第5話 良く変わってると言われます

 「ただいま」


 「おか〜」


 「なんだ。アリス来てたのか?」


 「パパとママが仕事で朝まで居ないんだよね〜」


 なるほどな。だったら風呂もここで入って行くのだろう。


 別に俺の両親がそれで嫌な感情や考えを出す事はない。


 むしろ家事の手伝いをしてくれるので、母親はアリスが来る事を全面的に良しとしている。


 俺は探索者としてダンジョンに潜った時の興奮が止まらぬまま、晩御飯を食べ始める。


 「んでさキリヤ」


 「なんだ?」


 「種族は何になったの?」


 俺の箸がピタリと止まった。額から滝のように流れる冷や汗。


 落ち着かない心臓の鼓動がさらに加速する。目の焦点が合わせれずに震える。


 そのせいで挟んでいた米粒が元の位置に落下していく。まるで今の俺の心境のように。


 「⋯⋯も、もしかして⋯⋯魔物だった? それとも他のハズレ?」


 一般的に魔物系の種族は殆どがハズレとなっている。人型としての動きができないし、武器防具も専用の物を必要とするからだ。


 ハズレ枠と呼ばれる種族も存在する。


 果たして俺のサキュバスはどうだろうか? 虹色の光と言う最高レアリティを表す演出を出された。


 人型であり、翼があるので飛行戦も可能、モンスターをテイムできる力もある。

 

 少しバツの悪そうなアリスはきっと、俺に対してなんて言うか考えているのだろう。そんな空気が分かる。


 「いや、ハズレでは無いよ。むしろ、ある意味で規格外だわ」


 「ほんと? 良かったね。キリヤ小さい時からずっと、俺は世界一の探索者になるんだーって言ってたから」


 「そうだな。強い部類の種族は出たさ」


 俺の言葉に嘘は無い。


 自分の事のように喜んでくれるアリス。嬉しいけど気まづい。


 「で、どんな種族だったの?」


 優しさがあるにもかかわらず、空気が読めないのか、アリスは俺にクリティカルダメージを与えようとして来る。


 さて、どう切り抜けるか。


 「チャンネル登録者数が一万人行ったら教えてやるよ」


 「うわうぜぇ。幼馴染のよしみで教えてくれてもええやん。じゃあ配信のチャンネルは?」


 「それは⋯⋯十万人」


 「分かった。絶対に言えよ〜。⋯⋯あれ? それって私目線確認できない?」


 そこまで行かないとは微塵も考えてないんだろうな。嬉しいけど、罪悪感が⋯⋯。


 ご飯は終わり風呂が沸く。


 俺は基本的に一番風呂なので、風呂に入っている。


 「入るぞー」


 「おー」


 アリスが入って来て、バスチェアに座りシャワーを起動する。


 「めんどーだから髪洗って〜」


 「もう高校生なんだから自分でやれよ」


 「良いじゃん。キリヤにやってもらうの楽⋯⋯好きなんだよぉ」


 今こいつ本音言ったな。


 しゃーない。洗うか。


 「つかなんで今日は?」


 「短編のドラマがあるんだよ。どうしてもゆっくりみたいじゃん? リアタイで。だからさっさと入ろうと思ってねー」


 「そっか」


 アリスの髪の毛はなんやかんや長いので、しっかりと洗う。


 数分はかかる。


 髪の毛を傷めないように、シャンプーは泡立てて、揉むように洗う。


 「その後は身体もよろしくね〜」


 「俺は従者じゃないぞ!」


 「痛い〜」


 手に力を込めて頭をがって締め付けてやった。結局身体も洗い、顔もしっかりやった。


 顔は素早く丁寧に洗う。長くやるのは肌に良くないらしいからな。


 詳しくは知らない。後、熱にも弱いらしいのでタオルでゴシゴシはせずに、ポンポンと水気を落とす。


 この関係が小さい頃から続いており、周りからは変な目を向けられたモノだ。


 「朝食はどうする?」


 「明日? いつも通りサンドイッチで!」


 「りょーかい」


 アリスはねぼすけなので、俺が朝食を基本作ってる。


 栄養面に関しても、この家族で俺が一番詳しい。


 強くなるには健康的な生活が必要不可欠だからな。しっかりと勉強している。


 栄養がある美味しいご飯を常に目指している。


  洗い終わったので湯船に浸かる。


 「お互いでかくなったね〜」


 「だな。風呂が狭く感じる」


 互いに三十分程浸かってあがった。さすがに身体は自分で拭いてくれた。


 俺はそのまま自室に行き、柔軟ストレッチを始める。


 身体は柔らかいに越した事は無いし、戦闘においても必要だ。


 人間で鍛えたモノは種族変化をしても、引き継ぐのだ。技術だけが引き継がれる訳では無い。


 日々の鍛錬は将来の布石となる。


 身体が温かいウチに柔軟ストレッチはする。


 「良し、こんなもんか」


 後は瞑想を一時間程して、学業方面での予習をしてから寝た。暗記系は寝る前にやる。


 朝四時に俺は起きる。起きたらカーテンを開ける⋯⋯まだ少し暗い。


 音を立てずに移動する訓練を兼ねて、俺はリビングに向かう。


 軽めのストレッチをしながら脳を覚醒させ、朝食を作る。


 自分の朝食を食べたら、道具を使った軽めの筋トレをしながら休み、両親が起きるのを待つ。


 ある程度の休憩が終わったら朝食を作り、終わったタイミングには両親が降りてくる。


 「それじゃ、ジョギング行って来る」


 ジョギングを一時間程行い、かいた汗をシャワーで軽く流す。


 そしたらストレッチを十分程度行い、弁当とアリスのサンドイッチを作る。


 それが完了したら奴を起こしに行く。


 「余裕を持って登校するにはこのタイミングなんだよなぁ。行ってきます」


 隣の家に移動して、インターホンを鳴らす⋯⋯事はせずに合鍵で入る。


 「おじゃましまーす」


 本当ならこの時間で起きて良いのだが、奴は寝ている。


 アリスの両親は朝帰りと言っていたので、寝ているのだろう。


 アリスの部屋に入る。


 「むにゃむにゃ」


 「ほら、起きろ」


 へそが弱点なので、露出しているへそをつんつんする。くすぐるのがコツ。


 「ふひゃっ!」


 「おはよう」


 「もっと優しく起こしてよ!」


 「だいぶ優しいと思うけどな!」


 起きたら水分補給をさせてサンドイッチを食わせ、登校する。


 「ほれ、弁当」


 「いつもありがとう」


 「入れておくぞ」


 カバン中に弁当を入れ、アリスは髪の毛を結んでいる。


 それが終わったら二人で登校だ。しっかり鍵は閉める⋯⋯俺が。


 「まじでお前、俺が居なくなったら生活どうすんの」


 「専業主夫を手に入れる」


 「お前にちゃんとした魅力と経済力を感じた人がいた場合だな。ヒモに引っかかるなよ」


 「大丈夫、私ちょーカワイイから」


 「めっさ心配」


 登校したら、やはり良い時間であり色んな人が登校しているところだった。


 俺達の教室に向かう。


 「友達何人できるかな」


 「俺に友ができるかな?」


 「高校生なんだし、部活で同じ趣味の人を見つけたら? 中学までは変人だったけど、今は少しは大丈夫でしょ。それにここの私立高は偏差値高くて私達しか同中居ないし」


 「そうだな。俺の黒歴史を知る者はいない」


 隠している、俺の手の甲に刻まれた黒歴史にしたいモノは健在だがな。


 昨日は半分現実逃避して確認してないが、やはり外でもサキュバスなのはちゃんと確認した方が良いだろう。


 今日の予定はクラスでの係決めなど、最初にあるのは集会だ。


 その後は部活紹介から気になる部活の見学になる。


 「キリヤは部活決めてるんだよね?」


 「もちろん」


 俺の気になる部活はただ一つ、探索者同期会だ!


 入部条件として、探索者の証であるステータスカードが必要だ。


 高校生から探索者となった人達が集まり、情報共有や己の強さを磨いたりする部活。


 俺の家の近くで探索者絡みの部活があるのはこの学校しかなかった。


 ここで俺は探索者としての仲間を見つけて、より強くなるんだ。深い階層に潜り、切磋琢磨する仲間。


 協力するチームであり、高め合うライバルだ。


 「さぁ、行くか」


 最初の挨拶は何になるんだろうか。


 オープンキャンパスの時に種族を使った模擬戦を見た事がある。


 あれは凄かった。


 ⋯⋯あん?


 種族?


 「種族⋯⋯種族か」


 俺は手の甲を見て、紋章を可視化させる。ネットで調べる。


 うん。しっかりサキュバスだ。


 「そうだった。俺の種族、淫魔コレだった」


 淫魔ってだけで警戒されそうなのに、サキュバスだぜ?


 俺のバラ色探索者部活ライフが今ここで、灰色に染まった。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます!

今日も午後8時くらいにもう一話投稿したいと思います

★、♡ありがとうございます!励みになってます!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る