第168話 後は説得だけ?

 敵は三人で俺を囲むように誰かの家の屋根に立っている。


 人様の家の屋根を足場とするなんて、と言う軽口を言えるような相手では無い。


 「それでなんの用かな?」


 正体は察しているけど、何も知らない風に装う。


 「我が里を侮った落とし前をつけてもらう」


 「舐められたら終わりってか?」


 これが復讐の連鎖と言う奴だろう。


 俺は家族が狙われたから里を潰した。その復讐が今やって来た。


 「長を洗脳した貴様を処す」


 「怖いなぁ。謝ったら許してくれる?」


 こうして話しているうちでも攻撃を仕掛けたいだろうな。


 しかし、三人平等に警戒しているため全員仕掛けて来ない。


 わざわざ飛び込んで来るようなマネはして来ないか。


 「謝罪など不要。貴様の首で済む」


 「それが嫌なんだけど。分からないかなぁ? 忍者って頭⋯⋯なんでもない」


 元々この里で育った先生まで侮辱しそうな言葉だったので口を閉じる。


 先生を悪く言えないねさすがに。


 学校の教師よりも尊敬しているんだから。


 「くだらんな。貴様の首を取ったらお前の下に居る人間全員処す。連帯責任だ」


 俺の足場、それは自分の家。


 つまりは家族をも殺すと言いたい訳ね。


 「連帯責任って悪しき文化だと思うんだよね。責任は当の本人が背負えよ。そう思わない?」


 「もはや言葉は不要」


 「そうだね。分かり合えないようだし」


 ライムが剣になり、忍び三人は各々武器を構える。


 全員種族へと変わる。


 一人は獣人の狼で二本の短刀を構え、一人はエルフであり札付きのクナイを構え、一人はダークエルフで忍刀と手裏剣を構えた。


 三人同時に攻めて来ると思ったら、獣人が先行して他二人が投擲武器を飛ばす。


 札は魔法を使うための媒介だと言うのは予測できるので剣で弾きたい。


 手裏剣は躱せる。


 ⋯⋯ただ問題はこの家にコイツらを近づける事だ。


 それに家ごと爆破されては良くない。


 ⋯⋯仲間の力を借りないでここは乗り切らないとな。


 「全部弾くか」


 クナイを上空へと弾き、手裏剣を叩き落とし、獣人を蹴り飛ばす。


 瞬時に移動して力の弱いダークエルフへと接近した。


 剣を振りかざすと忍刀で防御姿勢を取りながら魔法を発動するのでキックに攻撃を切り替える。


 飛行能力があるので攻撃の切り替えは瞬間的に行える。


 「俺が狙いなら来いよ」


 ダークエルフに追撃して他二人を挑発する。


 狙い通り、上手く行き過ぎているレベルで二人が後ろから迫って来る。


 殺すのは正直簡単だ。


 種族的な力で既にかなりの差があるのだ。それは忍者達だけじゃなくて全体的な面で。


 才能の前に血筋に恵まれていたからだ。


 しかし、そんなあっさり殺すのは嫌だ。


 制圧すれば家族も襲わないだろう。


 目的のために絶対的に俺を排除しようとするあの組織とは違うからだ。


 『甘いなぁ』


 ツキリはため息を漏らしつつも、後ろに魔法を飛ばして牽制しつつ飛び道具を破壊する。


 暗闇での戦いなので俺の魔法はすごく目立つ⋯⋯だけど止めない。


 「ぐっ」


 「そろそろ終わりかね」


 魔法で二人を抑えてダークエルフを執拗に攻撃する。


 殺しは考えてないけど半殺し程度なら平気でやるつもりだ。


 動きを封じるためにね。


 「これでも、くらえ!」


 口から火を吐き出そうとするので顎を膝で蹴り上げる。


 腹を突き刺す勢いで蹴飛ばし、肉薄する。


 「化け物か⋯⋯」


 「ただの高校生だ」


 背中を強く蹴り上げる。


 空中にいながらも投擲武器を使うとする。さすがだな。


 切り替えが早い。


 ライムがパチンコ玉のような見た目になったので、それを弾く。


 銀閃を走らせて手を弾き行動を止め、再び接近する。


 そろそろ気絶させられると思うので、強めの攻撃でぶっ叩く。


 「ライム金属バット」


 無防備なダークエルフの頭に向かって振り下ろす。


 ゴツンっと鈍い音が鳴ったがこの程度じゃ死なんだろう。


 魔法を掻い潜り挟み込むように迫って来た二人の忍者。


 獣人は短刀を二本構え、エルフは忍刀に札を付けている。


 挟むと言う行動自体は何も間違ってはいない。


 が、俺を攻撃するにはスピードが足りない。


 「⋯⋯別に弱くはないんだろうな」


 走るスピードは確かに速い。だけど何かに欠けるんだよな。


 回避すると驚かれた。


 「人間基準で考えたら、俺は十分化け物かな」


 なんか悲しいな。


 『そもそもサキュバスなんだから人間じゃないでしょ』


 それは良くない。


 種族になったからって人間じゃない訳では無いからね。良くない考え方だ。


 と、そんな事はどうでも良いか。


 「実力差は分かったろ? もう俺らに関わるな」


 「確かに。そのスピードは異常だ」


 「目では負えぬ」


 投擲武器も予備動作を見て完全に対応できる。


 予備動作を見せないやり方を知っているだろうけど、それだっら飛ばされた後に対応すれば良い。


 俺の想定を超える動きをコイツらじゃできない。


 暗殺に特化した殺しだけの技じゃ俺には勝てないんだ。


 「そう考えると想定を超えるナナミってなんだろうね」


 『人間目線の準化け物?』


 俺が興味をあまり持ってないと気づいた奴らは爆発物を取り出した。


 さすがに一般人を巻き込むとは考えていなかったが、やはり甘かったか?


 「警戒したな!」


 獣人からの素早いクナイの攻撃を弾き、投げられる前に接近する。


 が、それを守るように忍刀を持った獣人が間に入る。


 スピードで負けているのなら一人は盾となるか。


 「だけど甘いね」


 横にスライド飛行して、カクカクと飛んで背後に回る。


 翼を使って無理やり身体を回転させて蹴り飛ばす。


 「単純な奴め」


 「そっちが本命か」


 獣人が煙玉を爆破させて一面を白い煙で覆い隠す。


 魔眼を使う気は無かったが、面倒なので使う。


 ⋯⋯テロップが出て来ない?


 「対象が居ない判定なのか」


 目くらましに弱いんだな魔眼って。


 魔眼に頼った理由は気配をすぐには察知できなかったからだ。


 深く集中して気配を探るが中々掴めない。


 「まじか。こっちが本命か」


 『霧を吹き飛ばす?』


 「下手に魔法を使うと一般に当たる可能性がある」


 街中に被害は出したくない。


 「払うんじゃなくて逃げるか?」


 下手に動いて攻撃を受けたくないが、何もしないとただの的。


 俺が動こうとした瞬間、背中に焼けるような痛みが走る。


 「斬られたか」


 振り返ると既に影すらなかった。


 『さっきの一線で翼の付け根が斬られた?』


 そうみたいだな。一翼が動かせない。


 再生するまで飛べそうにない。正確には飛べるがバランスが取れない。


 俺の飛行でバランス力が欠けるのは致命的だ。


 戦闘の勘に頼って攻撃を防ぐ方針に切り替える。翼は閉じて付け根は攻撃させないようにもする。


 「ここかっ!」


 「残念だったな」


 攻撃をするが空気を斬り、逆に攻撃を受ける。


 ライムが鎧になろうとするが動きにくくなるので止める。


 煙玉を何回も爆破させて晴れないようにしている。


 自分の得意なステージに持ち込んでいるんだ。


 「下手に動くと足場にしている屋根にも被害が⋯⋯」


 どうしたモノかと考えながら魔眼を常に発動させて警戒していると、テロップが出現した。


 それに合わせて回避すると煙を切り裂き伸びた刃が姿を現す。


 素早く掴むと放して逃げた。


 しかし、僅かに焦ったのか一瞬だけだったが気配を感じた。


 限りなく薄い呼吸と特殊な歩行で気配を煙に同化させているかのように消している。


 だが、少しの歪みで崩れる。


 まるで霧。


 鍛えた五感ですら捉えれない足音と煙の臭いで意味をなさない。


 視覚、聴覚、嗅覚で敵を捉えられない。


 「ぐっ」


 その後も大切な部分は守りつつ攻撃を受ける事数十回。


 「若造が良く耐える」


 「そろそろ楽になったらどうだ」


 「ふぅ。そうだな。楽になろう」


 脱力しながら翼を軽く広げて飛ぶ。


 逃げようとしたら銀の光が俺を襲うだろう。


 ⋯⋯相手の技を脳内で思い浮かべて分解し、必要な部分を自分の身体に取り込む。


 足技を翼へと流用して気配を溶け込まして消す。


 「なぬっ!」


 攻撃を何回も受けて僅かに見えた部分や被弾した場所、攻撃のタイミングや間隔。


 それを計算してイメージしたのだ。


 気配を消せば当然探るだろう。奴らはそれもできるはずだ。


 深淵を覗く時、また深淵も覗いている。


 気配を強く探られたらその気配を俺は感じる。


 つまり、相手に見つけてもらいそれを利用して相手の場所を特定する。


 スピードは俺の方が上。


 「翼の再生時間までは計算に入らなかったか?」


 耐久力の低いエルフの方へと肉薄して腹に拳を捩じ込ませる。


 「かはっ」


 唾液を吐き出しながら意識を落とし、残りをタコ殴りにして気絶させた。


 「後は三人を都に連行して説得⋯⋯」


 まだ一人いたのか。


 「そこを動くなよ」


 すんなり付いて来たと思ったら、極限まで気配を消したもう一人がいたのか。


 「おに⋯⋯」


 俺が優しく微笑むと、震えていたマナが安心しだした。


 刃を向けられても俺が落ち着いていれば落ち着くらしい。


 それだけの信頼が寄せられているんだ。


 俺が僅かにでも動けばマナは助からない。


 「⋯⋯やれるだろ?」


 霧状で影から現れたローズがマナを捕まえた忍者の背後に移動して肉体に戻して行く。


 カンザキさんにでもやり方を教わったのかな?


 俺に集中していた忍者は粒子状になったローズの気配に気づけなかった。


 気づいた時にはノックアウトだ。


 「さて、これで完遂だな」


 まだ説得は終わってないけどね。





◆あとがき◆

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