第156話 サキュ兄VS零封時 【中編】

 「いでよ」


 レイフウジが杖を掲げて言葉を発すると同時、杖の先端にある水晶玉が怪しく紫色に光る。


 地震が起こり建物が揺れて、地割れが起きて中から大量のアンデッドが這い出て来る。


 中には巨大なゾンビなどもいる。見上げないと顔が分からないくらいに大きい。


 「なんて数だよ」


 『でもごく一部なんでしょうね』


 「だろうな」


 建物に入り切れる数のアンデッドしか用意してないだろう。


 魔法で倒すにしても数が多い⋯⋯何よりもレイフウジを叩くための魔力は必須だ。


 「どれだけ加速できるか⋯⋯やってやる」


 ヤガミ戦の事を思い出せ。


 曲がる度に加速して相手のスピードを上回った。相手の対応できないスピードを出す。


 『要するにいつものゴリ押しね』


 「それが俺のやり方だ!」


 俺がスタートを切ると申し合わせたかのようにタイミングを合わせた魔法が飛んで来た。


 回避つつ懐に飛び込んだ瞬間にゾンビの巨大な手が伸びて来る。


 片手でだけで俺を包み込める巨大な手から離れる。


 「後ろにもかっ!」


 数が多すぎてどこに行ってもアンデッドに囲まれてしまう。


 伸ばされる武器を躱しつつ銀筋を走らせて斬り裂く。


 一秒で三十体くらい倒したが全く数が減った気がしない。


 どれくらいのストックがあるか分からないが、消耗戦では俺は不利だ。


 仲間を呼ぶにしてもこの数に対応できるのはジャクズレか⋯⋯この組織の雑魚処理をしてもらっているし呼べない。


 役割のないオークやリザードマンを呼ぶにしても進化してないので実力不足だろう。


 「中々に粘るね」


 「安全圏で眺めてるだけかレイフウジ!」


 「当然だよ。神はきっかけだけを与えて傍観するモノだ」


 はっ。神様気取りかよ。


 侵略者のドラゴン、エンリが恋しくなるような戦いだな。


 まぁあんな化け物と何回も戦いたくないけど。


 「よっ」


 このままでは埒が明かない。


 床に足を着けて屈み相手の視界から外れて一直線に突き進む。


 魂が見えない状態でどう防ぐ?


 「ちぃ」


 「アンデッド全てが我が目なのだよ」


 結界で防がれてアンデッドの攻撃が来るので回避する。


 俺に攻撃を与えられるアンデッドは居ないが、魔法を使いそうな奴らが動いてないのが気になるところだ。


 『こんな雑魚に体力を消耗されたくないよ』


 「分かってる。でもどうすりゃ良いんだよ」


 肉と骨の壁を突破しながらでは絶対に相手に攻撃が当てられない。


 しかもこれらの壁が全て目と言われたからにはどこからでも俺の攻撃が予測される。


 そうなれば防がれる。


 巨人のようにでかいゾンビがレイフウジの近くに立っており、そいつが反撃もして来る。


 有象無象を倒したところで数は減らない。


 「アンデッドのストックがどれくらいあるのか分かれば良いんだけどな」


 『そうね。運命の魔眼は確率だから数が視える訳じゃない。面倒ね⋯⋯にひっ』


 ツキリの嫌な笑みが見えた。


 コイツは基本俺の味方なのは分かるが時々疑いたくなる行動をする。


 サキュバスの力が強いせいか羞恥心が存在せず、サキュ兄の扱い方も上手い。


 何考えてるか分からないけど、俺が不利益を被らないように行動しているのは確かだろう。


 だから俺はツキリを基本信用しているし、魔法に関しては全面の信頼を置いている。


 だが、どうしてもこの嫌な感じの時は敵な気がしてならん。

 

 「おっと隙かな」


 多種多様な魔法の雨が俺に降り注ぐ。


 隙を伺って控えていた魔法士アンデッドに魔法を使わせたらしい。


 「クソっ」


 それを回避して巨大なゾンビを倒す方針を決める。


 攻撃が防がれた後に反撃の手を出して来る邪魔な奴を倒す。


 巨大なゾンビは鎧を着ているが⋯⋯斬れない事は無いだろう。


 結界で防ぐなら話は変わるが⋯⋯数があるならしないよな!


 「はっ!」


 巨大な頭がゆっくりと落下して行くが、首が無くなった身体が受け止める。


 「は?」


 「既に死んでいるんだ。首が斬られた程度で倒れる訳無いだろう」


 首を自らくっつけて赤い目が光る。元に戻りやがった。


 通常サイズの有象無象の雑魚アンデッドはそれで倒れたのに。


 回復できないレベルのダメージを一撃で叩き込めたからだ。


 でも巨大なゾンビは一撃じゃ無理か。


 「だったら何十回と刃を叩き込めば倒れるよなぁ!」


 『成功60%』


 ⋯⋯ん?


 『大きい奴は完璧じゃないか。ふむふむ。確率が低いのは魔力が高めの奴⋯⋯強い奴程成功率は下がるって分かりやすいね』


 成功率を示した運命のテロップが俺の視界を埋めつくして床が見えなくなった。


 俺のキャパシティでは対応できないが、ツキリなら問題ない情報量らしい。


 と言うかね。この重要な戦いで俺の思考に悩みの種を植え付けないで欲しいんだけど。


 なに、成功率って?


 何する気なの? 嫌だよ。


 『安心しなさい。今回は緊急時だしアーシがやる』


 「で、でも⋯⋯」


 『倒したいんでしょ。なのに、羞恥心が邪魔するのかしら?』


 ⋯⋯そう、だな。覚悟を決めるわ。


 でも頼むツキリ。


 「任せなさい」


 身体の主導権を渡してツキリが俺の身体を動かす。


 「ライム、ゴスロリ風魔女衣装」


 「おや。魂の主が入れ替わった?」


 俺の服装が変わった。


 肩とふくらはぎが露出して裸足。フリルの着いたスカート。


 肩は出しつつも腕はしっかり隠しており、萌え袖で手も隠れている。


 胸は露出させずに輪郭を表す感じになっている。


 清楚系を出しつつもミステリアスな雰囲気を醸し出している。


 魔女っぽさを出すためか三角帽子を被りながらも顔は見えるようにしている。


 さらに髪型は二本に結び後ろ髪を残すハーフツインテール。可愛さを残しつつも可憐さもプラスさせる。


 身長を少しだけ上げてお姉さん感を出しながら顔もシュッと細くして凛々しさを出す。


 「おやおや」


 四枚の翼を大きく広げてゆっくりと床に足を着ける。


 冷たさがじんわりと足裏に広がる。


 「突撃」


 ダンジョンのモンスターとは違って容赦なく襲って来るがツキリは止まらない。


 右手を口元に持って来て裾は重力に従って少し下がり、指先が見える。


 ポイントとしては手首が絶対に見えないようにしている。指先だけが見える状態なのだ。


 指先に集中させつつも、撫でている唇へと意識を向けるのがメイン。


 艶めかしく男を誘う動作だ。


 反対の手でスカートを掴んで軽く上げて礼儀正しさもプラスさせる。


 「そのような骸に従うくらいなら、ワタクシに従いなさい。死後の至福をお渡しするわよ」


 優しくも冷たい言葉。クールのキャライメージを保つのは魔女と言う設定と全体的に黒い衣装だからだろうか。


 言葉の最後に舌なめずりをジュルっと音を出しながらした。


 それだけで魅了できたのは確定した確率を見せたアンデッド、そして確率の高い奴らだ。


 この戦場に駆り出されたアンデッドの過半数が俺に寝返った。


 「魂のパスが切れた?」


 「支配権の略奪。洗脳に関して魅了を持つサキュバスに勝てる訳無いでしょ。魅了の根本にあるのは三大欲求の一つ性欲なのだから。アンデッドだろうが例外にはしないわよ」


 「なるほど。それで戦局がひっくり返ると?」


 「どうでしょうね」


 魅了成功した奴は失敗した奴よりも弱い。それは紛れもない事実だ。


 数では勝てたが質では正直、巨大なゾンビが残っている時点で勝ててない。


 「魅了されたゾンビは既に我が配下。ならば適応されるのよ」


 なるほど。能力値の底上げか。


 「アーシらの月で強く美しく舞い踊れ【紅き月ムーンフォース】」


 真紅の月が顕現し、魅了したアンデッド達の力を上げて行く。


 最低限の質は確保したと言えるだろうか。


 『それで、どうやって巨大なゾンビを倒すんだ』


 「それは君の役目よ。変わるわね」


 普段の防具にライムが戻り、身長も戻って主導権が返される。


 「行くか」


 その場で軽くジャンプして身体を馴染ませて加速する。


 「ふむ。やはり仲間に欲しいところだ」


 首を斬っただけでは再生するのならば⋯⋯できないダメージを叩き込む。


 倒し方は普通のと変わらないよな?


 「糸を切ってやるよ」


 回転しながらまずは腕を落とし、軌道を変えて同じようにもう片腕を落とす。


 下に加速して飛び、回転斬りで同時に両足を切断する。


 空気を蹴って上昇して二本の剣を振りかざす


 『ほいほい』


 剣が月光を纏う。


 「眠れ」


 振り下ろして真っ二つに切断する。


 「まぁまだあるんだけどね」


 同じような巨大なゾンビが四体用意される。


 「面倒な」




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る