行くね』
なんともまぁシンプルかつ強力な能力だろうか。
自分の身体を飛ばすために支えとなる魔力、鱗の硬度を上げる魔力、その全てが奴の弱い点となる訳か。
「憎たらしい力だ」
「さらに、勇者限定(多分)の神聖魔法と月の魔王が生み出した月魔法を融合した『聖月魔法』これが進化で得た力だ」
聖月魔法、か。
『あ、使う魔法に聖属性が追加されただけだから、基本は月魔法の認識で良いと思うよ』
あ、そう。
「そうか。だがやる事は変わらぬ」
ドラゴンは何かしらの魔法で剣を取り出した。
巨体が持つに相応しいサイズの剣であり、俺の身長は優に超えている。
「ここからは正真正銘、全力で相手を致す。これは敬意の現れではなく、貴様も警戒するべき、排除すべき相手だと認識したからだ」
『はぁ!? 倒す程でも無い雑魚だと思ってたの! 腹立つぅ! やっちゃってキリヤくん!』
他力本願なのに叫ばないでくれ。頭が痛くなる。
一度深呼吸して、俺とドラゴンは同時に動き出した。
炎を宿した剣を掲げ、空気を切り裂きながら振り下ろされる。
「せいや!」
俺はそれを真正面からブロックし、後ろに飛ぶ。
「この一撃を耐え抜くか。だが妙だな」
その感覚は間違いじゃない。違和感に気づける辺り剣の腕は確かだな。
俺がしたのは防御に見せかけたパリィである。後ろに下がりながしたのでダメージはゼロだ。
『全族特攻』の強力な点は防御にも適用される事だ。
アイツの武器にも魔力は流れていたし、炎を宿した事で魔力も表面化している。
その弱点となる魔力なら当然耐性もある訳だ。
未だに魔力の性質ってのが分かって無いけど、強力な能力が手に入ったのは間違いない。
「くらうがよい!」
直接攻撃は同じ結果を生むと判断したのか、炎の斬撃を飛ばす。
それだけで収まらず、虚空からレーザー、口からブレス、さらに火球も同時に展開する。
やりすぎだろ。
『【聖月剣】【
相手のレーザーと同じ数のレーザーと数多くの弾丸、さらに剣にも光が宿る。
俺にはできない同時魔法展開、しかもその数がおかしい。
『魔法に集中できるからね。当然、この魔法全てに説明した通りの神聖魔法効果と全族特攻が乗ってるよ! 神聖魔法があの龍に何かの効果あるか知らんけども!』
俺が集中するべきなのは⋯⋯敵の魔法じゃなくて本体だな。
俺は前に進み斬撃を皮一枚で回避し、迫り来る魔法全ては頭の声が対処した。
ブレスを右の剣で切り裂き、本体に肉薄する。
「はああああ!」
「ゴガアアア!」
二本の斬撃と巨大な炎剣が交差する。
力で押し負けて吹き飛ばされる俺。追撃の手は止まずに魔法が飛んで来る。
獄炎の矢、そう表現するに十分な光景だ。
さっきの一撃で力で負けていると分かった。
「あれを斬る」
『え、無茶でしょ。めちゃでかいし、めちゃ熱そうだよ!』
運命の魔眼、俺の望むテロップだけを見せろ。矢を対処できる確率を。
『45%』
半分近い。なら後はその確率を上げるため、俺が工夫を即興で生み出せば良い。
「真っ直ぐ迫る矢を斬る」
俺の位置とドラゴンの位置を明瞭にし、どのように剣を振るえば良いか一瞬でまとめあげる。
奴が矢を放つと同時に俺も矢に向かって飛ぶ。
「おっらぁ!」
回転しながら矢の中心を避けて二本の剣を通す。
切断する必要は無い。目的は空間を破壊させないために威力を弱らせる事。
「はぁぁぁぁ」
息苦しい。身体が焼け焦げる。視界が霞む。
それでも、この化け物を、外に解き放つ訳にはいかない。
この空間で食い止め倒すしかないのだ。
俺の家族、幼馴染や友人、大切な人達がいる場所を護るために。
「力を最大限、引き出す!」
その流派は見て来ただろ。腕が折れそうなくらいの威力で!
「速度を力に」
身体の捻りで生み出す高いスピード、それも力だ。
「おらっ!」
俺は矢を弱体化させる事に成功し、空間の維持は可能になった。
四体の炎龍が囲み、全員が蹴りを飛びながら放つ。
『25%』『10%』『40%』
三つの確率がそれぞれに示される。それは破壊できる確率、そしてその場所。
剣をどのようにして扱えば、どのように通せば、破壊するための優先順位。
俺の耳が炎の音を細かく捉えて脆い部分を見つけ出す、肌で感じる『大丈夫』と言う気持ち。
それに従い、剣を通す。
「なぬっ」
「思考力も上がってるのか。世界が一瞬止まって見えたぜ」
『よ、厨二病!』
俺は頭の声を無視して、唖然としている奴の左顔面に再び肉薄した。
今度は剣で攻撃だ。
「ちぃ」
だが、翼が俺の攻撃を邪魔して来た。
唖然としていたにも変わらず対応して来るか。
でも翼での攻撃の仕方が、まるで自分の身体を守るようだったぜ。
「レイが逃げたとかほざいたらしいがやっぱり違うか」
レイは背中の火傷は治せると言った。後遺症は無いに等しい。
だがアイツは別だ。
魔法での攻撃で右回りした理由、左側の攻撃に対して大きな範囲で攻撃できる翼を即座に選んだ理由。
それが示すところ。
「お前はレイとの戦いで左目が見えてないんじゃないか」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
次回には決着すると思います
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