第154話 サキュ兄VS零封時 前編

 「ようこそ、サキュバスくん」


 入ったら目の前に待っていたのは魔法士のような格好をしたスケルトンだった。


 種族はリッチだと予測される。


 魔法を得意とする種族である。


 「お前がオオクニヌシの創設者、零封時れいふうじだな」


 「いかにも」


 それだけ聞ければ問題ない。俺はライムに二刀流になって貰い加速した。


 瞬足の一撃で終わらせる予定だったが、結界の魔法で防がれた。


 結界を砕いて攻撃するパワーは俺には備わってないらしい。悔しい限りだ。


 「おやおや。若いだけはあるな」


 俺の周りから大量の月光でできた弾丸が迫る。


 ツキリの魔法攻撃は一点集中した結界魔法で防がれる。


 範囲を縮小する事で消費魔力を抑えつつ、確実に防いでいる。


 魔法制御の観点で見ればレイフウジの方が上か?


 『むーバカにしないで貰えるかなぁ?』


 俺の上側に五十近くの弾丸が形成される。さらに、剣が月光を纏う。


 速攻で終わらせる、その気合で加速する。


 翼があるのならば、俺はどんな状況だろうとゼロから百へと速度を上げられる。


 骸骨で目も無さそうな種族なのに魔眼を持っているのは確実のレイフウジ。


 これはどう防ぐ?


 「ふむ。魂が二つあるとは実に愉快な」


 杖をどこからか取り出し、俺に向ける。


 しかし、向けるのは遅かった。既に間合いには入っている。


 魔法を使うのに一秒のタイムラグが存在する。その時間があれば斬れる。


 俺の攻撃が万が一防がれたとしてもツキリの用意した魔法が降り注ぐ。


 『後ろに下がれ!』


 「えっ?」


 咄嗟にブレーキができず、レイフウジの杖が眩い光に包まれる。


 刹那、鼓膜を突き破らん勢いの爆音で互いに吹き飛ぶ。


 『自分ごと爆破しやがった!』


 ツキリの魔法が発射されるがレーザーによって全て消失した。


 焼け痛む身体を剣で支えて立ち上がり、相手を睨むと無事だった。


 ピンピンしている。


 「血気盛んなのは良いが話をしないかね?」


 「ふざけるな。俺の家族を狙って来たお前に、貸してやる耳はねぇ」


 ゼロ距離で爆破されたが進化した影響と『 全族特攻オールキラー』の能力によって大したダメージでは無い。


 「おやおや。何か勘違いをしてないかい?」


 「あぁん?」


 「我々は仲間に迎えたいのだよ。君を。魔王後継者は多い方が良い。特に、君のような強い人は特に。強くて理想がある人を集めているんだ」


 「仲間、ね。攻撃的な挨拶をしておいてふざけているのか」


 ツキリが魔法を飛ばすと同じ質量を持った魔法をぶつけられる。


 元々魔法を使えなかった俺と魔法がメインのリッチ。


 進化したとは言えそれは相手も一緒だろう。最悪二段階以上の進化をしている可能性もある。


 肌で感じる魔力量はほぼ同じ、正直魔法戦では厳しいと思っている。


 「確かにそれはすまなかったね。だけどそうじゃないとまともに仲間にできないと思ってね」


 「ふざけるな! 家族を殺す様な相手の仲間になる奴なんてどこにいるんだよ!」


 「問題ないのだよ。死なんて仲間になる過程に過ぎない。もしも君の妹が死んで、生き返るとしたら仲間になるだろう?」


 「はっ。死した人間は普通は生き返らない。それは神の所業だ」


 ま、この目でその実例を見ている訳だけど。


 でもあれは魔王の気まぐれである。あてにはできない。


 俺がもしも死んだ時、生き返らせてくれるか分からない。


 「神の所業か。そうだよ。その通りだ」


 「御託はもう良いだろ。今世に別れを告げろ」


 俺は加速して剣を振るうが、またしても防がれる。


 回転を乗せた強攻撃でも圧縮された結界で見事に防がれる。


 俺のスピードに対応できている⋯⋯のか?


 「だったら神に成れば良いじゃないか」


 「は?」


 「我々が生まれた時には既にダンジョンは一般的なモノだ。それは魔王が古よりも用意していたからだ」


 「何が言いたい」


 肉のない顔が笑っている様に見えた。


 「種族の変化、魔法や進化。それも神の所業だとは思わぬか? ならばなぜ、我々は神の存在に成れないと断言できる」


 「話が変わってないか?」


 俺の仲間をする話から神云々の話になっている。


 てか、正直会話をしていて良い気分では無いので攻略方法を導き出したい。


 連撃で結界の魔法を誘発、魔力切れになるまで攻撃するか?


 体力が持つかどうか⋯⋯。


 「おっとすまない。仲間にする上で君達は簡単だと思ったんだ。家族を大切に思うなら、また会いたいと思うからね」


 「だからそれが⋯⋯」


 「君も知っているだろ。人は我々の手でも蘇る事が可能だ」


 何言ってるんだか。


 死者は蘇らない。


 『キリヤ、アーシらなら知ってるよね。冷静に見てよ、相手はリッチだ。死霊術師だぞ』


 ⋯⋯俺は殺意を込めて奴を睨んだ。


 ありがとうツキリ。話が見えた。


 俺を仲間にする方法⋯⋯家族を殺して、俺が家族の死に悲しんでいる時に手を差し伸べる。


 生き返らせる代わりに仲間になれと。俺はきっと手を取っただろうな。


 俺の夢を支えて応援してくれる家族の死は受け入れられないからだ。


 でも、それは生き返りでは決してない。


 「アホか。死霊術は死者を操る魔法だ。それは蘇りじゃない。ただ動かない人形に糸を繋げて操るだけの事だ。死への冒涜だぞ」


 「それでも君は取った。君の仲間のヴァンパイアだって、ドリアードだってそうだ。大切な大切な家族の死は受け入れ難いだろ?」


 ああ、そうだろうな。


 簡単に予想ができるよ。


 笑えてくるよ。


 死への冒涜なんて言っているが、ジャクズレの力には何も言ってないし。


 実際に家族が生き返るのならば、とその誘いに乗る。


 「だがそれはタラレバだ。関係ない」


 「そう。その通りだ。作戦は毎回失敗してこうして敵対関係になっている。実に悲しい事だ。魔王後継者同士手を取り合うべきだと言うのに」


 「話し合いをせずに丸め込もうと策略したお前のミスだな」


 「そうだね。⋯⋯まぁ、無駄な正義感があるのも知っているし結局は敵になると思ってた。だから早々に処分する方にシフトしたんだよ」


 実に茶番的な会話だったな。


 最初は俺を支配しようとして家族を狙った。失敗して邪魔になると分かったから殺す方に意志を変えた。


 それだけの話。たったそれだけの話。


 それだけの話で俺は自分の手を血に染める覚悟を決めて、コイツらと同じ世界にどっぷりと足を着けた。


 ただ探索者に憧れて、配信者に憧れて、目指していただけの子供が。


 「それで、話し終えたら死んでくれるのか? 俺はお前が生きているだけで反吐が出そうなんだよ」


 「そうだろね。でも自分の都合で人を殺すとは、我々と変わらないのでは?」


 「理解してるよ。その上で俺はお前に剣を向ける」


 正面から向かい、間合いに入った瞬間に背後に移動して攻撃をしかける。


 背中全面を守る結界を展開して守られた。


 正面は正確な攻撃場所は分かるが背後に回ればどこを攻撃されるか正確に分からないのか。


 或いはそう言う演技か。


 「おっと」


 床から断崖が伸びて来たので緊急で回避すると、火炎が飛来して来る。


 ツキリが魔法で撃ち落とすと、見えにくい風の刃と滝のように水が上から落ちて来る。


 「運命の魔眼様々だな」


 魔眼のお陰で魔法の種類が瞬間的に分かる。


 種類が分かれば対処するのは俺の仕事だ。


 まずは上に向かって飛び立ち滝を斬り、追ってきた風の刃も剣で叩き斬る。


 「魔力そのモノを斬る事ができるとはね」


 「今すぐてめぇも斬ってやる!」


 つか、なんで結界は斬る事ができないんだよ。


 『結界は無属性、反発する種類の魔力が存在しない。或いはただ斬るに至れないか』


 後者だったら工夫などでまだなんとかなるかもしれないな。前者だったら今後の結界魔法対策が求められる。


 「今、もう一人と会話しているね。魂が揺れているよ」


 『⋯⋯魂の揺れが視えるのか。厄介かもね』


 でも目的は変わらない。


 「俺の家族を狙う奴を野放しにはしない」


 「我々の仲間になってくれたら手出しはしないよ」


 「自分で言ったよな。無駄な正義感があるって」


 「そうだね。やはり分かり合えそうには無いね」




◆あとがき◆

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