第100話 キュラの戦い方

 ライムが進化したので色々とダンジョンで扱って来た。


 結果として分かったのは、武具として扱う時に性能の劣化が緩和した。


 特殊能力などの再現はまだ無理なようだが、純粋なスペックなら再現できる。


 能力を持ち合わせていない防具を食わせる事ができれば、アリスに頼む必要は無い。


 だが、その場合アリスにモンスターについて話さないとならない。


 外にモンスターが普通に出ていると言う異常事態に巻き込んで良いモノか。


 アリスが誰かに話すとは思えないし、話しても問題ないとは思う。


 「⋯⋯いや、現状キープで良いか」


 ライムに防具を食べさせる、と言うのは正直やりたいところだ。


 最近は何も無く平和だが、いずれまたダンジョンの外で襲われる可能性がある。


 対抗策として持っておきたい。


 「そんじゃ。今日はキュラから細胞を貰う日だし、ついでに進化もさせておこう」


 ライムから情報を送れば進化する事は可能である。


 それは皆のペアスライムで検証済みだ。


 【念話】を利用した電話機能もライムの進化に伴い進化している。


 例えばユリからローズへやる時に、ユリが喋った内容がローズに届くまでは一秒以上のタイムラグが生じていた。


 そのタイムラグが消えたのだ。


 ただ、ペアスライムが【念話】を使うと言う必要条件は未だに変わってない。


 そんなライムの進化した種族名は『フェイクスライム』である。


 「順番的に考えれば次の進化はホブゴブリンかウルフ達か。楽しみだな」


 キュラと合流してスライム細胞をライムに渡して貰う。


 『主様』


 「なんだ?」


 『一度手合わせをお願いできないでしょうか』


 「手合わせ? またなんで」


 いきなりの申し出に面食らった。


 キュラが言うには、最近探索者達に色々と教わっているので、自分の実力を試したいらしい。


 ふむ⋯⋯は?


 なんでそんなに探索者との交流ができているのだろうか。


 「いやまぁ確かに、アイドルサキュ兄が広まった最初の要因もキュラだったな⋯⋯少しは警戒心を持とうよ」


 『はい。ですので信用に値する輩の前に現れているのです』


 「それをどう判別しているんだ」


 『個人情報を貰ってます』


 「ちょっとキュラが怖くなったよ。あと、それで素直に渡す探索者にも」


 でもそうか。


 キュラ単体の戦闘力はライム単体の戦闘力と言う事にもなる。


 ならば受けて立つのも一興か。


 ライムの力がどんなものか、気になるからな。


 「戦える最低限の細胞は残しているのか? 無いならライムから渡して貰うぞ」


 『大丈夫ですぞ!』


 一層の広い空間へと出て、俺達は少しだけ距離を取る。


 「頑張ってください主様! キュラ!」


 ユリの応援を貰いつつ、ライムは剣になる。


 俺の使っている剣でも良かったが、せっかくのでライムソードを使う。


 手に馴染ませておかないといざって時に完璧に使えないかもしれないからな。


 『それでは、参りますぞ』


 「どっからでも来い」


 キュラはまずそのままの状態で俺に迫って来る。


 「体当たりか?」


 受け流しつつ反撃しようと思い、剣を倒すがそこで本能がアラームをけたたましく鳴らした。


 従ってバックステップを踏んで距離を取る。


 体当たりの失敗したキュラは重力に従って地面へと落下し、少しだけ穴を作った。


 「げっ」


 地面に衝突した音がスライムのソレでは無い。


 まるで鉄の塊を地面に落とした時のような音がしたのだ。


 見た目じゃ分かりにくいが今のキュラは性質が鉄となり、回転も乗せていたのだろう。


 そうじゃなきゃ地面に小さいとは言え穴はできない。


 『まだですぞ!』


 キュラはグニョグニョと姿を変えて、ダイヤの見た目へと姿を変えた。


 色合いとかはそのままなので、キュラだとは判別ができる。


 「形は正しく我ですな。ちょっと気色悪いですな!」


 四足歩行のスピードで懐に入ったキュラ。口が変形して刃が伸びる。


 「そんなのアリかよ」


 ギリギリその変形に反応できた俺は後ろに飛びながら回避し、反撃するために接近する。


 もちろん斬る事はしないが攻撃はする。


 高速で振るった剣は⋯⋯ユリに止められた。


 「今度は私ですか!」


 ユリ⋯⋯見た形はユリだが腕は剣にしており手は無い。


 わざわざ人型を取ったのは、その方が防ぎやすいと判断したからだろう。


 防がれて俺がユリの姿に混乱した僅かな隙をキュラは見逃さなかった。


 一度スライムの形に戻り、懐に飛び込んだ瞬間にアイリスの姿に成る。


 「え、俺? ちょっと嬉しいかも」


 両手の部分を合わせて斧にして、逆袈裟斬りが放たれた。


 反応は遅れたが防御は間に合うタイミング。即座に防ぐため剣を動かした。


 だが、キュラは予知していたかのように足から刃を伸ばす。


 身体全てが武器なスライムだからできる厄介な戦い方だ。


 「チィっ!」


 「なっ!」


 「姫様がっ!」


 「ッ!」


 コロコロ変わる姿に油断して遅れを取ったか。


 ギリギリで回避したつもりだったが、浅く頬を斬られていた。


 「やるなキュラ」


 『ありがとうですぞ!』


 「そんじゃ、少しだけ本気を出そうか」


 俺は地に着けていた足を僅かに浮かせた。


 刹那、一瞬で間合いを詰めた俺は剣を突き出す。


 スライムの形に戻りながら回避したキュラを即座に蹴り上げた。


 『さすがですぞ』


 ワイヤーらしきモノを身体から伸ばして天井に張り付き、上に向かった。


 「そんなの許すと思うなよ」


 天井に到着するよりも前に俺はその紐を斬り裂いた。


 落下して行くキュラに近づく。


 『空中戦ですな』


 「自分か⋯⋯」


 今度はローズの姿を使って、飛び回る。


 ローズは皆とは違う進化をしており、吸血鬼のような翼を使えるようになっている。


 「飛行能力も使えるのかよ」


 だけど俺のスピードには遠く及ばない。


 「ん?」


 キュラの手が俺の方に向いている。


 背筋に悪寒が走り、グルンと回転して落ちる刃を回避した。


 先程斬って分離させたキュラの細胞が刃になって襲って来たのだ。


 「厄介すぎるだろ」


 『まだまだ!』


 スライムの姿に戻って、砲身を作り出した。


 『【炎弾】』


 「魔法っ!」


 なんでそんなの使えるんだよ。


 嫉妬を込めた刃で斬り裂き、距離をひとっ飛びで詰めた。


 「俺の姿も取るのね」


 手を剣にしたキュラサキュ兄とライムソードを手にした俺。


 二つのスライムの刃が轟音を鳴らして衝突する。


 何度も言っている気がするがサキュバスは本来戦闘に不向きな種族だ。


 純粋な身体能力も高いとは言えないし、初期から魔法を覚えているのも運だ。


 だが、形だけを真似たスライムにはさすがに負けない。


 「オラッ!」


 剣を振り抜き、キュラを大地に落とした。


 「はははは。強いなキュラ。スライム相手、キュラ相手じゃないと味わえない戦いだった!」


 『あ、ありがとうございますぞ』


 まぁでも、色んな人にキュラが改造されている事を知ってしまったのでどうしようか。


 キュラが強くなる事はライムが強くなる事、ライムが強くなる事はペアスライムが強くなる事、それは全て総戦力を上げる事に繋がる。


 タダで勝手に強くしてもらえている。


 メリットしかないが悪い奴が現れた場合、キュラの身が危険だ。


 やはり、人との関わりは避けるべきだろう。


 キュラにその事を忠告する。


 『魅了されし信者ブタを名乗る探索者が複数人守ってくれておりますぞ。美味しい物もくれますしな』


 ⋯⋯あれこのスライム、実は結構楽しい暮らししてない?


 気のせいだよね?


 帰ったら色々と調べる必要があるか。


 ダンジョンから出て、アリスと合流する。


 既にナナミは帰って来てたようだ。


 「おつかれ」


 「お疲れ様」


 「どうも。少し遅れちゃったか。ごめんね」


 「許容範囲だよ。マナちゃんには連絡入れたから安心して。帰ろ。夜遅くなるのは危険だからね」


 最近はめっきりこの三人で来たり帰ったりしている。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます


おかげさまで百話目を突破しました!ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る