第16話 図々しいのだろうか

 「アリス。今から部活?」


 部活に行く前にアリスに声をかける。


 「うん。そうだよ。そっちも?」


 「そそ」


 途中まで行く方向は一緒である。今日は訓練場の方に集合がかけられているからだ。


 「テニス部だよね? 楽しい?」


 「うんめっちゃ。三年の先輩がさ、めぅちゃイケメンなの!」


 無邪気にはしゃぎながら、そう言う。話せる事が嬉しそうだ。


 俺がもう落ち込んでないってきちんと分かってくれたのだろう。


 「そっか。こんな事を聞くのも野暮だと思うが、その先輩と俺だとどっちがイケメン?」

 「先輩」


 即答!


 知ってたけどね。茶化す目的で言った質問だし。


 アリスと雑談しながら行くと、後ろから明らかにこっちに近寄って来る足音がする。


 前に行くとしたら方向にブレとかが存在するが、それらが無い。


 確実に俺達の方向に来ているのだ。


 勘違いならそれで終わりだ。


 「ナグモさん。今から行くところ?」


 アリスがメインか。


 俺達が同時に振り向くと、金髪の男が爽やかな笑顔で立っていた。


 あぁ、確かにこれはイケメンだわ。眩しいっ!


 「汐留しおとめ先輩。はい。そうです!」


 「なら一緒に行かない⋯⋯それとその人は?」


 「ああ、コイツはヤジマキリヤって言う幼なじみです」


 コイツ呼ばわりかよ!


 「そっか。今から部活に行くんだ。⋯⋯ね?」


 どう言う事だろう?


 凄くこっちの目を見て来るんだけど何かを言って来る事が無い。


 どうしたら良いのか分からずに内心で戸惑っていると、静かな時間が流れた。


 そんな事している間に時間が過ぎてしまいそうだ。


 「そろそろ時間だし、俺行くわ」


 「うん。帰りどうする?」


 「校門で待っとくわ」


 「りょ」


 俺はアリスを背にして訓練所に向かって走る。


 その時、俺に向けられたシオトメの目に誰も気づかない。


 「初対面だからかな。変に警戒しちゃった」


 訓練所では既にクジョウさんが鉄の棒で素振りしていた。


 俺の気配に気づいたのか、素振りをしていた状態から一瞬で間合いを詰めて突きを出して来る。


 寸止めなのは分かっているけど、ここは打ち合うのが良いだろう。


 なので、手刀を首に向かって伸ばした。


 「見られた」


 「見れました」


 俺も素振りに参加していると、ヤマモトとサトウがやって来て、いきなり睨んでくる。


 あの昼の時間以来、敵視されるんだが、理由が分からん。


 他の人もぞろぞろとやって来て、部活が始まる。


 先輩の一人が与えられた種族に変身した。獣人か。


 背中から翼が生えている。


 「今日は空中戦についての対策などをやっていこうと思う」


 あ、ありがてぇ。


 飛行戦のコツとかをここで掴みたいな。


 種族を披露できる勇気は無いのだが。


 「なあなあヤジマ」


 「なんだ?」


 ヤマモトが小声で話しかけて来る。


 「あれからナグモさんとなんかあったか?」


 「何も無いが?」


 「そうか。そうだよな」


 なんだよその笑顔は。


 二人の笑顔の裏を知らないまま、部活の時間は経過して行く。


 部活が終わり、アリスが来るのを校門近くで待つ事にした。


 「やぁ。ヤジマくん」


 「えっと、シオトメ先輩でしたよね? 何か?」


 アリスを待っていたら、同じ部活のイケメン先輩であるシオトメ先輩がやって来た。


 「君さ、良くないとか考えないの?」


 「ん?」


 いきなりなんの話?


 「幼なじみだからってさ、登下校を一緒にするとか、彼氏でも無いのに図々しいとか思わないの? それとも自分のステータスとか思ってる? そんなクズなのかな君は?」


 内容的にアリス以外に浮かばないが、一体なんの話をしているんだ?


 「要するに、ナグモさんに迷惑だからこれ以上付きまとうなよ」


 「付きまとった覚えはありませんが?」


 だけど、シオトメ先輩はその言葉を信用してないように軽蔑の眼差しを向けて来る。


 最後に吐き捨てるように「ブスが⋯⋯」と残して校舎に戻って行った。


 一体なんだったんだ?


 待っていると、今度はクジョウさんに不意打ちされたので避ける。


 「なんですか! いきなり!」


 「一撃与えたいと言う欲があるの」


 「そうですか。ならどうぞ」


 俺が手を伸ばすと。


 「それはつまらない」


 「そうですか」


 手を引っ込めると、腹に向かって蹴りを突き出して来たのでステップして避ける。


 この人少しだけ凶暴だな。無表情だけど、なんか目は喜んでる気がする。


 「そろそろ武器を買えるお金が貯まったから、一緒に見に行かないかと誘いに来たの」


 「あ、そうなの?」


 「うん」


 「普通に挨拶から始めない?」


 なんで疑問を持つように首を傾げるんですかね!


 攻撃は挨拶になるのだろうか?


 にしても武器か。俺もそろそろ買っても良い頃合か。


 これ以上の負担を避けるためにも。


 「その後はさ、一緒に探索しない?」


 「それだけは勘弁してください」


 俺は土下座して懇願した。


 「種族の秘密主義の人は多いけど、私もダメ?」


 「ごめんなさい」


 誰にも知られたくないんです。女になれるって。


 一番恐ろしいのはヤマモトとサトウに知られる事だ。


 アイツらに知られたら何を要求されるか分かったもんじゃない。


 クジョウさんは誰かに話すような、口の軽い人じゃないと思うけどね。


 「ななみんどったの? てか、キリヤなにしてん?」


 「ダンジョン行こって誘ったら、嫌だって断られてた」


 「は?」


 なんか凄く誤解を生みそうな言い方をされた。そこに悪意を感じない。


 そしてとても口は軽いけど発言をはしょると分かった。


 アリスに説教されたので、必死に言い訳をした。


 だけど種族は教えない。


 三人で家まで行き、アリスを送り届けてから俺達はギルドに向かう。


 制服でも、ダンジョンに入ってから動画は始めるので身バレの心配は無い。


 男の時の声も少ないし、それだけで気づける人はいないだろう。


 ギルドに入り、二階の武器が売っている場所に向かって二人で色々と手頃な値段のを見る。


 解体用のナイフも欲しいのだが、やはりそれを買うとメイン武器が買えなくなるのでまだ止める。


 今はまだライムだけでも問題ないしな。


 「もう少し刀身が細くても良いな」


 刀もかっこいいし使ってみたいが、本来の戦闘スタイルだと刀は不便になるのだ。


 ま、まだそこまで到達できる金が無いのだが。


 「長剣を好むんだね」


 「そうですね。槍とかも扱えるんですけど、やっぱり剣が一番馴染みやすいんですよ」


 シンプルな鉄のロングソード。最初はこれで十分だろう。


 もっとたくさんお金を稼いだら、ギルドじゃなくて武器専門店に足を運ぶのもありかもしれない。


 そっちの方が良い武器はある。その分高いけどなっ!


 学生の辛みは探索以外にも大きく時間を奪われる事だな。


 だけど大学までちゃんと行くのが高校生で探索者としていられる条件。


 頑張るしかない。


 「ん? クジョウさんは細剣レイピアを見ないんですか?」


 俺と同様のロングソードや刀をメインに見ている。


 ちなみに刀の方が西洋の剣よりも高い。


 「うん。私って突きのイメージを持たれやすいけど、得意なだけで斬撃が苦手な訳じゃない」


 「おっと。脅威度が跳ね上がった気がする」


 「気がする、だけで収まると良いね」


 真顔で怖い事言わないで。


 あの踏み込みの強さと閃光のような突き、あれを斬撃にも使われたら厄介だぞ。


 機動力と速度を兼ね備えたスピードアタッカー。


 「それだったら、短剣で二刀流とかも良いんじゃない?」


 「それだと突きの時に深く差し込めない。短剣の方が機動力は落ちないんだけど、筋力的な問題で火力に物足りさを感じるんだよね。今はそっちでも問題ないけど⋯⋯」


 「一番は自分の慣れたスタイルですからね。買うんですか?」


 「そのつもり、君は?」


 「俺もそろそろ欲しいので、買います」


 ステータスカードを提示して、俺達は武器を購入した。




◆あとがき◆

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