第6話 部活見学で模擬戦の恒例行事
部室である場所のドアをゆっくりと開ける。
「一年生か?」
「は、はい」
「ここがなんの部活か知っているかな?」
「はい」
俺はステータスカードを提出する。
入部希望者だと分かると、案内されて椅子に座る。
高校生から探索者になろうとする人は決して多い訳じゃないが、いない訳でもない。
少しだけ周りを見渡せば、数人程度の入部希望者、部員が見れる。
「僕は部長の早乙女だ。よろしく」
イケメンな先輩がそう挨拶をして部活の紹介を始める。
上記に述べたように高校生と言う時期から探索者になる人は少ない。
そのため、その少ない人達を集めて生存確率を上げながら強くなるための部活となっている。
ここでやるのは、ダンジョンで手に入れた知識を共有しながら生き残る戦術を考えたり、模擬戦などをして技術を高めたりするらしい。
探索者になってからライバルの存在がいると、成長速度は上がるとの事。
「さて、長話もなんだろう。新入生歓迎と顔合わせって事で、一年生達には模擬戦をやってもらう恒例行事があるんだ。もちろん、参加したくない人は断ってくれて構わないよ」
まだ今日は見学だけだと思ったのだが、部活的な内容もやるらしい。
ま、この部活の見学にもステータスカードは必要だし、来た人は全員ここに入部するだろう。
もちろん俺は参加する。
と、その前に確認しないといけない事があるな。
「サオトメ部長」
「なんだね一年生」
「種族を使った模擬戦じゃないですよね?」
「ああ。まだ種族変化後の身体や能力に慣れてない可能性があるからね。平等を保つべく人間の身体でやってもらう。対戦相手はくじ引きだ」
くじを引いた。王様ゲームみたいに割り箸に数字が書いてある。
その数字が同じ相手が対戦相手らしい。
校庭に移動する。
「模擬戦スペースはあるから安心してくれ。この学校は探索者に理解があるからな」
部長がそう言って、案内をする。
ある程度の広さのある模擬戦場所に移動した。
学校見学でも思ったが、実際に歩くとどれくらい広いのかが分かる。
歩いてこの場所に来るまでに三分も経過している。
ダラダラ来ていたってのも理由だし、一番奥の場所ってのも理由だ。
「まずは軽めの準備運動から。その後は各々得意な武器を持ってくれ」
準備運動を終えて、木の剣を見つけたので手に取る。配布された木の剣よりは少し軽いな。
「ん?」
なんか妙だな。振る事はできるし大丈夫か。
「まずは一番、出てくれ」
割り箸の数字を確認し、一番だったので前に出る。
俺の対戦相手と思われる人も出て来る。
「ふむ。九条か」
部長が名前を知っている?
かなり凄い人なのだろうか。
俺と彼女が対面で少し距離を離して立つ。
彼女の雰囲気を一言で表せばクールだろうか⋯⋯金髪碧眼に顔立ちが凛々しく整っている。
探索者にならずとも、勝ち組人生が送れそうだ。
「まずは大きな声で自己紹介だ。ここで緊張してたら、探索者として成功しないからな」
「まずは俺から。俺は一年一組、
「同じく一年三組、
俺達は最初の構えに入る。俺は平突きの構えなのだが、相手も突きの構えだ。
「両者正々堂々を誓えよ。始め!」
サオトメ部長の合図と同時に彼女は動いた。
金色の髪をなびかせて踏み込んだ彼女は、二秒足らずで俺を攻撃圏内に収めた。
速い、そのスピードは俺を凌駕しているだろう。
単純なスピードじゃない。効率の良い踏み込みを研究して自分なりに編み出したんだ。
それは才能の現れ。
「ぶっ」
相手の突きに合わせようと思ったが、俺の肌がそれは危険だと伝えた。だから躱す。
「ッ!」
瞬時に大きく横にステップする。
「なんだ、今の」
俺は一撃目をしっかりと躱した。反撃に移ろうとも考えた。
しかし、攻撃が終わった瞬間には二撃目が迫っていたのだ。
「ぬおっ」
本当に速い。
踏み込みに躊躇がない。確信を持っての行動だ。
本来接近するには次の攻撃を考えて行動する⋯⋯しかし、彼女は行動と思考を同時に行っている。
だから一歩が速い⋯⋯しかもそれに似合う剣速を持っている。
突きのスピードは風の如く、油断していると簡単に突かれる。
最初の引きだけで最大四連撃まで行けそう⋯⋯身体の捻りもしっかり利用している。
結論。
「⋯⋯反撃の隙間が無いっ」
それだけ正確に素早く突きを繰り返しているんだ。
◆
部長と副部長の会話。
「彼女強いですね」
「ああ。同じ訓練所に所属してたんだが、僕は一度も彼女に技術で勝った事がない。今は種族があるが、中学時代は敗北しかなかった」
「日本トップクラン、『イザナミ』の幹部が直々にスカウトした部長がですか?」
「ああ。驚きだよ彼女がこの学校に来たことがね。あの一年生には悪い事をしてしまった。励ます言葉を考えているところだ」
◆
ダメだ。
反撃の隙が無い。
「防ぐ事はできない⋯⋯反撃の隙もない」
⋯⋯だったら。
初撃の突き。⋯⋯そこに合わせる。
来るっ!
突きに合わせて半円を描くような斬り上げ。ゆっくりと剣の横側を合わせて左側に持って行く。
受け止める事が本能的にできないと感じた。だから受け流す。
「ぬっ!」
「⋯⋯ふっ!」
受け流しが終わったら流れるように、止まらずに受け流した勢いをの残したまま反撃をする。
反撃の隙がないなら作り出せば良い。
「シィっ!」
「まじかい」
受け流された瞬間にバックステップと言う判断をしていたのか。あるいは無意識か。
とにかく追撃が間に合わなかった。
「なに、今の」
「受け流しですけど?」
「あんな受け流し⋯⋯攻撃と合わせてできるの?」
「攻撃は届きませんでしたけどね」
「凄いね。私は受け流しすると追撃にワンテンポ時間がかかる」
凄いと言われても、訓練している途中で会得した技術なので良く分からない。
さて、次はどう出る。
◆
「部長、今のは?」
「分からない。僕からは突きが決まったように見えた⋯⋯だけど左側に剣先が移動していたんだ」
「分からない程にゆっくりと正確に突きの場所を移動させたのですか?」
「ああ。しかも斬り上げの攻撃を利用しながらな。器用なモンだ。それか偶然か」
◆
受け流しで反撃はできたけど、何回も決まるモノじゃない。結局刃は届かない。
長く戦うのは良くないと感じる。
空気の味も悪い。これは良くない兆候だ。
視覚で相手の動きや視線、大まかな部分を把握する。聴覚で情報の微調整。
嗅覚で情報を確定させる。そしたら攻撃先が分かる。
「⋯⋯ここまで四連撃が躱されたの初めて。すごい。どんな訓練したの? 普通に見えてるみたいだし」
「お褒めに預かり光栄ですね。五感を鍛えたんですよ」
幼い頃、筋トレで筋肉痛を起こして動けなくなった事があった。その時にも何かできないかと必死に考えていた。
そこで先生の言葉を思い出した。『戦いは目だけではやらない』と。
五感を鍛えると言うぶっ飛んだ発想に至ったのだ。自分で言うのもなんだが。
その結果、肌で相手の強さや脅威度、良くない事がふんわりと分かる。
味覚で空気の味を捉え、良くない流れなどが分かるようになる。
視覚で目の前の敵の動きを観察して動きを読み考える。
聴覚で空間を把握しながら相手の動きを捉える。
最後に嗅覚で相手の動きに確信を得る。行ける時と行けない時の臭いの違いだ。
言葉では説明できない大まかな情報から徐々に細かくして行き確定させる、幼い頃に五感を鍛えた結果ここまでの成長を果たせた。先生も半信半疑の苦笑いを浮かべるほどに。
「五感? そう。言いたくないのならそれもしかたない」
「信じてくれませんね」
「それじゃ、少しスピードを上げようか」
「今でも十分に人間離れしたスピードだと思いますが?」
彼女はその場でぴょんぴょんと跳ねて、地を蹴った。
一瞬で俺との間合いを詰めたのだ。
「シュッ!」
身体の捻りを利用した同じような突き、だがさっきとの微妙な違いが俺には分かる。
これは⋯⋯。
「五連撃!」
◆あとがき◆
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