第155話 サキュ兄VS零封時 中編 side:零封時

 両親は二人とも宗教にのめり込んでおり、お布施と言って稼いだお金の過半数をつぎ込んでいた。


 高校なんて行けるお金はなく、一ヶ月の内で飲み食いできない日が多いくらいだ。


 中学を卒業したら離れよう、そう決意して日々頑張っていた。


 しかし、全てを管理されてしまい家を出る事どころか中学卒業と同時に働いて稼いだお金も全部宗教関連に回される。


 なぜそこまでめり込むのか分からなかった。


 その宗教は『神に努力を捧げよ』と言う思想を掲げていて、信者の数はそこまで多くなかった。


 最低限の生活ができれば良く、それ以外の努力は神に捧げる。


 そうする事で災いの元はなくなり平和の日々が謳歌できると。


 妄信的な両親は周りが見ておらず、近所の人から向けられる目に気づいていない。


 煙たがられ、小学校の頃なんて『信者』と言うあだ名を付けられて関わりを避けられた。


 関わったら入信させられると何回も聞いた言葉だ。


 自由なんてのは存在しない人生だった。全てが奪われて行く。


 神と言う存在が憎かった。


 でもある日、仕事の出張先でとある人物を見てから考えが変わったのだ。


 女を侍らせビーチで遊ぶ、両親が盲信する宗教の教祖だった。


 彼は言葉巧みに人を騙してお金を集めるただの詐欺師。


 憎しみ怒った⋯⋯訳ではなかった。むしろその姿に憧れを抱いた。


 人を操り良い思いをする。


 そうなりたいと思った。


 出張から帰ると同時に家出をした。既に大人なので問題は無い。


 決意ができたのだ。


 しかし、金もあまりなく心理学なども分からない。なのでダンジョンへと向かった。


 新たな転機が訪れるとしたらきっとコレだと考えて。


 結果は魔法を使えるスケルトンだった。


 それからひたすらにダンジョンを攻略して強くなり続けて、何かしらの教祖を目指そうとした。


 甘い想いをするには人の心を動かすしかない。色々とやってみたが全て失敗。


 難しい。人の心を動かす事は至難の業だとこの頃気づき始めた。


 そして思った。なんのためにこんな事をしているのかと。


 全てがくだらなくなって普通の人生に軌道修正しようとしたタイミングで事件に遭遇した。


 通り魔殺人と言うシンプルで狂ったモノだった。


 狙われて死んだのは小さな女の子。その親と思われる男が号泣して叫んでいた。


 「誰か、娘を助けてくれ」


 どんな気まぐれか分からない。ただ泣いている男がうるさかったのかもしれないし同情したのかもしれない。


 種族となり能力を使い、ゾンビへと生まれ変わらせた。


 声帯が無事ならある程度話せるし、死後直後の蘇生なら少しだけ意思がある。


 ただ冷たくて血が通っておらず、生きてる訳ではないが。


 時間が経てば自我は消えて行くおまけ付き。


 しかし男は生き返ったと思ったのか感謝の言葉を述べて頭を地面を擦り着けた。


 「ああ、神よ」


 その男は神にも感謝した。なぜ神に感謝したのか分からない。


 なぜならば神は何もしていないからだ。


 ただ、奇跡の縁を神に関連付けたのは分かる。


 「こ、このお礼をどうすれば⋯⋯」


 男は礼がしたいと言い出した。


 その時気づいた。気づいてしまった。


 言葉で人の心が動かせないのなら、現象で無理やり操れば良いと。


 そこからは早かった。生き返らせて欲しいと依頼があった場所に言ってはアンデッド化させた。


 魂が無い者は自らの意思で喋ったりもしないので遠隔で操作する。


 墓から出したりする時は骨だけだが、それでも家族は嬉しいらしい。


 信者を増やして依頼の数を増やし、ダンジョンよりも早くて安全に稼げるようになった。


 いつからか魔王後継者候補と言うのになっていたが正直興味はなかった。


 ただある日、盲信していた信者の家族から命を狙われた。怒りの篭った瞳だった。


 反抗された事に対する怒りによってその信者諸共粛清した。


 その頃になると一時的なモノで決して生き返らせてる訳では無いと気づき始めた奴も現れ始めた。


 だから恐怖の支配へとシフトした。


 呪いを使って裏切ったら死ぬと言うのを刻んだのだ。


 優秀な者同士で子供を作り出し、時には孤児を授かって暗殺部隊を育成する事に決めた。


 仇なす存在が許せなかったからだ。絶対的な支配者になりたかったから。


 そこで分かったんだ。何になりたいのか。


 それは神。誰もが崇め奉り信仰する神だと。


 人を操り甘い人生を送る教祖では無くその上、神になりたい。


 魔王後継者と言うのに真剣に向き合う事にした。星を支配する魔王。


 それは最も神に近い存在だと感じたからだ。


 そうなると他の候補者から狙われかねない。強い手下が必要だ。


 妖狐の種族は利害の一致で協力者となった。


 ドリアードの陰キャ野郎は会話で利用できるレベルになった。


 コイツはバカで簡単に扱う事ができた。あっちは利用している立場だと思っているのだろうがな。


 時には誘いを断った者を容赦なく殺して周りへの牽制もした。


 そして吸血鬼、コイツに関しては少々特殊なやり方を試みた。


 過去に妹を悲惨な状況で亡くした結果、正義感に目覚めて警察を目指していたからだ。


 弱点を見抜いたドリアードを利用した事により攻略の糸口は見えた。


 最近では呪いやら洗脳育成だったが原点回帰して心を折って救うやり方を試そうと考えた。


 手始めにテロの起こった場所に向かった。


 テロに巻き込まれて死んだ魂は未練を残してその場に漂っていると思った。


 ビンゴだった。


 魂の記憶を適当なゾンビの見た目を変えて再現、それをネットに流した。その手に詳しい手下もいるのだから。


 大学に忍ばせていた道具からの連絡で動揺していると報告があがった。


 ああ、もちろん。その道具とは奴が友達だと思っている者だ。


 後々の問題を消すために用済みになったら処分する予定の駒だがな。


 その後、さらなる追い討ちとして奴の憧れと夢を砕く事にした。


 適当な駒に奴の両親を轢かせ、ボロボロの遺体を見せつつ適当なホラを吹き込む。


 コレだけで憧れは憎しみへと姿を変えるだろう。


 奴は悪い噂の警察やら政治家を次々と壊して行った。時には悪の組織などもな。


 その時に手を差し伸べたのだ。


 悪の無い世界を創らないかと。奴は手を取った。


 自分で調べる事もせずに、我々が優しくしてやったら信じて仕事を淡々とこなしてくれる。


 まあ、多少の思考誘導などの洗脳系の魔法は利用しているがな。


 心の弱い奴は特に効きやすい。


 一枚岩では無いと言え、強者三人の幹部が入ったオオクニヌシは拡大を続けた。


 活動が広く実力も明瞭だったサキュバスを仲間にしようと考えたが、最初の作戦が失敗に終わった。


 シオトメと言うゴリラを利用して幼馴染を犠牲にする予定だった。


 復讐心と後悔を煽る予定だったが⋯⋯失敗した。


 その後も失敗して敵になったから処分する事に決めた。


 目の前で二つの大きな魂を持つ若者。


 無駄な会話で洗脳しようと試みるがやはり無理だった。


 大きな魔を纏った魂と真逆の魂。不思議な少年だ。


 既に八十を越える身体だが、まだ終わる訳にはいかないのだよ。


 寿命と言う壁を越えて神となるのだ。さすれば侵略者すら手に負えない領域へと足を踏み入れる。


 支配を求めているのは神になる過程だ。


 障害は今までの様に処分するだけ。


 魂の揺らぎを見ればどのような攻撃をするのか予測は可能。魔法での防御も可能。


 その事実に気づく事はできないだろうな。


 運命の魔眼では相手の思考を読めないのだから。


 「くふふ、そろそろ本気でお相手してあげないと可哀想かね?」


 「本気出したところで変わらねぇだろ!」


 強がりを言う。


 全く。我々の仲間、道具へと成り下がれば安全は保証してやると言うのに。


 愚かな事よな。





◆あとがき◆

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