第160話 いつも通りだけどいつもとは違う
「ひっさしぶりのダンジョンだぁああ!」
かと言ってもやる事は魅了なんだろうね知ってるよ。
今の俺の強さがどれくらいか分からないけど、最前線に行けるんじゃないかと少し天狗になったり?
でも実際、魔王後継者ってだけで実力はかなり高いと思うんだね。
レイとか魔王達を見ているせいで自信ないけど。
最速で下に向かって進みたいけど、それを許してくれる仲間と視聴者じゃないんだよね。
俺の夢は探索者と配信者なのだ。
配信で探索者を知って憧れた結果だからね。なので視聴者を蔑ろにはできない。
敵だと思って行動しているが大切にしていると思う。思いたいだけかもしれない。
「そんじゃ。ユリは休んでいるし、ユリ班のリーダーは代役を立ててね」
数が多くなった事によりダンジョンで俺に同行するメンバーは厳選されている。
月の都で俺の動画が娯楽として大きなテレビで流されているのを見た時の絶望感を今でも思い出せる。
クヨクヨしても仕方ないので九層に向かって行く。
「てか九層はカットで良くないか?」
なぜなら九層で追加されるモンスターはホブゴブリン、既に仲間のゴブリンは全員がホブゴブリンだ。
魅了する必要は無いんだよ。
「強さの器って考えが正しいならホブゴブリンを魅了した方がその先の進化に繋がるよな? あってるよな?」
アイリスが不安がりローズに同意を求める。軽く頭を縦に動かした。
アイリスに正論パンチを見事に当てられたので、泣く泣く配信を始めようと思う。
仲間のホブゴブリンもきっかけがあれば進化できるんだよ?
でもその先が無いかもしれん。
「サキュ乙! サキュ久? 夏休みになってから初めての配信です!」
“うおおおおぉ!!”
“良かった。SNSのライブ告知は嘘じゃなかった。夢じゃなかった!”
“待ってたぜ!”
“なぜ遅れたし! サキュ兄らしくない!”
“彼女でもできたのかと思った”
“彼女できたら一緒に魅了してね”
“彼氏かもしれんだろお前ら! サキュ兄はサキュバスなんだからな!”
“彼氏だろうと彼女だろうとママだろうとパパだろうと魅了を一緒にやってね!”
凄い勢いでコメントがされて行く。
「こうやってちゃんも見てくれる人がいるってだけでも、頑張ろうって気になるんだから不思議だよな。きっと泣くけど」
んじゃまぁ、行きますか。
九層に向かって進む。
多人数で移動しているせいでさすがに目立ち、時々他の探索者とすれ違ったりした。
軽く挨拶する程度で終わったが、アイリス達を見て冷や汗を流していたね。
俺がサキュ兄ってのは気づいているらしい。
まぁ、ゴリッゴリの近接アタッカーの見た目でサキュバス、ドローンカメラを使っていたらバレやすいか。
でもアタッカーな俺は武器を構える必要は無いのだ。戦おうとすると仲間が瞬殺するから。
「主人の最大の武器はその身体ですから。常に武器を構えているようなモノです」
俺の考えを見せない瞳で見抜いたローズ。さすがだ。
「⋯⋯え、バカにしてる?」
「褒めてます」
「本当に?」
「もちろんでございます。ただ最近はユリ様にご執心で甘いなぁと思ってますが」
嫌味を言われた。結構本音っぽいのが怖い。
ローズの事はアイリスに任せればなんとかなると思うので視線を向けると、彼はアララトの方に顔を向ける。
「今日の配信が終わったら腕相撲しようぜ」
「いきなりだな」
逃げたな。
九層に到着し、実力確認なんてする必要もなく金策組が殺戮に向かった。
魅了するのはローズ班が集めるらしいので五体以上は確実だろう。
ユリが不在なため、アイリスが主導となって魅了会議が行われる。
「ライム、久しぶりにスライムになってよ」
ダンジョンでの防具はしっかりとした本物なので、ライムがスライム状態になっても問題ない。
プルンプルンしたボディを持つライムに頭を埋める。
ぷにぷに。少しひんやりして寝心地が中々に良き。
最近はこの抱き心地抜群の身体を防具や服にしてばっかだからね。たまにはライムに癒されたい。
「落ち着く」
“久しぶりの花畑空間”
“初期に戻ったようだ”
“まさかの原点回帰か”
“こりゃあ魅了も戻さねぇとな!”
ライムの身体で癒されていると、会議が終わって準備が始まった。
まぁあれだな。準備が必要って段階でもう嫌な感じしかしないよね。
「姫様、すみません」
「⋯⋯え?」
アイリスのペアスライムが手錠となって俺の両腕を拘束する。
⋯⋯ふむ。内容は聞かされていたがやっぱり嫌だな。
屈辱的だ。今更かと言われるかもしれないがこればっかりは慣れない。
だいたいおかしいよね。
仲間達の前でボスとして君臨しているはずの俺が一番立場が低い状況になるの?
冷静に考えておかしいと思うんだ。
目を瞑りながら考え事をして誤魔化していると、準備は終わった。
ライムが囚人服となって俺にまとわりついている。
「ちょ、とキツい」
いや、あえてキツめにしてるのか。
“良きヒップ”
“パイやろ。そこやろ”
“進化してからやっぱりでかくなってる気がする。色々と”
“ぐへへへ。エロい”
“まるでエロ同人”
“ああぁ、なんでユリちゃんがいないんだ”
“
“あの時とは立場の違う魅了が良かったな”
あぁ、なんかコメントでユリを求めている声が聞こえる気がする。なんでだよ!
ジャラ、手を動かそうとすると音が鳴る。
手錠に繋がった鎖が天井に着けられているのだ。
「なぁアイリス。わざわざ細かい所までする必要あるのか?」
飛ばせないために翼は閉じる事を要求されたし。
飛べないから、地面に足が着けれるギリギリの高さで体勢は結構キツいよ?
しかも鉄格子まで用意されている徹底ぶりだよ。
外からカメラと仲間達に見られている。
「何これ凄く惨め。死にたい」
俺は檻に入れられた観賞されるために生まれた動物なのか? そんな気分だ。
しかも身動きが禁止された状態。
見世物になった囚人の気分だ。⋯⋯実際その通りなのだが。
足音が聞こえて軽く目を向けると、ホブゴブリンがやって来た。
俺を見た瞬間に目を血走らせて鉄格子の隙間から手を伸ばして来る。
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ」
血の気は引き足が震え出す。逃げ出そうとしても拘束具が邪魔をする。
てかなんでこんなに興奮状態なの? 何か薬でもキメたか!
⋯⋯ローズの仕業だったりしないよね?
「主人申し訳ございません。失礼します」
「え⋯⋯」
俺のセリフを言って終わり⋯⋯予定と違うんだけど。
“さぁ完成するぞ!”
“ふはは! コメントを怖がって観ないとは愚かなり!”
“サキュ兄の仲間は全員我々側なのだよ!”
“受けが成立する状況で攻めが無いのはおかしいよなぁ!”
ローズが全身を俺の背中に預けるように持たれかかり、両手で乳房を鷲掴みにする。
「えっ」
理解が及ばないまま状況は目まぐるしく動き出す。
「はぁあむ」
俺の耳が生暖かい感触に包まれる。軽く白い牙を見せてカミカミアピールをしている。
理解が追いつかない俺の背中にツルッと流れる物体。それがゾワゾワとしたくすぐったさを出して声が漏れる。
「ひゃっ」
冷たい何かの物体は気配がしたので誰かのペアスライムかライムの仕業だ。
口が空いた瞬間にローズの細い指が中に入り、舌を掴み出す。
既に俺の顔は真っ赤だ。頭の中は真っ白。混乱で何も考えれない。
惨めな気分になったのに今では恥ずかしいの一点だ。
感情の起伏が激しい。整理できん。
でも時間は止まらないんだぜ。
「貴様らも豚小屋に入れて可愛がってやろうか」
ローズの一言が魅了を成功させ、鉄格子はそのままで手錠からは解放された。
両手で顔を覆う。カメラに顔を見せたくない。
「うぅ、うう。これでも中身男なのに⋯⋯。男なのに⋯⋯うぅ。こんなの、予定と違うもん。こんなはずでは⋯⋯」
「申し訳ありません。主人」
謝るローズは舌を絡め取った指を口に含んでいた。
「嬉しそうだなローズ」
「そんな事はありません。アイリスはダメだからね?」
「さすがにできねぇよ。こんな姫様を見たら」
もうヤダ帰りたい。まだ朝だけど凄く帰りたい。もう終わって良くね?
なんでここまで傷ついて泣いて立たないといけないの?
降参だよ降参。負けましたはーい。わたしの負けでーす。
あはははははは。
『キリヤが壊れた』
“想像以上にエロかった。これに尽きる”
“オカズ提供助かります”
“背徳感がヤバァ”
“デュフフ。サキュ兄完全復活”
◆
「やばぁ。うらやばぁ」
ユリは食い気味に動画を見ている。率直な感情と羨ましい気持ちが混ざり言葉に出ている。
「向こうは楽しそうねぇ」
「レイ様、私も行きたいです」
「まずは両足の骨が治るまで待とうねぇ」
「ぽー⋯⋯」
「自己回復が一番よ。今はその余裕があるんですもの」
「ぐやじい」
「本気で泣くユリちゃんもゾクゾクしちゃうわね」
ユリは真顔になった。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
サキュ久の魅了回です
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