第203話 仲良くなろう
「⋯⋯しっかし、都のモンスターも多くなったよなぁ。数が把握できん」
なおかつ名前も付けれていない。
メインで行動するメンバーが固まりつつある弊害か。
特に新入りのハーピーやケンタウロスなんかは魅了以降会話もできないのでは?
「う〜む。魅了によって知性が芽生えるっぽいし。放置は良くないよな」
せっかくだし、皆で遊ぼっかな。
俺はユリ、アイリスなどのいつものメンツを集めた。
「俺とユリが敵として、他全員が攻撃して来い。今日の訓練だ」
「姫様姫様」
「なんだアイリス」
「ゲームバランスって言葉を知ってますか?」
「知ってる」
俺とユリがペアで戦うだけで都のモンスターが全員攻めて来ても負ける事は無い。
それだけの力の差が開いている。
しかもハーピー達は本格的な訓練もまだだろうから連携がままならない。
敵が集団で攻めて来た時、都を守れる集団としての強さが欲しい。
できればそれで地球も守って欲しいが、それでは数が足りない。
「頑張りますぞ!」
「ジャクズレは配下の使用を禁ずる⋯⋯ダンジョン産のアンデッドだったら許可する」
「なんと! このジャクズレの強さとも言える数の暴力が封じられましたぞ!」
「嘘つけ」
勝手にダンジョン行ってアンデッドを片っ端から配下に加えている事知ってるかな?
それで少し乱獲し過ぎてギルドの方からDMでクレーム来たからな。
必死に謝ったよ。謝罪動画も送った。
俺の知らないところで問題を起こさないで欲しい。
「ご主人様と戦える。ご主人様と戦える」
他の面々とは違いユリは上機嫌だ。
対等以上に戦えるユリとの連携も強化しないといけないし、良いタイミングだろう。
戦いでの会話は基本。
これで普段顔も合わせないモンスターとも会話ができる。
ただ、戦闘ではなく裏方に回るモンスターも中には存在する。
そいつらは全員この遊戯には参加しないらしい。しかたないだろうな。
後で挨拶しに行かないと。ポーションとかの作製をしている。
「と、来たみたい」
月の上だと言うのに落雷が俺達の中心に堕ちる。
「急に呼び出してごめんねナナミ」
「大丈夫。ここくらいしか全力で訓練できないし」
うむ。急な呼び出しだけどすぐに来てくれた。
日本から月まで自力で来たはずだけどね。
これはあれだな。スピードでナナミに負けてそう。
「今から集団戦の訓練をしようと思って。ナナミはそっち側に行ってくれないか?」
「ユリとキリヤが相手? ゲームバランスって言葉知ってる?」
「なんで?」
訓練を重ねる度に仲を深めた二人は呼び捨てで呼び合う関係になっていた。
ゲームバランスはちょうど良いだろう。
才能や実力の面から見たらユリの上を行くのがナナミだ。純粋なパワーでは劣るだろうがそれを補う他のモノを持っている。
何よりナナミは集団戦の経験が少ないからな。
「不服か?」
「いや。せっかくだしね。アイリスさん達も大丈夫かな?」
「アイリスで良いぜ姫猫さん」
「そこは猫姫じゃない?」
姫に拒否反応を示さない、だと?
気を取り直して、模擬戦は始まった。
数が多いために一時的に都を地中に埋めて広範囲を戦闘のフィールドにした。
レイは観戦して応援している。
「勝った方はワタクシの部屋に来る事を命じるわ」
この場の全員が負ける方向へ考えを変えそうな発言をしよった。
「冗談だから皆、殺す気で戦っちゃダメよ。さすがにキリヤくん達の攻撃の傷は治りが遅くなっちゃうからね」
そうなのか?
あまり気にした事は無かったがレイが言うなら確かなのだろう。
ナナミ以外の奴らには手心を加えてやろう。
「キリヤ、私には本気で攻撃しようとしてる?」
「嫌か?」
「嫌では無いけど、好きな人に剣を本気で向けられるって考えるとかなり複雑だね」
「恥ずかしい事言うなよ」
「照れると可愛いね」
「あの、お二人でイチャイチャしないでください」
ユリの言葉に正気を取り戻して、開戦した。
ナナミは先にユリを抑えるべく動いた。範囲攻撃を防ぐためだろう。
「⋯⋯え、それじゃ訓練にならなくない?」
「【雷獣覇気】」
「なんだそれっ!」
ナナミ陣営の全員からイナズマが迸る。
身体能力の大幅強化らしい。全員が上がったスピードに戸惑っている。
あんなサポートができる魔法を習得していたのかナナミは。
⋯⋯羨ましいねぇ。
でもさ、それはそれであって連携の訓練にはなってないからな。
これで私も集団戦できますよ、感を出されてしまったらどうしようか。
「こっちは【
ユリと俺の能力も上げさせて貰う。
アイリスが俺へと進行して来る。今日の目的は新入り達と遊ぶ事だと考えている。
やる気に満ち溢れたアイリスには悪いが早めに終わらせて貰う。
「ツキリ」
『はーい』
「え?」
月光のレーザーがアイリスを包み込んで吹き飛ばした。
月の上ならその火力も上がってる。レイが微笑ましそうに吹き飛ばされたアイリスを回収していた。
それから攻めて来る顔や名前が一致する仲間達を倒して行く。
微笑ましく見ていたレイも数が増えて裏方に回っているモンスターを呼び出していた。
そして名前も付けれていないモンスター達との戦闘に入る。
コンセプトを種族毎に変えていたが、さすがにネタ切れが深刻化してる。
そろそろ車や歴史的偉人の名前などに頼るしかないだろうか。
そんな事を考えていると、正面に大盾を構えたオークが横並びで突進して来る。
空に飛んで回避は余裕だったが、オークを足場にリザードマンが跳躍した。
槍の薙ぎ払い攻撃が襲って来る⋯⋯狙いが変だな。上昇して回避する。
「耐久力の高いオークが盾役、身軽で機動力の高いリザードマンは柔軟に対応して攻撃⋯⋯そして」
高い場所に俺が移動したらケンタウロスからの弓矢による狙撃とハーピーによる音攻撃か。
ハーピーの音攻撃は魔法と同じ⋯⋯つまりは斬る事は可能だ。
視認できない振動だが、それが魔法であり魔力を帯びているなら斬れる。
認識するには目を頼るのではなく耳を頼る。
自分の鼓膜を突き破る前、遠くから聞こえる激しい音を聞き取ってから行動する。
音速を超えるスピードを出せる今ならば鼓膜を破る前にその音を斬れる。同時に矢を回避できる。
音速を超えるにはツキリの助けが必要だ。俺だけだと魔法が上手く使えないから。
そう考えると、一人で可能にしているユリとナナミは凄いな。
「連携の本格的な訓練はまだだと思ったが⋯⋯そうじゃないんだな」
ハーピーが空を飛ぶなら簡単に倒す事はできただろう。
しかし、空中に身をさらけ出す事はせずに固まってオークが護りを固めている。
リザードマンで距離を引き剥がして遠距離からの攻撃を主な戦略としているらしい。
俺の剣を恐れての結果か。
「でもな。まとまると一気に倒せるようになるんだよ!」
ツキリが魔法を展開する。
『【
数え切れない程の月光の弾丸が雨となり一人一人に降り注いで行く。
広範囲の敵を一掃できる⋯⋯剣だけでは難しい芸当だ。
個人的にレーザーで終わらせるかと思ってたけど⋯⋯意外だな。
「広範囲を剣で斬るには空間そのモノを斬る⋯⋯そしてその先、次元を斬る。遠いけど長引かせる訳にはいかないな」
しっかし、倒している最中に全員が俺の方を嫌な視線で見て来た事が気になったな。
戦いに集中してない事を後で説教しないとな。
「てか、なんかスースーするな」
原因を探るべく身体を曲げて確認すると⋯⋯そこにはアレが無かった。
「えっ」
無かったのだ。ライムに頼っているのでこの子が敢えて再生させてない事になる。
原因はリザードマンの狙いが変だった攻撃だろう。
ツキリが一斉に片付けなかったのは分かっていたから、か。
「う、うそっだろ」
俺の下にいた奴らが全員見た事だろう。
さらけ出した女である象徴の一つを。⋯⋯【月光弾】の光で影ができていただろうが、視力の良い奴らは絶対に見えた。
「なんで、卑怯だろぉ」
俺はへにゃへにゃと地面に降り立った。
混乱して集中が途切れて俺が顕現させていた【紅き月】が消えた。
不意に能力低下が起こった事によりユリのパフォーマンスに支障を来たした。
その隙を見逃さず、ナナミは鋭い攻撃でユリを地面に叩き伏せた。
ごめんユリ。【紅き月】を展開していたのが俺だったばっかりに。
「主君、一体何が⋯⋯」
「キリヤ、どうしたの?」
「ぐすっ。聞かないでぇ」
『親睦を深めるのに一番手っ取り早い方法よね』
◆あとがき◆
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