第169話 アリスとサナエの魅了案

 今日は配信である。


 しかも内容が既に決まっており、アリスとサナエさんの考えた魅了だ。


 この二人はダンジョンへ入れないので配信でしか伝える事ができないのである。


 まぁ、限定的とか録画とかでも良い気がしないでもないが⋯⋯それはアリスが許さなかった。


 独占する気は無いから、とか言われたよ。


 「むしろ独占してくれた方が傷が浅くて助かるんだけどなぁ。絶対に分かってやってるよなぁ」


 「主様なら大丈夫です」


 「ユリ、何が大丈夫なのか言ってみ?」


 目を逸らしたので答えは無いようだ。


 動けるようになったユリを引き連れて九層へと進行する。


 それまでの敵は全てユリが素早く倒していた。


 時々手刀で敵を倒しているが、何かの練習でもしているのだろうか?


 “もはや敵を倒すのに武器が必要ない件”

 “最近班分けしないけど資金は大丈夫?”

 “魅了会議がしたいべ”

 “早く九層行こうぜ”


 資金的な問題はある。


 大量に仲間が増えた結果、豊富に見えた資金が空っぽになったのだ。


 武器を新調できないし便利アイテムの購入もできない状態。


 ダンジョン攻略だけならそこまでいらないが、世界的戦争の備えとして欲しいのである。


 忍者の説得はレイに任せてしまっている。ツキリの考えも聞けずじまい。


 忍者は更生して子供達をしっかりと育てて欲しいところだ。もちろん、暗殺者では無い大人にだ。


 ツキリの考えはまたタイミングを見計らって聞くとしよう。


 今は精神統一して心を無にしたい。


 カメラの向こうでは虎視眈々と今回の提案者とその他が観ているだろうからな。


 「⋯⋯ユリ、俺と一緒にやらない?」


 “サキュ兄が魅了に誘った!”

 “任せるんじゃなくて誘うだと?!”

 “熱でもあるなこりゃあ”

 “まじか! 今日のサキュ兄覚悟が決まっとる”


 「少しお待ちください」


 考えてはくれるのか。


 アリスとサナエさんの魅了案が書かれた資料に目を通す。


 大抵の事はライム達スライムで何とかなるので自由度は高い。


 これも全て一層でスライムを捕食しているキュラのおかげだ。


 変な探索者に指導したりされたりと不思議な状況が無ければ何も気にしないのに。


 「はい。お断りします」


 しっかり考えた後に断られてしまった。


 「にゃんでぇ〜」


 「だ、だって⋯⋯これは、その。見たいので」


 「理由がっ!」


 しかし残念だ。


 俺の辛さを半分でも押し付け⋯⋯いや、別に抑えられる訳では無いけどさ。


 それでも心強い味方ができたと思ったのにな。


 九層へと到着した俺は着々と準備をされて、今は暗い箱の中にいる。


 「ライム、めっちゃ嫌なのと恥ずかしいのと規制がかかっちゃうから、良い感じにカバーしてね。俺も頑張るから」


 人間の手を作って親指をグッと上げる。


 俺も親指をピンッと立てて意思疎通をしておく。


 “魅了会議無しっ!”

 “え、本当にどうしたのサキュ兄? サキュ姉なの?”

 “意味が分からないよ”

 “どうしたの本当に”


 “ノリノリサキュ兄?”

 “ノリサキュなの?”

 “何か悪い物でも食べたか。混乱状態なのか?”

 “あの魅了大好きなサキュ兄が自分の意思で?”


 ここでユリが幼馴染と友達からの提案だと説明した。


 “友達とかにも知られているのね”

 “友達いたんだね”

 “ふむふむ。これはお手並み拝見だな”

 “なんかズルい気がしないでもないけど、はてはて”


 ホブゴブリンはローズが連れて来て、俺の入っている箱の上にはユリのペアスライムが俺に変身して乗っている。


 箱の外装はプレゼントであり、リボンでしっかりと飾られている。


 俺が窮屈しない広さはあるのでサイズはかなり大きいと言える。


 「お盛んなオスね。そんなあなた方にプレゼントがあるわ。とくと受け取りなさい」


 え、もう!


 まだ心の準備ができてないんですけど?


 『タイミング! 立てキリヤ!』


 「は、はい!」


 サキュ兄(偽)は箱から降りてリボンを解く。


 同時に俺は勢い良く立ち上がり蓋を開けて身体を出す。


 カメラで最後に観た俺はいつもの格好だったが、中でライムを使って着替えている。


 “こ、これは!”

 “クッソ見えねぇ! もっとだ。もっと寄れよドローン!!”

 “なんてこった”

 “これもライムだな。くい込ませろよ!”


 “くい込みが無いからプレゼント感が増す! 柔らかさがあるっ!”

 “しかもギリギリまで細くしてるな!”

 “脇が、脇がしっかりと見える”

 “あぁ、欲しい”


 俺はリボンで大事な部分を隠しているほぼ全裸の状態だ。


 下着なんて言う優しい概念はこの魅了に存在しない。


 この魅了を成功させつつ配信者人生を継続させられるかは全て、ライムの裁量に掛かっている。


 露骨なエロを全面に押し出す。


 全裸だからエロいのでは無く見えないからこそエロい、一枚の長いリボンで構築されているから尚タチが悪い。


 裸エプロンより酷い。


 ポイントの説明をすると、脇を見せる為に両腕を上げて手を頭上に持って来る。


 そしてリボンの端を優しく咥える事だ。少しでも力を抜いたら落ちてしまう程に唇で弱く噛む。


 『エロティシズムを強く意識した!』と説明文に太字で書かれていた。良く分からん。


 分かるのはね。めっちゃ恥ずかしい。


 静かな教室、それはテスト中とも思える皆真剣で静かな教室で大きな屁を出してしまった時のような、羞恥心だ。


 誰からも視線を向けられてないが周りの視線や考えが気になって頭が真っ白になる。


 身体が熱い。緊張と恥ずかしさによる体温上昇。


 僅かにだが垂れる汗がおでこからへそに向かって減速無くゆったりと流れる。


 「ぷっ、ぷれぜんとは、わ、わたし、よ?」


 魅了が成功した感覚に包まれた瞬間、俺は膝を曲げて箱に入った。


 ライムに頼んで蓋も閉じて貰う。


 真っ暗な空間、周りの音は聞こえずただ無音で常闇の世界。


 “これを友達が考えたのか”

 “仲が良いな”

 “エロかった”

 “テッシュ箱が空になったのでそちらの箱を使わせてください。もちろんテッシュの中身を使ったので同じ風にね?”


 “欲しいな。人間に戻らないでね”

 “ぐへへ”

 “これは泣いてるな”

 “サキュ兄最高! 幼馴染かお友達最高!”


 「ヒック。どっちだよコレ考えたのぉ」


 『遠慮を全く感じないし⋯⋯アリスちゃんじゃない?』


 「心の支えとか思ってたアリスへの好感度が下がりそうだ」


 『そんなんで下がってたらここまで来れて無いでしょ』


 ツキリが慰めるどころか正論パンチをかまして来やがる。酷い。


 箱に入った状態で運ばれる。


 「もはや俺の精神回復を待たずに移動されるんだが?」


 『ちょうど入れ物に入ってるから運びやすいのかしらね』


 「⋯⋯さっきの魅了、屈辱感は無くただ恥ずかしかったな」


 そう。ただ俺は恥ずかしさだけを感じていた。


 恥ずかしすぎて、見えてないよね? 大丈夫だよね? とか考える暇が全くなかった。


 次の魅了はなんだったか?


 ライムが水着になる。


 「⋯⋯水着? 確かにまだ良心が見えるな」


 『無かったら規制どころか垢BAN対象になるんじゃない?』


 ドスンと置かれた。


 ビキニタイプの黒色の水着。


 蓋を開けられて、ゲル状のスライム達が流し込まれる。そしてまた閉められ暗闇に包まれる。


 「ちょ、何それ!」


 慌てて逃げようとするが翼が広げれる広さは無く壁がツルツルで手を当てると滑る。


 ジャンプして逃げようとしたが時すでに遅し。


 「ひゃっ」


 冷たいスライムが全身を包み込む。少し足を動かすと滑って宙に浮いて浮遊感を感じる。


 「きゃっ」


 『ぎゃはははは! 女の子みたいな声ですねぇはははは!』


 尻もちを強烈につく。


 痛みは感じないけど痛い気分になる。ツキリは笑いすぎだ。


 「てか、何これ。さっきまで材質ダンボールだったよね? なんで急に金属っぽくなったの?!」


 ツルツル過ぎて登れない。スライムも邪魔をしやがる。


 液体とも固体とも思えない感触が非常に気持ち悪い。


 「てかなんかベタベタするぅ。いやぁ」


 しかも暗くて状況把握が難しいし。


 焦って適当に動くと滑ってコケるし。倒れる度にベトベトした感覚が身体中にまとわりつく。


 髪の隙間や谷間の中にまでスライムが侵入して来やがる。


 音は吸収されるし外の音も聞こえない。


 あぁ、段々と恐怖心が芽生えて来た。


 「出して! 聞こえてるよね! 出してよ! ここから出してよ皆あああ!」





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

評価、ブックマーク、とても励みになります。ありがとうございます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る