第17話 斬れてこその剣だよね
「やっぱり一緒に探索はしない?」
「ごめんなさい。俺は一人の方が得意なので⋯⋯」
一人で探索していると言うのは少し怪しいけどね。
でも、同じ学校で同じ部活の人にサキュバスの姿なんて見られたくない。
恥ずかしさで三十回は死ねる。
鉄のロングソードの切れ味を試しつつ、ウルフの魅了を目標にして行きたいな。
今回の探索でそこまで長時間探索は不可能だし。
装備を着替えてから、ダンジョンの入口に向かう。
クジョウさんの防具も最初に配布される物だったが、皮の胸板がある。
俺もいずれは新しい防具を買わないといけないだろうな。
そうなると、種族状態での採寸は必須。他にも色々な問題がありそうだ。
「あぁ、絶対に攻撃が当たらない技術が欲しい」
渡された入口の番号は別々だったので、この段階でお別れである。
噛まれた腕も既に完治して、動かしても問題ない。
サクッと三層まで行くか。
“ゴブリンを魅了しようぜ”
“そろそろ初心に返り、脱ごう”
“脱いだ事一度もねぇよ。ないよね?”
“いっそ光の魔法を覚えようぜ。規制ギリギリのラインを狙おう”
“ゴブリンの手で隠すのもアリ。むしろそうしてくれ”
“そんでそれを利用してモミモミすんだろ? 羨ましい!”
“どうせサキュ兄だって自分のボインボインを楽しんでるんだろ! 知ってるんだぞ! 夜中コソコソしてるの!”
“俺達にも揉ませろ!”
「なんかチャットの方向性が変わって来てるっ!」
落胆してもしかたがない。
視聴者達がゲスいのは今に始まった事ではないのだ。
二体以下のゴブリンの群れはゴブリン達だけで倒してもらう。
訓練も継続していかないとな。
ユリを筆頭に連携力を上げながら進んで行く。
時々俺が直々に指導して力の差を教えて、無理した行動をしないように制限する。
無理してその命を落とすのが一番良くない。それをさせないのも上の役目。
“逃げの判断の時は逃げれるようにしてるのかな?”
“地味にロングソードが鉄になってる”
“シンプルな剣だな。アイアンソード?”
“そろそろエロロロロロロを見てぇ”
三層まであと少しって所で三体のゴブリンを発見した。
「ユリ」
俺はユリを隣に移動させて、二人で倒す事に決めた。
他のゴブリンは観戦だ。
まずは俺飛び出して、近くのゴブリンに深く袈裟斬りを決める。
ただの鉄の剣でも木の剣とは全く違う感覚に口角がつい上がってしまう。
心を落ち着かせて集中する。一つの油断が全滅に繋がるんだ。
俺は翼を広げて、後ろを見えなくする。
痛みに悶えるゴブリンを放置して二体のゴブリンが迫って来る。
「飛行の利点は自分の扱える地が増える事」
弓矢や魔法を扱う方がさらなる有利性を生み出すが、俺は基本的に近接武器を扱う。
だから飛行を有利に活かすのは難しい。
だけど、翼を活用する事は可能だ。
「今だ!」
タイミングを見てジャンプする。
翼を広げた状態でのジャンプすれば、空気抵抗を感じさせない速度で高く跳べる。不思議だよな。
いきなりジャンプすれば相手のゴブリンは困惑する。開けた視界の中心にはユリがいる。
二体のゴブリンの身体に浅く切り裂く。
足のスナップを利用して一瞬で振り返り、攻撃に備える。
「一体は終わらせる!」
天井を蹴って滑空状態の急加速を利用してゴブリンの脳天を突き刺して、倒す。
ゴブリンの攻撃を防ぎ、ユリは蹴りを胴体に決めた。
「ユリ、後ろだ!」
痛みに悶えていたゴブリンが復帰して、ユリに向かって叫びながら暴力的な斬撃を振るう。
しかし、今のユリにとってそんな荒い攻撃など片手間で処理できる。
ワンステップで躱して、足を引っ掛けて転ばし、剣を突き刺した。
“強い!”
“もう既に二層のゴブリンの強さじゃないな”
“師匠が良いんだな”
“これがオスだったら、サキュ兄にどんな想いを抱いているのだろうか”
“メスを魅了している時点でおかしい事に気づいている人いる?”
“そんなのスライムからだろ”
“それよりもまだ一体残ってる”
“数的にも能力的にも勝ち目がないゴブリン。南無阿弥陀仏”
残りのゴブリンが剣を向けながら、ジリジリと逃げようとする。
そんなゴブリンに俺は、手を伸ばす。
「軍門に下れ、さすれば命は取らん」
“なんて悪そうな顔”
“脱ぎたくないからって、そんな魔王っぽい感じでいけると思ってるの?”
“甘えんな!”
“脱いでくれぇ! ゴブリン、お前なら大丈夫だ!”
“仲間を殺した相手だぞ! 魅力を感じるな!”
“俺だったらあの尻だけで軍門に下る。むしろ俺を魅了してくれ”
“中身が男でも関係ねぇ。こんな可愛いサキュバスは本来居ないんだ! だから頼む、その可愛いを見るためにも、抗えゴブリン!”
“仲間が全滅した痛みを知っているのに魅了しようとしている相手に負けるな!”
ゴブリンはゆっくりと俺に近づいて来る。ユリが警戒するが、剣を下ろさせる。
敵意は感じない。
強さによって屈服させる。モンスターにとっての強者はどんな風に見えているのだろうか?
感情を高ぶらせて、少しでも魅力を感じてしまったら、既に虜。
つまりは魅了の発現条件を達成して仲間にできる訳だ。
「これからよろしくね」
頭を撫でる。
“外道めっ!”
“こんなんサキュバスの力関係ないやろ!”
“軍門に下り、仲間を殺した者を主にするか死のどちらか”
“ま、まぁうん。仲間には優しい悪役テンプレがあるから”
“無いよ。えろ無いよ”
“ぷじゃけるな”
“魔王様〜”
“あのゴブリンはもう勇者”
仲間を一人加えて、俺達は三層に降りた。
ウルフの魅了について、少しだけ俺は難しいと思っている。
なぜなら、アイツらは嗅覚が優れているので、ゴブリンのように出た瞬間に魅了が難しいかもしれない。
ゴブリンはいきなり出て来た時の驚きによる硬直タイミングで魅了するための行動をする。
「何よりも、ウルフはサキュバスに魅力を感じるのだろうか?」
“確かに難しいな”
“まずはやってみんとね”
“気を引き締めろよ”
“エロが足りない”
今回は先手で発見するのが難しい。その点が気がかりだ。
他のサキュバスってどんな風に活動しているんだろうか?
調べたいとは思うのだが、調べてしまうと何かを失いそうで怖いのだ。
「そもそも、サキュバスの探索者ってあまり話聞かないんだよな」
そんな事を呟いていると、遠くから足音が聞こえたので息を潜める。
ユリがどうするのかと言う疑問の目を向けて来る。
「まずは倒す。自分が行くから皆は隠れて」
どのくらいの距離で索敵されるのかを調べておきたい。
空を飛んで、上の方からゆっくりと足音がした方向に向かう。
下ではウルフがゆっくりと歩いて散策している光景が見えた。
ウルフは一体だ。
“行くか?”
“まだバレてないなら不意打ちは可能だな”
“倒す?”
“いっそ脱いで抱きついたら良いのでは?”
ゆっくりとウルフに向かって下がって行き、何メートル付近で気づかれるのか確認する。
ウルフが俺に気づき、攻撃しようとジャンプを繰り返して口を動かす。
当たらないギリギリを飛んでいるので問題は無い。
「ゴブリンは分かりやすいから良いけど、やっぱりウルフは分からんな」
俺は翼を閉じて着地し、ウルフの攻撃を防ぐ。
「ねぇ、君達はどうしたら魅力を感じてくれる?」
“なんかサキュバスに染まって来てる?”
“それが生々しい喋り方だったら完璧だった”
“もっと顔を近づけて、囁くように、誘い込むようにだ!”
“普通に対面で疑問を口にしてどうする!”
数々のバッシングを受けたと思う。最近はどんなコメントされるのかなんとなく分かる。
一度攻撃を受け流してから弾き、体勢を崩して腹を掻っ捌く。
やはり鉄剣は良く斬れる。
◆あとがき◆
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