第101話 コレを魅了と認めたくない
今日のダンジョンは七層に行く予定である。
実力的にはもっと先に進めるのだが、魅了を順番にして行くために七層でも魅了する。
七層の主なモンスターはグールと言うアンデッドである。
いつものように最初は倒そうと考えたのだが、皆が止めた。
「主様が戦わずとも我々でも十分です。なので、魅了に集中してください」
「それって魅了させたいだけだよな?」
ユリをジーッと睨むと、にこやかに笑って逃げ出した。
逃げた先にいるグールをぶった斬って魔石を回収し、話を有耶無耶にした。
“ユリちゃんの神経が太くなってる”
“サキュ兄、反撃の手が、ないようだ”
“魅了来ましたわ!”
“既に視聴者側の会議は終わっているからね。あとは皆と掲示板にいなかった視聴者と合わせるだけよ”
“魅了会議しようぜ”
“そろそろ完全などエロを観たいところやね”
“ファイトだサキュ兄”
“大丈夫、皆楽しんでるよ!”
会議している間、俺は剣を振るいながら空を飛ぶ。
ただ黙って聞いているのも地獄が近づく恐怖に襲われるので、現実逃避の訓練である。
ローズも飛べるので、付き合って貰っている。
血を様々な武器にして扱うローズとの訓練は中々にためになる。
「主人は速いですね」
「まぁね。それが俺の強みだからさ」
ローズと訓練していると、会議が終わったのかアイリスの投石が俺達の中心に入る。
乱暴な訓練の止め方と合図である。
「行きましょう主人」
「見なかった事にしてこのまま続けない?」
「行きましょう主人」
行きましょう主人ボットになってしまった。
俺達は皆のところに戻り、会議の結果報告を受ける。
ふむふむ。なるほどなるほど。
「却下だ」
「えっ!」
“明確な拒絶?”
“声がマジだよね”
“ん〜ダメだったか?”
“頑張れユリ。全ては君に託された”
会議の結果報告を受けて、俺はそれを拒絶した。
確かにいつも嫌だと言いながらやっている自覚はある。
だけど今回は話が変わる。
「これはユリにも関係するんだ。さすがに気が引けるし嫌だ。俺はユリに対してそんな事したくない」
ユリの肩をがっちり掴んで、目と目を合わせる。
俺は真剣だ。
「今回の魅了内容はパスだ。これはできない」
「ですが主様、既に決まった⋯⋯」
「最終的な決定権は俺らにあるんだ。無理に嫌な事はしなくて⋯⋯」
刹那、今度は俺の両腕をユリが掴んだ。
彼女も目も俺同様真剣。
「主様は私が嫌だと思い、無理をしていると思い、この魅了を却下するのですね?」
「あ、ああ」
“流れが変わったか?”
“さすがに無理だと思ったけど、どうなるんだ?”
“こんなにドキドキするのサキュ兄だけだよありがとう”
“ワクワク”
ユリは一度息をゆっくりと吐き出してから、言葉を出す。
「私は構いません。⋯⋯むしろ嬉しく思います」
「え」
俺の背筋を冷水が流れる。
コレはまずいと思い逃げようとした、だけど次の瞬間。
アイリスとローズが俺にしがみつく。
「逃がしません!」
「逃がさないぜ!」
「お前らっ!」
だがその程度の力で⋯⋯ユリまで力を込めた。
「やりましょう! 主様が断る理由はありませんっ!」
「クソっ。ダイヤ影移動だ!」
「⋯⋯今は能力が封印されておりますぞ!」
そんな事があるか!
「観念してください主様!」
なんでそんなに笑顔でいられるの?
時間は進み、グールを発見した。
俺は自分の内側にあるだろう、未来の俺が残したあの服を呼び起こす。
防具などが全部消えて、下の下着とセーター一枚となった。
セーターってよりもスーツに近いのかな? 分かんね。
「ぅ。この服装だけでも恥ずかしい」
背中は翼があるし良いんだよ?
でもさ、正面がかなり開いているんだよ。恥ずかしい。
テスト時間、静かな空間で屁を出してしまった時くらいに恥ずかしい。
「お美しいです主様」
ユリ⋯⋯やっぱりあの時見てたな。
しかもその発言に全員が同意しやがった。
“何その服最っ高かよ”
“ああ。俺は童○だから殺されるわ”
“下が痛いっす。パンツ脱ぐ”
“息子が元気”
“セクシーですね”
“一気にサキュバスってのを自覚した”
“照れてるサキュ兄がえろ可愛いわかる人おるよね?”
“ふふふふ”
ああ! もうどうにもなっちゃえ!
グールの前に俺とユリが出る。
今のユリは巫女服を着ていないし、可憐な気配も無い。
キャットスーツを着ているのだ。
そんなユリは「はぁ、はぁ」と鼻息を荒くしながら四つん這いになる。
横目でチラリと俺を見て、「速くぅ」と目線で送って来る。
ああ、嫌だ怖い。
「グッ。頑張れ俺」
“今のユリちゃんだけで魅了される”
“えっちや”
“18禁”
“アウト〜?”
四つん這いになったユリの上に俺は、座った。
だけど飛行してお尻を着ける事はしない。重いしね。
「主様」
ピクリ、とユリが完全に止まってギロリと俺の方を向く。
首の動きがホラー映画を髣髴とさせる。
“え、怖い”
「ちゃんとして下さいよ主様」
とても低い声で怒られたので、泣く泣くちゃんと座る。
「うっ」
ごめんなさいごめんなさい。
DVじゃないです。あとユリなんか喜んでない?
すごく嫌だけど、やるしかない。さっさと終わらせてこの罪悪感と羞恥心から開放されたい。
ユリには首輪を着けており、そこからリードが伸びている。
全部ライムなのだが、性質もしっかりと変えられるので素材によっては苦しいかもしれない。
リードをグッと引っ張って顔を俺に寄せる。
「はっ」
息詰まったよね。大丈夫?
「優しくしてはダメですよ」
なんで俺が注意されてるんだろうか。
「羨ましい⋯⋯」
ローズの囁きが聞こえた気がするけど聞かなかったフリをしておこう。
「あ、貴方も」
“目が泳いでおる”
“うん。エロい(真顔)”
“その後も進んで欲しいと思っている自分がいる”
“うぎゃあああああ(夢が叶った人間の断末魔)”
人差し指を首輪に通して引っ張り、左手をユリの腰に伸ばす。
「⋯⋯貴方も」
「ぎゃんばって」
ユリの応援が聞こえる⋯⋯それとペアスライムを使っていつの間にか手錠をしている。
「貴方も私の奴隷になりなさい」
“お嬢様! いや、女帝様!”
“ご主人様、このブタにも鞭打ちを!”
“妹と一緒に見てます”
“デュフフ”
“サキュ兄→恥ずかしくて赤面、ユリ→興奮で赤面、不思議なプレイだ”
“あ、成功したのかな”
“グールが四つん這いになってる”
“踏んで欲しいんだな。分かるぞグール”
終わったと分かったので、ユリから手を離して少し距離を取る。
名残惜しそうに首輪を見て、巫女服に戻る。
俺も元の姿に戻る。
「う、うぅ」
もちろん恥ずかしいし二度とやりたくない。
だけどそれと同じくらいに仲間を下敷きにした事への罪悪感がある。
奴隷とか、一度も考えた事の無い言葉も言うのが辛かった。
「はぁ。主様、良かったです」
「え」
「次もこの路線でしませんか? もっとキツめで!」
「ゆ、り?」
顔を赤くしながら、肩を上下に揺らして、高い声音で言った。
「痛くないの?」
「その⋯⋯レイ様ではないですが、ちょっとその、えへ。い、言えません」
俺の中にあった罪悪感は消えた。
だけど二度とやりたくないと思ったこの気持ちは変わらない。
頬を両手で挟んでクネクネしているユリから俺はしばらく距離を取る事を決めた。
なんって言うか、渦巻いていた感情が全てクリアになったね。うん。
今の俺は酷く冷静だ。
「さて、次行くか」
“ユリが異常すぎて返って平常になっているな”
“まじかよ”
“こんなところに精神剤が”
“ユリちゃんはまず清楚系でやるべきだったな”
俺がとぼとぼと歩いていると、ローズが影から出て来て横を歩く。
耳元に口を近づけ、手で口を隠すように覆う。
「今度は自分が手伝います」
その言葉を小さく告げられた。
「フフ」
そのままアイリスの所へ戻って行く。
ローズの背を見ながら呟いた。
「誰とも一緒にやりたくねぇ」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
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