第157話 サキュ兄VS零封時 後編

 「なぁレイ」


 「なぁに?」


 「魔法ってどんな風に戦えば良いの? 結局その辺がいまいち分からないんだよね」


 剣ならば斬れば良い。凄く単純だ。


 しかし、魔法には強化や防御と言った攻撃以外にも使用方法は存在する。


 剣でも攻撃を防げたり受け流したりできるが、魔法は盾のように防げるから感覚が違う。


 攻撃に関しても俺の使える魔法は月の光による弾丸とレーザーそして剣に月光付与だ。


 幅広いとは言えない。


 ツキリの魔法操作の技術に支えられているがこのままではダメだろう。


 剣が通じない相手が来た時、絶対に魔法の力は必要となる。


 「そうね。アナタはまだ自由に魔力を魔法へと変えられない。ツキリちゃんも一緒よね」


 「ああ」


 「魔法はとにかく練習あるのみだけど。そうね。技術面で負けている時は工夫する事ね」


 「工夫?」


 「魅了に魔法を利用した事があるでしょ? 本来とは違う使い方だったり思いもしない方法だったり、とにかく工夫よ。相手が対処できない魔法の応用が勝敗を分けるわね」


 言葉にするのは簡単だ。とても難しい事だろうな。


 魔法レベルで負けているのに多少の工夫でどうにかなるのだろうか?


 『その辺はアーシが考えてあげるから、君は君の得意分野に意識を向けなさい』


 「へいへい」


 「まぁ君ならすぐに上手くなるよ。二人で強くなると良いわ。そうすれば、地球上の生物で勝てる者は居なくなるわよ」


 ◆


 『魔法は工夫⋯⋯ね』


 大きなゾンビを倒しては体力の無駄だと判断して、ツキリが魔法で牽制している間にレイフウジへと接近する。


 「そろそろ決着と行こうぜレイフウジ!」


 「それは早いだろう。まだ互いに元気だからね」


 津波のような大量の水が襲い来る。


 広範囲かつ液体の魔法は剣では難しい。


 滝の時は根元まで斬れたから良かったが、今回の魔法はそれができそうにない。


 ならば回避なのだが、無駄に動くとアンデッドが邪魔になる。


 魅了したアンデッドも敵のアンデッドとの戦いに夢中で邪魔になる。


 俺が指示を出せる状況じゃないから統率が取れておらず、邪魔にならないように魅了したアンデッドを動かせない。


 それが分かっているからからこその広範囲魔法なのだろう。


 魔法で吹き飛ばすにしても魔力を多く消耗するのは避けては通れない道となる。


 「それに巨大なゾンビもいる訳だしな」


 考えている暇は無いか。


 体力の消耗を抑えつつ回避するには上に行くのが一番だ。


 巨大ゾンビの攻撃に脳のリソースを使わないといけないのは嫌だがな。


 『魔法は工夫⋯⋯ねぇキリヤ。アーシを信じてくれる』


 「ああ。もちろんだ」


 そもそも自分の中にいる人格を疑っては常に気疲れが起こる。


 そんなのは面倒だろ。


 『ふふ。ならば魔法に突っ込んでレイフウジに一直線に進みなさい』


 「⋯⋯分かった」


 信じると言ったからには行くとしよう。


 『ライム、剣を解除』


 「何を勝手に!」


 『飛ぶのに集中!』


 つーか、ライムとどうやって会話してんだよお前! ライムもライムで素直に従うのな!


 ちょっと嫉妬しちゃうぞ!


 『君の嫉妬に価値があるのは配信の時よ!』


 「冷静にツッコムな!」


 俺は自分を簡単に呑み込む魔法へと一直線に突っ込んだ。


 『思い込みなさい。アナタはつるぎ。そして魔法よ』


 俺は剣であり魔法。


 ⋯⋯分かった。理解したよ。


 問題ないね。一度経験した事あるし。


 それが俺の全身になろうと構うもんか!


 「『【月光弾ムーンバレット】』」


 俺の全身が輝きオーラを纏う。内から放出される魔力を纏う感覚。


 温かみのある魔力に全身が包まれて安心感があると当時に目の前が見えなくなるくらいに眩しい。


 そりゃあ光を直で当てられているので眩しいのは当たり前。


 しかし、目が開けられない程度で俺のスピードは落ちないし敵の位置を逃したりはしないけどな。


 「すぅぅぅんっ!」


 空気を沢山吸って息を止め、腕を前でクロスさせ津波の中に突っ込んだ。


 魔法を貫通しながらレイフウジの目の前に現れた。


 「中々に愉快だね」


 結界で阻まれているのは分かる。反発する感覚が腕に広がる。


 結構痛い。熱々のフライパンに素手を押し付けているように痛い。


 「だけど、消耗戦は性にあわないんでね!」


 拳を固める。


 「『【月光線ムーンレイ】』」


 拳と腕を利用してレーザーのように真っ直ぐぶん殴る。


 結界を砕くために。


 ライムの剣では斬れなかった。魔法を纏わせてもダメだった。


 ならば、魔法そのモノと拳の力を合わせたらどうだろうか。


 力が直接乗った打撃で破壊力と突破力だけならば剣を上回る。さらにライムがメリケンサックへと姿を変えたので攻撃力アップだ。


 「オラッ!」


 「おやおや」


 ガンッ!


 丈夫な壁にでも拳をぶつけている感覚だ。ヒビが入ったのかも分からない。


 魔法を纏わせるので眩しすぎて目が開けられない。


 だけど、続ける。


 「砕けるまでやってやる!」


 左手で結界を抑え狙いを間違えないように、右拳でぶん殴る。


 魔法と合わせているおかげで普段よりも数段階速いパンチ。腕がもげそうな程に痛い。


 それでも何回、何十回と殴り続ける。


 「無駄な事を」


 「無駄と決めるのはお前じゃない。ましてや神でもない。無駄は無駄と感じたその瞬間決まるモノなんだよ!」


 もう一発殴ろうとした瞬間、魔法の牽制を恐れずに巨大ゾンビが俺を叩く。


 ただのビンタなのにハンマーで全身を殴られたかのような衝撃。


 吹き飛ぶには十分だ。


 「⋯⋯まだだ!」


 空気を蹴って加速する。


 「足掻きますね」


 回転するドリルのような炎の魔法が六個迫る。


 「ライム刀!」


 一本の日本刀を握りしめ体勢を正す。


 地面は踏みしめてなくても構わない。俺にとって翼は足同然。


 重心の移動、捻りの扱い方。それは分かる。


 「魔法は斬れる」


 捻りを利用した高速の刺突。それはまるで同時に六箇所を攻撃したかのように錯覚させる速度。


 斬れるなら貫ける。


 貫いた魔法はその場で爆ぜて消滅する。黒煙に視界を奪われながらも前に進む。


 止まるつもりは無い。


 すると次は爆破魔法を使おうとして来やがる。


 ゾンビも来るので軌道を変える。


 カクカクした飛行を扱い背後に回り込み、拳を固める。


 「やりますね」


 ガンッ!


 再び結界に阻まれる。


 「む?」


 俺が目を閉じている事実に気づいたようだ。


 『【月光ムーンライト】』


 「ぬっあああ!」


 目を咄嗟に塞ぎたくなる眩い光が拳を中心に広がる。


 ただ明るくする魔法。魔力を込めるだけでその輝きは増す。


 リッチで眼球は無いが、魔眼がある限りしっかりと視覚は機能している。


 生物たるもの、急激な明るさは反射的に目を閉じるよな。


 「閃光弾などの事前情報も無く、近接戦闘にも優れてないお前じゃ咄嗟に防げまい!」


 主を守るようにゾンビの手が伸びる。


 「邪魔くせぇんだよ!」


 ライムがワイヤーに姿を変えて電動ノコギリのように高速で振動する。


 それを蜘蛛の巣状に広げて斬り裂く。ローズもできる。むしろ俺はローズから学んでいたりする。


 ローズの場合自分の血で行うけどな。ちょっとトリッキーな技。


 ゾンビの血を浴びながら軽く距離を離して加速する。


 「見えない時は全身を守るように広げるよな」


 ドーム状で守りを固めるが、圧縮されてないから薄くなってるよな。


 視力を取り戻される前に終わらせる。巨大ゾンビの邪魔が入る前に殴る。


 『【月光弾ムーンバレット】』


 結界を貫くために。


 「オラッ!」


 薄くなった結界をパンチで貫き破壊する。


 「仕方ありませんね」


 また自分を巻き込む自爆魔法か。⋯⋯させると思うか?


 「ここは臭ぇよな!」


 胸ぐらを掴んで上へと向かって行く。


 『【聖月剣ムーンセイバー】』


 魔法が展開されるよりも速く、天井を斬り裂いて夜空へと舞い上がる。


 自爆には多少巻き込まれたが、満月の夜空に出れた。


 「ああ。やはり魔法の月より自然の月は良いなぁ。高揚感に包まれる」


 「おやおや。それで変わると?」


 「ああ変わる。さぁ、魔法をど突き合いと行こうか」


 飛行魔法でもあるのか、レイフウジは飛びながら俺に杖を向けて魔法陣を展開する。


 ここなら邪魔は入らない。


 ライムも防具だけに集中する。


 「行くぜ、ツキリ」


 『オーケー』


 両手をレイフウジに向ける。四枚の翼を限界まで広げる。


 俺も魔法の一部、魔法を発動させるための魔法陣の一部となる。


 月明かりは俺の力を上げてくれる、だけじゃない。


 魔法の威力を底上げする。


 「ふむ」


 奴が見えるのは魂。エネルギーの流れは見えない。


 逃げられる心配は無いな。


 月光からエネルギーを集めて手先に収束させる。


 圧縮の技術はレイフウジから覚えた。


 「これが俺達の最大火力の魔法だ」


 俺が大まかなエネルギーの吸収と収束を行い、ツキリが魔法の構築と圧縮を行う。


 二人で強くなるのだ。二人で魔法を使えば効率は二倍だ。


 『二倍じゃないよ。四倍よ』


 魂、心を一つに全身全霊の魔法だ。


 「『【集結する月光メルンレイ】』」


 巨大な月明かりのレーザーがレイフウジに一直線に突き進む。


 「【終焉を告げる深淵アポカリプス】」


 見る者を魅了する月光の俺達とは対象的な見る者を呑み込むような漆黒のレーザーが衝突する。


 「魔法でこちらに勝てるとお思いですか? 絆などの少年漫画理論を頼りますかな?」


 「はんっ! それで勝てるなら圧勝してんだよ!」


 魔法制御の力なら間違いなくレイフウジの方が上だろう。


 ジリジリとバランスを保っていた光と闇が傾く。光が小さくなって行く。


 俺達は二人で一つの大きな魔法を使っている。


 さらに、満月の下と言うサキュバスの力を上げてくれる環境下かつエネルギーすらも吸収している。


 自分自身をも魔法の一部として行使している。


 技術では負けを認めてやるよ。だがな。


 「放出エネルギー量なら俺らの方が上なんだよ!」


 敢えて弱くしてエネルギーを蓄え、今ここで一気に放出する。


 「ぬっ?」


 「家族を脅かすお前を許さない。何度も襲って来る未来を断つ。それだけのために、ここでくたばってくれ」


 押された光が息を吹き返し、より強大となって闇を押し返す。


 そして、闇を放出していた存在ごと月の光が包み込む。


 身体を容赦なく消滅させる事だろう。


 断末魔すら聞こえずに奴の身体は消滅した。同時に跋扈していたアンデッド達もなりを潜めた。


 魅了したアンデッドはジャクズレにプレゼントでもしようか。


 満月の方に振り返り、見ているだろうレイを脳裏に浮かべる。


 「ふっ。きっとこの成長を喜んでいるんだろうな」


 『だろうね』





◆あとがき◆

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