第158話 オオクニヌシ事後処理
『ねぇ。アレで終わったと思う?』
「分からん。⋯⋯とりあえず残ったオオクニヌシに関わるモノ全部消すぞ」
『おっけー。残党狩りの始まりか』
アララトの方に連絡を入れて家に誰か来てないか確認した。
なんでもアニマーズと言う獣人の種族で揃えた部隊が攻めて来たらしい。
ただアララト達でも対処できる実力だったようで、幹部と比べるとかなりの差がある。
もしかしたらナナミの方にも行ったかもだが、彼女なら大丈夫だろう。
まずはローズ達のところに戻ろうかな。
「建物の結界は消えたし。後でさっきの魔法をここにぶち込むか」
『おけおけ』
ローズ達と合流すると幹部であるクオンが虚ろな目で俺を見た。
「⋯⋯何のつもりだアイリス」
俺は考えるよりも先に身体が動き、剣をクオンに振るっていた。
それをアイリスがギリギリで止めた。
「姫様、俺達の話を聞いてください」
「主人、コイツは敵になりえません。ジャクズレとも契約して配下になりました。ご安心くだ⋯⋯」
「アリスやマナの命を奪おうと考えて行動していた奴らだぞ。どんな理由や生き様があろうと、生かしてはおけない」
「「ッ!」」
俺の怒りと殺意の圧で二人が怯んでしまう。
剣に加える力を強めてアイリスを無理やり押し切ろうとする。
『全く。話くらい聞きなさいな』
ツキリが身体の主導権を奪って来る。
「それでぇ。聞かせてもらおうかな? 内容次第ではアーシも怒るからね?」
クオンは元々戦う意思が無い事、妹や家族が死んで夢を失い廃人同然な事。
そんな相手を殺すのを躊躇い生かす方向に考えた事など。
ローズの口から一から説明して貰った。
「⋯⋯近いね」
そうか?
同情する余地はあるかもしれんが、オオクニヌシに所属して働いていた事実は変わらない。
裏切る意味がコイツになくても、それは今の話に過ぎない。
「でもさキリヤ。大切な妹をそんな形で失ったら、君はどうしてた?」
そんなのこの現状を見れば明らかだろう。
善悪関係なく復讐していたと思う。
⋯⋯でもコイツは前を向いて歩き出そうとしていたのか。結果はともかく。
「クオンよ。その大学の友達とは今も連絡が取れるの?」
「いや」
「⋯⋯これはアーシの仮説なんだけどさ。全部レイフウジが仕組んだ事じゃないの? 実力はこの二人以上なんでしょ?」
ローズとアイリスは悔しさを出しながらも肯定した。
実力者でありながら魔王後継者候補に含まれる。
レイフウジが配下に加えたい条件は見事に達している。
「友を使うって言う形はさ、サナエちゃんと似てるんだよ」
確かに。
方向性や形は違えどオオクニヌシの息がかかった奴らが友達になっている。
「クオンはさ、何か都合の良い流れとか感じなかった?」
「考える、余裕、無い」
「そう。幹部ならどれくらい知ってる? 残党狩りと組織壊滅させるんだけど、情報が欲しい。その結果次第でお前の生死を決める」
「ツキ⋯⋯」
「ローズ黙って。ごめんだけど最終決定はキリヤなんだよ分かるでしょ? コイツはキリヤをどうしたら簡単に殺せるか方法を知ってる状態なの。個人的に近くに居て欲しくないし敵も味方も嫌だ」
ツキリの感情をローズにぶつけ、黙らせた。
俺ってそんなに分かりやすくなるのだろうか⋯⋯なるんだろうなぁ。
アリスの時なんて俺なんもできなかったもんな。
クオンから聞き出せるだけの情報を聞き出して、本部にある資料室に侵入。
数の暴力で資料を漁って全ての支部を網羅する。
「ユリは動かせる状況にない。他の奴らで支部を滅ぼす。クオンとローズは俺について来い」
レイフウジの事だ。誰にも知られてない支部は用意していそうだ。
生きていれば活用されるかもな。
俺がやって来た場所は育成施設だ。
そこは日本ではなく外国に用意されており、森の奥底にある滝奥に隠されていた。
男の子心をくすぐるはずの秘密基地に感じるのは苛立ちのみ。
「ここで子供の頃から育てられる。暗殺者として」
「サナエさんもここで育ったのかな」
中に堂々と向かうと当然門番に止められる。
クオンの顔を見て血相を変えて通そうとしたが、反対に俺の顔を見て襲いかかる。
外国語で会話していたから内容は分からん。何語だよ。
ローズの毒が効いたのですぐに倒れた。
中に入ると広大な空間が広がっていた。
「育成に関する施設が沢山ある訳か」
大人は全員俺の存在を知っており、敵だと判断して襲って来た。
幹部でも無い奴らは弱いね。
「クオン、コイツら殺せるか?」
「別に生き残りたいとは考えてない。もう疲れたんだよ」
ここに来るまでもただ歩いて、必要最低限の事は教えてくれた。
黙秘すれば良いのにペラペラと喋っているのだ。
『キリヤ、コイツは殺す必要無いんじゃない? 価値は無いし、何よりも善良な心が残ってそうよ』
そうかもな。来る途中で妹達の事を謝罪したし。
ただ上辺だけ、と切り捨てるのは簡単だ。
しかし、それをやるような状況には見えないのだ。
クオンを警戒しながら奥に進むと騒ぎを聞き付けて、子供達が現れた。
『やっぱり居たか』
子供達はまだ罪は無いし更生できる。真っ当な人生を送るチャンスだ。
最初は価値観の違いが生まれるかもしれない。だけど、血を見ない普通の人生を送る事ができる。
「クオン先生だ!」
「クオン先生! ほんとだ!」
クオンのところに集まって来る子供達は転がる骸を気にする事も無く、ましてや俺達を気にする様子も無くクオンに向かった。
抵抗する事なく、クオンは集まって来た子供達に身を任せて揺らされる。
虚ろなままの目だが、子供達一人一人に向けているのは分かった。
空っぽの心の中には僅かに残ってのかもしれない。未練が。
過去の話を聞いて彼が警察を目指していた事を俺は知っている。
その理由が妹。
子供達と妹を重ねている⋯⋯と言うよりは大切にできなかった時間をあげているのか。
子供達の純粋な笑みが一人に向けられる。その光景だけでどんな人物かハッキリした。
暗殺者を作り出す非情な組織と施設で笑顔を作れる子供がいる事実。
サナエさんはどうだったんだ? そんな感じはしなかったけど。
担当する人とか違うのだろうか。
「クオン、お前は俺の敵に成らないな?」
「⋯⋯ああ」
「俺もお前も罪を重ねた」
「分かっている」
「今のお前に生きる理由はあるか?」
クオンに質問する。
彼は表情を変えずに答える。
「無い」
すると子供達が不安がり、縋るようにクオンに掴みかかる。
「死んじゃやだよ?」「どうして?」「クオン先生をいじめるな!」
などなどの言葉が聞こえて来る。
「クオンもう一度最後の質問だ。お前に生きる理由はあるか?」
「⋯⋯今、見つけた」
「そうか」
左目から流れる雫を見れば、殺す理由は俺から消える。
「ここの子供達を立派な大人に育てろ。暗殺者じゃない。普通の大人にだ。難しいかもしれないがやれ。きっとそれが親孝行になる」
「⋯⋯ああ」
さて、とりあえず組織を潰す事には変わりないので子供達は回収して他は消そうかな。
逃げる大人がいるならば追う気は無い。
アニマーズを名乗る雑魚をフルボッコにしたら戦意喪失したから敵になる事は無いだろう。
世界中に広がっているオオクニヌシの組織を片っ端から潰し回る。
少しの間クオン達も月の都で暮らす予定だ。地上で暮らすには準備不足。
「と言うか、世界中の規模で幹部三人か」
「昔はもう少し多かった。寿命で死んだりダンジョンで行方不明になったり⋯⋯中には裏切って粛清された者もいる」
「ふーん。結局遅かれ早かれ潰れそうだな。レイフウジの後継なんて現れそうにないし」
それで良いんだけどね。
夏祭りが終わってから二日近い時間が経過した。
世界中で様々な場所にあった支部を破壊し終わった。
中には既に捨ててある施設もある。その方が割合的には多かった。
「地球って広いんだな」
「主人、わがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
頭を下げるローズ。
「俺もキレて悪かったな。怖かったろ?」
「え、えっとそれは⋯⋯」
否定してくれない⋯⋯。ま、まぁ仕方ないよね。
うん。アイリスにも謝らないとな。
「ローズのおかげで、更生できる奴を殺さずに済んだ。感謝している」
他にも居たかもしれない、なんてのは思わない。
スカウトされてでは無く自分の意思で加入している確率が高いのだ。そんな奴は根が終わってる。
小さい頃から殺しが当たり前に育った奴らは論外。更生するも何も無い。
「俺が持ち出すのは間違ってるが。日本の法律は更生を願って構築されている。被害者遺族の怨念や怨嗟は拾われない事もある。ローズ、君の判断は正しいよ。彼はきっと夢を取り戻す」
俺は自分を肯定する気は無い。できる筈がない。
国にバレれば死刑は確実な事をしている。それをアリスは知っている。
カンザキさん達も知っている事だ。
「真っ当な道に戻れる事は無いだろうな。でも進まないといけない。誰も止めれないくらいに」
「はい」
俺はこの世界を守る。大切な人達を守るために。
そのためなら鬼でも悪魔にでもなってやる。地獄に堕ちる事すら厭わない。
◆あとがき◆
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