第7話 互いにノーヒットで引き分けタイムアップ

 一年生が目の前で行われている模擬戦の感想を漏らす。


 「すげぇ速いな、あの『二連撃』」


 「だな。クジョウさんだっけ?⋯⋯めっちゃ可愛いのに強い」


 「あの男も良く避けるな」


 「まぐれじゃない? 結構動きが危ういし」


 部長はその会話を横耳で聞いていた。


 (剣速が速いのも考えモノだな。と言うか、そんな偶然が十回以上も続かない。あまりヤジマの方は見てないな)


 ◆


 さらに加速して一撃を付け足した五連撃を一秒以内に収めてきやがる。


 必死に躱したが⋯⋯かなり危うかった。


 「俺の全力でもせいぜいが二連撃⋯⋯それを五連撃って」


 次元と言うかレベルが違うな。


 「みんなアナタみたいな表情をする」


 だけどその高速の連撃には弱点が存在する。それは段々と威力が弱くなると言う事。


 初撃の捻りを利用して五連撃を出しているのでしかたない面は当然ある。


 彼女が使う事によって別のとある弱点が露呈している。


 それは『間合い』だ。


 彼女は突きで最大限のダメージが出せる間合いを感覚的に測っている。


 それはとてつもない技術であり、簡単には真似できない。


 しかしながら、逆を返せばその完璧なまでの間合い管理は弱点となる。


 「クジョウさんの突きは完璧です。ですが、完璧すぎる」


 「ん?」


 「アナタの突きは確かに強力です。迷いのない踏み込みがそれを後押ししている」


 咄嗟の判断力も素晴らしい。攻撃直後の反撃だと言うのにステップで躱したのがその証拠だ。


 だが、スピードを出すための強い踏み込みもまた、弱点となる。


 俺は一旦、大きくバックステップをして彼女から距離を取る。


 「次で終わらせる」


 彼女は構えを取り、強い踏み込みを見せた。


 俺の持論だが、世の中に完璧は存在しない。だけど完璧を目指す。


 例えそれが完璧に見えたとしても、どこかしらに穴はある。僅かに小さくてもだ。


 刹那、俺も前に踏み込む。相手の方向にだ。


 「ッ!」


 「間合いを測るのはアナタの専売特許じゃないですよ」


 相手が攻撃に転じる瞬間に懐に潜り込んだ。


 完璧な彼女はその僅かな手違いに対応しようとするが、身体はそこまで自由じゃない。


 既に予備動作をしていた彼女は初撃の突きを繰り出す。


 俺は先程と同じように滑らかな斬り上げで受け流す。


 最大限に伸ばす事はできない。


 完璧だったからこそ、弱い部分が出て来るのだ。


 初撃が中途半端なのに、避ける事は間に合わないだろう。


 これで俺の勝ちだ。


 「まだっ!」


 「なっ!」


 あの状態で強引にジャンプと回転を行うのか。


 今ので決着で良くないか?


 地面を転がったクジョウさん。運動着が汚れてしまった。


 綺麗な顔も髪も土によって汚れる。


 「負けるのは、嫌だから」


 「⋯⋯その気持ちは分かります」


 互いに負けず嫌いのようだ。


 ならばその気持ちに答えよう。否、答えねばならないだろう。


 未だに強くやるのが良くない、そんな気配を肌で感じるけども。


 彼女の強い想いに答えるためにも、それを無視してやるしかない。


 本能に抗い、感情で動く。


 「行くよ」


 「いつでも」


 彼女が踏み込もうとした瞬間、時間切れのタイマーがけたたましく音を鳴らす。


 「⋯⋯残念」


 「そうですね。時間切れのようです」


 互いに矛をあっさりと収める。


 「えと、また機会があったらお願いできない? 引き分けのままは悔しい」


 「⋯⋯はい」


 俺達は木の剣を返しに向かう。


 その時に部長に俺の木の剣が回収された。まじまじと観察する部長。


 「どうしましたか?」


 「あーいや」


 部長が俺の使っていた木の剣を両手で握って、真っ直ぐの縦線を描くように虚空を斬り裂いた。⋯⋯なんて剣圧だ。


 何も無い場所に振るっただけなのに、岩を斬り裂いた幻覚が見えるほどだ。


 ぼぎっ。


 「え」


 「やはりか」


 「えっと、これは?」


 「ああ。違和感を感じてな。クジョウの攻撃をあそこまで回避しているのに、攻撃に転じる様子がなかったからな」


 それは純粋にタイミングがなかっただけだ。


 あとはなんかダメな気が⋯⋯それかっ!


 「ヤジマの剣は既にいつ折れてもおかしくない状態だったんだ。よく気づいたな」


 「いえ。気づいていた訳では無いです。ただ、なんかダメな気がしていただけで」


 「そうか? だが、これでクジョウの攻撃を捌けるのはすごいな。自信を持って良いぞ」


 「はい」


 俺が一年男子の集まっているところに行こうとしたら、たまたまクジョウさんが視界に入った。


 特に表情の変化はなかったのだが⋯⋯部長がへし折った木の剣の残骸を凝視しているように思えた。


 ⋯⋯俺はゆっくりと彼女に近づく。


 「えっと、手加減していた訳じゃないよ?」


 「だけど、気づいてた」


 「あ、いや。なんとなくそんな感じがしていただけで⋯⋯」


 「それを手加減と言わずになんと言うの?」


 うぐっ。できる限り全力でやっているんだけどね。


 真剣勝負で俺は無粋な手加減を気づかなかったとは言え、やっていたのか。


 俺が彼女の立場だったら凹む。かなり凹む。


 熱い勝負をしていると思ったら、相手がハンデを背負っていたのだ。


 嫌だわー。


 「⋯⋯何も弁明できないけど、また次の機会があれば、今度は大丈夫だろうから。その時こそ、互いに全力で闘おう」


 「うん。約束」


 小指を差し出して来る。


 ⋯⋯ん?


 「指切りげんまん」


 「ああ。なるほど」


 そんなのやるような人は近くにいなかったので、その存在を忘れていた。


 俺は小指を絡める。細長くキメ細やかな指だ。


 だけどしっかりとしている⋯⋯常日頃鍛えている証拠だ。勝手に親近感を覚えそう。


 「指切りげんまん、嘘ついたら、精力剤飲ましたゴブリンの大群に手足縛って放置する、指切った⋯⋯どうしたの?」


 「あーいえ。俺の記憶が霞んでいるのかもしれませんが、知っている指切りげんまんよりも精神的苦痛がヤバそうだったので」


 「気のせいだよ」


 「そうですか」


 小指を離して、俺は行こうとする。


 第二試合がもうすぐ始まるので、しっかりと見ておきたい。


 「あ、待って」


 「はい?」


 「改めて、私はクジョウナナミ。よろしく」


 「俺はヤジマキリヤ。よろしく」


 握手を求められるので、掴みに向かう。


 「今度は種族アリの、探索者としての全力で」


 俺の伸ばした手がピタリと止まった。


 おもむろに引っ込めて、背筋を伸ばす。


 腰を九十度に曲げる。


 「それは勘弁してください」


 「え。もしかして⋯⋯魔物?」


 「いえ、魔族です」


 「⋯⋯人型からかけ離れてる?」


 「いえ。むしろ良い感じの人型ですね。一般的には」


 表情が変わらなかった彼女が困惑の表情を浮かべてる⋯⋯気がする。


 「なら、なんで?」


 「どうしても、種族を見せたくないんです」


 「そう。分かった」


 「すみません」


 俺は観戦するために適当に座った。


 ⋯⋯まじで俺の種族、どうしようかな?


 「お前、凄かったな」


 後ろから肩を叩かれて、そう言われた。


 振り向くとそこには元気そうな男が座っていた⋯⋯木の槍を持っている。


 「ああ、ありがとう」


 「俺は山本、よろしくなヤジマ」


 「うん。よろしくお願いしますヤマモトくん」


 それから探索者にどうしてもなったのかを短く互いに話した。


 俺は憧れ、ヤマモトくんはモテるためらしい。確かに探索者は訓練するので他の人達よりも身体はしっかりしているし強いだろう。物珍しさもある。


 でもそれでモテるなら、探索者はもっと増えているだろう。知らんけど。


 「と、二回戦目が始まるな。ヤジマ達の激しいの観た後じゃ、すごいプレッシャーだ」


 「そうか?」


 「そうだ。俺も次だけど、緊張するぜ」


 二回戦目はクジョウさんのような人間離れたした技術の持ち主はおらず、人間らしい模擬戦が見れた。


 遠くから観察しているのが悪いのかもしれない。


 「んじゃ、行って来るか」


 「頑張れよ」


 「もちろん。観とけって」


 開始三分でヤマモトは負けた。ちょうどカップラーメンができる時間だな。


 「きょ、今日は調子が悪かったんだ」


 「⋯⋯そうだな」




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます!

読者様のおかげで総合ランキングに入る事ができました!

御礼申し上げます。


今日も午後8時くらいに新たに投稿します。掲示板なので興味無い方は明日また来ていただけるとありがたいです。

今後ともよろしくお願いします。

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