第174話 新たな災い
「ふむ。負けてしまったか」
そこは誰も寄り付かない暗闇に閉ざされた森の奥深く、地下深くに用意された拠点。入口は強固に塞がっている。
種族となっていれば酸素を必要としない身体をフル活用。
彼は神を目指しているオオクニヌシの創設者であるレイフウジ。
種族はリッチである。
彼の魔眼は魂を視る事のできる力があり、死霊術と組み合わせる事によって魂を違う身体に移し替える技術を持っていた。
身体が滅んでも魂が滅ばない限りレイフウジはいくらでも蘇る。
(時間はかかったが初めての蘇生が成功した。これは神への大きな一歩だ。死を克服したのだから)
ゼロになった戦力も長い目を見て復活させて行く必要がある。
地球が滅んでしまう十年後の対策も一から練り直し。
だが、ゼロからと言ってもオオクニヌシを大きくした経験が残っているため完璧なゼロではない。
「高校生に負けたのは少々汚点ですが、それは今だけの話」
新たな対策を考えて倒せば良いのだ。
地下深く掘ってもダンジョンに繋がらない事から、ダンジョンは別次元にあると考えられている。
あるいはより深くにあるのか。
地下から脱出したレイフウジは資金を手にすべく隠し場所に向かう。
地球の各地に独自に隠し拠点がいくつか存在する。
「持つ武器や防具のグレードは下がりましたが、技のレベルは下がってませんね」
大量のアンデッドを使えばオオクニヌシの戦力など数年で蘇るだろうと骨の身体でほくそ笑む。
老体なので種族になってないとまともな行動もできないレイフウジ。
それは半分人間を捨てている行為であり、一度死を経験している。
死を経験したレイフウジはもはや人間とは言い難い存在と昇華している。
後一歩、何かのきっかけがあれば魔王へと進化をするだろう。
「む? 何奴だ」
そんなレイフウジの背後にとてつもない気配を纏う存在が現れた。
人型を取っているが人では無い。
その顔は龍のように厳つく光沢を放っていた。
「まさか⋯⋯別世界からの侵略者?」
「魂の移動を観測したから来てみれば⋯⋯」
「何者だと聞いている」
「おいおい。この状況で強気だなぁ」
余裕そうにのたまう男とも女とも取れない龍の顔をした人間モドキに警戒心は上がる一方だった。
魂の事を把握している時点でおかしいのは理解している。
「二日前に来て色々と調査してんだよなぁ。イノシシのバカの回収に来たんだが気配はねぇし、ここも人間がいんのに弟が暴れた気配が無い。どうなってやがる」
「なんの話か分かりませんねぇ」
龍は頭の鱗をカリカリとかいてからレイフウジを睨んだ。
「本当なら帰還するべきなんだろうがなぁ。こうも活躍無しに仲間や弟が殺られたのが分かると、じっとしてられねぇよなぁ」
戦闘に入る事が分かった時点でレイフウジは魔法の準備をしていた。
巨大な岩を空に顕現させ隕石として叩き落とす魔法。
辺りの地形を破壊する強力な一撃。
「【
「本当は吸血鬼の奴にバレたく無かったんだが、戦力を減らすにはある程度力は出さねぇとな」
大きな翼を広げた龍は手刀で隕石を斬り裂いて破壊した。
帯電しているのか黄金のイナズマが迸る。
「さっさと身を隠してぇし殺すわ。情報くれたら質に応じて生かす時間を伸ばしてやるよ」
「ぬかせ!」
レイフウジがアンデッド軍を召喚する。
その総合力だけを言うならばキリヤの仲間達にも匹敵するだろう。
しかし、いくら数が多くても敵は真の化け物。
「この程度か?」
「なぬっ?」
再生するはずのアンデッドが一切の再生を行わない。
手刀がたった一振。それだけで召喚した全てのアンデッドが屠られた。
「雷の龍ライリ、弟の仇を打つものじゃ」
ビリッ、雷が地面から発せられたかのようなエフェクトが光る。
刹那、落雷の速度で移動したライリの手刀がレイフウジの身体を粉々に斬り裂いた。
防御魔法も展開されない一方的な瞬殺劇。
「ほう。死ぬと分かって逃げたか」
魂が逃げた先が分からない、なんて事はなくレイフウジを電気になって追いかける。
新たな身体に魂を宿したレイフウジが起き上がり急いで武具を装備する。
脱出すると、既にライリがそこにはいた。
「遅せぇよ。待ちくたびれたじゃねぇか」
「クソっ。逃げられないと言うか」
「当たり前だろ。こちとら最速の龍やっとんじゃ」
再び魔法を放ちながら距離を離す。
「弱い弱い」
目にも止まらぬ速さで振るわれる手刀で斬られる魔法。
(まずい。このままでは終わってしまう。それはお断りだ)
目の前の化け物を倒したいと言う強い意志が力を求めた。
それに答えるかのように種族が魂に固定される。
完全な魔王種への力を手に入れたのだ。
今のレイフウジの種族はノーライフキングである。
死霊術を極めた頂点のアンデッド。
生も死もこの前には関係ない。
決めるのはソイツである。
「くらうが良い。【
相手を即死させる霧がライリを包み込む。
「この程度意味はねぇな。いきなり魔力が増したから期待したんだがな」
「その慢心が身を滅ぼすのだ【
鬼をも潰す質量を持った岩が轟速を持ってライリに迫る。
手刀で斬ろうと振るが止まってしまう。
「斬れ⋯⋯」
ライリならば逃げる事もできたが、斬れなかった事実に驚いてタイミングが遅れた。
巨大な今に全身が押し潰されながら突き進む。
炎の龍とは違い小柄なのも良くなかったのかもしれない。
「畳み掛ける。【
死を与える極太の漆黒レーザーが真っ直ぐ岩の裏にいるライリへと向かって行く。
ライリを包み込んだレーザーは打ち終わった。
「これで終わりだな」
レイフウジがライリから興味を無くしたと同時に雷撃が全身を包み込む。
魔法への耐性が大幅に上がったレイフウジは全く気にする事無く、放った岩の上を睨む。
「効いたぜ。鱗の隙間に土が入った」
ポリポリと頬を掻きむしり、飛び降りた。
地面に足を着けたと同時に電気を纏い肉薄する。
雷速で放つ手刀から守るように結界の防御が入る。
「貫けないか」
「くくく。神に近いこの力。良い。実に良いぞ」
「神?」
ライリの目の前に魔法陣が現れ、そこから巨大な炎が顕現された。
瞬足で回避したがその先にも魔法陣が現れる。
「もうそのスピードには慣れているんだよ。速いがあのサキュバスと比べれば対策しやすい」
「ほう。スピード比べか」
躱し続けたライリだったが遂に水の魔法に身を包まれる。
水が急に爆発して炎に包まれ上空から堕ちる隕石に潰される。
「爆ぜろ」
巨大な爆発が隕石を中心に起こった。
例え龍だろとタダでは済まない魔法の連続を繰り返してもへっちゃらな様子のレイフウジ。
「スピードは速いが耐久は無い。耐えられんだろ」
一分後、なんの気配も感じなくなったのでレイフウジはその場を去る事にした。
侵略者すら倒せる力に歓喜し、新たな作戦を考える事にする。
オオクニヌシよりも大きな組織を最短で作る。
そのノウハウと力があると確信した。
「飽きたから先に他の身体壊して来てやったぜ」
静かな落雷がレイフウジの背後に堕ちる。
スピードが速いならディフェンスは弱いのか。
答えは否だ。
龍はスピードもパワーも全てにおいて圧倒的な力を持っているのだ。
「あばよ」
「ふん。くだらん」
同じ攻撃など意味が無いとレイフウジは冷静に防御魔法を展開するが、それは砕かれた。
「な⋯⋯」
驚く暇も無く身体が粉々にされる。
「手加減が過ぎたな。悪い悪い」
勘違いさせた事について謝るライリ。
魂を移す先を失ったレイフウジの魂は空を彷徨い、ライリはそれを手に掴む。
「モグモグ⋯⋯まずい魂だ」
魂が無ければ蘇生も不可能。
逆に言えば魂さえあれば蘇生は可能。
「身を隠すか。まだ帰る訳には行かねぇ。仇を打つまでは」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
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ここのところ19時投稿が増えて申し訳ございません
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